スポーツクライミング世界ランク1位 安楽宙斗(17)…強さの秘密は“脱力登り”
報道ステーション
[2023/11/27 18:38]
![](/articles_img/900000838_1920.jpg)
今、とんでもないスピードで成長を遂げている選手がいます。スポーツクライミングの安楽宙斗選手(17)です。
ワールドカップ初参戦で、ボルダーとリードの2種目で年間王者、史上初の快挙を成し遂げました。
■自分でも…「成長の速度にびっくり」
11月14日に、17歳になったばかりの安楽宙斗選手。今月のアジア予選では、圧勝劇を見せました。
まずは「ボルダー」、4つの課題をいくつ登り切れるかを競うのですが、完登。また完登、またまた完登。
つづく「リード」では、6分間でどこまで高く登れるかを競います。これも、完登します。出場者唯一の全完登で、パリ五輪の切符をつかみ取りました。
松岡修造さん:「オリンピックや世界を、いつごろから意識し始めた?」
安楽選手:「世界で戦えると感じたのは、去年の…」
松岡さん:「去年!?」
安楽選手:「去年です」
松岡さん:「だって今、世界ランキングは?」
安楽選手:「ボルダーとリードどっちも1位」
松岡さん:「1年で1位ですか?」
安楽選手:「はい。自分の成長の速度にびっくりしています」
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■“脱力登り”…原点は、子どもの時の登り方■“脱力登り”…原点は、子どもの時の登り方
なぜ、ここまで急成長を遂げたのか。最大の要因は、安楽選手ならではの登り方にありました。
安楽選手:「よくいうのは、脱力登り」
松岡さん:「脱力登り!」
安楽選手:「力をそこまで使わない登りが特徴です」
力をそこまで使わない“脱力登り”。一体、どういうことなんでしょう?5年前から安楽選手を教える田中星司コーチは、次のように話します。
田中コーチ:「(普通は)指先にぐって力を入れようとすると、指以外にも力が入る。他の選手は指先に力が入ると、腕全体に力が入る。でも彼の場合は、指先にぐって力を入れても、腕全体が脱力できる」
指先以外が脱力できたら、どんな違いが生まれるのか。まずは、別の選手の登り方を見ていきます。左にあるホールドを掴むため、両腕の力で体を引き寄せますが、腕に負担がかかりすぎたため、耐えきれず落下してしまいました。
一方、同じ場面の安楽選手はというと、片手を軽々外して、難なくクリア。余力のある登りには、こんな理由がありました。
田中コーチ:「次のホールドにアプローチするとき、肩、胸、股関節などを上手く使い、体を振る。そうすると円運動が起こって、上方向にも力が出ますよね。最小限の力で次のホールドにアプローチしている」
松岡さん:「じゃあ重心を上手く振ることによって、自然に上に上がっていく力を生んだってことですね」
田中コーチ:「そうです。子どもたちは、そういう動きをする」
松岡さん:「大人になるにつれ、できなくなる?」
田中コーチ:「できないです。筋力がついてくると、力に頼るようになる」
脱力の原点にあったのは、子どもの時の登り方。筋力が十分に備わっていない分、体全体でうまく反動をつけて登れるのだといいます。
安楽選手は、この登り方を今でも失うことなく、世界の舞台へ。今シーズンはボルダー、リードの2種目で年間王者に輝いたのです。
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■安楽選手「初めてだと思います、あんなに泣いたのは」■安楽選手「初めてだと思います、あんなに泣いたのは」
しかし、そんな安楽選手にとって思わぬ壁となったのが、8月の世界選手権でした。
前半のボルダーでは3位。リードもこのままの順位で終えられたらオリンピック内定でしたが、落下して4位になってしまいまいした。
松岡さん:「あの時の感覚は、どんな感じなんですか」
安楽選手:「いつもの自分を出し切れずに、散っちゃったので。初めてだと思います、あんなに泣いたのは」
松岡さん:「泣いたの!?」
安楽選手:「はい、泣きました。ちゃんとやっていれば1位を取れたかもしれない。出し切れずに負けて、大事なパリ五輪出場権を逃した。自分の登りが出し切れなかったのが悔しい」
松岡さん:「それは、なぜ出し切れなかったと思いますか?」
安楽選手:「壁の前に立った時、『これで五輪決まる、やばい』みたいな」
松岡さん:「オリンピックどうしようって?」
安楽選手:「『オリンピック決まるかもしれない、やばい。あそこくらいまで登らなきゃ』みたいな。全然、いつもと違う考え方になってしましった」
重圧にとらわれ、“心の脱力”ができませんでした。
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■“ニュー宙斗”で…パリ五輪出場内定■“ニュー宙斗”で…パリ五輪出場内定
世界選手権から3カ月後のアジア予選。パリへの切符を手にするには、優勝しか許されない大事な試合。再び、オリンピックの重圧が襲います。
ところが、安楽選手は次のように話します。
安楽選手:「(登る直前に)すごく緊張してるなと感じた。でも緊張しても、別に登ったらなくなる、緊張しても意味ないなって新しい考えが出てきた」
松岡さん:「ニュー宙斗が来たんですか!そこで?」
安楽選手:「はい、スッと緊張が消えました」
試合では、落下が相次いだ難関も軽々登って見事クリア。パリ五輪出場内定を決めました。まさに、心と体の脱力がもたらした圧勝劇でした。
松岡さん:「周りの期待はすごいわけですが、パリ五輪の自分の目標はどうですか?」
安楽選手:「金メダルです。五輪よりも、アジア予選で獲得する方が緊張する。金メダルの可能性はかなり高いんじゃないかと自分では思っています」