ウクライナ南部での激戦が続いている。ロシアの兵器生産能力についてこれまで様々な分析が報じられてきたが、北朝鮮からも武器供与が行われていることが明らかになりつつある。
1)北朝鮮の軍事偵察衛星打ち上げの影にロシアの技術支援が?
11月21日、北朝鮮の朝鮮中央通信は、軍事偵察衛星「万里鏡(マンリギョン)1号」を搭載した運搬ロケット「千里馬(チョンリマ)1号」を打ち上げ、軌道に「正確に進入」し「グアムの米軍基地を撮影した」と報じた。
今年9月13日にロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記の首脳会談が、ロシア極東のボストーチヌイ宇宙基地で開催された。プーチン大統領は、北朝鮮がロケット技術に関心を持っていることを踏まえ、会談の会場を「宇宙基地」に設定したと説明しており、ロシアによる北朝鮮への技術面の協力を示唆していた。
韓国のシン・ウォンシク国防相は11月19日、「北朝鮮がロシアからの技術協力によってロケットエンジンの問題を克服したとみられる」と言及した。
2006年から2017年にかけて「国連安保理決議に基づく北朝鮮制裁」は11回採択され北朝鮮に「弾道ミサイル技術を使用した発射核実験またはその他挑発をこれ以上行わない」ことなどを義務付けてきた。
朝日新聞元モスクワ支局長の駒木明義氏は「北朝鮮からの武器輸入や軍事協力の実施は、これまでロシアも賛成して積み重ねてきた国連安保理決議への明確な違反であり、国連安保理常任理事国の責任放棄にも等しいことが行われている。」と指摘する。そして「ロシアは以前から北朝鮮に軍事協力をしていたとみられ固体燃料のICBMにもロシアの技術協力があったと考えられている。しかし今回のように制限もなしに明らかな国連安保理決議違反になってでも突き進むという局面になっているといえるだろう。」と述べた。
2)衛星写真が捉えた! 北朝鮮からロシアへの“武器支援”ルートが明らかに
イギリス王立防衛安全保障研究所(RUSI)は衛星写真を分析し、北朝鮮からロシアへの武器支援ルートがあることを明らかにしている。
9月にロシア国境に近い北朝鮮北部の羅津(ラジン)港を撮影した衛星写真では、貨物船へコンテナを積み上げている様子が明らかになっており、3隻の貨物船が繰り返しコンテナを運搬しているという。
10月14日のロシアの軍港ドゥナイ港の写真からは貨物船が到着し、北朝鮮からコンテナが積み下ろされている様子がわかる。
さらにウクライナ国境から約200kmにあるロシアのチホレツク弾薬庫の写真からは、7月から9月の間に、弾薬貯蔵庫を拡張した様子があきらかになっており、9月28日の写真からは、コンテナが列車で弾薬庫に運び込まれている様子も明らかになっているという。
しかし駒木氏はこの一連の衛星写真の公開でもロシアが北朝鮮との協力を認めることがないだろう、と指摘し次のように分析する。
「これまでロシアは一貫して、“国連安保理決議は順守するが北朝鮮との関係は維持する”とし、“西側諸国は具体的な証拠を示していない”と主張しており今後もロシアの姿勢は変わらないだろう。」
韓国の国家情報院は11月1日、「8月以降、北朝鮮からロシアへの武器輸送が10回ほどあり、合計で約100万発の砲弾が輸送された」との分析を示した。
ロシアの砲弾生産能力について、元陸上自衛隊中部方面総監で国際安全保障を専門とする山下裕貴氏は「エストニアの情報ではロシアの砲弾生産能力は月間150万発とされ100万発はその3分の2の分量となる。報道ではロシアは現在毎日平均1万5千発の砲弾を使用しているとされており、約2か月分の弾薬を北朝鮮から入手した。ウクライナはNATOに砲弾100万発を求めているが、30万発しか入手できておらず、両者の差は圧倒的と言わざるを得ない。」と危惧する。
ジャーナリストの末延吉正氏は、「ロシアはある種“開き直った”状態とも言える。北朝鮮により接近することで、中国にもメッセージを送っているともいえ、これは朝鮮戦争当時と似た国際政治の構図ができつつあるともいえる。」と指摘する。
3)北朝鮮の軍事偵察衛星の能力が“約1mの解像度”を達成 その偵察能力は?
韓国の情報機関国家情報院は北朝鮮が打ち上げた「万里鏡(マンリギョン)1号」は1m程度の解像度があり、「初歩的な偵察任務だけが可能」と分析している。
山下氏によると、偵察衛星の「1mの解像度」とは撮影画像の画素の1片が指し示す地上の物体の長さであり1m以内の能力を持つと軍事利用が可能で、地上の建物や路上の車両の認識が可能になるという。
「米軍は10cmの解像度を実現しており、建物や軍用車両の種類の特定が可能とされる。画像を分析する高度なスキルを持つ解析要員も必要となり、現在の情報が正しいのならばまだ脅威になるとまでは言えない。しかしロシアが技術供与を進め今後北朝鮮が軍事偵察衛星の解析能力を向上させていくかが重要なポイントとなるだろう」と山下氏は分析した。
4)膠着状態の中、停戦・和平への新たな動きも?
11月22日に開催されたG20首脳会談で、ドイツのショルツ首相はプーチン大統領に対して、ウクライナへの侵攻をやめるよう呼びかけ「(プーチン大統領が)ウクライナの領土から軍隊を引き揚げて、そこでようやく戦争が終わる」と言及した。
プーチン大統領は「軍事行動は悲劇だ」「悲劇をとめる方法を考えなければ」と主張する一方で「ロシアはウクライナとの和平交渉を拒否したことはなく、ウクライナが交渉を拒否している」と従来の主張を繰り返した。
駒木氏はこの発言はロシアが昨年9月に編入宣言した4州については交渉の余地はないとしながらウクライナが交渉を拒否しているとして責任転嫁しており、これまでと変わらない主張であるとする。
しかし「ウクライナ国内でもオレクシイ・アレストビッチ元大統領府顧問が、NATOに加盟する代わりに、現在占領されている地域を軍事的に取り戻すことをあきらめてはどうかという意見も出ており、NATOの元事務局長からも同様の意見が出ている。戦闘の膠着状態が長引く中で着地点を見出さなくてはならないという動きが少しずつ出てきていることも事実ではある。」と指摘した。
駒木明義(朝日新聞論説委員、モスクワ支局長などを歴任しクリミア併合などを取材、国際関係の社説を担当。著書『安部VS.プーチン』ほか)
山下裕貴(元陸上自衛隊中部方面総監、第三師団長、陸上幕僚復調など要職を歴任。国際安全保障や防衛戦略などの情勢に精通)
末延吉正(ジャーナリスト、東海大学教授 元テレビ朝日政治部長 湾岸戦争など世界各国で取材 国際情勢に精通)
「BS朝日 日曜スクープ 2023年11月26日放送分より」