ウクライナ外相訴え『勝利のための「3つの要素」』ロシアの占領許す“コスト”とは!?

[2023/12/20 18:00]

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ロシア軍がウクライナ東部で大きな犠牲を出しながら激しい攻撃を続ける中、プーチン大統領は2024年の大統領選への出馬を表明し、ウクライナ侵攻に自信を見せている。

1)ロシア経済成長率はプラスに転ずるも原油価格下落で再び苦境に?

プーチン大統領は、12月14日恒例の「国民との対話」イベントで
「GDP(国内総生産)の成長率は年末までに3.5%になると予想されている。これは良い指標であり去年の落ち込みを取り戻したことを意味する」と経済の成長を強調した。

原油価格の推移
原油価格の推移

ロシア経済の大黒柱は原油だ。10月のロシアの原油・石油製品販売収入は113億ドルで2022年5月以来の高水準となり、ウクライナ侵攻前年の月間原油・石油製品収入を上回った。しかしロイターの報道によると、原油先物価格は11月には下落し3カ月余ぶりの安値となり、12月には6か月ぶりの安値を記録するなど、最近は下落が続いている。

グローバル経済分析を専門とする野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は「ロシアの経済成長率は昨年のマイナスからプラスに転じているが、これは国内で兵器を製造するなど軍需経済化が進む結果であり健全な経済成長ではない。民間経済や国民生活を圧迫した犠牲の上で成り立っている持ち直しだと言える。さらに秋以降は原油価格が下落しており、ウラル産原油は世界の原油市況よりさらに下落する。ロシアの原油収入は11月までで見ると前年比で22%減っており、再び財政に圧迫がかかり年末に向けて経済的にも逆風が吹き始めているといえる」と分析する。

プーチン大統領

12月14日にはプーチン大統領は経済的苦境を認める発言も行っている。
「残念ながらインフレ率は上昇し、年末には7.5%あるいはもう少し上がって8%になると予想されています。しかし中央銀行と政府は必要な対策を講じています」

木内氏は「今年は年初からルーブルが下落しており放置したままだと輸入物価が上がり国内の物価も上昇し国民の生活を圧迫する。そこで連続で政策金利を上げており現在は約18%に達している。現在インフレ率が8%で、名目金利が18%ということは、その差分だけ金融引き締めが進んでいるという状態だ。通貨防衛と物価安定のために経済が犠牲になっている。軍需経済化は金利水準と関係なく政府が命令すればモノを作れるが、民間経済は資金を借りてモノをつくらなければならない以上、民間経済が圧迫された不健全な経済成長になっていると言えるだろう。」と指摘した。

2)ウクライナのクレバ外相の求める「勝利のための3つの要素」とは?

クレバ外相

ウクライナのクレバ外相は14日、アメリカの外交専門紙「フォーリン・アフェアーズ」で次のような寄稿文を発表した。
「我々の目的は一夜にして達成されるものではない。しかし、ウクライナに対する国際的な支援を継続することで時間をかけて地元の反撃が前線で目に見える成果を上げることができる。ロシア軍を徐々に壊滅させプーチンの長期戦の計画を阻止することができる」

クレバ外相はさらに「時間はかかるが、ロシア軍に勝つ方法がある」として「ウクライナが勝利するための3つの要素」を挙げた。

3つの要素

1つ目が「軍事援助」で、ジェット機、無人機、防空ミサイル、砲弾、長距離兵器などウクライナが必要とする援助を続けることを求めた。

2つ目に「ウクライナだけでなく、欧米の産業能力の急速な発展が必要だ」として、砲弾などを製造する産業能力が、ウクライナと欧米双方に必要だとした。

3つ目は「ロシアとの交渉の見通しに対する、原則に基づいた現実的なアプローチが必要だ」として、「ロシア政府が公正な交渉による解決に応じると信じてはいけない。安易に停戦を求めない」ことも重要だとした。

予算

防衛研究所米欧ロシア研究室長の山添博史氏は、クレバ外相の声明の背景には現在のアメリカ国内での支援を巡る議論があると指摘する。
「アメリカの議会では、これ以上軍事支援をしてもうまくいかないのではないか、ウクライナが妥協して現在の紛争を凍結するしかないのではないかという議論があり、ウクライナがこれに反論している状況にある。
もしウクライナが妥協し停戦しても、ロシアがさらに領土要求をエスカレートさせ、軍事産業を活発化させ、さらにヨーロッパやアメリカへの挑発を拡大する可能性があるとも指摘されている。クレバ外相は、今、欧米のパートナーたちが軍事援助をすることで、将来のロシアのさらなる脅威を防ぐことができると主張している。実際にウクライナは、アウディイフカなどでロシア軍の攻勢をとどめており、クリミア半島への攻撃でも海上ドローンなどイノベーションを用いて穀物の輸出を可能にするという成果も収めてきた。さらなる支援と戦い方を工夫することでウクライナはまだ戦うことができるという反論だ」

渡部悦和氏(元陸上自衛隊東部方面総監)は「ウクライナはF―16ジェット戦闘機に加え、さらにF-18も支援として求めている。これは2024年に再度攻勢をかけて勝つために必要な支援として求めている。さらに長期的に見てウクライナはしっかりした軍事産業を築かなければならず、そのための支援も必要だと訴えている。短期的にも中長期的にもクレバ外相の提言は非常に重要だと考える」と述べた。

3)アメリカ議会でのウクライナ支援の行方は?ロシアが勝利すれば“将来さらに甚大な費用が必要”に?

アメリカ議会でウクライナ支援は未だに承認されない中、12月14日、戦争研究所は次のリポートを発表した。

「アメリカ人はロシアに勝利を許すコストを慎重に検討する必要がある。その費用はほとんどの人が想像しているよりも遥かに高い。ウクライナが現状の戦線を維持するのを助けることは、アメリカにとってウクライナの敗北を許すよりもはるかに有利であり安上がりだ」

戦争研究所

さらに「なぜウクライナが敗北するとコストがかかるのか?」について
「(ウクライナが負ければ)アメリカ軍は地上部隊のかなりの部分を東ヨーロッパに展開する必要がある」
「アメリカは欧州に多数のステルス機を駐留させなければならなくなる。これらの航空機の製造と維持には本質的に費用がかかる」

ウクライナ支援

「この事業全体には莫大な費用がかかり、その費用はロシアの脅威が続く限り場合によっては無期限に続くことになる」と指摘した。

山添氏は戦争研究所の提言について次のように述べた。
「“ロシアが勝利したときは将来さらに大きな負担が必要となる”という状況が、クレバ外相やアメリカ議会や専門家の間で論争になっている。ロシアが勝利し増長するならばヨーロッパ防衛にさらなるコストがかかり、国際的なアメリカのリーダーシップが疑われ、抑えの効かない世界になってしまう。それは国際秩序全体に響いてくると指摘する専門家もいる。今アメリカがぶれてもイギリスや日本の世論がぶれないでいれば、しっかりしたアメリカの世論が戻ってくる可能性もある。そのような視点から我々日本も冷静に状況を見極める必要があるだろう」

渡部悦和(元陸上自衛隊東部方面総監 安全保障政策や防衛戦略などの情勢に精通、著書『プーチンの超限戦』など)

木内登英(野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト2012年に日銀審議委員に就任。専門はグローバル経済の分析。米独で駐在経験)

山添博史(防衛省防衛研究所。米欧ロシア研究室長。ロシア安全保障等を研究。共著『大国間競争の新常態』ほか)

「BS朝日 日曜スクープ 2023年12月17日放送分より」

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