プリゴジン氏の墓参に1日50人 混乱の埋葬から2カ月半 いまも聞かれる「生きている」

[2023/11/19 10:00]

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武装反乱を起こしたエフゲニー・プリゴジン氏がサンクトペテルブルクの墓地に埋葬されてから2カ月余り。

驚くことに、インターネット上ではプリゴジン氏を支持する声が今も衰えていない。

このプリゴジン氏への支持はネット上のものだけでなく、実際に墓を訪れる人が後を絶たないという。

さらに、民間軍事会社「ワグネル」は現在も活動を続けているとみられるのだ。

こうした動きは、プーチン大統領にとってどのような意味を持つのだろうか?

■“聖地”と化すプリゴジン氏の墓

乗っていたジェット機の墜落で8月23日死亡したエフゲニー・プリゴジン氏はサンクトペテルブルク市北部にあるポロホフスコエ墓地に埋葬されている。

葬儀の情報が錯綜し、ロシア当局や西側メディアを翻弄した埋葬劇から2カ月あまりが過ぎた11月初旬、墓の様子を確認しようと訪れると、墓地の入り口から異変に気づかされる。

「プリゴジン氏の墓」と矢印が書かれた道標が墓地内にいくつも設置されているのだ。

誰が設置したのかは定かではない。ただ、墓地の管理者がそれを許可し、まるで歴史的人物か文化遺産のような扱いだ。

墓の手前の空間には、プレハブ小屋が新設されている。窓越しに室内を確認すると、プリゴジン氏の墓の映像が映っている。どうやら監視しているようだ。

墓の監視のためとみられる小屋も設置されている

墓には大量の花やメッセージ、お供え物が手向けられている。ほとんどは造花だが、中には生花やパンなどの食品も供えられていて、最近も人が訪れている形跡がある。

もし、プリゴジン氏の墓参りにやってくる人がいれば話を聞いてみたい。

しかし私たちが墓を訪れたのが朝の9時過ぎということもあって、敷地内では、墓地の手入れをしている従業員くらいしか見かけない。

10時半になってもを訪れる人はいない。さすがに平日の早朝に墓参にやってくる人などいないかと、墓地を出ようとした矢先――30代くらいの男女3人組と入り口ですれ違った。

■「彼は生きている」墓参に訪れた男性

プリゴジン氏は目を見開かせてくれたと語る男性

女性は花を手に持っている。少し後を追ってみると、矢印を頼りにプリゴジン氏の墓を目指しているようだ。3人はプリゴジン氏の墓にたどり着くと、添えられた花やメッセージに熱心に見入っている。

ワグネルの関係者ではなさそうだ。

一般人だろうか?

なぜ、ここにやってきたのか?

花を持ってくるほどだから、プリゴジン氏に対して強い思いでもあるのだろうか?

話しかけてみると南部から旅行でやってきたという。

「プリゴジン氏の死についてどう考えているか教えてくれますか?」

そう尋ねたが、3人組のうち2人は「政治にはかかわりたくない」と答えることを拒否した。

無理もないとあきらめかけたところ、奥で墓に供えられたメッセージを熱心に読み込んでいた3人目の男性がこういった。

男性:「問題なんてないですよ。彼は死んでいませんから」

記者:「あなたはプリゴジンが死んでいないと思うのですか?」

男性:「もちろんです。彼は生きていますよ」

男性は本気のようだ。もちろん酒に酔っているわけでもない。極めて冷静な口調で、はっきりと主張した。そしてこう続ける。

「彼は生きていますよ。たくさんのことをやったと思います。 彼は人々の目を開かせました。 今までにない一体感を与えてくれました。これは私たちの国にとって、そして私たちの時代にとって非常に重要なことです」

「人々の目を開かせた」など、男性の発言はまるでプリゴジン氏が時代を切り開く崇高なリーダーのようだ。

男性だけではない。墓には次のようなメッセージが多く供えられている。

「プリゴジンさん!真実をありがとう!あなたの偉業はロシアのために存続し続けます!」

「あなたは生きている」

■批判にもかかわらず1日に50人が墓参

墓には多くの花やメッセージが手向けられている

プリゴジン氏は「特別軍事作戦」の現状を批判し、ロシア軍や国防省に方針転換を迫った。そのプリゴジン氏を正面から肯定することはリスクを伴う。

プーチン大統領はプリゴジン氏への批判を繰り返した。

ロシアでは「民間軍事会社」は法律上規定されておらず、ワグネルは法律上存在しないと突き放した。プリゴジン氏を「裏切り者」であり、プリゴジン氏らワグネルの幹部が薬物中毒者だった可能性があるとほのめかした。

プリゴジン氏の信用を失墜させることで、プリゴジン氏によるロシア軍への批判をかわそうとしたのだろう。

にもかかわらず、男性や墓にメッセージを供えた人びとが、いまだにプリゴジン氏の言動を「真実を教えてくれた」などと考えていることは、プーチン大統領やショイグ国防相にとって脅威に他ならない。

人に慣れたネコが訪問者をじっと見守っている

もちろん男性のようなワグネルの支持者がロシア全土にどのくらいいるのかはわからない。しかし、驚くべきことに墓地の関係者によると、1日に50人ほどの人びとがプリゴジン氏の墓を今も訪れているという。

■従業員は「ワグネルは不滅だ」

ワグネルセンターの建物には明かりがともっている

プーチン氏が「法律上存在しない」と突き放した「ワグネル」は今も活動を続けている。

拠点のサンクトペテルブルクの「ワグネルセンター」の建物には今も朝になると多くの人が入っていく。

従業員だろうか?

1人の男性が足を止めて内情を教えてくれた。

「今は別のビジネスセンターとして営業しています。私たち『ワグネル』は近く別の場所に移動します。詳細は明かせませんが、ワグネルは不滅で、順調です」

プーチン氏は、プリゴジン氏の死後、ワグネルを解体しようとした。しかし、アフリカや中東の内政にも深く関わっているワグネルをいっぺんに解体することはできないようだ。

ワグネルは、プーチン大統領の治安機関である「ロシア国家親衛隊」の一つの部隊となる動きも見えるが、一方でベラルーシやアフリカでの活動も続いていて、実態は不明確だ。

ワグネルは存続しつつも、ロシア国防省と緊張関係を保ちながら共存しているようにも見える。

しかし、今も国防省を批判するプリゴジン氏の映像はSNSで繰り返し流され、視聴されている。ロシア国民の国防省などへの不満は根強く残っている。

墓参りに来た男性の確信した言いぶりにみられるように、プリゴジン氏が生きていると信じる人びとは、これからも信じ続けるだろう。

プーチン氏はプリゴジン神話という大きな不安定要素を抱え続けている。

【ANN取材団】

  • 墓地内にはいくつもの道標が設置されている
  • 墓の監視のためとみられる小屋も設置されている
  • プリゴジン氏は目を見開かせてくれたと語る男性
  • 墓には多くの花やメッセージが手向けられている
  • 人に慣れたネコが訪問者をじっと見守っている
  • ワグネルセンターの建物には明かりがともっている

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