「毎日地獄だった」心の叫び 心愛さん虐待死裁判1[2019/05/17 21:01]

 今年1月、千葉県野田市で栗原心愛(みあ)さん(当時10)が死亡しているのが見つかった事件で、16日、傷害幇助(ほうじょ)の罪に問われた母親(32)の初公判が開かれた。事件では父親(41)も傷害致死などの罪に問われているが、父親の裁判の日程はまだ決まっていない。心愛さんが死亡するまで何があったのか。3時間半の法廷で母親が何を語り、何が明らかになったのか。


―母としての面影感じず
 午後2時。千葉地裁の法廷に母親が入ってきた。茶色のセーターに黒のズボン。黒縁眼鏡の奥に見える目はうつろで、うつむきながらよろよろと歩き、被告席に座った。裁判長が起訴状の内容を説明して「おかしな点などはありますか?」と質問すると30秒ほど沈黙。「間違いありません」と小さな声を絞り出すように答えた。そこには、2人の子どもを持つ母親としての面影はなかった。被告席の母親は体を左側に傾けてうつむいたまま、どこかを見つめていた。
 裁判では、母親が心愛さんを出産した直後から精神的な病気を患っていることが明らかにされた。幻聴が聞こえて落ち込んだりすることがあるという。


―夫との「出会い」から「支配」へ
 母親と父親の出会いは2007年だった。2人は沖縄県内の会社の同僚で、夏ごろには同棲を始めた。2008年1月に心愛さんを妊娠。2月に入籍した。
 父親の支配的な態度は、結婚してまもなく始まったという。母親は当時、母親に「仕事を辞めさせられたこと、携帯電話を見られていること、行動を監視されていること」を訴えていたという。弁護人の質問に、母親は父親との関係性を淡々と語った。

 弁護人:「父親から指示されるとどういう気持ち?」
 母親:「絶対にやらなくてはいけないと思いました」

 弁護人:「断ることを考えたことはありますか?」
 母親:「ありません」

 弁護人:「どうして思わなかったのですか?」
 母親:「怒られると思ったからです」

 母親は心愛さんを出産後、心愛さんを連れて沖縄県糸満市の実家に戻った。父親とは別居、2011年に離婚した。
 ところが、5年後の2016年に母親は父親に「元気ですか」とメールを送った。2人は連絡を取り合い、翌年に次女を妊娠。2人は再び結婚した。再婚した理由について、母親は起訴前の検察官の取り調べに対して次のように話している。

 母親:「旦那の束縛・暴力もあったが、DV(家庭内暴力)とは違う。何も思っておらず、旦那が好きだった。優しいところにひかれた」(母親の供述調書)


―沖縄で何があったのか
 法廷には証人として母親の母親が立った。裁判のために沖縄から来た母親は、黒のワンピース姿で前を見て話した。
 母親は当時、精神的に不安定になっていた母親を支えていた。母親から父親の「支配」の様子を聞いて離婚を説得。再婚後も、入院した母親をサポートして心愛さんを預かった。しかし、その生活は数日後に父親の登場で一変した。

 弁護人:「心愛を預かってほんの数日で父親が心愛を連れて行ってしまった、なぜですか?」
 心愛さんの祖母:「心愛が学校で具合が悪くなった時に父親が連れて帰った」

 弁護人:「連れて行かないように話し合いはしたんですよね?」
 心愛さんの祖母:「小学校で、校長と教頭とうちらと父親で面談をしました」「その際に親権者だからと父親の方に帰すことになった。私も納得がいかなかったので、(沖縄県)糸満市の教育委員会に行った」「小学校に通っているかということだけでも知りたいと思ったが、親権者ではなく、個人情報なので教えられないと言われた」


―「自分たちに関わるな」
 心愛さんの祖母はその後、母親の入院先の病院で父親に威圧的な態度で「自分たちに関わるな」と言われたという。心愛さんの祖母は「これが本性なんだと思った」と話した。母親は退院後、音信不通となった。
 法廷で2年ぶりの再会となった。証言台の左側に座っている母親の方を見つめるが、母親は目を合わせようとしなかった。

 弁護人:「あなたから連絡しようしたことはありますか?」
 心愛さんの祖母:「ありません」

 弁護人:「それはなぜですか?」
 心愛さんの祖母:「連絡をすることによって、暴力を振るわれるんだと思うと怖くてできなかった」

 弁護人:「なぜ、暴力がひどくなると?」
 心愛さんの祖母:「携帯をチェックされているし、私たちが連絡をしたら不機嫌になると聞いたので。2人に暴力がきつくなると…怖くてできなかった」

 弁護人:「今回、心愛さんが亡くなったことは何で知りましたか?」
 心愛さんの祖母:「ニュースで知りました」

 弁護人:「どう思いました?」
 心愛さんの祖母:「…言うことができません」

 心愛さんの祖母は父親との離婚を望んでいる。最後に、母親を見つめて「娘の病気を治し、家族でサポートしていきたい」と話した。

(社会部DV・児童虐待問題取材班 笠井理沙 岩本京子 藤原妃奈子 尾崎圭朗)

(つづく)

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