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2024年12月13日 13:51

山下リオ コロナ禍での葛藤、舞台公演中止、事務所から独立後初の主演映画で等身大のヒロイン役に!

2024年12月13日 13:51

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15歳で「三井のリハウス」のリハウスガールに抜擢されて注目を集めて以降、俳優として多くのドラマ、映画、舞台に出演してきた山下リオさん。「A−Studio」(TBS系)では笑福亭鶴瓶さんのアシスタントをつとめるなど幅広い分野で活躍。デビューして18年、辞めようと思ったことも何度かあったと話す。2022年には16年間所属していた大手事務所から独立。その決断に至るにはコロナ禍の影響も大きかったという。2025年1月25日(土)には「ウェールズ国際子ども映画祭2024」で最優秀主演女優賞を受賞した最新主演映画「雪子 a.k.a.」(草場尚也監督)の公開が控えている。(※この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧いただけます)

■アルバイトも良い経験に

デビュー以降、コンスタントにドラマ、映画、舞台に出演しているイメージがある山下さんだが、大変な時期もあったという。

「お仕事がほとんど入らず、アルバイトをしていた時期もあります。時を戻せるなら、もっと素直になるべきだと過去の自分に言いたいです。昔から私はすごく天邪鬼(あまのじゃく)で、社会に対して反抗心を持っていたんです。『可愛い』って言われて『外見じゃなくて、芝居を見てほしいのに!』という思いが強かったり。

見た目も中身も、世間が求めるイメージと私自身にギャップを感じていましたし、流れにずっと歯向かい続けていました。それで、気づいた時には仕事がなくなって。

そうなると天邪鬼なので、また『可愛い』って言われたいと思ってみたり(笑)。捻(ひね)くれすぎですよね。

アルバイト時代とかは、しんどかったですけど、今考えるとすごくいい経験になったと思います。焼肉屋でも働きましたが、私は車好きなので、事務所から独立する前まではカーディーラーで洗車をしたりしていました。

でも、俳優業だけでご飯も食べられないのに、バイトをしてまで続けるべきかどうかは、ずっと悩んでいました」

――辞めないで続けることにしたのは?

「私は今でもそうなんですけど、結構頻繁に母と電話するんです。報告とか、悩みとかも相談するんですが、当時母に相談した時に『じゃあ辞めればいいじゃない。徳島に帰ってきたらいいわよ』みたいなことをさらっと言われて。天邪鬼ですから『そんなすぐに辞めていいって言うなら辞めない!』みたいな (笑)」

■独立のきっかけは新型コロナウイルスの蔓延

2022年、デビュー以来16年間所属していた大手事務所を辞めて独立。現在は仕事の判断、スケジュール調整、ギャラ交渉なども自ら行っているという。

「独立することを考え始めたのは、2020年、新型コロナウイルスの蔓延です。緊急事態宣言を受けて、稽古をしていた舞台が上演できなくなって。仕事もない中、ようやく決まった大舞台に全身全霊をかけていたので、できないとなった時に心がポッキリ折れてしまったというか。

でも、コロナ禍で大切な人を亡くしたことが一番大きかったです。身近な人も救えない私が、そもそも俳優という仕事で、誰かを救えるのか?癒しや元気をあげられるのか?社会に貢献できることがあるのか?考えても考えても、希望は見出せなかったです。

俳優じゃない人間になったとき、自分が何をしたいのか、明日死ぬとしたらどうするのか…みたいなことをずっと考えていました。コロナ禍があけて、撮影現場にも復帰しましたが、やっぱりその葛藤が消えなくて。

多分自分にも期待していたんでしょうね。こんな私でも、こんな私だから、お芝居で誰かを救えるはずだと。事務所にも期待していたんだと思います。所属しているだけで、仕事は来るはずだと思い込んでいたので。

それで、誰のせいにもできない環境に自分を追い詰めて見ようと思ったんです。私は“0”か“100”の人間なので、仕事がなかったら俳優を諦める決心がつくと思って。どうなるかは“賭け”でしたけど、その賭けに勝っても負けてもいつか生きていれば、その経験も面白いと思える日がくると信じていました」

――ここ数年、独立される方も結構多いですけど、マネジャーさんを付けずにおひとりでという方は少ないですね

「味方がいたらいいなとは思いましたけど、それではまた事務所にいた頃のように、誰かのせいにしたり、誰かに甘えてしまうのが怖かったです。だから、1人でやってみることを選択しました。

事務所にいた時は、与えられた仕事というと言い方がおかしいですけど、仕事が来たらそれをやっていくというパターンが多かったので。映画がどうやって、どうできているのかとか、プロデューサーさんはどういう仕事をしているのかとか、マネジャーさんの仕事然り、私は全然知らなかったんですよね。

自分のギャランティとかも含めて何も知らないから、お金をいただいてやっている仕事だという意識があまりなかったのかもしれないです。

今はすべて自分が交渉や、スケジュール管理、ものづくりにおいても、台本を作る過程にも関わらせてもらうなど、積極的に自分から行動を起こして何にでも参加するようになりました。

人との関わりも、物作りも、嘘なく芯に触れていくことで、確信を掴める気がする。それがあれば何があっても動じませんから。今、ようやく俳優業が面白くなってきました」

■ドロドロの愛憎ドラマの撮影現場は和気あいあい

2023年、「わたしの夫は―あの娘の恋人−」(テレビ大阪・BSテレビ東京)でフリー転身後、連続テレビドラマ初主演。これは、セックスレス・不倫・ジェンダー…をテーマにした怒涛の愛憎劇。夫・拓也(泉澤祐希)の不倫に気づいた香織(山下リオ)は、不倫相手・睦美(紺野彩夏)を特定し、その夫・恭介(佐伯大地)に会いに行くが、2人の絶縁に協力してもらう代わりに「あること」を条件に出され、ドロドロの展開に…、

「2022年の9月に独立してすぐにオファーは舞い込んできました。Instagramをやっていたので、そこで独立を発表して、お仕事用のメールアドレスを載せただけだったんですけど、いろんな方からご連絡いただいて」

――「わたしの夫は―あの娘の恋人−」もそういう形で出演されることになったのですか。ドロドロで面白かったですね

「ありがとうございます。事務所に所属していた時代に撮った『RISKY』(MBS毎日放送)というドラマのチームから連絡をいただきました。衝撃的な作品だったので、心身共にボロボロにはなりましたが、頑張ったからこそこうしてまたご縁が巡ってくるんだなって感動しました」

――以前お仕事をされた同じスタッフの方からまたオファーがあるというのはうれしいですよね

「そうですね。やっぱり現場でしか会えない方もたくさんいるので、自分が俳優業を続けてなければご縁も巡ってこないですし、また相手も然りなので、お互いに、それぞれの仕事を続けていることもすごいですし、またこうやって会えるというのは本当にうれしいです」

――スタッフさんは知っている方が大半だったのですか?

「半々ぐらいでした。結構タイトなスケジュールでしたし、かなり過酷ではありましたね。

お芝居も、露出も含めて結構際どいところもたくさんありましたし、久々の主演だったので気張り過ぎていたところもありましたが、信頼できるスタッフさんたちがいるのは、安心できました」

――撮影現場はどんな感じでした?

「夫役の泉澤祐希さんは、元々知り合いだったこともありますが、何よりお芝居が信頼できる方なので、色々と相談させてもらっていました。

紺野彩夏ちゃんと私はお互いお酒が大好きなので、お酒の話をしたり、クランクアップした後も一緒に飲みに行ったりしていました。佐伯大地さんはいじられ役で(笑)。ドラマの内容はドロドロでしたけど、裏では和気あいあいと平和に撮影していました」

2023年には竹中直人監督の映画「零落」に出演。主人公は、8年間連載してきた漫画が完結し“元”売れっ子漫画家となった深澤(斎藤工)。次回作のアイデアが浮かばず敗北感を募らせている中、猫のような眼をしたミステリアスな女性・ちふゆ(趣里)に出会う…という展開。山下さんは深澤のアシスタント・冨田奈央役を演じた。

「竹中(直人)さんとは共演経験もなく、監督と俳優という立場で出会ったので、最初はめちゃくちゃ緊張していましたが、竹中さんが穏やかな現場づくりをしてくださるので、すごく楽しい撮影でした。

お芝居は、竹中さんが『こうやってほしいんだ』というのをやって見せてくださるんです。『いや、そのお芝居は超えられないぞ』と思っちゃいますけど、それを超えたくてアドレナリンが出る感じもありました。

自由にやっていいところは本当に任せてくださるんですよね。お芝居でお話をしていくみたいな感じがして、面白かったです。その現場で、『ゾッキ』(竹中直人・山田孝之・齊藤工共同監督)の『平田さん』のオファーも直々にいただきました。」

――漫画が原作ということで意識されたりすることは?

「『零落』も『ゾッキ』もそうですけど、私は原作をとにかく大切にしたいので、外見も含めて、原作に寄せていくことが多いです。

『ガンニバル』(ディズニープラス)とかもそうですけど、あの時も6キロぐらい増量しましたし。原作を読んでいる方が見た目で違和感を感じて欲しくないし、人間が演じるからこそのリアリティが出るように意識して役作りしています。」

2024年3月には映画「ペナルティループ」(荒木伸二監督)が公開された。これは、最愛の恋人・唯(山下リオ)を殺害した溝口(伊勢谷友介)に岩森(若林竜也)が復讐を果たす6月6日をなぜか繰り返し続けることに…という内容。山下さんは、そのループの始まりでもあり、被害者で謎めいた人物という三つの顔を持つ砂原唯役。

――一晩寝るとまた同じ日を繰り返し、殺して殺されて…ユニークな展開ですね

「そうですね。私はこの映画好きです。こちらもオーディションだったのですが、荒木監督は説明を全然しない人で。オーディション中も、監督の人柄や物語の謎が深まるばかりで、すごく興味深かったです。

でも、撮影前には、物語には出てこない唯だけの情報を教えてくださったり。撮影はほぼ一発OKだったので、出来上がりが不安になるほどでしたが、完成した作品をみると、まんまとやられたなと思いました。

すべてが監督の罠であり、計算済みのようで、奇跡が起きたに過ぎないようなワクワクもあり。映画の中にも説明しすぎない謎がそこかしこに散りばめられていて、監督の脳内を少し垣間見られたような面白さがありました」

■最新主演映画のオファーはインスタで?

2025年1月25日(土)には主演映画「雪子 a.k.a」の公開が控えている。この作品は、“29歳問題”の渦中で人生に迷った主人公・雪子(山下リオ)が、ラップを通して自分と向き合い答えを探す姿を描くと同時に、雪子の教師という仕事の明暗も浮き上がらせていく。

「普段からヒップホップも聞きますし、ラップの歌もたまにカラオケで歌ったりはしていました。『フリースタイルダンジョン』が流行った時期にYouTubeとかを見て、にわかファンだったりして、詳しくないけどヒップホップは昔から好きでした。

オファーをいただいた時は、それこそ独立後すぐで30歳になったばかり。雪子と同じ年齢だったし、『これはやるしかないな!』って思いました。教師とラップという、相容れない感じの物語にも惹かれましたが、何よりも雪子の葛藤にすごく共感してしまい、私が演じたいと思いました」

――この映画もインスタでオファーだったのですか

「そうです。草場監督からメールをいただきました。それから台本を読ませていただき、監督とプロデューサーの方と3人でお会いすることになったんですが、お二人が今作にかける想いを熱く語ってくださり、その場で出演を決めました。

私は学校にトラウマがあったので、正直、教師役をやることには葛藤があったんです。でも、その経験があるからこそ、子どもたちの立場で考えて、寄り添える雪子になれるはずだとも思いました。そんな台詞が台本にもあって驚いたんですが。

この映画を通して、自分も雪子と一緒に、もう一度自分と向き合う必要があると感じました。撮影現場では、雪子と自分との境界線がなくなるほど、のめり込んでいったと思います」

――もがき苦しみながらも何とかしようと必死なのは伝わってきますね。キャスティングも絶妙だなと思いました

「最初から最後まで、雪子発進のお芝居じゃないというか、雪子以外の誰かにいつも影響されているような、受け身の人間なので、素晴らしいキャストの皆さんに囲まれて、純粋に反応すれば良いという環境は、本当に恵まれていたと思います。

クランクインするまでは、ラストの雪子がどういう顔をしているのか、脚本を読んだ時に想像できなかったんです。大抵脚本を読んだ時に、自分の芝居をイメージしたりするんですけど、それが全くできなくて。

でも、雪子としての感情を積み重ねていけば、必ずそういう顔になるって、確信があって、信じて突き進むことができました。

何よりも、今作のベストアクターは子どもたちです。みんなが、私を先生にしてくれたと思います。一日で全員の名前を覚えられる程、生徒のみんなが大好きになりました。学校に行くのが楽しみでしたし、愛しいと思わせてくれたみんながいたからこそ、自分でも驚くようなラストの顔があったと思います。生徒のみんなには心から感謝しています」

――だいたい順撮りだったのですか

「はい。ラップもクランクインの半年以上前から、監督とスタジオに入って練習したり、ラップの先生もいらして、ヒップホップの歴史から始まり、基礎を教えていただきました。家の中でもひたすらエイトビートを流して、自分なりの言葉を吐き出す練習をしました。

もともとミュージカルや音楽劇をやっていたこともあって、歌とかリズム感にはそんなに苦戦はせずにやれたかなと思います。ラップならではの韻を踏むことは、未だに上手くできませんが、感情をどういう風に乗せていくかということは、芝居とあまり変わらないので、ラップだから…みたいなものはそこまで大きく考えず、気持ちでやっていたかもしれないです。

ラップは、構築のうまさとか色々ありますけど、音程がどうとか、声がひっくり返ったからダメだとか、規則とかも別にないので、そういった意味ではいろんな人がチャレンジしやすいものなんじゃないかなって思いました。

この作品は、公園でのサイファーから始まり、ライブのシーンやピアノとのセッションなど、ラップしているシーンがたくさんあるのですが、すごくありがたいことに事前録音じゃないんですよ。

低予算映画でそんなことが可能だと思ってなかったので、かなり驚きました。それも最高な録音部さんがいてくださったお陰です。私もかなりプレッシャーも感じましたし、実際に難易度もあがりましたが、その場でしか生まれないライブ感に、魂を揺さぶられるシーンになったと思います。

ラップで印象的だったのは、大勢の前で披露するライブのシーンです。それこそ私も雪子マインドになり過ぎていたので、すべてに自信がなくて人前に立ちたくない、今すぐここから逃げ出したい思いでいっぱいでした。

でも、雪子と殻から抜け出す最後のチャンスだったので、血管が切れそうになるほど叫んでラップした時に、景色が変わったのを体感できたシーンでした。

一番好きなのは、ピアノでラップをするシーンです。類(滋賀練斗)くんがピアノを弾いているところも生演奏なんですよ!!2人で息をうまく合わせて、いかに楽しむかが特に重要でした。

これまでもたくさんラップを練習してきましたが、それを全部忘れて、類くんと心を通じ合わせることだけに集中していました。それもカットで割っているわけじゃなく、一連で撮影したので、特に難しかったですけど、スタッフキャスト一同、全力をぶつけて、3テイクぐらいで終わったと思います」

――今の時代は、言葉狩りみたいな状態ですが、そういうのは感じますか?

「そうですね。日本語って難しいですから。『大丈夫』という言葉も人によって全く違う意味の受け取り方ができてしまう。だからこそ奥深い。こういうインタビューとかもそうですけど、自分の言葉を大事にするようにしています。

私は結構はっきりした性格なので、『私はこう思います』って自分の意見を『X』とかで言って、叩かれたとこともありますが、責任を持って発言しているので、みなさんからのメッセージも、責任を持ったご意見としてちゃんと受け取っているつもりです。

俳優でもありますが、所詮皆さんと変わらないただの人間ですから。私の言葉が意図なく、誰かを傷つけてしまうことが今後一切ないかと言われれば分からないです。

でも、意図して傷つけてくる方に対しては、完全無視ですね。昔はアンチメッセージに『何がそんなに嫌だった?』とか『どうしてそう思ったの?』とか直接返信していた時代もありました。みんなちゃんと謝ってくれるんですが…。

まさか本人から返信が来ると思ってないんでしょうが、皆さんにも顔があることを忘れないでいてほしいです。決して、匿名なんていう人は存在しないので。私なりの発信は続けていくつもりです」

――独立されて3年目になりますが、今後はどのように?

「来年もいろいろなお仕事をいただいていて、全体像としてはふわっと見えているんですけど、また新しい役柄にもチャレンジできそうなので、自分なりにステップアップの年にしたいです。俳優として、まだ序章に過ぎないと私は思っているので。

独立を機に、30歳で生まれ変わった気がするんです。いつも誰かの目を気にしたり、誰かのためにしか頑張らなかった自分が、やっと人生の主人公になったなって。まず自分が楽しみながら、皆さんを巻き込んで、より一層いい作品を作っていきたいですし、誰かに貢献できる人になりたい。そのために、人間としても俳優としても器を大きくしていかないといけないなって思っています。

私もいい年になってきましたから、やっぱり若手の方とも仕事をする機会も多くなってきたので、私が見てきたカッコいい先輩の後ろ姿を引き継げるように努力したいです」

2025年1月25日(土)に主演映画「雪子 a.k.a.」が渋谷ユーロスペースほか全国順次公開、2月にはミュージカル「ヒーロー」(東京・シアタークリエ)の公演を控え、幸先のいいスタートになりそう。充実の日々が続く。(津島令子)

スタイリスト:Izumi Machino / 町野泉美

ヘアメイク:北一騎(Permanent)