
2020年、映画「ファンシー」(廣田正興監督)で劇場映画デビューし、同年、映画「初恋」(三池崇史監督)のオーディションで3000人の中からヒロインに選ばれ話題を集めた小西桜子さん。「初恋」でカンヌ国際映画祭にも参加。映画「佐々木、イン、マイマイン」(内山拓也監督)、「猫」(テレビ東京系)、「まどか26歳、研修医やってます」(TBS系)などに出演。映画「ありきたりな言葉じゃなくて」(渡邉崇監督)が公開中。2024年9月、フリーでの活動から小栗旬さんが社長を務めるトライストーン・エンタテイメントに所属。さらなる活躍が期待される小西桜子さんにインタビュー。(※この記事は全3回の前編)
■大学の先輩が作った自主映画がきっかけで俳優に

埼玉県で生まれ育った小西さんは、小さい頃は人前に出ることが苦手だったという。
「あまりみんなで遊ぶという感じではなく、絵を描いたり一人遊びをしているような子どもでした」
――その頃はまだお芝居をやろうという思いは?
「まだありませんでしたが、テレビを見たり、映画を見ることは好きでした。初めて見た映画がジブリでしたので、それはすごくよく覚えています」
――街でスカウトされたりというのもあったのでは?
「それはあったのですが、そのときは全く興味がなくて。表に出ることや人前に出ることが苦手だったので断っていました」
――お芝居に興味を持つようになったのは?
「高校生ぐらいのときから映画がすごく好きになったので、それでいろいろな映画を見るようになりました。お芝居というより、映画の世界に行きたいな、携わりたいなというところから、芝居がしたいなという気持ちに変わっていったという感じです」
――初めての作品は大学時代の自主映画になるわけですか?
「はい。それは大学の先輩が作ったものだったので、映画というか遊びの延長のような感じでした。プライベートの友だち同士だけで作るような作品だったので、お芝居というより、『こうして』って言われたことをやってみて…といった感じで。
あまりよくわからない状態で作っていたのですが、すごく楽しかったし、それがきっかけで『お芝居やりなよ』と、その映画を見てくれた方にスカウトされたりすることが増えました。
それならせっかくだから、ちゃんとした仕事をしたいなと思って、自分から動いたという感じでした。それが(大学)2年生のときです」
――大学卒業後のことについてご家族はどのようにおっしゃっていました?
「あまり話したことはありませんでした。個人で自主作品に出演させていただいたり、雑誌にモデルとして載せていただいたりしていましたが、その頃は特に何も言わずにやっていました」
2018年に撮影され、2020年に公開された映画「ファンシー」に出演。この作品は、彫師の郵便配達員(永瀬正敏)とペンギンと呼ばれる詩人(窪田正孝)、ひとりの女性(小西桜子)の奇妙な三角関係を描いたもの。小西さんは、ペンギンの熱狂的なファンで、「妻になりたい」と、彼のもとに押しかけてくる“月夜の星”を名乗る女性役。小西さんの劇場映画デビュー作となった。
――撮影はいかがでした?
「本格的にお芝居をするのが初めてだったので、わからないことばかりでした。『未熟だったなあ』という反省点がいっぱいありますけど、まだ何もわからなかった、あのときにしかなかったところは撮っていただけたのではないかなって思いました」
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■三池崇史監督の映画のヒロインに3000人の中から抜擢■三池崇史監督の映画のヒロインに3000人の中から抜擢

2020年、映画「初恋」に出演。この作品は、余命わずかのボクサー・レオ(窪田正孝)とヤクザに捕らわれているワケありの少女・モニカ(小西桜子)との運命的な恋を描いたもの。小西さんは、薬物中毒で父親のトラウマも抱えているという難役を演じた。
――「初恋」もオーディションで、3000人の中から選ばれて話題になりました
「『初恋』のオーディションは、入っていた作品のクランクアップ翌日で、行けるか行けないかぐらいのところで急に行けることになったので、何か準備をするような余裕もなかったです。
芝居の経験も、そもそもオーディションの経験もあまりなかったので、そのときは自分が前の作品が終わったばかりで、まだ追いつめられていたという感じでした。普通の状態で行ったというよりかは、自分の精神状態が不安定で極限状態みたいな感じだったんです。
運命は不思議なんですけど、それが少しちょっといい方に作用したのかなと思います。『初恋』も精神的に不安定な女の子だったので、三池さんに『役に合っている』と思っていただけたのかなと思いました。
――父親のトラウマに苦しみ、おまけに薬物依存で…という難しい役どころでしたね。三池監督の印象はいかがでした?
「すごく優しかったです。私がわからないなりに一生懸命必死にやっているのをちゃんと受け取ってくださって。誠心誠意やってもお芝居がまだ立たない部分を否定するというよりは、一回受け止めて、その上で『もっとこうしてほしい』という提案をしてくださる方だったんですね。
私があまり経験がない中でも、三池さんが私の頑張っているのを何とか受け止めて向き合ってくださっているなと現場で毎日感じていたので、それはすごくありがたいと思いながらやらせていただいていました」
――怒られたりすることは?
「ありませんでした。キャリアがある男性には演出面で厳しくされていましたけど、それぞれ何がその人に一番いい芝居の影響を与えるかということをちゃんと考えた上でやっているんだろうなと思ったので」
――三池監督は愛がありますよね。難しい役どころでしたが、すんなり入っていきました?
「何もわからなかったので覚えてないというか。本当に1シーン1シーン必死というか…毎日毎日楽なシーンみたいなところが一つもなかったので、とりあえず、何かもうわからないけど、全力でやるしかないみたいな感じでした。
頭で考えるというより、とにかくからだを動かして、何とか周りのすばらしい役者の皆さん、技術部の皆さんのおかげで作品として見られるようにしていただいたという感じです」
――「ファンシー」でも共演された窪田正孝さんが主演というのは心強かったでしょうね
「そうですね。私の芝居がどれぐらいかということも理解されていたし、すごくたくさんお話してくださいました。本当にすてきなお芝居をされて引っ張ってくださる役者さんなので、すごく頼りにさせていただいたなと思います」
――大森南朋さん、内野聖陽さん、染谷将太さん、滝藤賢一さんなど共演者の方々もユニークな顔触れでしたけど、撮影の合間、皆さんとはどんなふうに過ごされていたのですか
「皆さんすごくフランクにお話してくださって。撮影は結構ハードで夜中撮影して朝終わるということもあったんですけど、寒い時期だったので皆さん気を遣ってくださったり、すごく良くしていただきました」
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■事務所未所属のフリーの状態でカンヌ国際映画祭に登壇■事務所未所属のフリーの状態でカンヌ国際映画祭に登壇

映画「初恋」は、日本で公開される前に海外で公開されて話題に。第72回カンヌ国際映画祭2019「監督週間」に選出され、小西さんは、三池監督、窪田正孝さんと共に参加した。
「あの当時は本当にわからないことだらけでした。今またそういう経験をさせていただいたら感じ方が全然違うだろうなと思うので、ちょっともったいなかったなとは思いますが、まだ未熟な状態でそういうありがたい経験をさせていただいて夢のようでした。
でも、海外の方の反応を直接肌で感じさせてもらったという経験は、とても貴重でした。だから、またああいった場所に行けたらと思います。ちゃんとありがたみを感じて、現地の方の反応をちゃんと受け止められるようになった今の状態で、また体感できたらなって思っています」
――俳優として活動を始めて間もない状態でカンヌ国際映画祭にも参加というのはすごい経験ですね
「はい。結構私は暇だったので、クルーの皆さんと一緒に、三池さんの金魚のフンみたいに毎日付いて歩いていました。
三池さんは海外でもすごい人気で愛されていますし、海外の方の反応ってやっぱりすごいんです。温かくて、すごいエネルギーがあって、よくわからないなりにカンヌから帰ってくるときに知恵熱が出て帰りの飛行機でダウンしてしまいました。
何かそれぐらいたくさんインプット、処理しきれないぐらいインプットさせていただいた時間だったと思います」
――カンヌのときはまだ大学生、お友だちは驚かれていたでしょうね
「そうですね。情報解禁が現地に行ってからだったので、周りが知らない間にカンヌに行って、友だちはマスコミの報道で知ることになったので驚いていました」
本格的に俳優活動を始めた2020年は、「ファンシー」、「初恋」のほかに「佐々木、イン、マイマイン」(内山拓也監督)、「映像研には手を出すな!」(英勉監督)、「真・鮫島事件」(永江二朗監督)の5本の映画が公開。“令和の本命女優”と称され、事務所に所属せずフリーでの活動ということも話題に。
――俳優活動を始めてすぐに立て続けに映画5作品が公開というのはすごいですね。映画「佐々木、イン、マイマイン」も印象的でした
「まだ素人みたいな状態なのにオーディションで選んでいただいて、すごくありがたい経験でした。その当時、内山(監督)さんをはじめ、すごいステキな方々が集まった中で私を選んでいただいたということが自信になった作品です」
――撮影はいかがでした?
「内山さんをはじめ、出演者の皆さんもスタッフの皆さんも『良いものを作る!』という熱量がすごく高い現場でした。私もそういう熱量が高すぎるぐらい高いタイプなんですけど、
皆さんが同じくらいの熱量の高さでいたので、とても居心地の良い現場でした。
インディペンデント映画だったので、いろいろ制約がある部分もありましたが、妥協せずに
時間をかけて、とことん向き合って良いものを作るという現場を経験させてもらえたのはすごく大切だったなって思っています」
小西さんは、「ファンシー」、「初恋」、「佐々木、イン、マイマイン」で第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。2021年には「ファンシー」で共演した永瀬正敏さんがカメラマンを務めた写真集「月刊 小西桜子・刹」が発売に。次回はその撮影エピソードも紹介。(津島令子)
※小西桜子(こにし・さくらこ)プロフィル
1998年3月29日生まれ。埼玉県出身。2020年、「ファンシー」で劇場映画デビュー。同年、「初恋」、「佐々木、イン、マイマイン」、「映像研には手を出すな!」、「真・鮫島事件」の5本の映画に立て続けに出演。映画「猿楽町で会いましょう」(児山隆監督)、映画「はざまに生きる、春」(葛里華監督)、映画「僕らの千年と君が死ぬまでの30日間」(菊地健雄監督)、ドラマ「猫」(テレビ東京系)などに出演。ドラマ「まどか、26歳、研修医やってます!」が放映中。ドラマ「風のふく島」(テレビ東京系)が放送待機中。映画「ありきたりな言葉じゃなくて」が公開中。