【南極観測隊】極寒の地で過ごすための“冬訓練” もし氷の割れ目に落ちたら…大苦戦[2022/11/18 20:00]

11月11日、東京を出発した第64次南極地域観測隊。テレビ朝日 南極取材班の吉田遥と神山晃平が4カ月余りにわたって密着取材します。

南極に行くためには、越えなければならないいくつものハードルがありました。最初に待ち受けていたのは、極寒の雪山で行われた「冬訓練」です。4泊5日、雪山で過ごした訓練は「初めて」と「苦労」の連続でした。今回は吉田の体験談を報告します。

■雪山のキャンプ場 初めてのテント泊

私たちが南極に滞在する期間、現地は夏です。しかし、内陸では気温がマイナス数十度に達することもあります。その環境を想定した訓練に耐えられなくては、南極に行くことはできないのです。

訓練は長野県の湯ノ丸高原で、2月28日から5日間にわたって行われました。6人1組のチームに分かれ、講義とフィールドワークを通して寒冷地の生活に慣れることが目的です。私のチームは、3人が南極経験者、残りが南極初体験のメンバーで、女性は私1人だけでした。

今回の観測隊の目的などについての講義を受けた後、テントなどの重い装備を背負ってキャンプ場へと向かいました。ここがベースキャンプになります。

到着すると、すぐにスノーシューを靴につけ歩く訓練です。ところが歩く前の段階、短いスキーのようなこのスノーシューを履くところからつまずきました。雪の中ではベルトが凍るので簡単には装着できないのです。手がかじかんでも手袋を脱がないとバックルの針を穴に通せません。

やっと装着したあとも、雪の中に沈まないようにバランスをとるのが難しく、うまく歩けません。油断すると新雪に膝まで埋まってしまい、コツをつかむまで、チームの足を引っ張らないよう必死でした。

雪中歩行訓練に続いて、テントを設営する訓練。登山経験者にテント設営の方法を教えてもらいましたが、吹雪でどんどん気温が下がっていきます。この日の気温は−1℃。寒さで教わる内容がほとんど頭に入ってきません。
チームのメンバーとともに、まずは余分な雪をどかし、寝床となる部分を固めます。スコップで雪を掻きだすこの作業が私にとってはとても大変だったのですが、チームのメンバーは、慣れた手つきでひょいひょいと雪を掻きだしていました。

何とかテントを設営すると、テント泊の準備です。まずは水の確保。雪山では、鍋を使って雪を解かし、水にします。
そして、夕飯の準備です。テント内で鶏団子鍋を調理しました。床が雪面のためぼこぼこしていてテーブルが安定せず、野菜を切るのも鍋を置くのも一苦労です。雪山で冷え切った体に、温かいスープがしみました。

食事を終えると、午後8時にはテント内で寝るように指示が出ました。女性用のテントに移動し、初めてのテント泊です。4畳くらいのスペースに4人で寝袋を敷いて眠るため、とにかく狭い! 
ダウンを着て寝袋に入ると暖かいのですが、雪の冷たさと硬さは背中に直に伝わって来ました。

寒いのでトイレが、近くなります。夜になると、外に光はなく、頼れるのは自分が身に着けているヘッドランプのみ。暗闇の中を200mほど歩かなければ、トイレにはたどりつけません。
「こんな中では絶対に眠れない」と思っていましたが、疲れていたのか床に就くとすぐに落ちてしまいました。

■氷の裂け目に落ちたら…模擬訓練の木登りができず苦戦

翌日は朝5時に起床です。慣れないテント泊に身体はバキバキでしたが、この日最初の訓練は登山です。湯ノ丸山の頂上を目指します。
往復3時間の道のりでしたが、スノーシューにも慣れ、雪山やキャンプに慣れている人たちの中で、脱落せずに歩き通せました。ただやはり必死だったのでしょう、カメラを回す余裕はありませんでした。山に慣れているメンバーによると「このレベルは登山ではなくハイキング」だそうです。

雪山を往復したあとに待っていたのが、木登りの訓練です。万が一、氷の裂け目「クレバス」に落ちた際には、自分でロープを使って這い上がらないといけません。

木にロープを括り付け、ロープに足をかけながら自分の力で木を登る訓練をするのですが...何度やっても登れません。ロープで作った輪に足を引っかけ、体重をかけることで上に登っていくのですが、どうしても足が踏み込めません。力のなさに気持ちは焦るばかり。「がんばれー」と励ましてくれる人たちに囲まれる中で、苦戦が続きました。副隊長にも心配され、「本当に南極に行けるのか」と不安がよぎりました。
何度か練習するうちに、ようやく体を上に持ち上げるコツをつかみ、少しだけ登ることができました。

一方、神山はすぐにするすると登っていました。訓練を終え、私は「絶対にクレバスには落ちてはいけない」と心に誓いました。

■南極よりも過酷?訓練を終え、体重が3kg減

次の日は筋肉痛を押して、スキー場で、スパイクがついたアイゼンを付けて歩く訓練です。スノーシューの時と同様、アイゼンの器具が冷えて硬くなっています。
滑らせるスノーシューと違って、雪面や氷に突き刺すように歩くアイゼンは、足を持ち上げながら歩くのでより太腿の筋肉がこたえます。

腿上げを繰り返し、ピッケルの使い方の指導もうけながらスキー場の頂上までたどり着いたと思ったら、すぐ下山。

ベースキャンプに戻り、クレバスに落ちた人を救助する訓練です。ピッケルをしっかり雪山に突き刺して支点を決め、落下者を引き上げます。この支点がしっかりしていないと事故につながりかねません。
過酷な環境の中での救助は、安全に気をつけながら行わないと、新たな事故を招きます。救助される側にも、助ける側にもなる可能性があることを想定しないといけないのだという、覚悟が出てきました。

神山は、この日は別チームで、道なき道を進むルート工作の訓練を行いました。GPSや方位磁石を頼りに、急な斜面の道なき道を進んでいきます。
一度でもルートの測定がずれるとゴールから大幅にずれてしまうので、一回一回ルートが合っているのか立ち止まって計測しました。誤差がないように班全員で細かくチェックしたおかげで、ほぼ正確なゴール地点にたどり着くことが出来ました。

4日間、寝食をともにすると、“チームワーク”ができてくるのが分かります。
経験者の方々が未経験の私たちに分かり易いように、教えてくれました。私たちも、経験者にいろんな質問ができるようになり、コミュニケ―ションが自然に取れるようになっていました。この厳しい事前の訓練は、スキルの向上だけが目的ではないことに気付きました。

最終日の午前中、これまでの振り返りの講義を受け、訓練は終了しました。
後に聞いた話では、「昭和基地での生活よりも過酷」といわれるのが、この「冬訓練」だそうです。

すべての日程を終え、顔は真っ赤に日焼けし、体重は3kgも落ちていました。激しく体力を消耗し、寒冷地の恐ろしさを実感する訓練でした。
ただ、帰り道に馬肉うどん大盛と、天丼を食べたら 体重はすぐに戻ってしまいました…。

テレビ朝日報道局 吉田遥

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