「乃木坂46」を卒業後、本格的に俳優として活動を始めた深川麻衣さん。映画「パンとバスと2度目のハツコイ」(今泉力哉監督)、「日本ボロ宿紀行」(テレビ東京系)、映画「おもいで写眞」(熊澤尚人監督)、映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(穐山茉由監督)、「彼女たちの犯罪」(読売テレビ)など主演作品も多い。2025年1月24日(金)に最新主演映画「嗤う蟲」(城定秀夫監督)の公開が控えている。
(※この記事は全3回の後編。前編・中編は記事下のリンクからご覧いただけます)
■アイドルのコメディ的なお話だと思っていたが…
(C)2024映画「嗤う蟲」製作委員会
2023年、深川さんは、元「SDN48」のメンバーで作家・大木亜希子さんが自身の体験に基づいて執筆をした実録私小説を実写化した映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」に主演。
深川さん演じる元アイドルの主人公・安希子は、メンタルを病み会社を辞めることになる。仕事もなく、手持ちの現金も乏しくなった安希子は、友人から提案され、都内の一軒家でひとり暮らしをする56歳のサラリーマンとの同居生活をすることに…という展開。
「元『SDN48』のメンバーの大木亜希子さんが作家さんとして書かれたノンフィクションの物語なんですが、読んですごく衝撃を受けました。
一人の女性が少しずつ自立していくお話で。自身の恥ずかしい部分とか、ドロドロしている感情とか、汚い心の奥底のものもさらけ出して、それでも前向きに進もうとする物語にすごく心を打たれました。
タイトルを聞いたときは、タイトルもキャッチーなので、元アイドルのコメディ的なお話なのかなって思ったんですが、読んでみたら、それがすごくいい意味で裏切られて。
タイトルのイメージから、『おじさんと元アイドルの女性が一つ屋根の下で一緒に暮らすというのは恋愛の話なの?』と聞かれることも多かったのですが、全くそうではなくて、本当に純粋な一人の人間同士としてのお話なので、そこにすごく胸を打たれました」
――ササポンみたいな人がいたらいいですよね
「そうですね。もちろんノンフィクションなので、ササポンさんは本当にいるんです。取材のときにご本人とも実際にお会いしたんですが、本当にステキな方でした」
――ササポンを演じた井浦(新)さんとのコンビネーションもとても良かったです。実際にやってみていかがでした?
「新さんは事務所の先輩で、『おもいで写眞』でも共演させていただいたんですが、ガッツリご一緒させていただいてうれしかったです。
本当にステキな空気感と自分のペースを持ってらっしゃる方で、大地みたいな、森みたいな雰囲気がある方なんですよね。すごく穏やかで、人の話を『うん、うん』って聞いてくださるところは、ササポンと遠くない雰囲気があると撮影中に感じました。
撮影の合間には、からだに酵素玄米がいいとか、お茶の話を教えてもらったり…結構健康トークをしていました(笑)」
――井浦さんは色っぽい雰囲気もカッコ良さも抑えて普通のおじさんを演じてらして。演技の幅が広いステキな俳優さんですね
「本当にその通りで、そのカッコいい新さんが、ササポンをどう演じるんだろう?と楽しみにしていました。現場でお会いしたときに見た目や雰囲気が原作のササポンそのものだったので感動しました」
――完成した作品をご覧になっていかがでした?
「何か自分で見たことがないような自分の顔がたくさんうつっていました。もし映画の中の安希子と同じような境遇だったり、年齢に縛られていて苦しいと感じている方や恋愛・仕事で悩んでいる方がいたら、映画を見て少しでも気持ちが軽くなってくれたらうれしいなと思っています」
次のページは
■ドロドロの愛憎劇撮影後、燃え尽き症候群に■ドロドロの愛憎劇撮影後、燃え尽き症候群に
2023年、「彼女たちの犯罪」(読売テレビ)に主演。このドラマは、接点のなさそうな3人の女性たち(深川麻衣×前田敦子×石井杏奈)の人生があることで交錯し、やがて手を染めた犯罪が浮き彫りになっていく様を描いたもの。
深川さんは、大学の先輩の智明(毎熊克哉)が既婚者と知らずに交際を始める繭美役。一人の女性(さとうほなみ)の失踪をきっかけに、立場も異なり、全く接点のなさそうな3人の人生が思いもよらぬ方向に進んでいく…という展開。
「原作をまず読んで、すごく面白いと思いました。ドラマでは、現在とはまた違うオリジナルの要素や展開もあり、原作を読んで結末を知っている方でも楽しめるストーリーになっていましたし、推理していくようなミステリー要素もあります。
私が演じた繭美は、本能に忠実なキャリア志向でもっと上に這い上がりたいという野心を持った女性なんですが、自分が演じている分、その繭美の持っている、強さの裏側にある弱い部分も愛おしく思えて、ずっと幸せになってほしいなと思いながら演じていました。
夏の猛暑の中、みんなでドロドロになりながら撮影していましたね。みんなそれぞれがお芝居の中で気持ちをすごくディープなところまで深堀りしないといけなかったので、撮影が終わった後は、みんなで燃え尽き症候群みたいになりました」
――深川さん演じる繭美はアパレル関係のファッションの広報という、ぴったりな設定でしたね
「ありがとうございます。私も服飾の専門に通っていて、この仕事をしていなかったらアパレル関係に勤めていたかもしれないので、うれしかったです。繭美の一生懸命這い上がろうとする姿勢は、見方によっては気の強さになりますが、私は人間らしくて好きな部分でした」
――朝ドラの「まんぷく」で振った役の毎熊克哉さん演じる智明と不倫関係に
「毎熊くん演じる智明も、すごくエネルギーを使う重要な役ですよね。ラストシーンは見ていてすばらしかったけど、ご本人はとても大変だったと思います」
――智明は、既婚者であることを隠して関係を持ちますが、ずっと繭美のことが好きではあったんですよね
「そうだと思います。だからちょっとしたボタンの掛け違いで起こってしまうことですよね。どこか一つのタイミングが違っていたら、こんなことにはならなかったのかなって思います。二人が再会していなければ…ということもありますし、いろんなことを考えさせられる作品でした」
――いろいろなことが複雑に絡み合っていて面白かったですが、撮影は大変だったでしょうね
「はい。燃え尽きました(笑)。その後、お仕事で会ったときに、みんなもそんなことを言っていました。内容はドロドロしていましたが、現場はすごく和気あいあいとしていて楽しかったです。
結構ダークな世界観でしたけど、みんな笑い合いながらやっていました。でも、みんなメンタルを削りながらやっていたから、撮影が終わった後、ドッと疲れが来たって言っていましたね」
2024年、「アイのない恋人たち」(ABCテレビ・テレビ朝日系)に出演。このドラマは、不器用なアラサー男女7人が織り成す恋愛模様を描いたもの。深川さんは、区役所の戸籍課に勤める近藤奈美役。自身の婚期について不安と焦りを抱いていて婚活に励んでいるが、男性を前にすると自分の話ばかりで相手を退屈させてしまう。
「『アイのない恋人たち』で私が演じた奈美は、本を読んでいたときには自分に自信がない、ちょっと大人しい女の子なのかなと思っていたんです。
でも、顔合わせの日にスタッフの方とお話しして、180度違うとてもパワフルな女性になっていきました。遊川(和彦)さんの脚本がすごく面白くて、私以外の役柄もそうなんですけど、みんなが全く予想していなかったキャラクターにどんどん出来上がっていって。
奈美は、自分に自信がなくて恋愛になかなか積極的に踏み出せないんですが、結婚したい気持ちは人一倍強くて、何事にも素直でまっすぐなんです。箱入り娘のお嬢様だけど、一回決めたら突き進む強さがあって、そのギャップが奈美の好きなところです」
次のページは
■オリジナルの方言と火祭りのシーンも■オリジナルの方言と火祭りのシーンも
(C)2024映画「嗤う蟲」製作委員会
2025年1月24日(金)に最新主演映画「嗤う蟲」が公開される。この映画は、田舎でのスローライフを夢見て都会から村へと移住してきた夫婦が、その村に存在する「掟」に追い詰められていく姿を描いたスリラー。
田舎での暮らしに憧れるイラストレーターの杏奈(深川麻衣)は、脱サラした夫・輝道(若葉竜也)とともに麻宮村に移住する。新天地でのスローライフを満喫する二人だったが、圧倒的な力を持つ自治会長の田久保(田口トモロヲ)、過剰なまでにお節介を焼く村民たちに不信感を抱くようになり…。
「城定さんと一緒にできるということがすごくうれしかったです。スリラーというジャンルの映画は初めてだったので、それもとても楽しみにしていたのですが、着眼点として今までありそうでなかった作品だと思いました。
私は静岡の磐田市出身なんですが、本当に緑が溢れていて、海が近くて田んぼが多いんです。『嗤う蟲』の舞台はどっちかというと山寄りなのですが、私は海寄りの田舎育ちなので、田舎は全然嫌いじゃないんですよね。カエルとかも結構平気です。
田舎は住んでいる人同士の結びつき、地区の結びつきが強いと思っていて。東京だと引っ越して挨拶する人も、あえてしない人もいたり、個人として住む感覚があります。
どちらも“良さ”も“悪さ”もあると思っていて。この映画の中ではその怖さを描いています。撮影中は山奥で撮影していたので、自然に囲まれてリフレッシュできました」
――舞台となった麻宮村は、田舎と言っても一本道で、そこを塞がれたらもう行けない閉塞感に満ちたところでしたね
「自治会長の田久保さんが圧倒的なボスで、この人に迎合していかないといけないことが冒頭から伝わります。誰も逆らえないみたいな存在感があって」
――SNSよりも早く情報が村中に伝わるというのはすごいですね
「秘密なんて持っていられない。あっという間に噂話が広がってしまうんですよね」
――田口(トモロヲ)さんがかなり不気味な雰囲気を醸(かも)し出していましたが、撮影中はいかがでした?
「田口さんと奥さん役の杉田かおるさんが並んだときの迫力がすごくて。お芝居でも何か裏側を含んだ笑い方とか、そういうのが面と向き合っていてもすごいゾクゾクしていました。
でも、お二人とも普段はとても優しい方です。田口さんとの後半のシーンでも『大丈夫ですか?』と気にかけてくださりました。
村人の皆さんの『笑顔』が映画の中でも印象的で、『村で何を隠しているんだろう?』とじわじわ明かされていく秘密をぜひ楽しみながら見てほしいです」
――一番苦労されたシーンは?
「杏奈と輝道が言い争いをするシーンです。今回はワンカットで撮ったシーンが多かったんですが、そのシーンも城定さんが空気感を映すためにワンカットにしようと判断してくださって。
結構声を荒げたり感情を強く出すお芝居で、ちょっとアクションに近いような部分もあったので、できれば1回で成功させたいと、私たちもスタッフさんも緊張感を持って挑んだシーンなので印象に残っていますね」
(C)2024映画「嗤う蟲」製作委員会
――スクリーンでご覧になっていかがでした?
「撮っているときは、ワンカットで撮ったシーンが多いというのもあって、繋がったらどういう映像になっているのか全く想像がつかなかったんですが、完成した作品を見て、緊張感やじわじわ伝わる緊迫感が、エンタメとしても楽しめる作品になっていると思いました。
最初に見る試写会というのは、どうしても自分の粗(あら)を探してしまうので、純粋な気持ちで映画として見られないことが多いんですが、『嗤う蟲』の時はストーリーを純粋に楽しめました」
――「ありがっさま」というワードが印象的ですね
「そうですね。麻宮村は架空の村という設定なので、いろんな地域の方言を混ぜて、オリジナルの方言になっているんですが、やっぱり『ありがっさま』って、結構耳に残るワードですよね」
――劇中の「火祭り」のシーンも実際のお祭りを撮らせてもらおうと思ったら、内容的にダメで、オリジナルでやったそうですね
「そうなんです。でも、エキストラの皆さんにもいっぱい来ていただいて、本当に迫力のあるラストシーンになりました。是非、スクリーンで見てほしいです」
――2024年は、深川さんにとってどういう年でした?
「今年はドラマや映画以外にも3年ぶりに舞台ができたり、朗読劇も久しぶりにやらせていただいて。すごくいろんなジャンルのお仕事ができた年だったと思います」
――2025年はどんな年にしたいですか
「どんな年になるんだろう?『嗤う蟲』も自分にとってはすごいサプライズな出来事でした。毎年いい意味で想像をしてない角度からお話が来たりするので、そういう出会いがたくさんあったらいいなという思いはありつつ、いただいたお仕事と一つ一つきちんと向き合って、お仕事もお休みの日も充実の1年になったらいいなと思っています」
新年早々に主演映画の公開を控え、幸先のいいスタートになりそう。さらなる活躍が楽しみ。(津島令子)
ヘアメイク:村上綾
スタイリスト:原未来
衣装:ジャケット G.V.G.V.(k3 OFFICE)
リング(中指) リング(人差し指) ともにNUUK(k3 OFFICE)
ワンピース JANE SMITH (JOHN MASON SMITH JANE SMITH STORE)