プーチン大統領は手ぶらで帰国 習主席から何も引き出せず…成果なかった訪中[2023/10/20 18:00]

「一帯一路」フォーラムへ参加し、習近平主席と3時間に及ぶ会談を行ったプーチン大統領は、結局何も得ることなくモスクワに帰った。この十年の「一帯一路」の成果を誇らしげに協調するグローバルサウスの「盟主」習近平主席とのコントラストが際立つ訪中だった。お互いに「古い友人」と呼び合い、習近平主席の次に演説の順番が与えられたことから、ロシアメディアは、「プーチン大統領は北京で賓客扱いだった」と報道しているものの、実際には中ロの思惑のすれ違いは大きいようだ。
(元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈喜一)

■経済面最大の懸案=新たなガスパイプライン計画は…

プーチン大統領は、ロシア最大のガス会社「ガスプロム」のミレル社長や同じく最大の石油会社「ロスネフチ」のセーチン社長など、財界トップを引き連れて北京を訪問した。経済面で最大の案件は天然ガスパイプライン「シベリアの力2」の契約だった。

独立系メディア「モスクワ・タイムズ」(10月19日)によると、ロシアはウクライナ侵攻前の2020年には1783億立方メートルの天然ガスを外国(旧ソ連の共和国は除く)に輸出しており、そのほとんどが西欧諸国向けだった。現在「ガスプロム」は中国と380億立方メートルの供給契約があり、今後さらにサハリンから100億立方メートルの天然ガスを輸出する見込みだが、こちらは供給開始時期が未定だ。たとえ合わせて480億立方メートルを中国が買い付けるにしても、中国向け天然ガスは、欧州・トルコ向けのおよそ半値となっており、ウクライナ侵攻への制裁としてロシアからのガス供給を断ったヨーロッパ諸国の穴埋めにはならない。

■7年越しの交渉も不発

そこでロシアが必死になっているのが、年間500億立法メートルを供給する予定の中国西部向けのパイプライン「シベリアの力2」だった。この案件はすでに7年越しの交渉だが、毎回習近平主席との会談の前に、プーチンは新たな契約締結について力を込めて語ってきた。
しかし今回もまた契約は空振りに終わった。中国政府としては、12年から15年先と想定される供給開始時のガスエネルギー市場の動向がまったく想定できないのに加えて、当面は現状の買い付けで十分であり、さらに新しいパイプラインが第三国モンゴルを通過するという点にも危惧の念を抱いているからだ。
そのうえ、中国企業としてはロシア国内の政治リスク、欧米からの追加制裁など、不透明きわまるロシア市場へは深入りしたくないというのが本音のようだ。

■政治面でも成果乏しく…

9月末に議会に提出されたロシアの来年度予算では、通貨は1ドル90.1ルーブル、北海ブレント原油1バレル85ドル、ウラル原油1バレル71.3ドル、GDP成長率は年率2.3%を想定して組まれている。戦費の拡大から、2024年の歳出は、2019年のほぼ2倍となる36兆6000億ルーブル(約55兆円)としている。国防費はその約3割にのぼる10兆7360億ルーブル(約16兆円)だ。だが、ヨーロッパ市場の穴を埋めきれない巨大企業「ガスプロム」も、第二四半期は赤字で、今年度は大きな減益が見込まれるなど、ロシアの財政の前途は多難だ。

しかも習近平主席は、プーチンとともに欧米の一極支配を批判したものの、ロシアの立場への明確な支持表明には慎重なままであり、ロシアへの軍事的支援については抑制した立場を崩していない。
 手ぶらで帰国したプーチンは、イスラエル情勢のさらなる悪化と、欧米のウクライナへの支援疲れに頼るしかなくなってきているようだ。

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