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2024年10月18日 13:14

山口馬木也【2】初主演映画「侍タイムスリッパー」で話題沸騰「役者に憧れて…」

2024年10月18日 13:14

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8月に東京の1館だけで公開された自主映画ながら口コミとSNSで瞬く間に広がり、現在全国230館で拡大公開している映画「侍タイムスリッパー」(安田淳一監督)で主人公の侍・高坂新左衛門役を演じ、話題を集めている山口馬木也さん。池波正太郎原作の時代劇ドラマ「剣客商売」シリーズ(フジテレビ系)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK)など多くの時代劇に出演。立ち回りの上手さにも定評がある。

■セリフを覚えるのに必死だった昼帯ドラマ

2006年、昼帯ドラマ「紅の紋章」(東海テレビ)に出演。このドラマは、終戦直後の日本で自らの信じる道をひたむきに生きようとした一人の女性の生き様を描いたもの。

昼は青空教室の教師、夜は女郎という二つの顔を持つ正義感の強い女性・三枝純子(酒井美紀)と青年医師・堂本道也(山口馬木也)は運命的に出会い、恋に落ちるが二人の前にさまざまな問題がたちはだかる…。

――ヒロインの純子が異母兄妹だと思い彼女の前から姿を消して数年後に再会。実は兄妹ではなかったとわかりますが、道也には婚約者(満島ひかり)がいて、彼女の父親(小木茂光)は純子に結婚を申し込んでいる…というドロドロな展開

「そうですね、それもやっていましたね。全61話だったので、スケジュールが結構大変でした。月曜日から水曜日までが撮影で、木金土でリハーサルという感じで。だから、ずっとセリフを覚えていた印象しかないです」

――昼帯ドラマらしい怒涛の展開でしたね

「本当にそうですよね。婚約者役の満島ひかりさんがまだ少女でしたからね。顔はあのままタイムスリップしてきたかなぐらいお変わりにならないけど、当時はまだ10代じゃなかったかな。実は、その(ドラマの)前に満島さんにお会いしたことがあるんですよ。

満島さんがまだ子どもだった時に『Folder5(フォルダーファイブ)』(5人組女性ダンス&ボーカルグループ)だったでしょう?その時に僕は、『Folder5』のバッグで一度ドラムを叩いたことがあるんです。

それと、NHKのドラマで荻野目洋子さんの当て振り(ボーカル以外の演奏部分を録音済み音源として流し、それに合わせて楽器を演奏するフリをすること)のドラマーとして行った時にエレベーターで『Folder5』の子と一緒になって。『お兄ちゃん、ドラム叩くの?』って聞かれたから『そうだよ、これスティックっていうやつだよ』って言った時に満島さんもいたんですよ。だから2回会っているんです」

――「紅の紋章」で会った時にそのお話はされたのですか

「その話はしませんでした。満島さんがまだ小さい頃だったので、覚えていないと思います。その時は僕もまだ役者をやってなかったんじゃなかったかな。遊びで音楽をやっていたので招集がかかって、バックで叩いてくれないかという話があってやったくらいでしたから」

――結構いろいろなことをされていたのですね

「そうですね。音楽もやっていたし、絵も描いていました。だから、役者というこの職業だけが全くもって何もできなかったというのが、ハマるきっかけだったんだろうなと思います」

――昼帯は、2013年に「モメる門には福きたる」(東海テレビ)にも出演されていますね。初回にヒロイン(白石美帆)と酔った勢いで一夜を共にして、いきなり裸で出て来て驚きました

「そうでしたね。白石美帆さんがヒロインで。あれも全60話でセリフに追われる日々で大変でした。まだ若かったし、テレビが何なのか、舞台が何なのかみたいなことを考える全然前の話で、自分はあの時何を考えてやっていたのかということが今じゃ全然記憶になくて…。

今でもまだ全然ですけど、走り始めたきっかけが、全く自分ができないから役者さんになりたいっていうのがベースにあって、それは今でもずっと続いているんですよ。だから一応『役者です』とは言いますけど、自分の中では役者になりたくて役者をやっているという感じがまだずっとあって。

これだけのことをやってきたから次はちょっと楽になるだろうと思って現場に行くんですけど、新しい本を持ってみたら、また0(ゼロ)からになっちゃって…その繰り返しという感じですね」

■「できない、できない」と苦しみ続けて

2013年、「救命病棟24時(第5シリーズ)」(フジテレビ系)に出演。主人公・小島楓(松嶋菜々子)の兄で10歳になる息子・夕が水の事故で脳死状態になり臓器提供の決断を迫られる小島立役を演じた。

「あれはしんどかったです。撮影期間中ずっとしんどかった覚えがあります。そんな高尚な俳優じゃないと思っていたんですけど、やっぱりダメージがでかかったですね」

――お父さんと遊びに行って水難事故に遭うのですが、その前に元気な姿を見ているだけにつらかったです

「そう、結構つらかったですね。だからその役としてとかじゃなくて、個人としてもつら

くてわからなくなるんですよね、感情が。だけど、しんどかったなっていう思いは残っています」

――いろいろな役を演じられていて、例えば同じ刑事役にしても、「ストロベリーナイト・サーガ」の今泉係長(警部)と、「歪んだ波紋」の刑事なども全く違う人に見えます。演技の幅が広い俳優さんだなと

「ありがとうございます。でも、そんなじゃないです。僕は自分でそんな風には思えなくて、でも思わなきゃいけないという葛藤はすごくあるんです。自分が『お前どこまでできるつもりだよ?』という裏返しなので、それは。自分だったらこれぐらいできるとかじゃなくて、毎回『できない、できない』って苦しんでいるので。

だから、『演技が良かった』とか言われても、『演技?いや、わからん』みたいなところはあります。でも、積み上げてきたものとか、人に教えてもらったことへの感謝はあるので、それはもちろんできる部分もあったとは思うんですけど、本質的には多分まだずっと役者に憧れている節があります」

――ものすごく謙虚ですね

「謙虚なのかどうかわからないですけど、自分の中ではそれがどうしてもありますね。根っこがないというところなんですかね。『文学座』さんとか劇団出身の俳優さんは、演技の勉強をしてから現場に行くじゃないですか。その過程を僕は通ってきてないので」

――でも、「剣客商売」をはじめ、多くの現場でいろいろご経験されてきていらっしゃるじゃないですか

「そうなんですけど、それが料理人で言うと、修行しないでお客さんにお料理を出しちゃっているわけじゃないですか。でも、僕は多分職人肌なんですよ。うちは代々そうだったし。だから、包丁を使えないやつがいきなり自分の好きなお店を開いて料理を出すということをしちゃっているんですよ、多分ね。

料理の最初は包丁を磨くところから始めて、それで不安や疑問や何かが消えて、そこが自信になってお客様に安心したものを提供できるというタイプなんだと思うんですよ。だけど、そのベースとなる包丁磨きを習ってないんですよね。

だからこれいろんな人にも話すんですけど、僕が基礎から学んだというのは立ち回りだったんですよ。唯一人から教えてもらって、自分で一生懸命練習してからだに覚えさせていくという行為をしたのがそれだったから、すごく時代劇には感謝しています。

演技に関しては、未だにそのベースがないという思いはありますし、過去は変えられないので、『多分一生このままでもしょうがないやん』と思っているんですけど」

――でも、実際に幅広い役柄を演じてらして全部身についている感じがしますけど

「そんなことはないです。多分ほとんどの役者さんは似たような思いを抱えながらやっている気がします。俳優さんの中には天才と言われている人もいらっしゃるんですよ。そういう方というのは、やっぱり若い時からもう開花されているんですよ。

でも、多分そういう天才は本当にごくごく少数で、他の方は僕と似たようなことを思っているんじゃないかなって思うんですけどね。十人十色でしょうけど」

■尊敬する松本幸四郎さんとの共演「やばい、やばい」

今年1月に放送された「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」(時代劇専門チャンネル)で山口さんは、長谷川平蔵(松本幸四郎)の若かりし頃の道場仲間で親友の岸井左馬之助役を演じた。

かつて平蔵と岸井が憧れた娘・おふさ(原沙知絵)が嫁ぎ先を離縁され、悪御家人の御新造になっていることを知る。そしてその御家人の身辺を探ると二人の青春時代の恩師(松平健)に繋がる因縁と悪事が明らかになっていく…。

――剣の腕が確かで若い時から一途にひとりの女性のことを想い続けている左馬之助役、合っていましたね

「いい役ですよね。僕は(松本)幸四郎さんが本当に尊敬する役者さんだったので共演はとてもうれしかったです。最初はかなり緊張しましたけどね。『やばい、やばい。親友という設定なのに緊張してどうするんだ』って(笑)」

――幸四郎さんとはわりとすぐに打ち解けられたのですか

「すぐではなかったですね。でも、幸四郎さんってすごく変わった空気を持っていて。何かちょっといたずらをしたりとか…そういうので幸四郎さんが徐々に現場の空気を作っていってくださったので、それに便乗させてもらったという感じです」

――山口さんは平蔵と対照的に真面目な雰囲気で役柄のイメージと合っていました。おふさの取り調べの場に思わず飛び出して行ってしまう

「あそこのシーンまで、僕は原(沙知絵)さんとお会いしてなかったんですよ。だから、そういう想いというのは、なかなか現代において持ちづらくないですか。一人の女性をずっと想い続けてって…。

だから正直、最後のシーンはどうなるか自分でもわからなかったんですよ。(演技)プランも別に何も立てていってないですし。でも、実際にその場にいて、原さんがセリフを言うのを聞いて、『ああ、もう何も考えなくてもいいや。こういうことだったのかな』っていうことに後で気づいた感じですかね」

――ご自身の出演作品は、なかなか見られないとおっしゃっていましたが、この作品は?

「試写会で見ました。最近は徐々に自分が出ている作品を見られるようになってきましたよ。昔は見られなかったけど、最近は何とかね。

いい作品だなと思いました。やっぱり撮り方も丁寧ですよね。池波(正太郎)先生の作品はユーモアがあるじゃないですか。それが現代においても普遍的に刺さってくるものがいっぱいある気がして、通じるものがあると思うんですよ、池波先生の作品というのは。

だから非常に見やすくて、時代劇であるというものを残しつつもマッチしてくるというのはすごく面白いなって思います。作品が愛され続けているというのがわかりますよね。

『剣客商売』の第1シリーズの第1話で衝撃的だったんですけど、おはるさん(小林綾子)と小兵衛(藤田まこと)が結婚するってなった最初の夜に、(おはるの)お母さんがタンスの取っ手に布を巻くんですよ。

あれは、夜中に初夜を迎えた時、タンスの取っ手がカタカタなったら殿方が冷めるって言うんですよ。こういうところってすごいなって思って。何かそこにいろんなことを感じるというか、日本人としてなのかもしれないですけど、そういうのがすごく好きなんですよ。

それで、あの時に確かとろろ芋か何かを食べさせたんですよ。精をつけて頑張ってもらわなきゃということで。でも、そういうことが下品ではなく、すごく品格を保ちつつもユーモアがあるというか、そういうものを大事にしているというのがいいなと思いますね」

確かな演技力と刀の重さを感じさせる殺陣の上手さで唯一無二の存在感を放っている山口さん。次回は現在全国230館で公開中の映画「侍タイムスリッパー」の撮影エピソード、10月27日(日)まで新橋演舞場で出演している舞台「劇走江戸鴉〜チャリンコ傾奇組〜」(脚本・演出:横内謙介)も紹介。(津島令子)