ウクライナの汚職まみれも原因か 欧米の支援が滞る理由とは…双方の不信がわきあがる

[2023/11/28 18:00]

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 遅れに遅れている米国の新たなウクライナ支援法案について、下院情報特別委員会のマイク・ターナー委員長(共和党)は、「年内の可決は難しい」との見解を示した。これは共和党が、イスラエルやウクライナへの軍事支援と、移民が大挙して押し寄せている南部メキシコとの国境管理の厳格化をセットにした予算を承認するよう求めているためで、包括法案は12月4日に上院に提出される予定だが、先行きはいまだに不透明だ。

                  (元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈喜一)

「去年のイスタンブール停戦交渉で、ロシアは戦争をやめる用意があった」

 こうしたなか、去年の開戦直後にロシアとの停戦交渉にあたったウクライナ側代表ダヴィド・アラハミヤ氏がウクライナのテレビ「1+1」に語ったインタビュー(11月25日)が波紋を広げている。

アラハミヤ氏は、去年3月の停戦交渉で「ロシア側はウクライナの中立化をもっとも重視していた。ウクライナがかつてのフィンランドのように中立の立場を守り、NATOに加盟しないと約束すれば、ロシアは戦争をやめる用意があった」と語ったのだ。

「ただ戦え」とボリス・ジョンソン英首相は言った

(左)ボリス・ジョンソン前英国首相(2022年ウクライナ訪問)(提供アフロ)

ウクライナがこの合意を蹴ったのは、NATO加盟を目指すとするウクライナ憲法を改正する必要があったこと、そしてロシアに対する根深い不信感だったということだが、アラハミヤ氏は、次のように付け加えている。「この時キーウに来ていた英国のボリス・ジョンソン首相(当時)が、いかなる文書にもサインせず、『ただ戦え』とアドバイスした」。

アフリカ代表団が訪露 ロシア・南アフリカ首脳会談(提供アフロ)

この発言は、プーチン大統領が今年6月、アフリカ諸国との首脳会議で語ったことを裏付けるものになっている。プーチン大統領はその席で「2022年3月、イスタンブールでの交渉の結果、『恒常的中立とウクライナの安全の保障』についてはアラハミヤ氏との間で仮調印が出来ていた。ところがウクライナ側は突如それを歴史のゴミ箱に捨ててしまった」と語っている。このプーチン発言についてアラハミヤ氏は、仮調印はしておらず、文書は存在しない、と反論している。

「最初の戦争はイスタンブール合意で決着していたかもしれない」

アレクセイ・アレストビチ元ウクライナ大統領府顧問(提供アフロ)

アラハミヤ氏のインタビューを受けて、元ウクライナ大統領府顧問のアレクセイ・アレストビチ氏は、テレグラムのサイトに「ウクライナに大戦争を遂行する場合の支援を約束しておきながら、武器を供与しなかった者たちにこそ責任はある。すなわち、欧米はウクライナを見捨てたのだ」と書き、強く欧米を非難した。

アレストビチ氏によれば、ウクライナ軍はロシアの侵攻計画を叩き撃退するという当初の戦争に勝利していたと言う。「この戦争はイスタンブール合意によって終結し、何十万もの人びとがそのまま生き延びていたかもしれない」。

「プーチンに4州をくれてやっておしまいにしろ」

アレストビチ氏は、その後の戦争の推移をこう述べる。「この緒戦の後には、まったく別の類の戦争が始まった。その戦争は航空機や長距離ミサイルなしでは勝利できない大戦争であったにもかかわらず、航空機や長距離ミサイルは供与されなかった。そのためにわれわれウクライナは巨大な代償を払った」。

そしてウクライナが戦争に勝つために必要とする武器の供与を約束していたはずの欧米諸国は、今になってこう言い始めている、とアレストビチ氏は言う。「俺たちはこれほど武器を供与してやったのに、汚職まみれのおまえたちウクライナは戦い方も知らず、成果も出せなかった。プーチンに4州をくれてやって終わりにしろ!」。

さらにアレストビチ氏は「ウクライナの指導層も、その従順さと汚職まみれの体質によって、欧米にわれわれを見捨てさせる多くの口実を与えてしまったのだ」とウクライナ指導部をも厳しく非難した。

武器の供給を絞って交渉の席へ

ドイツ首相府(提供アフロ)

ウクライナへの武器、弾薬支援が滞り、欧米とウクライナ双方で不信がわき上がるなか、ドイツの大衆紙『ビルト』(11月24日)は、ドイツ首相府からの内部情報として「独、米の政府はウクライナへの武器の供給量を絞ることによってウクライナをロシアとの交渉にかりたてることを決めた」という記事を掲載し、「ゼレンスキー大統領は停戦交渉が必要だとウクライナ国民に呼びかけなければならない」との考えを強調した。さらにもし武器の供給量を抑えることによってウクライナを交渉のテーブルにつかせることに失敗した場合、欧米は「紛争当事者双方の合意がないままに紛争を凍結させる」というプランを練っているとも伝えている。

 ドイツ首相府は『ビルト』の取材に「軍事的、政治的目標を決定するのはあくまでもウクライナ自身である」としてこの憶測を打ち消している。

しかし戦線が膠着状態に陥り、武器弾薬の供与の遅れへのウクライナ側の不信感が高まり、「停戦交渉」をめぐるさまざまな憶測が欧米各国で出始めた現在、アレストビチ氏が言うように、「欧米はウクライナを見捨てた」と見え始めていることは否定できないだろう。

  • 帽子をかぶっているのがアラハミヤ氏(提供アフロ)
  • (左)ボリス・ジョンソン前英国首相(2022年ウクライナ訪問)(提供アフロ)
  • アフリカ代表団が訪露 ロシア・南アフリカ首脳会談(提供アフロ)
  • アレクセイ・アレストビチ元ウクライナ大統領府顧問(提供アフロ)
  • ドイツ首相府(提供アフロ)

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