断食を強要 学校行かせず 病院もダメ 宗教2世が苦しんだ「虐待」はなくなるのか[2023/01/07 11:00]

交際相手と無理やり別れさせられた。
恋愛をすると「罰」として断食を強要された…。

旧統一教会の信者を親に持つ、いわゆる「宗教2世」が子どものころに味わった実際の体験だ。子どもに対する身体的、心理的な攻撃に思えるが、これまでは「信教の自由」などが壁になって「虐待」と認定されづらかった。

世論の高まりもあり、厚生労働省はこのほど、信仰の強制などを虐待とする指針を出した。
指針に期待する思いとともに「苦しみが広く伝わり、過去の自分と同じように苦しむ子どもたちが減ってほしい」と宗教2世の一人が取材に応じてくれた。

(テレビ朝日社会部 厚生労働省担当 栗原伸洋 藤原妃奈子 松本拓也)


▼「地獄に行くよ…」宗教2世が訴える“宗教虐待” その実態は?

 昨年7月の安倍元総理の銃撃事件以降、宗教を信仰する親を持つ「宗教2世」の問題に注目が集まった。2世らは、親からの宗教活動の強制や教義を背景にした「虐待」を訴えてきた。
その一人、高橋みゆきさん(20代、仮名)は旧統一教会元信者だ。家にはいくつもの壺があり、物心ついた頃から教会に通っていた。「宗教の名のもとに人権を踏みにじられていた」と話す。

「旧統一教会の家庭に生まれた子どもたちは一般の恋愛・結婚をすると地獄に行くよと言われて育った。普通の結婚とか恋愛をしてしまって、道を外れてしまうと自分たちの親(1世)が積み上げてきた信仰が、全て台無しになると教えられてきた」。
旧統一教会では自由恋愛による結婚が認められていないため、交際相手と無理矢理別れさせられたこともあった。教会の教えに反すると自分の罪を清算するためと称して親から断食を強要された。

「理不尽だとは感じたが、当時は虐待だとは思わず、誰かに訴えようとも思わなかった」。
成長すると、心が壊れていくのを感じた。自分のことを客観視できるようになった時、ようやく虐待だと気が付いたという。家庭が崩壊した知人もたくさん見てきた。そんな経験から、子どもたちを守るためにも宗教虐待に関する指針の作成や法整備を求め仲間とともに訴えを続けてきた。

▼児童相談所も介入に苦慮するケースも…「信仰の強制は虐待」厚労省が新指針

「信教の自由との関係でなかなか踏み込みづらい」
児童相談所(児相)の担当者はこう話す。

宗教行事でたびたび学校を休む子どもがいた。本人の安否確認ができなかったが、「どこまで児相が介入していいのか」。最終的に介入はしたが、判断に悩まされた。
医療の支援や学校教育を拒否する家庭もあった。一般的には「ネグレクト」とされてもおかしくない事案だが、「思想信条に基づいている。(ネグレクトとは違う)」と言われると、健康状態が著しく悪いなど問題が見つからなければ、それ以上、介入は難しかったという。

「これまで国の指針に宗教ということが書かれていないことにやりづらさを感じていた」。
 1985年に川崎市で起きた事故では、男子小学生が車に轢かれて重傷となるも搬送先の病院で宗教信仰を理由に両親が輸血を拒否したことがあった。男の子はその後、失血死で死亡した。

事故や事件が起きて表面化することがあっても、国が対策に乗り出すには時間がかかった。

そんな中、厚生労働省は昨年12月27日に児童相談所などが対応する際の留意点などをまとめた指針を全国の自治体に通知した。新たな指針では、教義を背景にして「地獄に落ちる」などと恐怖感を抱かせ宗教活動への参加を強制することは心理的虐待にあたると具体的な事例を盛り込んだ。
また、深夜まで宗教活動への参加を強いるのは、身体的虐待などに当たるほか、団体への寄付によって生活や進学に支障が出れば、ネグレクトなどになるとした。信仰の強制が「虐待」になると初めて明確にした形だ。
さらに、宗教組織など第三者による虐待行為の誘導がわかれば、児童の安全確保を最優先とし、必要な場合には躊躇なく一時保護などの対応をする必要があるとした。

指針が示されたことについて児童相談所の担当者は「親に介入の根拠を示して説明しやすくなる」と期待を寄せた。

▼宗教2世らも「現行法の中でできる範囲の内容になった」

 宗教2世・高橋さんも、厚労省の指針の作成にあたって聞き取りに協力し、宗教虐待の実態を訴えてきた。新たな指針を「現行法の中でできる範囲の内容になった」と評価する。
高橋さんは、一時保護や警察に告発を相談することを盛り込んでほしいと訴えた。「宗教組織は親に、こういうことをするのが子どものためになるんだよと指導とか誘導をしてくる。それが虐待につながる。警察への告発などに触れている点が今回の指針で非常に意味がある」と語ってくれた。

 指針は、キリスト教系の新宗教「エホバの証人」の宗教2世からも宗教虐待の実態を聞き取っている。団作さん(仮名)も協力した一人だ。

「宗教活動を行わなければ死ぬ」と母親に教えられながら育った。しつけのためならムチで体を打ってもよいとする教義のために、小学生の頃は電気コードで何度も叩かれた過去がある。学校では教師に「エホバの証人なので校歌は歌えません」と言っていた。

「18歳の時、行き詰まって児童相談所に電話をしたら『年齢的に保護の対象外』と言われた」。今回の指針では、保護対象から外れる18歳以上の2世からの相談でも、法テラスなどに繋げるよう求めている。団作さんは「もし、あの時に指針があれば自分も自立支援などに繋がっていたかもしれない」とこぼした。
そのうえで「もしカバーできないところがあれば厚労省には内容を更新していってほしい。せっかく自由度の高い『指針』という位置づけなのだから」。

団作さんは、この指針はあくまでも段階としては「ホップ」だと語る。今後、「ステップ」、「ジャンプ」と動きを止めるつもりはないと意気込む。
特に気になっているのは、宗教団体からの行為に焦点を当てる「第三者からの虐待」への規制を期待している。今回の厚労省指針でも、宗教団体の強制などに何の措置もとらない親らに対して「ネグレクト」としている。虐待は親や保護者からのもので、第三者によるものは「虐待」とは認められない。
団作さんは「第三者の宗教団体からの行為を虐待として止めるルールづくりが必要だ。今後も訴えを続けたい」と主張する。

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