「乃木坂46」を卒業後、本格的に俳優生活をスタートし、2018年、映画初出演にして主演をつとめた「パンとバスと2度目のハツコイ」(今泉力哉監督)で、第10回TAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞した深川麻衣さん。同年、連続テレビ小説「まんぷく」(NHK)に出演。2019年には、「日本ボロ宿紀行」(テレビ東京系)で地上波連続ドラマ初主演。2021年には映画「おもいで写眞」(熊澤尚人監督)に主演するなど次々と出演作品が続いていく。(※この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧いただけます)
■朝ドラに初めて出演「役名で声をかけられるようになりました」
2018年、連続テレビ小説「まんぷく」に出演。このドラマは、インスタントラーメンを生み出した日清食品(現・日清食品ホールディングス)創業者夫婦の半生をモデルに、ヒロイン・福子(安藤サクラ)と萬平(長谷川博己)夫婦がさまざまな困難に立ち向かい、懸命に生き抜く姿を描いたもの。深川さんは、福子の姉夫婦(松下奈緒&要潤)の4人の子どもたちの次女・吉乃役を演じた。
「私は吉乃が大きくなってからの役で、途中から撮影に参加したので最初はものすごく緊張しました。初めての朝ドラですし、撮り方もちょっと普通のドラマとは違う撮り方をしていくので。
約半年間、一人の役を年齢を重ねながら演じていくという経験はなかなかできることではないですし、本当にステキな先輩方の中で何物にも代えがたい経験をさせていただきました」
――積極的で溌剌とした長女(岸井ゆきの)と全然性格が違って、おっとりとしたマイペースで面白いキャラでしたね。それにモテモテで
「そうですね。岡(中尾明慶)さんと森本(毎熊克哉)さんのどっちを選ぶんだろう?どっちも選ばないのかな?って、私も視聴者の方と同じ目線で、出来上がってくる台本を楽しみにしていました(笑)。結局、岡さんと結婚することになるんですよね」
――朝ドラに出演されたことによって、何か変化はありましたか
「周りの変化で言うと、やっぱり朝ドラは老若男女たくさんの方が見てくださっているので、『まんぷく』を通して初めて私を知ってくださった方が増えたことです。
それまではアイドルのときから認知して応援してくれていた方が圧倒的に多かったのですが、朝ドラに出演してから、街中で『吉乃ちゃん』って役名で声をかけてもらえるようになりました。
親しみを持って役名で声をかけていただくということが初めての経験だったので、朝ドラの影響力のすごさをそこで実感しました。友だちや家族の職場の方からも『まんぷく見ているよ』って連絡をたくさんいただいて、うれしかったですね」
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■主演映画がきっかけで家族写真を撮影■主演映画がきっかけで家族写真を撮影
2019年、「日本ボロ宿紀行」(テレビ東京系)で地上波連続ドラマに初主演。このドラマは、父親が急死したために芸能事務所を引き継ぐことになった娘・春子(深川麻衣)が、たったひとり事務所に残った48歳の一発屋ポップス歌手・桜庭龍二(高橋和也)と二人で地方営業の旅に出ることに…という展開。
――大量に売れ残ったCDを売り切るために凹凸コンビが繰り広げる珍道中が面白かったです
「ありがとうございます。『日本ボロ宿紀行』はすごく私の中で大事な作品です。ここで出会った高橋和也さん、チームの皆さんは今でも変わらず大切な存在です。
撮影日数がタイトで、1話を2日間で撮っていたのですが、大変な分みんなのペースや呼吸もどんどん合っていきました。オールロケで転々と実在する宿を巡るお話なのですが、本当にみんなで旅をしているような感覚でした。
チーム全員でいいものを作りたいという熱量で向き合えた作品だったので、もしも仕事でつらいことがあった時は、自分の中の原点に戻るためにこの作品のことを思い出そうと思っています。事務所を移籍して初めての主演ドラマでもあり、いろいろな思いが詰まっている作品ですね」
――登場するのは、すごい宿ばかりでしたね
「はい。本当に個性豊かな宿ばかりでした。でも、やっぱり時代の流れとともに道路の区画整理とか再開発などで閉業したところもあって。撮影していたときに『もうすぐなくなっちゃうんです』と宿の方から話を聞くと切なかったですけど、このドラマを通して長年愛されてきた宿を映像で残せたことがうれしかったですね」
――宿そのものはなくなっても、映像作品として残っているというのは大きいですね
「そうですね。そう思っていただけていたらうれしいです」
2021年には、映画「おもいで写眞」(熊澤尚人監督)に主演。この作品は、東京で夢に破れ挫折した主人公・結子(深川麻衣)が、故郷・富山で亡き祖母が遺した写真館で遺影写真の仕事を始めることになり、新たな夢を見出していく様を描いたもの。
「結子は演じる中ですごく苦戦しました。監督からも『一切笑わないで』という演出もありましたし、ずっとなにかに苛立ったり、怒りを抱えている役でした。もちろんそこにはちゃんと理由があるんですが、笑えないというのは、人間の生理的にこんなに大変なんだと思いました。
おじいちゃんとかおばあちゃんを撮っていく中で、レンズ越しに目が合って微笑みかけてくださるとうれしくて、反射的に笑顔になっちゃうんですよね。
そのコミュニケーションの中で無意識に出てしまう部分も抑えないといけなかったので。口角が1、2ミリでも上がったら監督から『今、ちょっと笑っちゃったからもう1回』と指摘があって撮り直すということが何回かありました。
撮影は、約2週間ぐらいだったんですが、人間として笑うとか、喜ぶ・楽しいなどの感情を一切排除して、自分の中で怒りを作り続けなければいけないのはこんなに大変なことなんだと痛感しました」
――この作品はいい発想ですよね。昔の人はあまり個別のお写真がない方も多く、集合写真ぐらいしかなくて、お葬式に行ったときに劇中と同じようにピンボケの遺影を見た記憶があります
「そうですよね。あの作品は監督が長い間温めてきた作品で。お葬式のときに遺影で使える写真がないというのは、現実問題としてすごく多かった中で、この映画を見てそういうお仕事を始めてくださった方もいて。そのご報告のお手紙をいただいたときはすごくうれしかったですね」
――あの映画を見て、自分のおじいちゃん、おばあちゃんの写真をちゃんと撮ってもらおうと思った方もいらっしゃると思うので心にも優しい映画だなと思いました
「ありがとうございます。うちの母もあの映画がきっかけで、『私も写真を撮ってほしいな』と言って、私が仲のいいカメラマンさんに家族写真を撮ってもらったんです。
それがなければ改めて家族写真を撮ることはこの先なかったかもしれないので、すごくいいきっかけになりました」
■「特捜9」に刑事役でレギュラー出演「何で私が?って(笑)」
2022年から「特捜9」(テレビ朝日系)に高尾由真刑事役で出演。このドラマは、警視庁捜査一課特別捜査班の個性的な刑事たちがさまざまな事件を解決していく姿を描いたもの。深川さんは、Season5で品川署から異動してきたという設定でレギュラーメンバーに加入。自由過ぎる先輩たちに戸惑いながらも、真面目な性格と持ち前の負けん気で成長していく姿をリアルに演じている。
――なかなかユニークなキャラクターですね
「そうですね。まず自分にお話が来たことにびっくりして。『何で私なんだろう?』って最初は驚きました。私はSeason5からですが、毎年本当に刺激をいただいています。
タイトルが変わる前の、『警視庁捜査一課9係』から出演している先輩方は、来年で20周年になるんですよね。一つのドラマがそれだけ長い間続いているなんて、本当にすごいことだと思います。
初めて撮影に行った日から、長年培(つちか)ってきたスタッフさんも含めてのチーム力というか、皆さんの絆の固さを感じました。
撮影の合間や空き時間に、共演者の方と世間話したりお話するのはどの現場でもあると思うのですが、皆さんはお互いの家族のことまで熟知していて、よく話題に上がるんです。それは『特捜9』ならではというか、先輩たちが積み上げてきた歴史を感じました。
その分、最初は『このみなさんの輪の中に入っていけるのかな?馴染めるのかな?』と怖かったし尻込みをしていたのですが、主役の井ノ原(快彦)さんをはじめ、皆さんが気さくに話しかけてくださり、すごく温かく迎えてくださったので、私もいつの間にかスーッと入っていくことができました。
本当の家族のようなチームです。賑やかで温かい雰囲気の中で、でも同じぐらいしっかりと緊張感もあり、毎年気を引き締めて撮影に入っています」
――若者らしい印象的なキャラですね
「はい。先輩刑事たちにも思ったことはハッキリ言う強気な性格です。上司に対して結構失礼なことも言っちゃう後輩で(笑)。
でも、リスペクトは大事にしたいということは、スタッフさんとも話していますね。きつい言い方をしても、それは先輩たちへの尊敬と愛情があるからこそ言えること。それがどんなシーンでも伝わるように、大切にしたいと思っています」
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■写真を現像して形に残すのが好き■写真を現像して形に残すのが好き
「特捜9」レギュラーに加入した2022年には、映画「今はちょっと、ついてないだけ」(柴山健次監督)も公開された。この作品は、シェアハウスと自然を舞台に、不器用な大人たちがゆっくりと自分を見出し、前向きに生きるキッカケを見つけていく姿を描いたもの。
主人公の立花浩樹(玉山鉄二)は、かつては秘境を旅するテレビ番組などでネイチャリング・フォトグラファーとして脚光を浴びたが、バブル崩壊ですべてを失い、事務所の社長に背負わされた借金を返すためだけに15年間生きてきた男。借金を完済して40代になった立花は、人生をもう一度やり直そうと上京。シェアハウスでの生活をスタートさせる。
深川さんは、人付き合いが下手で美容サロンをリストラされる美容師・瀬戸寛子役を演じた。
「すごく優しい作品でした。私はヘアメイクアーティストになりたいのに、なかなか仕事がうまくいかなくて悩んでいるという役柄なのですが、途中からシェアハウスすることになり、そこでやっと自分なりの居場所を見つけていくんです」
――ああいうところで写真を撮ってもらいたいなって思いました
「そうですよね。『おもいで写眞』にもすごく近いというか、通じるテーマはあるなと思いました。
今はスマホでもきれいに撮れちゃったりするので、写真を現像して形に残すという機会は結構減ってきているなあって。でも、その形に残すのは、私はすごく好きだし、大事なことだなと思っているので、何かの記念を写真として形に残すっていいですよね」
――そうですね。それと登場人物はみんな人生で1回ちょっとつまずいていますが、何とか一歩前に進めるように、優しく背中を押してくれる作品ですね
「そうなんです。それぞれの登場人物たちが、人生の中で苦しかった時期を経て偶然出会って、それぞれが良い影響を与えあえる関係性になっていきます。
私が演じた寛子も、やっとヘアメイクとしての夢に一歩踏み出していきます。悩んでいたことが急に全て解決するわけではないけれど、じわじわと転機を迎えていくんです。
だから、タイトルが全部を総括している感じがします。今はちょっと落ち込むことがあっても、『今はちょっと、ついてないだけ』って、すごくいいタイトルだなって思いました」
――そうですよね。今はちょっと…ということは、次があるんですよと示しているというか。優しいタイトルだなって思いましたし、作品もその通りでした。撮影現場はいかがでした?
「撮影期間はそんなに長くなかったんですが、現場の空気も穏やかでした。玉山(鉄二)さんも音尾(琢真)さんもお子さんがいらっしゃるので、皆さんがお父さんトークをよくしていた記憶があります。映画と同じ優しい空気の現場でした」
さまざまな役柄に挑戦を続けている深川さんは、2023年には映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(穐山茉由監督)に主演。同年、「彼女たちの犯罪」(読売テレビ)に主演。2024年には「アイのない恋人たち」(ABCテレビ・テレビ朝日系)など次々と話題作に出演。次回は、その撮影エピソード、1月24日(金)に公開される最新主演映画「嗤う蟲」(城定秀夫監督)も紹介。(津島令子)
ヘアメイク:村上綾
スタイリスト:原未来
衣装:ジャケット G.V.G.V.(k3 OFFICE)
リング(中指) リング(人差し指) ともにNUUK(k3 OFFICE)
ワンピース JANE SMITH (JOHN MASON SMITH JANE SMITH STORE)