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2024年11月8日 13:48

俳優・弓削智久【2】初めて脚本を書いた映画の現場ではスタッフ兼任!“燃え尽き症候群”に

2024年11月8日 13:48

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2002年に「仮面ライダー龍騎」(テレビ朝日系)の由良吾郎役で注目を集めて以降、シリーズ3作品に出演し、“最も多く仮面ライダーに出演した俳優”と称されている弓削智久さん。2007年、W主演をつとめた映画「サクゴエ」(本田隆一監督)で脚本家デビューを果たし、2009年には短編映画「FREE」で初監督もつとめた。

■事務所社長に「書いてみなさいよ」と言われ脚本家デビューに

2007年、中村靖日さんとW主演をつとめた映画「サクゴエ」が公開された。この作品は、騙されてヤクザに追われるハメになり、自殺しようとビルの屋上に行った男・森田(中村靖日)が、そこでトミーと名乗る不思議な青年(弓削智久)と出会い変わっていく様を描いたもの。弓削さんは、親友のヤクザの裏切りにより、2年間ビルの屋上で逃亡生活を送っているヤクザ・トミーを演じた。

――この映画で脚本家デビューもされましたが、脚本はいつ頃から書こうと思っていたのですか

「初脚本というか、あれだけしか書いてないので。朗読劇とか、世に出してないものは色々あるんですけど」

――「サクゴエ」の脚本を書くことになったのは?

「(事務所の)社長に『俺が書いた方が面白いよ』みたいなことを言ったら、『じゃあ書いてみなさいよ』って言われて書いたのが『サクゴエ』だったんです」

――勢いで書いたという感じですか

「そんな感じですね。当時僕が住んでいたマンションの屋上が共有スペースになっていて、木刀を振ったり、日焼けしたり、台本を読んだりする場所だったんです。居住者に勝手にどうぞという感じだったので、よく使わせてもらっていて。その屋上からいつも富士山が見えていたんです。それで、その富士山の場所が、ある日変わっていたらどうなのかなって思って。

車で中央道を山中湖に向かっていて走っていると、右にあった富士山が左に見えるようになるじゃないですか。もちろんそれは自分の場所が動いているから変わって当然なんですけどね。

それこそ大学生の時に、『授業終わりで山中湖に行こうぜ』って友だちと行った時に夜だったんですけど富士山が見えていて、月明かりで右にあった富士山が左にある、富士山が動いたみたいな感じがして。

そのエピソードをちょっと繋ぎ合わせて、そこ(屋上)に住み着いちゃっている自分と、そこに飛び降り自殺に来た人間のお話を最初はショートフィルム用に書いていたんです。そういうのがきっかけでしたね」

――実体験が結構活かされていたのですね。2年間屋上で隠れて暮らしていて、ようやく身の潔白が証明されたのに…皮肉な展開でしたね

「そうですね。やっぱり人生ってそうそううまくはいかないものじゃないですか。なので、ああいう形にしました」

――ご自身で脚本を書いた作品に主演するというのは、どんな感じでした?

「ちょっと嫌でしたね。ナルシストみたいで(笑)。当時は、脚本だけ提供できればいいなっていう風に思っていたんですけど、監督が是非ということだったので出ることになりました。あの時期は本当に書くのが面白かったので、いくらでも書ける感じがありましたね」

――トミー役、合っていましたね

「やっぱり自分で書いていますからね。自分のやりたい役をやるために。『仮面ライダー龍騎』以降、悪役が増えすぎちゃって(笑)。犯人だ、殺人犯だ、少女の白杖を思いっきり蹴る奴だったり…とにかく人でなしの役がすげえ来るみたいな時期があって。親に『私はあんたをそんな風に育ててないのになあ』って言われたりしましたからね(笑)。

『来た仕事をやっているだけなんだよ』とか言いながらも、やっぱりストレスを感じていたみたいで。『じゃあ、今一番やりたい役ってなんだろう?』って思って書いたのが『サクゴエ』だったのかもしれないです。

ああいうちょっとつまらないことを言いながらも、別に怒鳴るわけでもなくナチュラルにしゃべって日々を過ごして…というのを1回やってみたかったんですよ。それって役との巡り合わせがないとできないじゃないですか。

僕みたいにゲスト出演が多いと、一発勝負。出来上がった空気の中に何か雷のように入って行って、ワーッて暴れて荒らすだけ荒らして、どれだけ暴れられるかみたいな勝負になっていたので。

だから、バックボーンがある悪役とかは大好きなんですよ。それがなくて、ただ叫んでいるとか、弱者みたいな悪役は演じるのが難しいって思うんです。殺人犯や泥棒だって、飯を食ったり、家族と会ったり…そこまで描いてくれれば、何かすごくいいじゃないですか」

――トミーはいい役でしたよね。親友のためにヤクザになったけど理性もあって。その親友に罪を被せられて逃亡することに。中村靖日さんとのコンビも良かったです。中村さんは今年7月10日に急性心不全で亡くなられて本当に残念です

「ショックです。まだ51歳でしたし、あまりに急だったので…。すごく残念ですが、僕の脚本の映画でご一緒できたことは、本当に光栄です」

■初めて脚本、主演の作品が海外の映画祭で「最優秀外国語映画賞」受賞!

映画「サクゴエ」の撮影では、衣装や車の運転をすることもあり、自主映画の現場のようだったという。

「『サクゴエ』は、毎日打ち合わせをして17回ぐらい書き直して。予算もなかったので自分の車を出して衣装管理もしていました。衣装さんを毎日現場につけるとギャラがどんどん上がっていっちゃうから、W主演なんですけど(衣装合わせで決まった衣装を)自分の車に積んで、自分で管理して。

衣装に番号を振って、出てくれる役者さんには『これ着てください』って渡したり、移動車も僕の運転で役者さんを乗せたりしていたので、自主制作の感じでしたね。ちょうどその時黒い車に乗っていたので、(劇中の)覆面パトカーも実は僕の車だったり(笑)。そういう感じで1本作ったら、もうこれ以上書きたいものがなくなっちゃったんですよ、本当に。

自分の(脚)本で何とかというのは、あまり思わなくなったんです。役者の方が…というのもありますけど、書きたいことがなくなっちゃったんですよ。『サクゴエ』が終わったあと、ぽっかり穴が開いたみたいになって。

あまり知られてないですけど、アメリカ・カリフォルニアで行われていた『Gone With The Film Festival』で最優秀外国語映画賞をもらったんですよ。僕はカリフォルニアに行ってないですけど、トロフィーだけ送られてきて。普通は監督がトロフィーをもらうものなんですけど、『トロフィーは弓削くんに』って言ってくれて今も家にあります。

でも、何かもっと騒ぎになるのかなって勝手に想像して過度な期待をしていたら、そういうこともなく…。だから、結構人生を考え直した時期ではありましたね。やりきった感がありました」

――“燃えつき症候群”みたいな感じでしょうか

「そうかもしれないです。スタッフみたいなことも一生懸命やって作って完成したという段階で。だからやっぱり継続するってすごいなと思います。でも、もし賞とかが獲れてなかったらどうだったかな…と。

今でもちょっと書いていますけど、完成して人に見せるということは、今はあまりないですね。時代も変わっちゃったので、映画でやる意味はあるのかなとか…そういうことを考えてしまいます」

――コロナウィルスの影響もありますか?

「コロナは、自分自身に変化があって、コロナの時期から体を鍛え始めました。何かこのままだと大変なことになりそうだって思って。それで、今は結構筋トレが趣味だったりします」

――「スラッカーズ 傷だらけの友情」(渡邊貴文監督)では野球など、スポーツを題材とした作品にも結構出演されていますね

「そうなんですけど、本格的なトレーニングというのはしてなくて。腕立て伏せとか、自分でできるトレーニングはずっとやっていましたけど、今は体重を変えずに筋肉は増やして、脂肪を減らして…みたいな。筋トレを始めて4年ぐらいなんですけど、韓国の俳優とかはすごいじゃないですか。カッコいいなと思って」

――そうですよね。大胸筋とか上腕二頭筋とかすごく綺麗になっていますよね

「そう。大胸筋と上腕二頭筋も結構鍛えています。娘が生まれて結構意識が変わりましたね」

――2013年にご結婚されて、4歳のお嬢さんと1歳の息子さんのパパですが、弓削さんのお仕事のことはわかっているのですか?

「何か特殊な仕事をしている人だという印象は少しあるかもしれないです。出演作品は全然見せてないですけど。『仮面ライダー』とかを見せるとやっぱりちょっと困惑しちゃうと思うので。前に友だちの子どもが今のうちの娘と同じ4歳ぐらいの時に(ライダーに)変身して見せたんですけど、それから僕のことを結構リスペクトするようになって(笑)。

でも、その感覚って娘に対していらないなと思うので、娘には見せてないです。何か大変なことが起きた時に『早く変身してよ!』とか言われても嫌ですから(笑)。だから、もっと普通でいいのかなっていうのはあります」

――4歳だと幼稚園ですか。『パパ、カッコいい』って自慢なのでは?

「いや、周りのお父さんお母さんは結構若い子が多いのでね。僕は44なので結構上の方なんですよ。だからそういうのもあって、体を鍛えておいた方がいいなみたいなのはありますね」

――インスタなどのお写真を拝見すると、筋肉がすごいことになっていますね

「ちょっとハマり症なんで、ハマっちゃったんです(笑)。それこそ10代とか20代はクラブでDJをやったりしていたので、不健康そうな感じの役が多かったです。当時は人生を通してみても特殊な、人間として未完成な時期で、でも危うさとか凶気とかが悪役にハマったんですけど、30代、40代、50代で不健康そうだと本当に病気じゃないかと心配されちゃうだけなので(笑)」

――影のある役が結構多かったですよね。ミステリアスな雰囲気が合っていました

「そうですね。あまり健康そうにバキバキに鍛えてない方がよかったですね。でも、別の自分を見てみたいなって思うようになって。自分次第で来る役が変わったりするんだって。痩せることはできるけど、1カ月後にムキムキになってくださいというのはできないと思うんですよ。

なので、いい位置に自分を置いておいて、どっちにも振れるようになりたいと思っていて。

より健康というのが自分的にもいいし…という感じですかね。

筋トレをやり始めてから体調がめちゃくちゃいいんです。多分今が一番体力もあると思います。昔は話している途中で寝ちゃう時もあったりしたんですけど、そういうこともなくなりました(笑)」

現在の体脂肪は13%ぐらいだというからアスリートの雰囲気。次回は、「仮面ライダー龍騎」で共演した須賀貴匡さん主演で監督業に挑戦した短編映画「FREE」の撮影に密着したドキュメンタリー映画「バカは2回海を渡る」(渡邊貴文監督)の撮影エピソード、12月14日(土)に公開される映画「きみといた世界」も紹介。(津島令子)