ナゼここに？県外からも殺到“行列食堂”のヒミツ 夫婦が作る極上料理…娘との約束
スーパーJチャンネル
[2024/03/16 17:00]
今回、追跡取材班が向かったのは、「真夜中に謎の行列ができている」という、とある山中。果たして、行列の先には一体何が？一方、熊本県阿蘇山の麓にも！なぜ、こんな所に？“行列食堂”のヒミツを追跡します。
■標高700m…なぜここに？真夜中の行列
山梨市の南部にそびえる棚山。標高700メートルにある駐車場には、すでにおよそ100台の車が止まっています。さらに、暗闇に謎の長い行列ができています。
「（Q.何時から並んでいた？）3時半くらいですかね」
「3時くらいに着いた」
そして、100人以上の人が次々と階段の下へ。一体、何の行列なのでしょうか？
「日の出見ようかなって」
行列の先にあったのは、「露天風呂」です。右手には、富士山。そして左手からは御来光が見えます。皆さん、この絶景を見るために真夜中から並んでいたのです。
棚山の中腹に湧き出る秘湯。その名も「ほったらかし温泉」です。
「初めて日の出を見たけど素敵でした。ちょっとずつ太陽が昇るのが良かったです」
温泉につかりながら雲海も見られる大人気のスポット。寒いこの時期でも、多い日でおよそ2000人が訪れます。
「富士山がきれいに見えて」
「寝っ転がって入れたのが良かった」
次のページは
■「朝食食べたい」要望に…「卵かけご飯」■「朝食食べたい」要望に…「卵かけご飯」
午前7時すぎ、ある異変が起きています。
夜中の露天風呂への長い行列ですが、なぜか、夜明けとともに、別の方向へ行列が発生しています。
「（Q.何分くらい並んでます？）30分くらいですかね。あと30分くらい並ぶ」
「うまいですよね」
「絶対食べるよね」
行列の先にあったのは食堂です。
お目当ては、この一品勝負の「卵かけご飯」。たき立てのごはんと、熱々のキノコの味噌汁、納豆がセットになって700円です。
主役の卵は地元・山梨県の「ワイン卵」。ワイン作りの際に出るブドウの皮を餌（えさ）に混ぜることで、ポリフェノールが豊富で強いコクと甘味が自慢のこだわり卵です。
並んだ末に手に入れた卵かけご飯を持って、皆さんが向かうのが、目の前に富士山と絶景が広がる特等席です。
「景色がいい。空気がいいから」
「新鮮味があっておいしいです」
実は、この食堂は「温泉の後に朝食を食べたい」という声が殺到したため、つくられたといいます。
「手間をかけず」「日本人が大好きな朝食」をと考え、ひらめいたのが「卵かけご飯」でした。
先ほど30分以上並んでいた家族も、ようやく食べられました。
「濃い。濃いめ。おいしい」
「景色を見ながら食べるだけでも価値ありますよね」
次のページは
■阿蘇の麓「隠れ家食堂」 県外からも殺到■阿蘇の麓「隠れ家食堂」 県外からも殺到
続いて向かったのは、熊本県阿蘇の麓です。熊本市内から車でおよそ1時間…。
「ここを曲がるんですか？」
「ナビだとここですね」
車は舗装されていない狭い農道へ。
「看板がありました。お食事処隠れ家『父娘庵（おやこあん）』。向こうにもありますね。看板を追って行けばお店があるようです」
さらに山道を進んで行くと…。
「看板がありました」
お店の前には、開店を待つお客さんの列がありました。
「（Q.どちらから？）山口県」
「（Q.何時間かかった？）4、5時間くらい」
「（福岡県）北九州から」
人気店のため整理券が配られ、午前11時の開店には続々と人が集まります。そして、オープン後すぐに店内は満席になりました。
標高470メートル。大自然が広がる阿蘇の麓にひっそりとたたずむ、まさに「隠れ家・父娘庵」。一番の人気メニューは、黒毛和牛の焼き肉定食2500円。阿蘇で育った最高級A5ランクのサーロインが使われています。
「んーおいしい。歯がなくても食べられる」
「とろける」
山口県から5時間かけて訪れたお客さんはこう話します。
「めちゃくちゃおいしいです。柔らかいですね」
お店を切り盛りしているのは、店主の山内幼一さん（69）と、妻の恵美子さん（67）です。
「A5の上級クラスの肩とかリブ・サーロインしか使ってない」
山内さんは元々、熊本県内のホテルや飲食店でシェフとして腕を磨いてきました。
とにかく、こだわりはこの黒毛和牛。自ら選び抜き、阿蘇で年に70頭しか販売されてない最高級のレアものだと言います。
ステーキ用には、一頭から8キロしか取れないサーロインの、さらにおいしい部分だけを使います。
「こういう所は取ってしまって焼き肉定食用にする」
1センチと分厚く切ったサーロイン。肉汁を閉じ込めるために表面をさっと焼いて、仕上げにフランベします。
「これがステーキです。レアで。後は鉄板が熱いのでお好みで」
最高級の黒毛和牛をぜいたくに使ったステーキ定食です。
「赤みが残ってるくらいの焼き加減も最高です」
「おいしいです」
「こういう所は、カレーとかシチューに使って、少しでも安くお客さんに出せるように。ステーキと焼き肉だけだったら赤字になる」
「おばあちゃんも連れて来ます。来たいって言ってたので」
「ぜひ連れて来て下さい」
月に1回は訪れるという常連客はこう話します。
「ここのデミグラスソースがおいしい」
自家製のデミグラスソースは1週間かけてゆっくり煮込んだもの。使われるお肉は、サーロインの切り落とし部分を。地元産の野菜も添えて、こちらが常連客一押しのビーフシチュー。1週間煮込んだ黒毛和牛は、トロトロです。
次のページは
■お客さんに喜んでもらうために…店主の想い■お客さんに喜んでもらうために…店主の想い
この日来たお客さん、何かを手渡しますが、実はこれ、スタンプカードなんです。
「5回来てくれて、6回目にメニューにないものを主人がサービスで（特別料理を）出すんです」
こちらの男性2人組は、なんとわざわざ埼玉から訪れ、しかも2日連続の来店です。
忙しいランチタイムの中でしたがこれから埼玉に帰らなくてはならないと聞き、急きょサービス料理を作り始めます。
「サービスは、チキン南蛮」
「おー」
「食べてください」
「ありがとうございます」
無料サービスは特製チキン南蛮です。
「おいしいです。サクサクしていて」
「肉厚でジューシーでおいしいです」
「良かったです」
「楽しみがあれば、来る楽しみもできる」
実は山小屋のような温もりを感じる店は、山内さんが倉庫を2年かけリフォームしたもの。さらに、お客さんを待たせたくないと、離れまで自分1人でつくったといいます。
「お客さんが、ゆっくりできるような落ち着いて食べられるような雰囲気にしたかった」
すべてはお客さんに喜んでもらうために。こうした想いと絶品料理にひかれ、連日たくさんのお客さんが詰め掛けます。
次のページは
■なぜここに…亡くなった娘との約束■なぜここに…亡くなった娘との約束
ところで一体なぜ、街から離れた阿蘇の麓にお店を出したのでしょうか？
そこには、夫婦のつらい出来事がありました。
4人の子どもに恵まれ、隣の町で暮らしていた山内さん家族でしたが…。
「娘が亡くなって、家の側だったから」
2006年、当時18歳だった次女の由美子さんが自宅近くでの不慮の事故で帰らぬ人となりました。
「毎日思い出すじゃないですか。離れたほうがいい」
2年後、家族は、心が落ち着ける自然豊かな阿蘇の麓へ。ジブリが好きだったという由美子さんも森や自然が好きで喜んでくれると思ったといいます。
その後、この場所で洋食店を始めます。実は…。
「（生前）娘が『お父さんと大きくなったらお店がしたい』って小さいころから言ってたから」
そして、店の名前の「父娘庵」も…。
「（家で）料理作る時はいつも横にいた。じゃあ、お店の名前決めとこうかってお父さんと娘だから『父娘庵』に決めとくねって」
夫婦が開いたこの「父娘庵」は、娘との約束でもあったのです。
「こんな絵も描くんですよ。『お姉ちゃんの未来』」
「（次女の部屋を）整理してたら出てきて、こんなの描いてた」
店内には、絵を描くことが好きだった由美子さんの絵。そして、店の看板にも使われています。
「看板の絵を見て、気になってましたって人が多い。娘がお客様を連れて来てくれている」
阿蘇の麓にひっそりと建つ、小さな洋食店。きょうもお客さんが訪れています。
