高校時代、186cmの長身でカリスマ読者モデルとして人気を博し、19歳で俳優デビューした弓削智久さん。2002年、「仮面ライダー龍騎」(テレビ朝日系)の由良吾郎役で注目を集めて以降、「仮面ライダー」シリーズ3作品に出演。2007年、映画「サクゴエ」(本田隆一監督)で脚本も担当。2011年には短編映画「FREE」で初監督。12月14日(土)に映画「きみといた世界」(政成和慶監督)が池袋シネマ・ロサにてレイトショー公開される弓削智久さんにインタビュー。
■共学が羨ましくて「男子校」を有名にするため読者モデルに
東京で生まれ育った弓削さんは、子どもの頃から「X JAPAN」の大ファンだったという。
「X JAPANは今でも好きなんですけど、周りのみんなにアルバムを聞かせて流行らせていって、親の口紅とかを持ち出してちょっと化粧もして真似していた時期がありましたね。小学生の時にはいつもX JAPANを聞いて塾に通っていました」
――将来は音楽の道に進みたいと思っていました?
「音楽はそのあとですね。ビジュアル系から急に兄貴の影響でヒップホップとかを聞くようになって。兄貴がDJブース(ミキサーと2台のターンテーブル)を持っていたので、ソファーと交換してもらって手に入れて。それからレコードもずっと買い続けていたので、家には軽く2000枚ぐらいあります。
だから、子供の頃はX JAPANを聞いていたんですけど、結局ヒップホップとかR&B、レゲエとか、もう少し年を重ねるとハウス(ミュージック)とかテクノ(電子楽器を使って作られた音楽)とかをクラブでDJやっていましたね」
――高校生の時からモデル活動をされていたというのはスカウトされてですか
「そうですね。正式なモデルではなくて読者モデルです。高校生雑誌に先輩が出ていたので、文化祭の時に『面白い後輩がいるよ』って呼んでくれて。それから高校3年間ずっと楽しかったですね。学校外の友だちもできて。
そもそもは、自分の高校を少し有名にしたいという気持ちがあって始めたんです。男子校だったので面白みがなかったんですよ。中高が共学の子たちが羨ましくて。みんな彼女とかできるじゃないですか。
でも、そういうのは自分からアクションを起こさないとできなかったので、『とにかく学校を有名にしようぜ』という感じで(笑)。その夢は叶ったんですよ。高3の時に『一番文化祭に行きたい学校ランキング』に入ったので」
――「カリスマ高校生モデル」として知られることになって、女の子から手紙を渡されたりすることもあったのでは?
「そうですね。不良と女子高生が両方来るような感じですかね(笑)。僕を面白くないと思っている不良と、そういう雑誌を見て興味を持ってくれている人が文化祭に集まるということはありました。それがきっかけで、今の事務所の社長に声をかけていただいて」
――その時は、モデルの世界でやっていこうという考えはなかったのですか
「全くなかったです。本当に何でこんなことになっているんだろうと思っていたので。高校の時も役者をやるという気持ちもなかったですし、音楽の方がまだあったかな。DJで有名になりたいっていう気持ちはあったので。
当時は有名高校生って言ってもSNSもYouTubeも何もない時代で、紙だけの人。たまに『ASAYAN』(テレビ東京系)とかテレビには出ていましたけど、知らないおじさんに『見たよ』って声をかけられたりして、『テレビってすごいな』って思いました。
でも、本当に高校生じゃなくなった瞬間、全員興味がなくなっちゃったので、高校時代はボーナスタイムだと思うことにして、普通に大学に行って…と思っていたら、社長から『大学在学中だけちょっと芸能をやってみたら?』って言われて。
『無理だよ。やろうと思ってないんだもん』って思ったんですけど、『小市民ケーン』(フジテレビ系)という木梨憲武さんが主演のドラマの現場に行ってみたら何もできない自分がいて。
木梨さんは僕のことを今はもう覚えてないかもしれないですけど、当時生徒役とかにも優しくて、すごくうれしかったんですよね。とんねるず世代なので、カッコいいなあって思って、そのあと木梨さんのお父さんがやっていたお店に自転車を買いに行きました(笑)」
――お芝居をやってみて俳優をやっていこうという考えに?
「いや、その時はまだなかったです。でも、一度だけ、そのドラマの照明のスタッフさんに、『今のすごい良かったよ』って言われた日があって、何か今までにない感情が生まれたというか。
それで、『うまくなりたい。嘘をつかずに本当に見えるようになりたい』と思って、舞台とかもやっていくようになったという感じです。舞台は舞台で、またすごい世界だなと思いましたけど」
――最初に舞台に出演された時はいかがでした?
「大変でしたね。多分向いてないんですけど、ここでしかない瞬間っていうのは確実にあるなって思いました。役者って人よりも拍手を浴びる回数が多いんですよね。
どれだけ小さい舞台でも大きい舞台でも、人に対してお客様が拍手する瞬間って舞台とか舞台挨拶とか、生の場所でしか感じられないことじゃないですか。その瞬間がやっぱり一番好きですね。本当の拍手を感じた時に、これはやめられないなっていう気持ちになったのを覚えています。
それまでは稽古だって怒られてばかりで苦しいじゃないですか。当時は特に怒られていましたからね(笑)。だからそれは思います。舞台の好きなところの一つですね」
■「仮面ライダー」シリーズに最も多く出演した俳優は殆ど変身しなかった
大学に通い、舞台の仕事をしながらテレビや映画のオーディションを受けていたという弓削さん。2002年、「仮面ライダー龍騎」のオーディションを受けて出演することに。凄腕の弁護士・北岡秀一(仮面ライダーゾルダ)の秘書兼ボディガード・由良吾郎役を演じた。
「大学在学中だったんですけど、オーディションに受かって。『仮面ライダー龍騎』で1年間同じ役をやらせてもらいました」
――「仮面ライダー龍騎」で弓削さんのことを知った人が多いですね。吾郎ちゃんは、料理はできるし性格もいいし、腕力も強い、完璧な人でしたよね
「そうですよね(笑)。最初はどういう役なんだろうって思っていたんですけど、脚本も自分の選択した芝居をピックアップして反映させてくれたので、そういう意味ではすごく楽しかったですし、今でも『吾郎ちゃん』って呼んでくれる人が結構多いんですよ。もう20年経ったんですけど、ありがたいですね」
――最初は仮面ライダー龍騎役のオーディションで行かれたのすか
「そうです。主演オーディションだったので。でも、自分が主演には絶対選ばれないだろうなって思っていたんですよ。二枚目の綺麗な顔の子が主演になるだろうなって思っていたので。
だからオーディションの時に、『これは主演以外の役にも見ているんですか?』って聞いたら、『そんなこと聞いたやつ初めてだよ』って、プロデューサーがめちゃくちゃ笑っていました。後にプロデューサーの白倉(伸一郎)さんと武部(直美)さんに聞くと、『突拍子もないことを言って面白かった』って(笑)。
最終オーディションで一緒だった4人はみんなメインキャストに選ばれました。4人並んだ時どうなのか、並びを見たかったみたいで。でも、受かって、仮面ライダーになれると思ったら変身する役じゃなくて」
――仮面ライダーゾルダに変身するじゃないですか
「最後の最後にですけどね。でも、僕は当時尖っていたのか、『別に変身とかしたくないし、七味とかスパイスみたいな役で出たいんです』みたいな生意気なことを言っていたんですよ。そうしたら、『本当に変身しないじゃん』みたいな(笑)。変身シーンがほとんどない。
それで悔しかったですね。『仮面ライダーに出ているけど変身してないよね。あれは何なの?』とか言われたりして。『弁護士秘書です』って言っていましたけど。
『踊る!さんま御殿』(日本テレビ系)に出させてもらった時も、さんまさんに『お前は何だ?仮面ライダーじゃないのか?』って聞かれたから『弁護士秘書です』って言ったら、『仮面ライダーに秘書がいる時代なんや』みたいな感じでいじってくれて。結構ウケたので良かったですけど」
――仮面ライダーゾルダに変身した時はいかがでした?
「うれしかったです。何とか僕も変身することができて良かったなあって(笑)」
――長身ですし画になりますよね。撮影スケジュールはかなりハードだと聞いていますがいかがでした?
「結構大変でした。主演の須賀(貴匡)くんとか松田(悟志)くんは本当に大変そうでしたね。毎朝5時ぐらいに行かなきゃいけなかったりするので、撮影所の近くに引っ越す人もいるくらいで。僕は緩めな撮影スケジュールでした。撮影した1年も、大学に通えていたぐらいなので」
――放映が始まるとかなり反応があったと思いますが
「そうですね。応援してくれる人が増えた感覚は、本当に徐々に15話ぐらいの放送が終わった時に感じました。仕事をする上でも意識は変わりました。やっぱり身だしなみに多少気をつけるようになりましたね。
それまでは舞台とかに出ていると毎日が稽古なので、動きやすい格好でとか、整髪料もつけずに朝起きたまま稽古場に行くみたいな感じだったんですけど、ちょっと変わりました。メンバーもどんどん変わっていって、みんな何かおしゃれになっていきました(笑)。回を追うごとに変わっていくみたいな」
――「仮面ライダーカブト」、「仮面ライダー鎧武/ガイム」、「仮面ライダーアマゾンズ」
にも出演されていて、“最も多く仮面ライダーに出演した俳優”と言われていますね
「そうですね。4作品に出ていますけど、最後(Amazon Prime Videoの『仮面ライダーアマゾンズ』)は殺人犯役ですから。
あれを撮ってくださったのが『仮面ライダー龍騎』の石田(秀範)監督で、『めちゃくちゃやっていいよ。地上波じゃできないことをやろうぜ』って言ってくれたので、思いっきりできました。監督の演出を逃さず聞いて、自分が持ってきたものとすり合わせて反映するという形でした」
――“仮面ライダーに最も出演した俳優”と言われていることについてはいかがですか?
「そう言われていますけど、わからないですね。いっぱい変身した人(スーツアクター)や声の出演の人もいるし、僕はただの“おやっさんポジション”だったりしますからね(笑)。僕は4作品出ていますけど、最初の『仮面ライダー龍騎』の最後の1回と、もう1回しか変身してないです。『仮面ライダーカブト』の途中で『戦い方を教えてやる!』と言って無理やり変身するシーンが2回。変身したのはそれだけです」
――もっと変身したかったですか?まだこれからもあるかもしれないですけど
「変身したいですよ。だって未だにみんな『変身ポーズをとってください』って言われて、トークショーとかでもやっていますけど、僕は何にもないですからね。ファイティングポーズをしておしまいです(笑)」
「仮面ライダー龍騎」で注目を集めた弓削さんは、2007年にはW主演を務めた映画「サクゴエ」で脚本家デビューも果たした。次回は脚本執筆のきっかけ、撮影エピソードなども紹介。(津島令子)
※弓削智久プロフィル
1980年5月25日生まれ。東京都出身。
1999年、「小市民ケーン」で本格的に俳優としてデビュー。2002年に「仮面ライダー龍騎」に由良吾郎役で出演。2006年には「仮面ライダーカブト」、2013年に「仮面ライダー鎧武/ガイム」、2016年「仮面ライダーアマゾンズ」(Amazon Prime Video)に出演。映画「スラッカーズ 傷だらけの友情」(渡邊貴文監督)、映画「彼岸島」(キム・テギュン監督)、「パンドラの果実〜科学犯罪捜査ファイル〜Season2」(Hulu)などに出演。12月14日(土)〜12月27日(金)に池袋シネマ・ロサにて映画「きみといた世界」の公開が控えている。