午前2時、ひとりでにテレビがついた 幽霊伝説におびえた夜 米国6600キロ第9回
[2023/12/30 10:00]
歴史ある町には奇怪な話が付き物だ。「あそこは出るぞ」というスポットが至る所にあるニューオーリンズで眠っていたら、午前2時にテレビがひとりでについた。
(テレビ朝日 デジタル解説委員 名村晃一)
旅行サイトで手頃な値段 呼ばれるように旧市街のホテルに泊まる
旅5日目、10月8日は中庭に小さなプールがあるこじんまりしたホテルに宿泊した。ルイジアナ州ニューオーリンズの旧市街、フレンチ・クオーター地区にあるドーフィン・オーリンズ・ホテルだ。欧州の郊外にあるようなブティックホテルで、大衆的なホテルチェーンとは趣が違う。旅行サイトのアプリで手頃な料金で出ていたので、呼ばれるように予約した。
夜間はフロントと駐車場(バレーパーキング)の両方の業務をこなす女性スタッフが、フル回転で仕事をしていた。米国で、チップを2倍渡したいと思える人にはほとんど巡り合わないが、そう思いたくなるほどの働きぶりだった。
このスタッフが薦めるレストラン、オセアナ・グリルで南部独特のスパイシーなケイジャン料理を楽しんだ後、ライブバーが密集しているバーボンストリートを散策した。ナッシュビルにもメンフィスにも居酒屋街があったが、ニューオーリンズは雰囲気が少し違う。ワイワイ、ガヤガヤの中にも、落ち着いたたたずまいがあった。ニューオーリンズはジャズ発祥の地といわれる。バーボンストリートの主役もジャズだからだ。
ジャズが流れるバーボンストリート ウィスキーが由来にあらず
「バーボン」とはいうものの、ウィスキーにちなんで名付けられたわけではない。フランスの王族に由来している。
ニューオーリンズは、米国が独立する前にルイジアナ地方を統治していたフランスが1718年につくった。当時、フランスはブルボン家が支配していたことから、上流階級が多く住んでいたこの通りを、ブルボン家の名前にちなんでバーボンストリートと名付けた。
ブルボンもバーボンも共にスペルは「Bourbon」だ。今ではバーボンウィスキーが通りの名前の由来だと、歴史に盾をつくような主張も聞かれる。酔ってしまえばブルボン家でもバーボンウィスキーでも、どちらでもかまわないと、この通りで飲んでいる人たちは思っている。
もっとも、バーボンウィスキーの「バーボン」も紐解けばブルボン家が名前の由来とされるので、どちらをとってもブルボン家にたどりつく。
気ままさが魅力のバーボンストリートだが、この日はネオンに引きずられることもなくホテルに戻った。メンフィスからのドライブは長距離だった上に、暗闇で羽虫の大群に囲まれ神経をすり減らした。飲むより眠ることを選んだ。
寝る前に確かに消した…自分では絶対に設定しない音量で起こされる
ベッドに潜り込むと、あっという間に眠ってしまった。ところが、夜中に奇妙なことで起こされた。
午前2時を過ぎたころだった。騒がしい音が睡眠を邪魔した。しばらくは、半分眠っている状態で音を聞いていた。
バーボンストリートの「大虎」たちが騒いでいるのかと思った。しかし、非常に近くから音が聞こえてきていることに気付き、目を覚ました。
起きて驚いた。消したはずの部屋のテレビがついていた。寝る際に確かに消したのに、ひとりでについたようだ。しかも自分では絶対に設定しない大きな音量だった。
それでも眠さが勝り、リモコンでテレビを消して、再び眠りについたが、朝起きて怖くなった。寝ぼけていたわけではないし、絶対に夢の中の話ではない。リモコンを見てもテレビのタイマー設定などは見当たらなかった。何が起きたのか判然としなかった。
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市民生活に溶け込むオカルト伝説 ゴーストツアーが人気に市民生活に溶け込むオカルト伝説 ゴーストツアーが人気に
ニューオーリンズでは幽霊やオカルト話が市民生活に深く根付いている。「幽霊屋敷」と呼ばれる建物が市内にいくつもあるほか、バンパイアなどの怪奇伝説も多い。「幽霊話」は観光資源にもなっており、旅行業者が企画する「ゴーストツアー」は観光客に人気だ。
ニューオーリンズは、ミシシッピ川の堆積物でできたデルタ地帯にある。ミシシッピ川は支流を含めると米国の32州を通って、このデルタ地帯に流れ込んでくる。呪術で知られるブードゥー教が19世紀にニューオーリンズにもたらされたが、ブードゥー教では水には霊的なエネルギーがあるとされ、水に囲まれたニューオーリンズには特別なパワーが存在すると言い伝えられた。
また、ニューオーリンズには悲しい過去がある。アフリカなどから連れて来られた多くの黒人奴隷が虐待されて死亡した。無念が怨念に変わってもおかしくない悲劇の現場だ。さらにニューオーリンズの墓地事情が「幽霊の存在」をあおる。市内の約70%は海抜0メートル以下のため地中には埋葬できず、火葬しないまま地上の墓の中に遺体が納められている墓地が多くある。
独特の地形のもとで激動の歴史を歩んだニューオーリンズは、「幽霊話」でさえ文化にしてしまう。
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奇妙な体験話すとホテルスタッフは表情をこわばらせた奇妙な体験話すとホテルスタッフは表情をこわばらせた
旅6日目の10月9日昼前、チェックアウトするためにフロントに行ったところ、仕事ができる女性スタッフがいた。前夜と変わらず元気で、客に冗談を飛ばしていた。チェックアウト後、どうしてもテレビのことが気になったので、午前2時ごろの体験を話した。
「幽霊で有名なニューオーリンズだから、怖がらせようと思ってテレビがつくように設定しているでしょ」と冗談半分に尋ねると、「働いてから初めて、そんな話を聞きました」と表情をこわばらせた。
後に知ったことだが、「幽霊オタク」にとってドーフィン・オーリンズ・ホテルは気になる存在だという。