「子どもの命が次々と…」悪化する環境 届かない支援物資 ガザ市民が訴える窮状
テレビ朝日外報部 横田 容典
[2024/02/13 18:00]
「状況は最悪だ。日々悪化している」
こう語るのはガザ地区の支援団体「パレスチナ子どものキャンペーン」のスタッフで、パレスチナ人男性のハリールさん(36)。2月5日、ガザ地区と東京をオンラインでつなぎ、インタビューに応じてくれた。
ハリールさんはイスラエル軍の侵攻後、妻と3人の子ども、親戚らとともに、北部、ガザ市から2回避難をしていて、現在は南部ラファにいる。一番下の子どもは去年誕生したばかり。
「日本人にもガザで起きていることを知ってほしい」と、約1時間にわたり窮状を話してくれた。
ひとりの父親として、時に声を震わせながら力を込めて訴えたのは、多くの子どもの命が奪われることについてだった。
外報部 横田容典
■「どこへ行けばいいんだ?」増え続ける子どもの犠牲
南部ラファでは、100万人以上が避難生活を送っていて、多くの人が簡易テントに身を寄せている。ここでも連日のようにイスラエル軍の空爆による犠牲者が出ているうえに、地上侵攻も迫りつつある。ハリールさんは「私たちはどこへ行けばいいんだ?みんな何をしていいのかわからず恐怖を感じている」と嘆く。
ガザの人々を苦しめているのはイスラエル軍の攻撃だけではない。冬になり寒さは厳しさを増しているが、防寒着が手に入らず薄着で過ごさなければならない人も少なくない。凍死する子どもも増えている。
雨が降り続くこともあり、住居であるテントの中は泥だらけになる。衛生環境が悪化し、大人と比べ免疫力の低い子どもたちには感染症も蔓延している。薬もそう簡単には手に入らない。
この日の朝もハリールさんは、顔色の悪い幼い女の子を病院に運ぶ母親に出会った。医師からは“非常に悪い状況”との診断を受けたが、病院にも薬はなく、十分な治療は受けられなかった。ハリールさんはその母親に対し、「大丈夫」と声をかける事しかできなかった。
「外を歩けばこんな事はいくらでもある。ここでは人々が苦しんでいるという話しか聞こえてこない」と、声を震わせながら数時間前に起きた出来事を話した。パレスチナ保健省は、これまでに1万人以上の子どもが死亡したと発表している。
■ミルクの代わりに小麦粉 圧倒的な物資の不足
ハリールさんの一日はイスラエル軍の爆撃が一時的にやむ朝方、水や食料の調達から始まる。家族の水と食料を調達するために奔走しなければならない。しかし、どこの配給所も十分に物資が入ってこないため、1日かけて探しても、必要な分を調達することができないこともしばしばある。赤ちゃんのミルクもほとんど手に入らず、小麦粉を溶かして飲ませている。ガスが通っていないため、たき火でお湯を沸かして溶かす。
また、停電が続いているためスマートフォンの充電も発電機がある場所まで向かい、ここでもまた行列に長時間並ばなければならない。
歌ったり、踊ったり、スポーツをして汗をかいたりと、アクティブで明るい性格であったハリールさんだが、当然今は何もできず、笑顔も消えてしまったという。
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■物資は国境で足止め 支援に立ちはだかる壁■物資は国境で足止め 支援に立ちはだかる壁
1月、職員がハマスの襲撃に関わったとして、UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関への資金拠出を、日本を含む10カ国以上が一時停止すると表明した。他の支援団体も、ガザ地区に物資を入れるべく動いているが、うまくいっていないのが現状だ。
ハリールさんが所属する支援団体「パレスチナ子どものキャンペーン」は、これまでガザ地区で学校の運営や、食料などの支援活動を続けてきた。この団体の日本人スタッフ、手島正之さんは現在、ガザ地区に入って活動することができないため、東京の事務所で物資を送るなどの支援を試みている。
去年12月には、ガザ地区へ支援物資を送るためカイロに渡った。現在ガザ地区へ支援物資を入れることができるのは、国連機関やエジプトにある支援団体など認可された団体に限定されているため、日本から物資を送るためには、エジプトの支援団体を通す必要がある。
今回、手島さんは、エジプトの支援団体と業務提携を結び、現地で水や食料などの物資を調達して箱詰めまで行った。しかし、1カ月以上が経っても、エジプト政府の許可が下りていないという理由で、ガザ地区に届いていない。
さらに、エジプトとガザ地区の境界、ラファ検問所では、支援物資を検査機にかけなくてはならない。その検査機は3台しかなく、世界中の支援物資を積んだトラックが検問所の前で渋滞している。物資の入った段ボール1箱をガザ地区へ入れるだけでも時間がかかる。
手島さんは、このままでは「戦闘に関わりのない市民の生活までが奪われてしまう。生活どころか尊厳を奪われている状態を作っていいのか。支援をないがしろにしていい状態ではない」と、今後も支援を続けていく決意を語った。
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■「ガザで人間が生きていることを忘れないで」■「ガザで人間が生きていることを忘れないで」
ハリールさんは「たとえ戦争が終わったとしてもガザの未来は暗い。家もなければ学校も何もない」と、とにかく子どもたちの将来を憂いていた。そして最後に私たち、そして国際社会に対し「どうかガザの中で人間が生きていることを忘れないでほしい。ガザで起きていることが世界中のどの場所でも起きてほしくない。どうか世界中の人たち、ガザで起きていることが、あなたのいる場所で起きたらどんな気持ちになるか考えてほしい」というメッセージを投げかけた。
■編集後記 〜 一記者として、人の親として
ガザ地区での戦闘が激しさを増していた去年12月、私に第1子が誕生した。わが子を抱いた時は、間違いなく人生で最も感動した瞬間であった。しかし、強い不安を感じることがある。「もし、この子が戦争に巻き込まれてしまったらどうしよう」。
海外の通信社からは、瓦礫の下敷きなり、血だらけになった子どもたちの映像が毎日のように送られてくる。見る度にショックを受け、目を背けたくなる時もあった。
そんな中、私の子どもと同世代の子どもを育てながら避難生活を続けるハリールさんの話を聞いた。ハリールさんは「とにかくガザで何が起きているか知ってほしい」と、自分と家族の命が常に危険にさらされている状況にもかかわらず、今回のインタビューに答えてくれた。熱意を込めて話すハリールさんの目を見ていると、改めて自分の甘さを感じた。現実を直視して、一刻も早く平和が訪れるよう、伝えるべきことを伝えていくのが自分の仕事であると教えられた気がする。
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テレビ朝日外報部
横田 容典2006年、株式会社フレックスに入社。テレビ朝日報道局、ANN 系列の朝日放送、広島ホームテレビ報道局、テレビ朝日報道ステーションなどの勤務を経て、2023年から外報部で働く。昨年12月には第一子が誕生し、育休を取得。1月から職場復帰。デスク業務、世界で起きたニュースの現場取材などを担当。