Jリーグ「安心・安全な観戦」 想定外の異変で試合中断…主審の決断に“感謝の手紙”[2023/09/28 18:32]

 先月の天皇杯でサポーターによる暴動が起きるなど、日本サッカー界では観戦のあり方が問われています。こうしたなか先週、日本サッカー協会とJリーグが共同で声明を出しました。「われわれサッカー界は、老若男女の誰もが安心・安全にサッカーを楽しめる環境を広げるべく、強い使命感と責任感を持って取り組んでいく(一部抜粋)」強い姿勢を打ち出しました。

 この「安心・安全」を考えるきっかけとして、紹介したい“ある試合”があります。

■想定外の異変 サポーター倒れる

 その試合は、今年6月11日に行われた、「名古屋グランパス対アビスパ福岡」です。J1の試合で、未だかつてない出来事が起こりました。

 試合終盤の後半37分、名古屋のスローインが行われる時でした。審判が何かを指差し、いきなり試合を中断しました。

 監督や選手も何が起こったのか分からない状況のなか、なんとスタンドのサポーターが突然意識を失い、倒れていたのです。

 この試合で主審を務めていたのが、川俣秀審判員です。

 川俣主審:「ちょうどスタンドの階段の辺りに倒れてるような方が見えて、始めるまで時間がありそうな雰囲気だったので。『これは今だったら、試合をすぐ止められる』ということで、笛を吹いて止めました」

 内田篤人さん:「それはルールに入っているんですか?“観客が倒れたらレフェリーが止める”みたいな」

 川俣主審:「競技規則にそういった明記はないです」

 内田さん:「(試合中断は)ハーフタイム入るようなもんじゃないですか。結果もたぶん変わってきちゃうと思うんですよ。(試合終盤の中断は)勇気がいることだと思うのですが」※この試合で中断した時間は約15分間

 川俣主審:「勇気はいりますね。プレー以外のところなので」

■「安心・安全なサッカー観戦」Jリーグの象徴

 試合の進行よりも、人命を優先した川俣主審。実はこの時、名古屋ベンチへと駆け出し、チームドクターに処置に向かうよう働き掛けも行っていました。

 内田さん:「選手もびっくりしたのでは?」

 川俣主審:「把握できてなかったと思う。ドクターの方がスタンドをよじ登る時に、名古屋のランゲラック選手や福岡のウェリントン選手、皆さんもドクターを担ぎ上げるお手伝いをしてくださった。そこの対応も、やはりチーム・選手の皆さんは素晴らしかった」

 川俣主審の決断から、選手やチームスタッフなどスタジアムが一つとなり、人命救助に当たりました。

 試合中断からおよそ15分後、多くの人が見守るなか、倒れたサポーターは意識を取り戻し、無事に病院へと搬送されました。

 Jリーグが掲げる「安心・安全なサッカー観戦」。まさに、その言葉を象徴する試合となりました。

■サポーターの家族から手紙 感謝の言葉

 内田さん:「僕はドイツでプレーしていましたけど、海外は発煙筒も飛びますし、目が合わないように騎馬隊でアウェーのサポーターを囲って移動させる。Jリーグを見ていると、子どもとおじいちゃんとおばあちゃんと手をつないでスタジアムに行けることは、普通ではないこと」

 川俣主審:「Jリーグも“安全なスタジアム”を掲げている。いろんなところに目を配って、対応する必要性がある」

 内田さん:「倒れてしまったサポーターのご家族から、お手紙をいただいております。僕が代わりに読ませていただきます」

 手紙:「川俣主審様。先日の名古屋グランパス対アビスパ福岡戦で試合観戦中に、スタンドで意識を失い、倒れた者の家族です。プロサッカーの試合中という難しい状況下の中で、観客席まで気にかけていただき、人命を優先して試合を止める決断、瞬時なご対応ありがとうございました。私の家族も日常生活を取り戻し、先日もJリーグ観戦に行くことができました。川俣主審には心より家族全員でお礼を申し上げるとともに、今後とも、日本最高峰のサッカーリーグでのご活躍を期待しております。本当にありがとうございました」

 川俣主審:「スタジアムにいた皆さんが努力していただいて、大事に至らずに、また健康を取り戻していただいたというのは、本当にありがたく思っております」

(「報道ステーション」2023年9月27日放送分より)

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