習主席に立場鮮明化をお願い?プーチン大統領訪中3つの狙い 半年ぶりに旧ソ連圏外に[2023/10/18 18:00]

ロシアのプーチン大統領が10月17日、北京空港に降り立った。中国の習近平主席が進める巨大経済圏構想「一帯一路」国際会議に出席するためだが、プーチン大統領が旧ソ連の国境を越えて外国を訪問するのは、3月17日に国際刑事裁判所によって「ウクライナ人児童の連れ去り」の戦争犯罪容疑で逮捕状が出されて以来、初めてだ。中国は国際刑事裁判所ローマ規定の締約国ではないため、プーチン大統領が逮捕されることはない。
(元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈喜一)

■政財界トップを引きつれた訪問

今回の中国訪問で注目されるのは、プーチン大統領に随伴するメンバーだ。エネルギー担当副首相ノヴァク、テクノロジー担当チェルヌイシェンコ、財務大臣シルアノフ、中央銀行総裁ナイブリナをはじめ、ロシア最大の天然ガス会社「ガスプロム」のミレル社長、同じくロシア最大の石油会社「ロスネフチ」のセーチン社長など、ロシアの政財界のトップを引き連れた異例の訪問団となっている。

軍と軍産複合体のトップだけが同席した、北朝鮮の金正恩総書記との首脳会談とは桁違いの充実ぶりだ。

■プーチン大統領の3つの狙い

プーチン大統領の狙いは1ガス・石油など天然資源の供給契約を結ぶこと。2先端テクノロジー面での協力を得ること、3中国政府から「特別軍事作戦」でのロシアへの強力な支持表明を得ること、の3つだ。

1)ガス・石油の供給契約
現在、ロシアと中国の間には「ガスプロム」が運営する「シベリアの力」という
東シベリアからの天然ガスパイプラインが稼働している。ロシアはさらに中国西部へ年間500億立方メートルの天然ガスを供給するパイプライン「シベリアの力2」の締結を目指している。しかし、中国側は「新しいパイプラインは必要ない」、と契約には消極的な姿勢を示してきた。ロシアにしてみれば、これまでヨーロッパに供給していたが、ウクライナ戦争によって買い手の消えた1550億立方メートル分の天然ガス収入の代替にしたい考えで、エネルギー担当のノヴァク副首相は年内の契約締結を目指しているが、その行方は不透明だ。

2)最先端テクノロジーでの協力
ロシアと中国の貿易額は2023年度には2000億ドル(約30兆円)を超える勢いで、これは「特別軍事作戦」開始時から60%増大したことになる。いまや乗用車や衣料品などをはじめ、ロシアの消費市場は中国製品なしではなりたたなくなっているが、ロシアが喉から手が出るほど欲しい、軍事用に転用できる最先端技術については、中国は慎重な姿勢を見せている。今年4月には、中国政府は「紛争当事者の一方に武器を供与することはしない」と声明を出している。確かにロシアの通信監督庁である「ロスコムナドゾール」は中国の「ファーウェイ」を通じて半導体やVPN接続やYouTubeのブロックシステムを購入していると言われており、中央アジア諸国やトルコなど第三国を経由する貿易でも、中国は大きな役割を果たしていると見られている。しかしロシアとしては精密ミサイルやドローンに転用できるテクノロジーや部品の供給が、何よりも重要になっているのだ。

3)ロシアへの協力や支持の表明
プーチン大統領は、訪中直前の国際会議で、米国の一極支配と欧米的価値観を他国に押し付ける欧米の文化的帝国主義を非難するとともに、軍事同盟によって世界を分断し、ロシアにウクライナ侵攻を余儀なくさせたのはNATOである、と強い口調で批判した。そしてハマスのイスラエルへの攻撃についても、「米国の中東政策の明白な失敗」の結果だと、激しく米国に対峙する姿勢を見せた。
習近平主席は、2月にウクライナ戦争の調停案を提示したが、明確なロシア支持を打ち出さず、自国の国益を重視しながら曖昧な立ち位置を取り続けている。プーチン大統領としては、イスラエル情勢をテコに、中国に立場の鮮明化を迫り、グローバルサウスや「一帯一路」に集まる各国を「反欧米」の立場で結束させることで世界の分断を加速させ、長期化する「特別軍事作戦」を決定的に有利に継続させていくことが目標となっている。

■習主席はどう応える?

しかし、プーチン訪中のこの3つの狙いに対して、習近平主席はどこまで応えるのだろうか。中国としては、停滞気味だとはいえ、いまでも貿易総額の12%(2022年)を占める最大の貿易相手国であり、「競争相手」でもある米国をいたずらに刺激することは避けたいであろうし、すでに中国の圧倒的な経済力の支配下に取り込んだといえるロシアを「一帯一路」の他の参加国以上に優遇する必要もない。欧米の価値観とは一線を画するにしても、ウクライナ戦争でロシア支持を明確に表明する必要も認めてないだろう。

弱体化したロシアを通貨的にも経済的にも支配下に置いたまま、長引く戦争をこのままプーチン大統領に続けさせ、ロシア、ウクライナ双方のみならず、支援する欧米をも疲弊させていくことが、中国の狙いであろう。

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