15歳で「三井のリハウス」のリハウスガールに抜擢され、翌年には「魔法遣いに大切なこと」(中原俊監督)で映画初出演にして初主演を果たした山下リオさん。中学高校時代は仕事の度に徳島県から上京していたが、高校卒業後に上京し本格的に活動をスタート。俳優デビュー早々シリアスな難役が続いたが、「武士道シックスティーン」(古厩智之監督)、「書道ガールズ!!わたしたちの甲子園」(猪股隆一監督)など青春映画への出演が続く。2013年には連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK)に出演。バラエティ番組初レギュラーとなった「A−Studio」(TBS系)では笑福亭鶴瓶さんのアシスタントをつとめるなど幅広い分野で活躍することに。(※この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧いただけます)
■撮影現場で「これが青春だ!」
2010年、映画「武士道シックスティーン」に出演。これは、幼い頃から厳しい剣道の修行を積んできた香織(成海璃子)が、ある大会で一度だけ負けた無名の選手・早苗(北乃きい)と再勝負するために同じ高校に入学。しかし、香織の予想に反して早苗は勝負に全くこだわらないお気楽な女子高校生で…という展開。山下さんは二人と同じ剣道部に所属する久野こずえ役を演じた。
そして同年、映画「書道ガールズ!!わたしたちの甲子園」にも出演。これは町おこしのために「書道パフォーマンス甲子園」の開催に向け立ち上がった高校書道部の部長の里子(成海璃子)と部員たちの姿を描いた作品。山下さんは、母親が病気で入院し、生活を支えるためにアルバイトに追われ、退学を考えている書道部員・岡崎美央役。
学校に居場所がなかった山下さんにとって、青春を体感できた2作品だったという。
「不登校だったこともあり、あまり団体行動をしてこなかったわけですから、作品のために稽古をしている時間は、学生生活を取り戻したようで楽しかったです。
同世代、同じ俳優、映画を通して目指す目標も同じだったからか、すごく居心地が良かったです。それぞれ個性的な俳優の皆さんと出会うことで、私もありのままでいられるようになったし、学校で経験するはずだった青春というものを感じられたのはありがたかったですね。
書道や剣道など、何か一つのことを数カ月にわたり、仲間たちと集中してやり遂げたのは部活のようでもあり、大切な経験になりました。
ちょうどその頃、視野が広がってきた気もします。学校も家族も、人間の数だけ色んなカタチがあるんだなって。どちらを正義にするかで見え方も変わるというか。
私のいじめられた経験も、暴力を受けていたわけではないし、何か決定的な証拠があるわけではない。本当にいじめられていたのかって言われたら、即答できない。もしかしたら、自分が友だちを拒絶していただけかもしれない、とか。
でも、『それって誰が測るんだ?』って。それは自分自身でしかないんですけど。誰か別の視点から見たら、『全然いじめじゃない。可愛がられていたじゃん』って思われていた可能性もありますし…。
これは社会に出ても同じだとは思うんですけど、特に多感な時期の学校での社会性というのは、本当に難しいですよね
それでも、当時感じていた私の悲しい気持ちや苦しい気持ちがあったのは事実です。それも一つのカタチとして、私はあったことだと思うし、正直不登校もアリだと思う。
過去のトラウマともいうべき思い出とどう向き合って、どう受け入れて、どう解放させるのか、大人になった今でも、当時根を張った暗い感情と闘う瞬間はありますけど、あの頃から少しずつ、近過ぎた視点を一歩一歩距離を取って、背景を見てみたり、視点をずらしたり、俯瞰で見るようになったのかもしれません」
――長い人生からするとほんの一時期なのですが、その時の子どもにとってはすべてに思えますからね
「そうですね。学校、家庭、それぞれが小さな箱の中にいるように感じて、『ここでうまくいかなかったらどうしよう?』って、深刻化してしまう。当時の自分にとっても本当に大きな問題でした。
個性がある心、体、大きな夢を持つことなど偏見を持たれかねない。その箱で潰されかねないというのは、今思えば恐ろしいことですよね。
『出る杭(くい)は打たれる』っていいますけど、それでも飛び抜けた杭は、誰にも打てないんですよ。子どもの時は出来なかったかもしれないけど、今の自分の杭が抜けているかどうかが重要だと思っています」
――青春映画が2本続いて役柄の幅が広がったような感覚はご自身でもあったのでは?
「そうですね。自分の中にすごくいろんな人格があると言ったら大袈裟ですけど、それは感じます。皆さんもそうだと思いますけど、母と話している時の自分、父と話している時、友だちや恋人、いろんな顔があると思うんです。
私はもしかしたら人より多いのかもしれない。八方美人というよりは、この人といると、こんな自分が出てくるとか、こんな感情が湧き上がるとか、感情の振り幅が大き過ぎたせいかもしれませんが。自分も知らない自分に驚くことが多かったりして。
それにお芝居の人格も混じってくるので、どれが本当の自分なのか分からなくなった時期もありましたが、俳優の仕事には役に立っているので、今はその全てが自分だという考えに至っています」
――二つとも全然役どころは違っていて。どっちかというと、『武士道〜』の方は割と普通に友だちの中に溶け込んでいますが、『書道ガールズ〜』の方は、複雑な心情表現が要求される役どころでしたね。書道も畳の大きさくらいの和紙に裸足で乗って、大きな筆を抱えて書いていく
「私は結構器用貧乏なんですよ。何か突出したものは無いけど、広く浅くふわっと何でもできるタイプ(笑)。大きな筆での書道も意外と最初からスムーズにできましたが、自分では満足できず、毎日何時間も練習しました。
でも、それも楽しくて、あっという間に時間が過ぎていきました。一つのことに集中して取り組むのは好きです。ちゃんと努力すると技術は伸びるということを改めて経験できた、すばらしい体験でした」
2023年に「プレバト!!」(TBS系)の“手形足形アート”で才能アリ1位に輝き、“スプレーアート”と“大漁旗アート”も1位を獲得するなど、さまざまな分野で才能を発揮している。
2010年は映画「ねこタクシー」(亀井亨監督)も公開された。教師からタクシー運転手に転身したものの、社内一売上成績が悪い40歳の間瀬垣勤(カンニング竹山)。の前に一匹の野良猫“御子神(みこがみ)さん”が現れ、助手席に乗せた「ネコタクシー」を思いつく…という展開。
山下さんは、間瀬垣の一人娘・瑠璃役。高校受験を控えた中学3年生で父親のことを嫌ってろくに口もきかなかったのが、御子神さんが家に来たことによって変わっていく。
「私自身、動物が常に近くにいる環境で育ったので、御子神さんが来たことで人間関係がスムーズになるというのはすごく分かります。
私は動物が大好きで、実家にいた頃は、捨て犬を見つけると私が拾ってきて、よく両親を困らせました。それでも、インコにウサギ。スズメや鳩、カラスを一時保護したり、色んな動物を飼わせてもらいましたが、今まで猫には縁がなかったんです。
だから、正直最初はどう接していいかわからなかったんですが、御子神さんはすごいんですよね。貫禄さながら、撮影中も理想通りに動いてくれていたり…思わず『先輩!』と呼びたくなるような、ミラクルショットがたくさんありました。
犬のように分かりやすい感情表現はないですけど、奥深い、目や空気感で語りかけてくれるものがあるような気がして、犬派ではありますが、今ではすっかり猫ちゃんにも沼落ちしています」
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■朝ドラ「あまちゃん」で紅白歌合戦にも出演■朝ドラ「あまちゃん」で紅白歌合戦にも出演
2013年、連続テレビ小説「あまちゃん」に出演。山下さんは、ヒロイン・天野アキ(能年玲奈改めのん)が所属していたアイドルグループGMT47のメンバー・宮下アユミ役を演じた。「国民投票」の後、これからという時に恋人との熱愛写真を撮られ、GMT47を辞めることになる。
「『あまちゃん』の撮影は、長回しも多かったですし、アドリブをされる先輩方もたくさんいて、『ものすごい俳優さんたちの演技合戦に参戦してしまった!』という感じでした。
その頃、『リミット』(テレビ東京系)という深夜ドラマも同時進行で撮っており、学生たちが森で遭難するという設定や、かなり振り切った役を演じていたこともあり、スケジュールもメンタルもかなりハードではありましたが、全然違うそれぞれの役を同時に戦い抜けたのはすごい良い経験でした」
――山下さんが演じたアユミさんは辞め方が潔かったですよね
「恋人と写真を撮られて!これは裏話なんですけど、宮藤官九郎さんが『辞めるとしたら山下さんかなぁ』とおっしゃったとか。メンバーの中では一番恋愛しそうだって(笑)。全然私にその気はなかったですけど、あの中では多分年齢が一番上ですしね」
――アユミさんは、年齢をサバ読んでいたこともバレて…印象に残る役でしたね
「ありがとうございます。でも、気持ち良いくらいに自分の指針を持った人だなぁと、演じていてさらにアユミが好きになりました。でも、GMTのメンバーのことも大好きになっていたので、私としては脱退するのが寂しくて仕方なかったです」
――その年の「紅白歌合戦」にも皆さん出ていましたね
「はい。脱退からの復活!しかも紅白歌合戦ですよ!(笑)私は脱退しちゃったので、歌って踊るシーンもほぼなかったので、年末のお休みを返上してみんなで稽古したんですけど、当日は半端なく緊張して、私だけダンスの振りを間違えちゃって、本当に恥ずかしかったです。
カメラが移動していく中で、端の方で一人だけ違う動きをしていて、その瞬間、司会をされていた『嵐』の皆さんと目が合って、時が止まったのを覚えています(笑)」
――「紅白歌合戦」出演は、ご家族の皆さん喜ばれたでしょうね
「はい。当時は、祖父母も元気だったのでめちゃくちゃ喜んでくれました。『あまちゃん』の出演もですけど、本当に親孝行、祖父母孝行ができたと思います」
2014年には、“若手女性タレントの飛躍の場”としても知られている「A−Studio」(TBS系)でバラエティ番組初レギュラーをつとめることに。
「あれもオーディションだったのですが、まさか自分が受かるとは思わなくて、最高にうれしかったですね。どんな人にも興味があるタイプなので、(笑福亭)鶴瓶さんと写真で出てくる取材の時なんかは、純粋に思ったことをたくさん質問していた記憶があります。
それなのに、私の悪いところですが、スタジオに入ると『ちゃんとしなきゃ!』って思うと口数が少なくなるんですよね。毎回緊張しすぎて、借りてきた猫のようになっては、反省して泣くこともありました。
でも、22歳という若さで、鶴瓶さんという国宝のような方の近くでいろいろと勉強させていただいたこと、スタジオでゲストの皆さんのお話を直接伺えたこと、そして取材をさせていただいた方々との出会いなど、たくさんの方の人生や生き様を垣間見られたことは、とても貴重な経験になりました。
新型コロナウイルスの流行前でしたから、ゲストの方のご実家に行かせていただいたり、インタビューが終わった後に、そのままみんな一緒にご飯に行って、鶴瓶さんにご馳走になったり、私が普段出会えないような方とお話しさせていただけたのも、なかなかできない経験でした。
今でも鶴瓶さんの影響で、飲食店で隣に座った知らない方とお話ししては、そのまま一緒にスナックに行ったり、隣に座って仲良くなった外国人を家に泊めたり、海外に行っても同じで、その日に友だちを作って、一緒に遊びに出かけたり。職業や肩書関係なく、ただの人間でいることが、俳優人生にも繋がってくるような気もしています」
芸能界にデビューして18年、コンスタントに出演作品が続いてきたように思われるが、辞めようと思ったことも何度かあったという。2022年には16年間所属していた大手事務所から独立。その決断に至るにはコロナ禍の影響も大きかったという。現在は仕事の判断、スケジュール調整なども自ら行っている。
次回は、事務所からの独立、フリー転身後連続ドラマ初主演となった「わたしの夫は―あの娘の恋人−」(テレビ大阪・BSテレビ東京)、映画「零落」(竹中直人監督)などの撮影エピソード。「ウェールズ国際子ども映画祭2024」で最優秀主演女優賞を受賞し、2025年1月下旬に公開を控えている最新主演映画「雪子 a.k.a.」(草場尚也監督)も紹介。(津島令子)
スタイリスト:Izumi Machino / 町野泉美
ヘアメイク:北一騎(Permanent)