鶏皮を油で揚げた1本55円の串が人気で急成長を続ける居酒屋チェーンがあります。物価高のなか、客単価を2000円ほどに抑えることができる秘密を取材しました。
■居酒屋業界苦しむなか快進撃
揚げているのは鶏皮。これに特製の甘辛なタレとスパイスを絡ませると、皮はパリッとしていますが、中はモチっとしていて、まさにパリモチ食感です。
物価高のなか、この看板メニューは1本55円。そして、この安すぎる串を求めて連日店内は満席です。
原材料費と光熱費の高騰で、去年の居酒屋の倒産件数は212件。コロナ禍の2020年を大幅に上回り、過去最悪になっています。
そんななか、店舗数200店に迫る快進撃を続けている名古屋発祥の居酒屋とは?
居酒屋業界は1980年代、「御三家」と呼ばれた養老乃瀧、つぼ八、村さ来の台頭で、大手が運営するチェーン店が一気に全国に拡大しました。
90年代に入ると、白木屋、和民、甘太郎を運営する会社が「新御三家」と呼ばれ、幅広いメニューを提供することで人気を博しました。
しかし、コロナ禍が業界を直撃すると、さらに物価高が追い打ちに…。今、注目されているのが客単価2000円ほど、「新御三家」よりも500円ほど安い業態です。
その筆頭格が居酒屋「新時代」です。居酒屋が過去最多の倒産件数になっているなかで、また新しい店舗がオープンしました。
開店前ですが、すでに行列ができています。
この日、横浜駅前に新店舗がオープン。去年だけでも全国に38店舗を開店しています。
「安くておいしいので、つい通いたくなっちゃう。学生のお財布にもやさしいかなと思います」
「気に入っていて、何回も来てるのですけど。『伝串』がおいしいので」
「『伝串』というのおいしい。人に勧めますよ」
「普段も50円なのですか?きょうだけじゃないの、このご時世に」
次のページは
■元サッカー選手が経営■元サッカー選手が経営
「新時代」を創業したのが佐野直史社長(49)。驚くのは異色の経歴です。
「もともとサッカー選手です。小2からサッカーを始めて、18歳で(三浦)カズさんのお父さんにブラジルに連れていってもらって。プロとして向こうでやっていたけど、けがして引退して」
25歳で引退してから家業の建築会社を手伝っていましたが、一念発起して未経験の飲食業に飛び込みます。
大手焼鳥チェーンに入り、4年かけて鶏の調理から経営までを学び西日本全店舗を統括する役職にまでなりました。
「退職する時に社長から『お前、来期は本部長だから』と言われて。350店舗のトップになることと1店舗のオーナーになることと『お前にとってどっちが大事なのだ』と言われて。『1店舗の社長になることです』と言って。『なんでだ』と言われて。『その1は1000になる1だからです』と言ったら、『じゃあ頑張ってこい』と言われて」
次のページは
■コロナ禍で逆張り■コロナ禍で逆張り
2010年、愛知県に「新時代」を立ち上げると6年後には都内に進出。新時代にとっては、コロナ禍が逆にチャンスになりました。
同業他社の多くが一等地から撤退するなか、空いた物件を次々と契約。急拡大しました。
「危機はないのですけど、大事にしていることは、ゴールに向かっているかどうかをいつも考えていますね。今、坂を上っていようが坂を下っていようが、それがゴールに向かっていれば、問題ないと思っているので」
店舗拡大を後押ししたのが…。
「一番は『伝串』ですかね。圧倒的な人気メニューですね。パリモチ食感で、タレは高麗人参(にんじん)が入っていて、スパイスは大豆、塩分ゼロ。何本でも食べられる」
看板メニューの「伝串」。油で揚げた鶏皮の串を甘辛く味付けした一品です。
タレが癖になる甘さとしょっぱさ。これが1本50円はまさに“伝説的”です。
開発に8年もかかったという看板メニュー。目を付けたのは鶏皮です。
当時、脂が多い鶏皮は人気がなく一部は焼鳥屋などで販売されていましたが、残りのほとんどは廃棄処分に。しかし、余分な脂さえ落としてしまえば、おいしく食べられることを発見しました。
次のページは
■なぜ安く提供できるのか?■なぜ安く提供できるのか?
価格は税込みで1本55円。なぜここまで安く提供できるのでしょうか?
「専用のラインを海外の工場に作って、『新時代』専用の串打ちをして輸入してくる。あとは少し手を加えるだけなので、誰でもできる」
タイと中国に「伝串」専用のラインを組み、加工した鶏皮を輸入。店内で揚げて味付けしています。
全国180店舗で一日に30万本も売れている「伝串」。これまでに2億6000万本も売り上げました。
次のページは
■客単価2000円の秘密■客単価2000円の秘密
店内調理にこだわりながらも、客単価は2000円ほどに抑えられている「新時代」。その理由が…。
「生産者から直接取引ですね。生産者がいて自社のセンターがあって店舗です。調理指示書通りの調理をすれば、ブレないようになってますね。計量器を使って1グラム単位、もっと言うなら、0.5グラム単位で調理しています。計量器の上で」
中間業者を挟まず、直接生産者と取引することでコストを削減。研修を受けたスタッフが分量や調理方法を詳細に記したマニュアルに沿って調理することで、味のブレもありません。さらに、コスト削減にはこんな工夫もあります。
「この素材は厨房(ちゅうぼう)内で何種類の料理になるのか。1つでいくつかの料理になれば、ストックのスペースが小さくて済む。あと賞味期限が長いといっても、やはり日が経つと味が落ちていくので、できるならその日に使いたい」
1つの食材で複数のメニューが効率よく提供できるよう工夫しています。メニューも社長自身が考えています。
「毎日、僕が本社にいる時はテストキッチンに入って、テストキッチンをガーッと動かしています」
社長、自ら商品開発する理由は…。
「僕が毎晩、居酒屋に行くということですかね。そうすると、飽きるのですよ。飽きたらすぐ修正加えるのですね。そうすると、お客様が飽きる前に次の一手が打てる」
実は佐野社長は毎日、全国各地の新時代に足を運び、サービスや味をチェックしているのです。
「(Q.写真撮ってましたけどこれは何?)気になったことを全店に共有するためです。この盛り付け、きれいだなと思って。ダメなことだけじゃなくて、良いこともなるべく全店に共有できるようにしたくて。そのための写真です」
改善点を早期に見つけ出し、品質や現場従業員の士気向上につなげています。
次のページは
■「新時代」今後の目標は?■「新時代」今後の目標は?
新時代の店舗には、佐野社長がブラジルでサッカー選手だった時代にノートに書きとめていた前向きな言葉があふれています。
「友達は財産」「夢を語ろう」「沈んで浮け」。今後の目標は…。
「僕たち常に心がけていることは、目標なのですけど、1000の街を元気にする。生産者から自社物流で店舗に納品されて、おいしいまま生活価格で提供される。今、物流センターが愛知県に1つと埼玉県に1つ。自社物流は店舗が増えれば増えるほど効率よくなるのです。コストが下がればお客様へお届けできる価格も下げることができる」
(「グッド!モーニング」2025年1月17日放送分より)