男子・体操で、日本は金メダリスト=世界チャンピオンが2人います。
それは、東京オリンピックの個人総合で金メダリストの橋本大輝選手(23)と、パリオリンピックの個人総合で金メダリストの岡慎之助選手(21)です。
しかも、同じ大会にこの2人が出場するのは、史上初です。では、日本一はどのように決まっていくのでしょうか。
先月、2日間開催された全日本選手権。そして、今月16日と18日に開催されたNHK杯の計4日間で決まります。
全日本選手権では、橋本選手が勝ち、一歩リードしたなかで16日から行われた世界一同士の日本一決定戦となるNHK杯に臨みました。
そこで松岡修造さんが2人に、「お互いの存在」や「それぞれの体操の違い」について聞きました。
■「強さ」対「うまさ」史上初の金対決
「岡選手は体操が“うまい”。僕は体操が“強い”のほうだと思うんですよね。岡選手の良い点は、一つひとつの技がきれいかつ正確かつ、柔らかい体操。僕は『剛』のタイプ、力のタイプだと思っていて」
「でも、それは強いほうが良いですよ。最終的に強いほうが勝ちますよ」
「負けないって思っています」
「美しさが自分のポイントになるのでいかしたい。頑張るきっかけは、すごくもらえます。(橋本)大輝くん頑張っているから僕も頑張ろうって」
先月の全日本選手権。オリンピック金メダリスト同士の初対決となりました。
美しさが持ち味の岡選手は、第1種目の「床」からピタリと止める着地を連発。完成度の高い演技を披露します。
一方の橋本選手は、難度の高い技を繰り広げ、高得点を積み重ねます。
両者一歩も譲らないまま、最終種目の「鉄棒」へ。ここでまさに、橋本選手の“強さ”が際立ちました。
先に演技に臨んだのは橋本選手。離れ技を次々に成功させると、最後の着地も完璧。今大会最高得点となる15.033をたたき出します。
続いて、最終演技者の岡選手。優勝が狙える点差のなか、序盤でバランスを崩すまさかのミス。
史上初の金メダリスト対決は、橋本選手が勝利。体操がうまい岡選手を、強さの橋本選手がねじ伏せました。
勝負を分けた鉄棒の演技について、橋本選手は次のように話します。
「岡選手、失敗するのかって思っていましたね。見たことがなかったので、そこかよみたいな。自分の鉄棒でなにか空気感を変えられたのかな、変わったのかなとは多少思いましたけども。不思議な感覚でしたね」
「ダッサい…ダサいなぁ…悔しいですよ。悔しい気持ちにもなるし、まだこういうミスが出るんだという気付きにもなったので。まだまだ未熟なんだなと」
パリオリンピック後、初めて味わった敗北。ただ、岡選手は新たな感情にも駆られていました。
「(試合の)緊張感はすごく充実していた。めちゃくちゃ楽しかった。『早くもう1回こういう試合をしたい!』『早くNHK杯戦いたい!』みたいな」
新旧金メダリスト対決。再び頂点をかけ、互いにしのぎを削ります。
「個人総合で、自分に危機感を持たせる選手が日本に現れた感覚は?」
「うれしいの一言ですよね。うれしいですけど、嫌ですね」
「嫌ですよね」
「複雑な感情ですよね。最後の鉄棒までに差がマイナスだったら、0.5ぐらいないとギリギリの勝負になるので。積み重ねてきたことも含めて、やっていけたら勝てるかなと」
「橋本選手が“強い”に対して、岡選手は?」
「“勝つ”。強いこともすごく大事だけど、勝った選手が金メダル」
「“強い”と“勝つ”は、どっちが強いですか?」
「“勝つ”です。僕が勝ちますよ。追い掛け回します、大輝くんのことを」
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■NHK杯、初日の結果は…?■NHK杯、初日の結果は…?
16日と18日の2日間で争うNHK杯。先月の全日本の得点を半分持ち越すため、2人の点差は0.3あり、橋本選手がリードしています。
第1種目の「床」。橋本選手は終盤の大きなミスで得点を伸ばせず、高得点を出した岡選手に逆転を許し、点差は1.366まで広がります。
それでも、橋本選手は岡選手より難しい技をそろえた第2種目の「あん馬」、そして第4種目の「跳馬」で点差を詰めていきます。
一方、岡選手は第3種目の「つり輪」や第5種目の「平行棒」で美しく正確な演技を披露。橋本選手を突き放します。
最終種目は「鉄棒」。岡選手は全日本で失敗した技を成功。最後の着地も決めて、全6種目で完璧に近い演技をそろえます。
続いて、橋本選手は得意の「鉄棒」で高難度の離れ技を次々と成功。最後の着地は小さく一歩後退するも、橋本選手はこの種目トップの得点14.666をマークしました。
NHK杯初日の結果は、岡選手が1位、橋本選手が2位。1.5点差で最終日に向かいます。
「どの種目も、良い完成度でできたという印象です」
「(Q.橋本選手と1.5点差)油断はできない。(橋本選手が)後半、立て直してきて強いと感じたので、しっかり自分に集中してやっていきたい」
■大越キャスター「まだ見たこともないような世界に」
「宣言通り、岡選手が一歩リードしています。個性の違う2人が高みで認め合いながらも、切磋琢磨していく。すごいレベルですよね」
「素晴らしいライバル関係。僕はテニスの強化をずっとやっていますが、(今の日本の体操の状況は)素晴らしい“強化システム”だと思いますよ。自分の競技のなか、しかも国内に世界一の選手がいるということは、すごいことなんですよ。2人いるんですよ。もっとすごいなと思うのは、(岡選手と橋本選手の)タイプが違うということです。岡選手のように、安定感があって美しい。橋本選手は、大事な時に強いという。違うタイプがいるからこそ、色んな選手がまた見ていける。うらやましいの一言ですね」
「橋本選手が『うれしいけど嫌ですね』って、ちょっと出てましたけど。これ宿命ですよね。次に出てくる選手たちも切磋琢磨していくと、お家芸の日本体操、さらにまだ見たこともないような世界に入っていくんじゃないか、そういう期待を持ちますよね」
「まさに橋本選手が言っていたんですけど、いわゆる『強い、うまいの両方を取った選手の次世代が出てきているんだ』と。つながっていっているということですね」
「楽しみですね」
(「報道ステーション」2025年5月16日放送分より)