法政大学在学中に「仮面ライダー(スカイライダー)」(TBS系)の主役に抜擢された村上弘明さん。185cmの長身と端正なルックスで人気を集め、「御宿かわせみ」(NHK)、「娘が家出した夏」(TBS系)、「うわさの淑女」(TBS系)などに出演。主演舞台「タンジー」を機に、本格的に俳優活動をスタート。「必殺仕事人」シリーズ(テレビ朝日系)、第11回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞した映画「極道の妻たちII」(土橋亨監督)、「白い巨塔」(テレビ朝日系)などに出演。同時期に主演ドラマ4本を抱えるほど引っ張りだこの状態に。(この記事は全3話の中編。前編は記事下のリンクからご覧になれます)
■オーディションで転機となる舞台に主演!
1年間に渡る「仮面ライダー(スカイライダー)」の撮影を終え復学した村上さんは、「御宿かわせみ」、「うわさの淑女」など俳優活動をしながらも教職を得るために大学に通っていたという。
――そのときはまだ教師になるということも考えていたのですか
「そうですね。映画が好きだったので映画評論家もいいなとは思ったけど、カメラの前に出て評論家というのも何かなと思ったし、役者としてもどうなのかなって。
あまりお芝居の才能があるとも思わなかったし、周りの評価もそんなに良さそうな感じでもないし…やっぱり堅気の仕事に戻ろうかなと思ったんだけど、そうしたら、またオーディションを受けることになって、またそれも受かるわけですよね。
そのときに受かったのがプロレスを題材にした『タンジー』という舞台で、役が決まってから間もなく女子プロレスのジムに通って本格的な訓練をやって、“飛び蹴り”や“ボディスラム”などの技もマスターして。
この舞台がちょっと変わっていて、劇場の真ん中にリングを作って四方を客席にして、本当にレスリングの会場みたいにしてね。主演の男女はダブルキャスト。青チーム、赤チームの2チームにして赤コーナー、青コーナーから登場して芝居を始めるわけですよ。
稽古もしっかりやっていたから動きもセリフも完璧に入っている。いろんな創意工夫をやって、少しでも面白く作り上げていって。
すると本番ではお客さんがドカーンと沸いてくれる。そうなるとこちらも乗ってくる。それで、早めに劇場に入って相手役とアイデアを出し合い、いろいろ試してみるようになりました。ときどきアドリブを交えたりしてね。そうすると、さらにお客さんが盛り上がるんです。
青チーム、赤チームでしのぎを削るわけじゃないですか。どっちが評判がいいか、どっちがウケるか…とかね。
そうすると、こっちももっと向こうよりいいものを作ってやろうかとか、こうしたら面白いんじゃないかって2人でアイデアを出し合うわけですよ。相手役の女優さんに『じゃあ俺がこういう風にやるから、こう言って』とかね。いろいろやりながら作っていく。
そうするとお客さんの笑いとかが、自分たちの言葉とか一挙手一投足で引いたり、ガーッと食いついてきたりというのが手に取るようにわかって。肌で感じましたよね。結構お芝居って面白いなと、そのときに芝居の面白さというか、とっかかりをちょっとつかめたような気がしたんですよね」
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■「必殺仕事人」にレギュラー出演することに■「必殺仕事人」にレギュラー出演することに
「タンジー」の舞台がきっかけで次々にドラマ、映画、舞台のオファーが舞い込むようになり、大学を中退することに。
「マネジャーが多分呼んだんだと思いますけど、いろんな方が見に来てくれたみたいで。
それこそ、坂東玉三郎さんとか、『必殺』シリーズのプロデューサーがわざわざ京都から劇場に見に来てくれたりとかね。
玉三郎さんの舞台『黒蜥蜴』、『必殺仕事人』、NHKの大河ドラマなど、全部別の分野の仕事が来るようになって。そこからですね。少しずつ忙しくなって売れてきた…というのがね」
――大学は?
「頑張って時間があるときは行っていたのですが、仕事が忙しくなって大学に行けなくなりましたからね。もうちょっと行けば単位が取れるという時に仕事がワーッと忙しくなったんですよ。
『仮面ライダー』出演が親にバレたときは、『何やっているんだ』って叱られましたが、『大学はちゃんと出ておいた方がいいぞ』って言われていたので、撮影が休みのときは必ず行っていたし、空いているときもね。
『タンジー』の稽古中も空いている時間は大学に行っていましたよ。みんなは遊びに行ったり、飲みに行ったりしているときに大学に行って」
――ご両親は大学を中退することになったときは?
「大学をやめると言ったら、やっぱりがっかりしていたけど渋々了承してくれたという感じでした。ただ、その頃は結構テレビに出ていたし、親も画面で息子の姿を見るのは楽しみになってきていたみたいで」
1985年から必殺シリーズ「必殺仕事人V」にレギュラー出演することに。必殺シリーズは、中村主水(藤田まこと)を中心に、金銭を貰って晴らせぬ恨みを晴らす闇稼業・仕事人たちの活躍を描いた時代劇。
村上さんは、“鍛冶屋の政”(初期は“花屋の政”)役で出演。カツラではなく地毛で、所作も言葉も現代人のままでダイナミックなアクションを繰り広げる様は惚れ惚れするほどカッコ良く大人気キャラに。
「『必殺仕事人』は4シリーズ出ましたが、その間、映画もあったし、スペシャルもやっていましたからね。だから、シリーズとしては4シリーズだったんだけど、『タンジー』が終わった後、『村上さんには一度ゲストで出て欲しい』と言われたんです。
その結果、からだも大きいしダイナミックな感じもするからアクションで行くということになって。それから京都暮らしが始まって、それと同時に、大河ドラマの『春の波濤』(NHK)がちょうど同じ時期に始まったんですよね。だから、京都と東京を行ったり来たりしていました」
――ハードスケジュールでしたね
「でも、まだまだその辺りはそうでもない。序の口ですよ。それから2、3年したら、もう本当に殺されると思うようなスケジュールでしたから。主役4本同時期に撮影というときがありましたからね」
――よくセリフが頭に入りましたね
「必死でしたからね。セリフは頭に入るけど寝る時間がなくて、ついに尿管結石で入院したんですよ。入院したんだけど1泊だけ。次の日にうちの事務所の社長が病院に来て。見舞いに来たんだと思ったら、『京都でみんな待っているらしいんだよ。だからこのまま京都に行ってくれないか』って言われて。
着替えとか必要な荷物もあるから1回家に帰らなきゃいけないって言ったらマネジャーが、『一応荷物持ってきました』って一緒に来ていて。
病院からそのままタクシーで東京駅に行って新幹線で京都。だから、もう最初からお見舞いじゃなくて、京都に連れて行くためだったんですよ(笑)。
そういうことがありましたね。NHKの連続ドラマが2本、テレ朝の連ドラが1本、あとテレ東のドラマも1本。これ4本全部主役ですよ。東京、京都、名古屋で。主役ということはどういうことかと言うと、出ずっぱりでしょう?それを4本掛け持ちですからね。点滴を打ってもらいながら撮影をやっていましたよ」
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■マネジャーが断ろうと思っていた任侠映画に■マネジャーが断ろうと思っていた任侠映画に
村上さん演じる必殺仕事人・政は、劇場版第5弾「必殺!5 黄金の血」(舛田利雄監督)で命を落とすことに。
――何シーズン出演するのかというのは、決まっていたのですか
「決まってなかったです。まず1シリーズでやってくれということで、いつ死ぬとかは決まってなかったです」
――政さんは、映画「必殺!5 黄金の血」で命を落とすことに
「そうですね。でも、実を言うとその前にアメリカ映画『アイアン・メイズ/ピッツバーグの幻想』(吉田博昭監督)をやっていたんですね。監督は日本人だったんだけど、スタッフは全部向こうの人で、向こうのインデペンデンス系の映画。
それで、アメリカに行く直前に『白い巨塔』という2夜連続のテレ朝のドラマを2カ月ぐらいかけて撮影していたんですよね。このドラマで主人公の財前五郎は、最後は食道がんで死ぬんですよ。
制作発表のときにプロデューサーが本年度で1番お金をかけた作品だと言うし、出演者もすごい顔ぶれだったんですよね。だからやっぱりちゃんとやろうという意識がいつも以上にあったので、最後にがんで死ぬシーンに向けて少しずつ(体重を)落としていったんですよ。夕飯を抜いたりしてね。
その間の撮休にマネジャーが来て、『京都で今度必殺のスペシャルをやるんだけど、1日でも2日でもいいから来てほしいって言っているんだよね』って言ったんだけど、大変ありがたい話ですが、今、財前五郎から離れて京都に行くと準備してきたものが崩れると思い、必殺はお断りしました。
それで、アメリカに4カ月間行って映画を撮って帰ってきて、舞台『ハムレット』とドラマをやった後、マネジャーが来て、『必殺』の映画をやってほしいと言ったから『じゃあ今度は殺してもらおうか』ってなって。最後の『必殺』ということで、ああいう形になったんですよね」
1987年、映画「極道の妻たちII」に出演。この映画は、新空港開設に湧く大阪を舞台にヤクザの組長夫人(十朱幸代)の命と意地を賭けた戦いを描いたもの。村上さんは、刑期を終えたばかりの元ヤクザで、元恋人(かたせ梨乃)と自分の娘と一緒に暮らすためにダンプカーの運転手として働こうとする木本燎二役を演じた。
「この映画は、マネジャーが嫌がってね。『村上さん、極妻の(台)本が来ているけどどうする?見る?』って聞いてきたんだけど、彼はヤクザの役が嫌なわけですよ。
僕はそうでもなかった。これはお芝居だからね。むしろカッコいいじゃないと思っていたんですよ。『とりあえず1回台本を見せてよ』って言ったら、『見るの?ラブシーンもあるよ』って(笑)。彼は断るつもりいたんですよ。
読んで見たらいい役なんですよ。『いいんじゃない。面白い。ラブシーンもあるけど面白いじゃない』って言ったら『そう、わかった。お前がいいって言うんだったらいいよ。じゃあ、返事するよ。もう嫌だって言えないけどいいの?』って(笑)。それでやることになったんですよ」
――結果的に大正解でしたね。アカデミー賞の優秀助演男優賞も受賞されて
「そうですね。やって良かったです。お芝居ですからね。僕自身はヤクザ役をやるのも楽しいと思っていますよ」
幅広い役柄に挑戦する村上さんは、「春の波濤」、必殺シリーズなど時代劇でも定評があり、「腕におぼえあり」(NHK)、「八丁堀の七人」(テレビ朝日系)、「銭形平次」(テレビ朝日系)、「柳生十兵衛七番勝負」(NHK)、など多くのシリーズ作品に主演。次回は、実家が半壊した東日本大震災、大腸がん克服、公開中の映画「陽が落ちる」(柿崎ゆうじ監督)も紹介。(津島令子)
ヘアメイク:宮本由樹
スタイリスト:村上都