地図を見ると心細くなる場所にこそテキサス州の素顔がある 米国6600キロ第12回
[2024/01/07 10:00]
免税の手続きをするために、広大なアウトレットモールを右往左往した。西に進むとランチ(放牧場)ばかりだ。東部に比べて人が少ない地域に入り、安全をより意識しての旅に。
(テレビ朝日 デジタル解説委員 名村晃一)
アップルストアでの買い物の免税手続きのために75キロ走る
ヒューストンやダラスなどテキサス州の大都市は州の東側にある。州都オースティンはかなり西に入り込んでいるが、それでも中央より東側だ。テキサス州を東から西に駆け抜けようとする場合、オースティンまで来ても、ここからが長い。この先は小さな町が点在し、地図を見ると少し心細い気持ちになる。しかし、そんな西側だからこそ、テキサス州の素顔に接することができる。
10月11日、横断8日目。この日のうちにテキサス州を通り抜けることは距離的に厳しい。州内にもう1泊しなければならない。石油と天然ガスの町であるミッドランドを目指すことにした。
その前にやっておきたいことがあった。テキサス州には消費税の免税制度がある。アップルストアでの買い物の代金について免税手続きをしたかった。
しかし、アップルストアとその周辺では、この手続きができなかった。オースティンから南に75キロほどのサンマルコスにあるアウトレットモールなら、手続きができるというので向かった。
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オフィス探して広大なアウトレットを行ったり来たりオフィス探して広大なアウトレットを行ったり来たり
ここは、米国を代表するプレミアムアウトレットとタンガーアウトレットが道路を挟んで向かい合う全米屈指の大型アウトレットモール地区だ。2施設合わせた面積は約120万スクエアフィート(約11万1500平方メートル)で、東京ドーム2.5個分の広さだ。
腰を据えて買い物をするにはよいのかもしれないが、手続きをするオフィスを探すとなると、この広さは厄介だ。
2施設の地図にオフィスは記載されていなかった。ブランドショップの店員に尋ねても、的確な情報は得られない。あちらだ、こちらだと、2つのモールを何度も行き来し、2時間ぐらいの時間を費やしてようやくオフィスを発見した。
手続きは簡単だった。しかし40%もの手数料が取られ、戻ってきた額はほんのわずかだった。
小さな町のガソリンスタンドはコミュニティーの拠点
西に向かって走り出す時間が大幅に遅れてしまった。町が少ないこの先は、これまで以上に夜間の走行は避けたい。米国西部は東部に比べて人目がないところが多い。犯罪や事故に巻き込まれないために、まずやるべきことは、夜間はできるだけ移動しないということだ。
ミッドランドまで行くのは遠過ぎるので、手前にあるサンアンジェロに向かうことにした。
サンアントニオの北側を経由してインターステート10(I-10)を北西に進み、その後U.S.ハイウェイ83に入った。途中、メナードという町の小さなガソリンスタンドで休憩した。
米国では、ガソリンスタンドには雑貨店が併設されており、地域住民の買い物スポットになっている。小さな町ほど、地域のコミュニケーションの場所としての役割が大きくなる。ガソリンスタンドにはひっきりなしに住民が訪れ、世間話に花を咲かせていた。
メナードの人口は約1400人。人種別人口比でみると、ヒスパニックを含む白人が95%以上だ。アジア系はほとんどいないので、住民から珍しそうな視線を向けられた。
拘置所設置で雇用創出 都市住民が嫌う施設を受け入れ地域振興
メナードから先に進み、エデンという町でU.S.ハイウェイ83を左折し、U.S.ハイウェイ87に入った。エデンの人口は約1500人で、こちらもヒスパニックを含む白人が95%以上だ。典型的なテキサス州の町が続く。
エデンには1985年から拘置所がある。民間企業が連邦政府と契約して設置、運営している。収容者のほとんどは不法移民だという。
米国では1970年代以降、犯罪の増加に伴い拘置所や刑務所の建設ラッシュが続いた。特に南部や西部にある小さな町に多く設置された。企業進出などの機会もない地域にとっては、拘置所や刑務所は雇用機会の増加など経済的利益をもたらす貴重な存在だ。
大都市部では収容施設の不足が深刻化している。都市住民が嫌がる施設を、遠く離れた小さな町が受け入れることで、米国社会の均衡がようやく保たれている。
ランチに立ち並ぶ風力タービン 再生エネルギーを支える
そんなエデンを後にして、さらに進んだ。右を見ても、左を見ても広大なランチばかりだ。建物など、どこにも見えない。
そのうち、ランチの中に風力発電用のタービンが見えてきた。かつてランチの経営者は、敷地内にいくつもの油田を掘り当て大金を手にした。今は再生可能エネルギーの供給地でもある。
サンアンジェロに到着すると、美しい夕焼けが空に広がっていた。宿泊先は、ダウンタウンから離れた幹線道路沿いのウィンゲイト・バイ・ウィンダム・サンアンジェロだ。車を止めて外に出ると、やや強めながらも爽やかな風に包まれた。
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ポークチョップをバーボンクリームソースで食べるポークチョップをバーボンクリームソースで食べる
空腹を我慢しながらレストランを探すと、近くにいい店があった。コーク・アンド・ピッグ・タバーンという地元の店だ。2010年にオープンして人気を博し、現在では州内に計6店を展開する。
店名に「ピッグ」とあるので、ここでもポークチョップを注文した。ジューシーだが、脂っぽさはない。焼き加減も絶妙で香ばしい。バターと鶏がらスープなどにバーボンウイスキーを混ぜて作ったバーボンクリームソースが味に深みを持たせている。ポークチョップだけでは物足りず、ピザも注文して腹を満たした。
心地よい風のせいか、この日は、それでも満足がいかず、梯子酒をすることにした。ホテルの隣にあるスポーツバーの扉を開けると、陽気な「テキサスガールズ」が笑顔で迎えてくれた。