【狙われた和牛】“闇”の人物が告白 なぜカンボジアが偽装に使われるのか[2023/06/17 11:00]

日本からの「和牛」輸入が禁止されているはずの中国で、和牛が消費されている。そんな情報をもとに取材を進めた。日本の警察は、カンボジア向けと偽り、和牛を不正輸出したとして中国籍の男ら2人を逮捕した。

警察は不正な“カンボジアルート”の存在をどうやって裏付けたのか。取材を進めると、和牛密輸の新たな闇を示すような情報が手に入った。(テレビ朝日 社会部 松本健吾・伊平晃司)

■警察が裏付けたコンテナの輸送履歴 

今年2月、神奈川県警は横浜税関からの情報提供を受け、“和牛”の不正輸出を繰り返していたとして中国籍の男A、日本人の男Bを逮捕した。2人は、冷凍牛肉をカンボジアに輸出すると偽って申告し、必要な検査を受けずに香港に輸出した関税法違反と家畜伝染病予防法にした疑いがもたれている。

警察は「コンテナの輸送履歴」を追跡することで男らの関与を裏付けたという。輸送用コンテナに割り当てられた「番号」を照会サイトで入力すると、今、どこにあるのかを一般人でも確認することが可能だ。

捜査関係者によると、この追跡により、男らが和牛を詰めたコンテナはカンボジアにいかず、経由地の香港で荷下ろしされていたことがわかったという。

■Aは「肉」を、Bは「船」を…時効含めれば40億円以上に

警察によれば、今回逮捕されたAとBは役割分担が決まっていた。
Aは「肉」を、Bは「船」を手配していた。

Aの和牛卸会社へのオーダーは、中国で人気のリブロースなどの高級部位ばかりだったと、食肉業界の関係者が明かした。日本では赤身ブームもあり、倉庫には高級部位のロースなどが余る傾向にある。日本で余っているロースを“安く”買いたたき、人気の中国で“高く”売りさばくのがAのやり方だったという。捜査関係者によると、Aは複数の卸会社と取引をしていて、中国本土のバイヤー含め独自のパイプをもっていたとみられる。

一方、Bは日本人ながら中国語が堪能で、食肉関係だけではなく、中小企業の中国進出をサポートする団体の代表理事も務めていた。Bをよく知る人物は、「いつも資金が足りないようで支払いが遅れることもあった。そこをAに付け込まれたのかもしれない」と話した。

警察はこの2人が関わった不正輸出の総額は40億円を越えていて、既に時効を迎えたものを含めれば、更に額は増えるという。2人とも容疑を認め、Aは取り調べに対し「カンボジア向けにすれば、大量に肉が用意できる。(正規の)香港向けよりも安く調達できて、儲けが出る」と話している。

■“カンボジアルート”の理由とは? 

統計データをみると、“冷凍牛肉”を世界で一番輸入しているのは5年連続でカンボジアだ。2022年は約65億円。経済成長著しいとはいえ、「発展途上国」なのに…。

今年3月、Aの関係先を探る中で知り合った一人の男性が取材に応じてくれた。自身も長年、“東南アジア”や香港向け輸出を手がけてきたという。「カンボジア向けの9割9分が、中国に流れていますよ」。男性は、カンボジアが世界一の理由は2つあると話し始めた。

▼海外向けの「衛生証明書」の取得が必要ないこと
▼輸入業者の偽装が簡単にできること

衛生証明書とは、厚生労働省が発行するもので、輸入国側が定めた衛生基準を満たした加工施設で処理されたことを証明するものだ。香港やEUなどは厳しい衛生基準を求めていて、その条件を満たすのは全国の食肉市場でも10カ所にも満たず、施設利用料も高額となる。

一方、カンボジアと日本の間には、特別な検疫条件が規定されていない。つまり、カンボジア国内向けの衛生基準を満たしていればよく、男性は、「街の肉屋で買ったブロック肉を輸出することもできる」という。

2つめは「輸入業者の偽装のしやすさ」。そもそも、カンボジアに和牛が到達しない場合はカンボジアの港での検疫はされない。日本からカンボジアへ輸出する際の「荷物引受人」も、実在しない業者を偽装して記載したとしても現地では確認のしようがない。さらに、現地当局が発行する輸入許可証なども、過去の書類をコピーして日付を変えただけのものでも、承認のハンコがもらえるという“緩さ”があるという。

■「東京で有名なのはA、大阪で有名なのはC、…」

この男性は、「カンボジアルート」を使っている別の男の名前も出した。
「Cは業界では昔から有名ですよ。“和牛”の受精卵を流出させたヤツですから」

大阪在住のCは4年前に、和牛の受精卵などを無許可で中国に持ち出したとして有罪判決を受けている。なお、この摘発をきっかけに行われた種苗法の改正で、悪質な違反者には刑事罰を科すことが可能となった。

男性は言う。「CはBとも昔から関係があったはず。」

不正輸出に関わったとして逮捕されたBとも関係が深いという。我々が情報収集すると、Cは今も和牛を海外に輸出するビジネスに関わっていることがわかった。今年に入ってからも関東地方の業者から和牛を大量購入していたという。

そして4月初旬、遂にCとBを結びつける新たな情報を入手した。2人を結びつけたのもやはり「カンボジア」だった。

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