90歳の「トットちゃん」北京で軽快トーク 黒柳徹子さんの名著が中国で売れ続ける訳

[2024/06/03 17:00]

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「ルルルー、ルルル、ルルルー」
お昼ご飯を食べ終わると、おなじみのメロディーがテレビから流れてくる。「徹子の部屋」のオープニングソングだ。
テレビ朝日で働いているから当たり前かもしれないが、お昼休みの後のオフィスのテレビ画面にはいつも「徹子の部屋」が流れていた。

「同一司会者によるトーク番組の最多放送」として、ギネス記録も樹立した長寿番組の司会を務める黒柳徹子さんだが、大ベストセラー「窓ぎわのトットちゃん」の著者としても有名だ。5月に、続編である「続・窓ぎわのトットちゃん」の中国語版が刊行されたのに合わせて、90歳の徹子さんが自ら中国を訪れ、2日間のプロモーション活動を行った。

中国便り22号
ANN中国総局長 冨坂範明  2024年5月

■受けるまでやる強気の徹子さん つかみはOK

初日の会場は北京のど真ん中「前門」にある本屋さんだった。会場の一角には「トットちゃん」シリーズの象徴でもある、いわさきちひろさんの大きなイラストが飾られていた。

取材前は「90歳で中国まで来て、徹子さん大丈夫かなあ?」と少し心配していたが、その心配は杞憂に終わった。
会場に姿を見せた徹子さんは、最初からサービス精神旺盛だった。

「ダージャーハオ、ウォシー、ヘイリーチャーズ(皆さんこんにちは、私は黒柳徹子です)」と中国語であいさつを始めると、会場は大盛り上がり。その後、パンダのぬいぐるみをもらった徹子さんは、「本物のパンダくらい重いですね」と軽いジャブの冗談を繰り出す。その後は同時通訳の女性の話で盛り上げようと心に決めたようだ。

「私も早口ですが、通訳さんも早口ですね」
「ウアウアウアウア(でたらめな中国語)、通訳さんの中国語、気持ちいいですね」
「私、京劇のものまねもできるんですよ、アアアー」

良く通る声で、受けるまでアドリブを続ける徹子さん。自分が「面白い」と思ったやりとりを心から楽しんでいるようだ。
会場をしっかりつかんだ徹子さんだが、そのあと、さらに驚きの一言が飛び出した。

いわさきちひろさんのイラスト(オリジナル)
いわさきちひろさんのイラスト(オリジナル)

■ライバルはAI 人の心を動かす大切さ胸に

「私が本やテレビの仕事をするときに無意識に願っていることはAIには取って代わることのできない、人の心を動かす何かであってほしいということです」

90歳の徹子さんがライバル視していたのは、なんとAIだった。
自分の心が面白いと思ったことを書きほかの人の心を動かすという人間的なやり取りの力を誰よりも信じているのだろう。

前作の「窓ぎわのトットちゃん」は小学1年生で「退学」となったトットちゃんが、自由な教育方針を掲げる「トモエ学園」に入学し、様々なハプニングを起こしながらもすくすくと育っていく物語で、中国でも1700万部を発行する大ベストセラーとなった。
「トットちゃん」が中国で受けた理由として挙げられるのが、中国の受験戦争の過酷さだ。

「高考(ガオカオ)」と呼ばれる大学入試を目指して中国では子供は小さいうちから必死で勉強をし、親も子供のために全精力を注ぐ。そういった競争に疑問を感じた親子が、人と比べず自分を伸ばす「トモエ学園」の教育方針に憧れたともいえる。

「失敗しても叱らないであげてください。落ちこぼれのトットちゃんのお願いです」
「思い通りにいかなくても、何か一つワクワクすることを見つけてください」

優しい徹子さんの言葉にうなずく観客たち。イベントはつつがなく終わるかと思ったが、実はここからもう一波乱あった。会場の外がにわかに暗くなり、突然の暴風雨見舞われたのだ。

イベント会場の外では暴風雨が…
イベント会場の外では暴風雨が…

■突然の暴風雨にも動じない徹子さん 講演後には晴れ間も

空の色が一気に黒くなり雨や風の音がどんどん強くなる中、心配そうに窓の外を見つめる関係者。さらに、話の途中で突然照明が落ちてしまうハプニングも発生した。スタッフたちは慌てて照明を設置し直す。
しかし、当の徹子さんは全く動じていない。
話は続編を書いた理由へと移っていく。

「直接のきっかけは戦争のテレビの映像です。戦争は罪もない子供たちも苦しめますから」

「続・窓ぎわのトットちゃん」はトモエ学園を出たトットちゃんが青森に疎開し、終戦後にNHKの紅白歌合戦の司会を務めるまでに成長する物語だ。ユーモラスな筆致は変わらないが、徴兵された徹子さんの父親の話をはじめ戦争に翻弄される市井の人たちが多く登場する。

戦争への危機感から筆を取ったという徹子さん。続編に出てくる「咲くはわが身のつとめなり」という女学校時代の校歌の歌詞を、今でも大切にしているという。
最後に、「自分の咲かせ方」について、こうアドバイスした。

「私が仕事を始めてから、70年ですよ、70年!足りないことだらけの私でも70年も仕事を続けているのだから、皆さん『やりたい』と思うことに出会えるよう進んで挑戦してください」

会場が拍手に包まれたころ不思議なことに雨は上がり、青空も顔をのぞかせていた。

学生と交流する徹子さん
学生と交流する徹子さん

翌日、2日目のイベントは日本語を学ぶ大学生たちへの特別講座だったが、ここでも「人と比べない」「困っている人は助けてあげる」「陽気な人になりなさい」などなど、親身なアドバイスが印象的だった。
大学生との交流の感想を「みんなとても若々しくて感動した、北京に来てよかった」と締めくくった徹子さん。

中国で続編は、2週間ですでに25万部を発行したという。これからは、「続・窓ぎわのトットちゃん」の感想についても、いろんな中国の人と語り合ってみたいものだ。

イベント終了後には晴れ間も
イベント終了後には晴れ間も

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