端正なルックスと“美乳”で注目を集め、グラビアモデルとして多くのグラビア、写真集、イメージビデオに出演し、トップクラスの人気を得た小松みゆき(当時の芸名は小松美幸)さん。知らぬ間に事務所移籍トラブルに巻き込まれ、AV業界に売り渡されそうになり1年間の逃亡生活を経て解決。1994年、移籍トラブルが解消された小松さんは、新たなスタートということで「小松美幸」から現在の「小松みゆき」に改名。大河ドラマ「元禄繚乱」(NHK)、「大奥」シリーズ(フジテレビ系)など多くの作品に出演することに。
■大河ドラマで力不足を痛感「どんどんセリフが減っていって…」
1997年、小松さんは映画「北京原人Who are you?」(佐藤純彌監督)に出演。この映画は、科学技術によって現代に甦った北京原人の親子と人間たちの心の触れ合いを描いたもの。小松さんは、北京原人ヤマト・ハナコ役を演じた。
「『北京原人〜』はオーディションから大変でした。メイクも本当に大変でしたし、今もときどき話題に上げられていますね」
――あまりにも違っていて全くわからなかったです。準備が大変だったでしょうね
「はい。私だけ生身のからだだったので大変でした。華奢すぎるということで10kgぐらい太ったんです。半年ぐらい準備期間があったので、それまで太ったことはなかったんですけど、初めて50kg行くか行かないかまで太ることができて。
ただ、やっぱりなかなかからだが膨らまないんですよ。最初は私もボディスーツを着るはずで、1回ちゃんと作っているんですけど、演出部からNGが出たようでボディスーツはなくなりました。
でも、子役とメインのみんなはボディスーツを着ているんですよね。『何で女原人だけ?』って思ったんですけど、おそらく、服を着ないし化粧もしないので性差別化を映像上でわかりやすくするためだったのではないかなと理解しています」
――メイクと準備にどのくらいかかっていたのですか
「顔に2時間半ぐらいかかって、からだは皮膚に直に毛を貼っていって汚すので1時間くらいだったかな。撮影後に落とすのにも2時間ぐらいかかるので、打ち上げまでスタッフさんの多くは私の素顔を知らず、『そんな顔をしていたんだね』って言われたことがありました(笑)。数カ月間も共にお仕事をしていたのに、現場ではほとんど誰とも会話してないなぁとは思っていました」
1999年には、君主・浅野内匠頭の刃傷事件を発端に大石内蔵助ら赤穂浪士の討ち入りまでの日々を描いた大河ドラマ「元禄繚乱」(NHK)に出演。堀部安兵衛(阿部寛)の妻・幸役を演じた。
「もう全然力足らずで…ものすごく後悔が大きい作品なんです。それまで私は、お仕事の現場で勉強している状態だったんですね。演技のレッスンに通ったりしたこともなかったので。それが突然、すごい皆さんの中に放り込まれて、初めて『自分は何てできないんだろう』ということに気がついて、ものすごく落ち込みました」
――大河ドラマはすごい顔ぶれですしね
「そうですね。あと、撮影方式も全然違うんです。1週間分のリハーサルを撮影の1週間前にやって、次週に本番を撮るという感じなんですね。NHKさん以外の多くの場合、リハーサルを終えたらすぐに本番になります
それがリハーサルから数日後から本番なので、 緊張が高まって余計に思うようにお芝居ができず、自分が歯がゆくて仕方ありませんでした。
多分それは現場でも監督さんたちに見抜かれていて、どんどん自分のセリフが減っていったのがわかりました。現場でいないシーンが多くなっていったので、自分もすごく悔しかったですし、あれは大きな転換になったところでもあります。やっぱり意識がかなり変わりました」
■16年にわたって「大奥」シリーズに出演「全国を回りました」
2003年、小松さんは「大奥」(フジテレビ系)に出演。大奥総取締の瀧山(浅野ゆう子)率いる大奥の御中ろう・藤浪役を演じた。
――「大奥は、シリーズ作品となって長く出演されることに
「女だらけというのもありましたし、長丁場だったので、だんだん空気感で自分の居場所がわかってくるという良さがありましたね」
――絢爛豪華な衣裳にメイク、かつら…準備も大変だったでしょうね
「そうですね。大変でした。かつらも和装も重いんですよね。私くらいの役どころですとそれらを身に付けたまま遠方のお城などに移動していたので、ちょっとした肉体労働でもありました。今は変わったそうですが、昔は京都の撮影所は厳しいと知られていて、はじめは撮影所に入ることだけでもとてもとても緊張しました。
所作も難しかったです。普通の着物姿とは違い打掛がありましたから。立ち、座り、歩き、全ての行動時に裾がめくれないように繊細な動作かつコツが必要です」
――姫(菅野美穂)の御付御中籠・藤波さま役、とても良く合っていましたね。
「ありがとうございます。 役が合っていたと言われるのはとてもうれしいですね」
――2003年に始まってシリーズになりました
「そうですね。スペシャルドラマもありました。ちょっと別の仕事をしていたのでスケジュールが合わず『華の乱』(2005年)という次のシリーズには出られなかったんですけど、そのあとのシリーズで戻ってこられたので、うれしかったです」
――「大奥」は舞台にもなりましたね
「はい。浅野ゆう子さんのバージョンで全国回って、そのあとの松下由樹さんのシリーズでは別の役で出させていただいて、また舞台で1年かけていろいろなところを回っていました。結構ハードなスケジュールでほかのことはほとんど何もできなかったですね」
2004年には映画「運命人間」(西山洋市監督)に出演。パチンコ店で見知らぬ男に告げられた通り大当たりを出したペット探偵・田宮(豊原功補)は、その日から自らを予知能力者と名乗るその男・毛利の予言に翻弄されることに…という内容。小松さんは毛利の妻役を演じた。夫の予言に従い、田宮に抱かれようとするが…という展開。
「あの作品は、ものすごく面白かったです。ああいうテイストで求められてくることはそれまでなかったので、探り探りでしたけど、こういうお芝居もまた面白いものだなって思いました。それまでは舞台などでは見たことがある世界観でしたけど、演じたことがなかったので。
舞台っぽいですよね。密室じゃないですけど、場面があまり転換しないですし、本当に楽しかったですね。何が正解かなって、自分でも未だにあの時の自分の芝居が正解だったのかどうかはわからないんですけど」
――切ない役も結構ありますね。「亡国のイージス」(阪本順治監督)の如月行(きさらぎ・こう)のお母さん役も切なかったですね
「切ないですよね、かわいそうな役でした。あの役はオーディションでした。出番は少ないのですが、かわいそうな結末とその背景を伝えるために幸が薄そうな雰囲気が必要だったのだと思います。私はよく幸薄そうと言われていたので合っていたのかもしれません」
■セクシーなシーンの撮影時、俳優はなかなか「ノー」とは言えない
2010年には「いつもより素敵な夜に」(児玉宜久監督)、2013年には「連結部分は電車が揺れる 妻の顔にもどれない」(内田春菊監督)など主演映画も多い。
「どちらも内田春菊さんが主導で『池袋シネマロサ』でやっている映画祭としての作品でした」
――『連結部分は〜』は、好き勝手なことしていた夫(田山涼成)が、妻(小松みゆき)がちょっと働きに出るようになって生き生きしてくるとやきもちを焼いて
「田山さんが最初横暴で怖い感じでしたよね(笑)。内田さんの本は昔から読んでいたので、ものすごくうれしかったです。登場する子どもたちが3人とも内田(春菊)さんの実のお子さんたちだったんですよ。
現場で少しお話ししましたが、ご姉弟みんな聡明なお子さんたちでした。私は内田さんの作品に時々登場していたお子さんたちを読んで知っていたので、なんだか以前から知っていたような不思議な感覚でいました」
――内田さんは原作・監督だけでなく、友人役で出演もされていますね
「そうですね、出てくださって。器が大きい人でした。世界観が大きいというか、私の知っている常識の範疇の外側で物事を見ている方で、新しい視点を見せてくださった感じです。ご病気されたのですごく心配でしたけど、お仕事を再開されたのを見てうれしかったです」
2022年に公開された映画「月下香」(淵澤由樹監督)では出演だけでなく、インティマシーコーディネーター(映画・ドラマなどのラブシーンで極めて性的なシーンを撮影する際、俳優が安心して撮影できるよう環境作りのサポートをする)も務めた。この作品は、誠実で優しい夫と平穏な結婚生活を送っていた亜美(清瀬汐希)が仕事で知り合った年下の画家の絵画モデルを引き受けたことがきっかけでお互いに惹かれ合うようになっていく様を描いたもの。
―インティマシーコーディネーターとしてもクレジットされていますね
「はい。インティマシーコーディネーターのことを知る前から、私はそういうセクシーなシーンの撮影時に困っていたので、誰か間に入る人がいないのかなとは思っていたんです。
それが今の時代になって、『求めていたのはこの立場の人かな?』っていうのがその肩書きの人なんですよね。それで、たまたま『月下香』を撮影する時に、インティマシーコーディネーターは入れるべきなんじゃないかという話があって
私もちょっとだけ出演するので、『それならそこは私に任せてもらえませんか』とお話して任せていただくことになったんです」
――セクシーなシーンはご自身も経験があるので、よくわかるでしょうね。最近も映画で揉めたことが大きく報じられましたね
「あれは多分、今の世の中の流れを知らなかっただけだと思います。撮影が行われたのは数年前のようでしたし、間に人が入ったことによって意思疎通というか隔たりができるのはいやだという気持ちもわかるんですけどね。
でも、これからは女優さんの方から『インティマシーコーディネーターを入れてください』とお願いしたのに監督が却下というのはもうないと思います」
――よく耳にするようになったのは、2、3年ぐらい前からですね。#MeToo運動の流れで
「そうですね。パワハラ、セクハラの問題もあって、♯MeToo運動と重なって。例えば肌を露出しているシーンがあって、居て欲しくない方向に人が立っていたり意図が分からない方向からカメラで撮影されていても、聞きたいことがあったり言いたいことがあっても言えないんですよね。
イヤだと言うと、『役者としてどうなんだ?』って言われるかもしれないという不安が演者側にもあって、言えずにいたことが今やっと言えるようになってきたんだろうなと思うんですけど、まだ多分正解はわからないなと思っています。実際にインティマシーコーディネーターをやってみても」
――「月下香」の舞台挨拶で清瀬さんが「小松さんがインティマシーコーディネーターとしていてくれてとても心強かった」とおっしゃっていましたね
「不安だったと思いますよ。だって初めて肌を見せるわけですから。私が失敗したように、若い頃に知識がなくそういう現場に追い込まれたら、言われたことが全部正しいと思ってしまいますよね。
間に入るのが演者のマネジャーと思われがちですが、マネジャーはあくまで役者側の立場の人です。演出側の本意を役者へは伝えにくいこともあると思います。本当に中間の立場になって双方が作品を良くするための折衷案を導き出すお手伝いが出来ればという思いでインティマシーコーディネーターを務めています。
日本でも新しく資格が作られたりして広まりを感じています。基本的に資格がなくても出来る仕事ではありますが、今後必須となれば資格を取りたいと思っています」
自身も経験があるからこその的確なアドバイスはこれからの時代、ますます必要になりそう。次回は7年間の不妊治療、49歳での出産&子育て、10月11日(金)に公開される映画「ル・ジャルダンへようこそ」も紹介。(津島令子)