海外を拠点に世界のトップモデルとして活躍し、ハリウッド映画「ウルヴァリン:SAMURAI」(ジェームズ・マンゴールド監督)のヒロイン役に抜擢され、国内外のドラマ、映画に出演してきた岡本多緒(TAO)さん。2023年、日本に拠点を移し、「岡本多緒」として活動をスタート。「ラストマンー全盲の捜査官−」(TBS系)、映画「沈黙の艦隊」(吉野耕平監督)などに出演。初めて監督した短編映画「サン・アンド・ムーン」が12月13日(金)から「MIRRORLIAR FILMS Season6」の一篇としてヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定公開される。(※この記事は全3回の後編。前編・中編は記事下のリンクからご覧いただけます)
■ジョン・ウー監督はジェントルマン
2018年、映画「マンハント」(ジョン・ウー監督)に出演。これは高倉健さん主演で1976年に公開された映画「君よ憤怒の河を渉れ」(佐藤純彌監督)を再映画化したもの。
罠にはめられ、殺人被疑者として追われる身となった天神製薬の顧問弁護士・ドゥ・チウ(チャン・ハンユー)。独自の捜査でドゥ・チウを追う敏腕刑事・矢村(福山雅治)は事件に違和感を抱くように…という展開。多緒さんは、ドゥ・チウを誘惑し、その夜に殺害される天神製薬社長秘書・田中希子役を演じた。
――登場のシーンがCMのようでとてもきれいでした
「ありがとうございます。ジョン・ウー監督とご一緒できるということで、すごく楽しみでした。本当にジェントルマンなんです。毎回撮影が終わると『今日もありがとう』と言いに来てくださって、握手まで。
世界の第一線で活躍されている人は違うんだなあと思いました。こうしてお話していると、私は本当にすてきな監督さんたちとのご縁に恵まれているんだなと実感します」
2023年、「ラストマンー全盲の捜査官−」(TBS系)でも福山雅治さんと共演。このドラマは、全盲のFBI特別捜査官(福山雅治)と警視庁の刑事(大泉洋)がバディを組むことに。41年前に起きた強盗殺人事件の被害者の息子と容疑者の息子でもあった二人だが、事件の衝撃の真相が明らかになっていく…という内容。
多緒さんは、第7話のゲスト。資産家の老人が遺体で発見され、犯人ではないかと疑われる40歳の年齢差がある美しい後妻・葛西亜理紗役。以前も年の離れた男性と結婚し、その男性も失踪中で後妻業と思われても仕方がない状況。警察だけでなく世間の疑いの目も彼女に向けられていく。
――「マンハント」では福山さんと同じシーンはなかったですね
「そうなんです。ただ、帰国後、初めてのドラマ出演が『ラストマン〜』で。そこでしっかりと共演させていただき、またしてもうれしいご縁を感じました」
――「ラストマン〜」ではしたたかな後妻業の女性かと思ったら、実はものすごく純粋に愛に生きる女性で…新鮮でした
「あの役は、最初に見せる印象と真の姿にギャップがあるという設定で、演じていてすごく楽しかったです。ああいう人間くさいキャラクターというのはあまり経験がなかったので、新しいチャレンジをさせてもらえました」
2023年に公開された映画「沈黙の艦隊」(吉野耕平監督)では内閣官房秘書官・舟尾亮子役を演じた。日米が極秘裏に建造した日本初の高性能原子力潜水艦「シーバット」に海上自衛隊の隊員を乗船させるための偽装工作だった、海上自衛隊の潜水艦とアメリカの原子力潜水艦の衝突沈没事故。しかし艦長の海江田四郎(大沢たかお)はシーバットに核ミサイルを積み、アメリカの指揮下を離れて深海へと消えてしまう…。
主演の大沢たかおさんがプロデュースも手がけ話題を集めたこの映画の続編が、今年Amazonプライムで「沈黙の艦隊 シーズン1〜東京湾大海戦〜」(全8話)として配信された。
「英語が堪能な秘書官という役柄だったので、皆さんの期待に応えられるように頑張りました。キャストも多かった分、たくさんの素晴らしい先輩俳優さんとご一緒できたのもうれしい経験でした」
「沈黙の艦隊 シーズン1〜東京湾大海戦〜」は、Prime Videoで配信された実写作品の国内視聴者数で歴代1位を記録。シーズン2に期待するファンも多い。
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■約10年ぶりに拠点をアメリカから日本に■約10年ぶりに拠点をアメリカから日本に
ハリウッド映画「ウルヴァリン:SAMURAI」や「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生」(ザック・スナイダー監督)、「ハンニバル」などアメリカのドラマにも出演し、海外を拠点に国内外でさまざまな仕事を展開してきた多緒さんだが、2023年、拠点を日本に移し、「岡本多緒」として活動をスタートする。
「10年ぐらいハリウッドをベースにして俳優活動をしていたんですが、パンデミックもあっていろんなことを回顧することになりました。自分がアメリカでやっていく意味みたいなことをちょっと考え直すきっかけが結構あって。
特に、コロナの時にアメリカでアジア人に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が横行していて。そういった感情や行動に繋がってしまうアジア人へのイメージはどこから来ているんだろうかと考えてみると、映画やドラマなどがすごく大きな責任を持っていると思うようになったんです。
今まで自分が演じてきた日本人女性だったりアジア人女性の役というのが、おとなしかったり従順なキャラクター設定であることも多かったですし、これは私たち自身にも置き換えられることですが、実生活で自分とは違う人種の人や他国籍の人が身近にいない場合、メディアや映画の中での描写って、その人たちのイメージに直結してしまうことってあると思うんですよね。特に同じ性質の描写を繰り返し見る事で、無意識的に自分の知識として処理してしまったり。
これはまた別の話なんですが、インターネットの検索エンジンで、『アジア』と入れてみると、子どもがポルノなどにアクセスできないように設定されているNGワードに『アジアン』というワードが入っていたんですね。
『アジア=いやらしい』とか『アジア人女性=従順で扱いやすい』というイメージがすでにそこまで染み付いているという事実にその時すごくショックを受けたんです。
それで、今後ハリウッドで多くの人々が思い描くアジア人女性みたいな役を演じ続けることで、そのステレオタイプを助長してしまうことになるんではないかと思い悩んでしまって。
私はそんなことは絶対にしたくはない。俳優として演じ続けることは目標だけど、自分のやりたいことや夢が、誰かが傷つけられたり殺されたりするような未来に繋がるんだとしたら、もうやりたくないなと。それで、アメリカから1回引き上げようと思ったんです。母国語でお芝居ができるようにもなりたいし、そういった経緯もありながら帰国しました」
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■自身の宣材として映画を撮ることに■自身の宣材として映画を撮ることに
(C)2024 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
※「MIRRORLIAR FILMS Season6」全5作品の1篇「サン・アンド・ムーン」
2023年、短編映画「サン・アンド・ムーン」で企画、監督、脚本に初挑戦。最初は、自身が日本語で演じる俳優としての宣材を用意するためだけに制作されたというが、第36回 東京国際映画祭 Amazon Prime Video テイクワン賞 ファイナリストに選出された。
「本格的に日本で俳優活動をするにあたって、そういえば日本語でお芝居をしている素材があまりないな…ということに気づいて。
最初はあくまで、その宣材として自分で映画を撮ってみようと思ったんです。それがたまたまこういう風に評価いただけて、本当にありがたいなという感じです。
でも、自分で脚本を書いて、演じて、監督…と言っても映画学校を出ているわけでもないので、テクニカルな事とか知識も全然なくて。とりあえず自分の書いた本を面白く見せられたら、良い芝居の演出をつけられたら、という思いで始めたのですが、準備の段階、撮影中、編集作業まで全てを含めて本当に楽しくて、『この領域をもうちょっと試してみたい!』と思ったんです。
もともと趣味でいろいろ書いたりはしていたんですね。コラムをやってみたり、誰に見せるでもないストーリーを書いてみたりしていて、いつかタイミングがあれば何らかの形にしたいな〜と思っていたんですが、自分で撮るというのもありなんだなって気づいて。
そして完成した時に、いろいろと手伝ってくれていた助監督の子に、『いい作品ができたから映画祭に送ってみれば?』と言ってもらったんです。そんなことは全然考えてもいなかったのですが、『だったら、せっかくだし出してみようかな』みたいな感じで映画祭などにエントリーをはじめて。
今回の『MIRRORLIAR FILMS PROJECT』も、その際にこういった企画があることを知り、一般応募をしてみたら、ありがたいことにSeason6に選出していただきました。
短編映画が映画館で上映されること自体がすごく貴重だと思いますし、個性豊かな方々の作品と一緒にオムニバスで上映していただけることもすごく光栄です。公開がとても楽しみですし、なにより母がすごく喜んでいます」
初監督に挑戦した短編映画「サン・アンド・ムーン」は、父親の葬儀に突然現れた異母兄(曽我潤心)と30年ぶりに顔を合わせた妹(岡本多緒)が、父が火葬されている間、レストランで共に過ごすぎこちない時間を描いたもの。妹の言葉の端々に父の再婚後の幸せそうな生活を感じ、男は恨み節を並べていき険悪なムードになっていく…。
――レストラン運ばれてきた飲み物が(注文と)違っていた時、そのことは言うけれどそのままでいいという。ただ我が強い人ではなく柔軟性もある人だということがわかりますね。それだけにその後の気まずい雰囲気に彼女の戸惑い、ショックがよく表れていると思いました
「ありがとうございます。それは初めていただく感想です。うれしいです。ウエイトレス(後藤萌咲)がアイスとホットの注文を間違えて持ってきてしまうというのは、実は二人の会話を何回も何回も邪魔してほしいという狙いだったんです。
俳優として妹視点で考えると、二人はすでに気まずいから、『もう飲み物なんて何でもいいから、この状況を早く終わらせたい』っていう心情の表れでもあると思いますが、我が強いというだけでなく、滲み出る彼女の人間性も感じ取ってもらえたらうれしいです」
――険悪な空気の中、お互いが知らなかった父親の顔を知ることになっていきますね。お互いの立場がなんとなくわかるけど、でもすんなりとは受け入れられない
「そうですね。その心の迷いなどを考えてカットを選んでいたんですが、そういう編集作業も楽しくてしょうがなくて(笑)」
――初めての監督作品と思えないほど完成度が高い作品ですね
「ありがとうございます。うれしいです。こうして評価をしていただけたことで監督としての自信も湧いてきたのですが、自分で書いた作品を映画化するにはまだ力不足なところもあって…。
1作目はすごくシンプルなシチュエーションでしたし、2作目はもうちょっと実験的なことをしましたが、これから映画制作のパートナーとして一緒に成長できるような撮影監督など、そういう人と出会えたらいいなと思っています」
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■監督業にも意欲満々、すでに3作目も撮影■監督業にも意欲満々、すでに3作目も撮影
監督第3作「My Sweet Pala」を撮り終えたばかり。監督第2作目「EXHIBIT」(エグゼビット=展示)は「ゆうばり国際ファンタスティック映画際」ほかに出品。冷たいコンクリートの部屋に入れられている一人の女性が出産、母親になるが子どもと過ごす喜びもつかの間、奇妙な生き物が突然現れ、子どもを連れ去ってしまう。生命の基本的権利についての問いを突き付ける。
「動物園に水族館、それに付随するペットショップなどのビジネスや、身につけるものも、食べるものも…いかに人間が動物から搾取をしているのか。私自身、ビーガンというライフスタイルを取り入れるようになって、それをできるだけ排除して生きてみようとしています。そういったことから、『命の展示』に着想を得て制作した作品です。
ビーガンになる前から、もともとペットショップには反対だったんです。可愛がっている子どもを親から離して売っているわけじゃないですか。
だから、うちでは保護猫2匹をもらって一緒に暮らしていて、この子たちはそういうことのないように育てていけると安心していたんです。ただ、2匹目の猫はシェルターで生まれた親子の1匹をもらっているので、結局同じことをしてしまったのかもと後から気づいて。
記憶はないかもしれないけど、やっぱりお母さん猫にしたらお腹を痛めて産んだ仔猫が急にさらわれてしまったことになるので、私の例もふくめ、人間のエゴだなって。
特に売られている子にはそう思ってしまいますよね。どういう形態であれ、罪の意識を感じるべきだなと。この作品を見て、そういった搾取に対して少しでも疑問をもってもらえたらうれしいです」
――私生活では、10年前にチベットにルーツをお持ちの方とご結婚されて
「はい。チベット系スイス人です。出会った時は、ニューヨークで『The Last Magazine(ザ・ラスト・マガジン)』というカルチャーファッション誌を作っていたんですが、チベットの文化を政治的な角度じゃなく世界に伝えたいということで、民族的なパターンなどを取り入れたモダンなアウターウェアブランド「ABODE OF SNOW(アボード・オブ・スノウ)」のクリエイティブディレクターをやっています。
私がビーガンになった時、環境問題についても気になりはじめていて。ちょうどその頃、そういった新しいブランドを立ち上げたいという話になったんですね。
これだけ物が溢れている世界で作るんだったら、環境・動物への負荷がないものということで、使う素材にもこだわるなど、ちょっと口を出しながら一緒にやっています」
――海外に比べると日本ではまだ有名人が環境問題や政治に関して声をあげにくいようなところがあるのでは?
「でも、だいぶ変わってきたんじゃないかなと思います。アメリカにいた時は、自分の意見がなかったり、政治の話ができない人は、大人としてかっこよくないと思われるような環境だったので、それができる人でありたいという理想があって。
自分の職業的な忖度みたいなのをあまり考えられてないというか、言いたいことを言っちゃうんですけど。日本でも、だんだんそういうのもいいんじゃないのかな…という風潮になってきている気がします」
――モデル、俳優、監督と幅広く活動されていらっしゃいますが、ご自身の中で今後のバランスはどのように?
「できる限り全部全力でやりたいです。モデル業も変わらず好きなんですが、映画が特別好きな理由は、短時間で終わってしまう個人プレーではなく、長い間チームと一緒に汗水流しながら作り上げる、例えるなら部活のような喜びがあるからだと思っているんです。いい歳していまだに青春っぽいことが好きなんですね(笑)」
監督第3作「My Sweet Pala」は、チベット移民の父親と彼の若い娘が日常的な些細な偏見や差別、誤解が深刻な結果を招く可能性を描いたもので、現在編集中だという。完成が待ち遠しい。(津島令子)
スタイリスト:Eriko Iida(CORAZON)
衣装協力:ピアス、ネックレス、リング/CASUCA(カスカ)