メジャーリーグが日本で開幕し、約1カ月が経過した。
メジャー2年目で圧巻の投球を続けるドジャースの山本由伸投手(26歳)や現地時間4月19日に長女が誕生した大谷翔平選手(30歳)、メジャー1年目で初勝利を挙げたオリオールズの菅野智之選手(35歳)などグラウンド内外で多くの話題を集めた。
しかし、メジャーリーグで最も話題なのは「魚雷(トルピード)バット」だ。ヤンキースの数名の選手が「魚雷バット」を使用して、開幕4試合で18本塁打とメジャーリーグ新記録を達成し、打線が猛威を振るった。
メジャーで話題になり、日本プロ野球でも使用が容認された「魚雷バット」についてみていこう。
■メジャーの話題沸騰中の「魚雷バット」とは?
魚雷バットは一般的なバットより先端が細く、「芯」と呼ばれるボールを捉える部分をグリップ側に近く設計されている。
最もボールを捉える部分を太くすることで「ホームラン」や「ヒット」を出やすくしている。
バットの形状から「魚雷(トルピード)」の愛称が定着しているが、「ボウリングのピン」の方がイメージしやすいと思われる。
また、バットの規定に表記されている太さが直径約6.6センチ以内、長さが約106.7センチ以内で作られているため、MLBは「魚雷バット」が違反ではないと見解を示している。
「MLB.com」のクリスティーナ・デ・ニコラ記者によると、この「魚雷バット」を開発した人物は、ミシガン大学で電気工学の学士号、マサチューセッツ工科大学(MIT)では物理学の博士号を取得したヤンキースの元アナリストであるアーロン・リーンハート氏だ。
現在は、マーリンズでフィールドコーディネーターを務めている。
リンハート氏はミシガン大学時代に野球部のセレクションを受けた経験があり、2018年からヤンキースで打撃コーチやアナリストを担当した。
打撃コーチを務めていたときに「選手たちがボールを捉えようとしている部分がバットの最も太い部分ではない」と、一般的な野球バットは芯の部分が最も太くないことに気づき、開発に着手したという。
「魚雷バット」を使用しているヤンキースのベリンジャー選手(29歳)は「(バットの)重心が手元に近いように感じるため、バットが軽くなったように感じる。それが最大の利点」と語っている。
また、昨年ナ・リーグHR王に輝いた大谷選手は「魚雷バット」を使用するのか?と聞かれ
「今のバットに十分満足しているし、いいフィーリングがかえってきている。今のところは今のバットを継続して使うと思う」と語った。
■NPBで使用解禁も…「差し込まれ気味になった、使いづらい」
日本プロ野球でも4月11日から公式戦で「魚雷バット」の使用が容認され、同日にDeNAの選手たちが試合前の練習で試打を行った。
「(違いが)わからないです」
「当たらなさそう…」
「いやー、わからないです…普通のほうがいいんじゃないですかね」
「合う人もいるだろうから、いろんなバットを試すことも1つだと思う。
良ければ使ってもらえれば」
また、ロッテでも練習でルーキー西川史礁選手(22歳)、高部瑛斗選手(27歳)、ソト選手(36歳)、以外のほとんどの選手たちが「魚雷バット」を使用した。
「手前に重心があるので、差し込まれ気味になった。
使いづらい、今の段階では今使っているバットを使用する」
「自分の打ち方に合っている、今後使っていくかも」
「詰まらせて打つ選手の打ち方に合うと思う、バットの重心が極端に手前にあり、ヘッドの重みが全く感じない。
中村奨吾や、岡など前で捌くバッターにとっては凄い変な感覚だったと思う」
取材した選手の多くは「魚雷バット」に戸惑いを感じ、実践での使用を控えると語った。
栗原健太コーチは「シーズン中に変えるのは抵抗があると思う、オフシーズンに使いたい選手は使っていくかもしれない」とも語り、オフシーズンの選手の動きに注目が集まる。
■レジェンドが愛用した変わったバットたち
過去に変わったバットを持ち、偉大な記録を残したレジェンドもいる。
メジャーリーグ通算安打数で歴代2位の記録を持つタイ・カップ氏(1886ー1961年)は、グリップエンドにかけて太くなる形状のバットを使用し、4191本のヒットを記録した。
日本でもタイ・カップ氏の使用した形状をモデルにしたバットをスポーツ店で目にすることがある。
また、2025年1月にアジア人初のアメリカ野球殿堂入りを果たしたイチロー氏は一般的なバットに比べて、短く細く、そして硬いバットを使用していたと言われている。
米野球専門YouTubeチャンネル『Foul Territory』で出演した元メジャーリーガーのピアジンスキー氏は、「今まで手にした中で一番硬い。折れる気がしないし、なによりめちゃくちゃ小さい」と語り、クラッツ氏は「まるで最強の爪楊枝みたいだ」と表現した。
さらに、イチロー氏は道具の手入れを徹底しており、特にバットは特注のジュラルミン製のケースに入れて保管していたと言う。
繊細なバットコントロールが要求されるプロの世界では、バットはとても重要な役割を担う。
同じ長さ、同じ重さのバットでも色が違うだけで、感覚的にスイングの振りやすさに違いを感じる選手もいるなど、感覚的な部分も大きい。
本格的に今シーズンから登場した「魚雷バット」が、シーズンを通して使用した選手がどのような成績を残すのか。
また、「魚雷バット」によってホームランやヒットが増加すれば、近年メジャーリーグが推し進めてきた試合時間の短縮に対して逆行する。
今後のメジャーリーグやオフシーズンの選手たちの動向にも注目が集まる。