献花だけで過激主義の共謀容疑? モスクワ市警察「追悼者は顔認証でチェックせよ」
[2024/02/21 20:46]
ロシアでは連日、多くの市民がアレクセイ・ナワリヌイを悼んで供花を続けている。身柄拘束を恐れることなく追悼に駆けつける人びとの勇気ある行動は、閉塞したロシア社会でかすかな希望を感じさせる。
※敬称略
(テレビ朝日元モスクワ支局長 武隈喜一)
献花だけで『過激主義の共謀』容疑をかけられる?
ロシアの人権団体(OVD-Info)によれば、この間拘束された人の数はロシア全土39の町で397人にのぼる。なぜ献花するだけで拘束されるのだろうか。
ナワリヌイは当局のデッチ上げを含むさまざまな容疑で起訴されていたが、2023年8月4日、禁錮19年が言い渡された際の罪状は「過激派組織の設立と過激活動への財政支援、およびインターネットにおける過激主義の呼びかけ」だった。
ウクライナ侵攻直後には、「反戦」の意思表示はまだ行政法違反の罰金刑が一般的だった。テレビのスタジオで「No War」というパネルを掲げた女性マリーナ・オフシャンニコワも、当時は3万ルーブル(約3万円)の罰金を科されただけで解放された。
ところが、「特別軍事作戦」が長引くにつれ、刑法の改悪が次々に行われ、徐々に重い刑が科されるようになってきた。今回拘束された人の多くも、ナワリヌイに関わる「過激主義」の共謀の容疑をかけられるものと考えられる。
死してなお大きい影響力 怯えるロシア当局
ロシア当局が市民の追悼の動きに敏感なのは、死亡したナワリヌイの影におびえている証拠ともいえ、死してなお、この反対派指導者の影響力が大きいことを物語っている。
こうした中、ロシア内務省は早くもナワリヌイ死亡の翌日に、供花に訪れる人を24時間体制で監視し、顔認証を利用して身元を突き止めるよう指示を出していたことが明らかになった。
これは2月17日にロシア内務省モスクワ総局が発令した「社会の安全を保障する措置に関する指令」によるものだ。
この指令によれば、モスクワ市警察はソ連時代の政治弾圧の犠牲者の記念碑である「嘆きの壁」と「ソロヴェツキーの石」の二か所を24時間体制で警備・監視し、献花に訪れた全員を顔認証によって同定し、諜報機関と情報を共有するよう命じている。
そして毎日、午後8時までにモスクワ市警察の過激派対策局に全員のデータについて報告するよう命じている。
モスクワでは2017年に世界最大級の顔認証ビデオ監視ネットワークが導入され、市内に設置された16万台の監視カメラのうち3000台が顔認証システムと連動している。
ロイター通信が分析した資料によれば、2022年のウクライナ侵攻以降は、顔認証システムによって活動家を追跡し、反戦運動を組織する前に身柄を拘束する措置が取られているという。