相棒はフロリダナンバー 「甘い誘惑」初日は目的地に着けず 米国6600キロ第2回

[2023/12/03 10:00]

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 ニューヨークはいつもの大渋滞でのろのろスタート。山あり谷ありの旅を暗示しているのか。現実は甘くないが、立ち寄り先では甘い菓子が手招きしていた。
(テレビ朝日 デジタル解説委員 名村晃一)

 ニューヨークからロサンゼルスまで、途中いくつもの町に立ち寄りながら6600キロを走破して見えた米国のいま。12月2日から、毎週末に配信しています。

■「クレイジー」連発され旅スタート ビッグな車に気持ちも大きく

出発地のニューヨーク。ワン・ワールドトレードセンター(中央)は同時多発テロの舞台となった世界貿易センタービル跡地に建設された。今では大型ショッピングモールもあり高級店が軒を連ねる=筆者撮影
出発地のニューヨーク。ワン・ワールドトレードセンター(中央)は同時多発テロの舞台となった世界貿易センタービル跡地に建設された。今では大型ショッピングモールもあり高級店が軒を連ねる=筆者撮影

 10月4日、米国縦横断の旅が始まった。午前10時半ごろ、ニューヨーク・マンハッタンのアッパーイースト地区にあるハーツレンタカーのオフィスを尋ねた。コロナ禍以降、米国ではレンタカー不足が著しい。念には念をということで、車の予約は3カ月ほど前に入れておいた。

 「ロサンゼルスで乗り捨て」とある予約表を見た黒人の女性スタッフが、これでもかというぐらい目を丸くし、笑いながら「クレイジー」を連発した。

 並外れた距離を走行するため、それに耐えられる車を探すのは容易ではなかったようだ。受け付けしてから1時間が過ぎて、ようやくあてがわれたのはミニバンのクライスラー・ボイジャーだ。ナンバープレートには「SUNSHINE STATE」の文字。フロリダナンバーだった。

「愛車」となったクライスラー・ボイジャー。ミニバンのルーツともいわれる。ミニバンとは、ワゴンタイプの3列シート車のことで、セダンより室内が広く大人数が乗れる=筆者撮影
「相棒」となったクライスラー・ボイジャー。ミニバンのルーツともいわれる。ミニバンとは、ワゴンタイプの3列シート車のことで、セダンより室内が広く大人数が乗れる=筆者撮影
10月に入ってもニューヨークは暑い日が続きハエが多かった。レンタカーオフィスにはハエ取り用の粘着シートがぶら下がっていた。世界をリードする町の古風な一面=筆者撮影
10月に入ってもニューヨークは暑い日が続きハエが多かった。レンタカーオフィスにはハエ取り用の粘着シートがぶら下がっていた。世界をリードする町の古風な一面=筆者撮影

 ミニバンといっても、セダンやワゴンタイプの車より大きい。全長はピックアップトラック並みだ。3列あるシートの最後部を倒してスーツケースを入れても、スペースにはかなりの余裕があった。車高も高く、見通しも良い。大きいことは良いことだ、と気が大きくなった。

 ただ、マンハッタンは運転しづらい。車があふれかえっているだけでなく、至る所で工事をしている。コロナ対策で設置されたレストランの屋外飲食スペースは今も「健在」で、車線が減っている。何もかもが「すし詰め」のマンハッタンでは必ずしも、大きいことは良いことではない。レンタカーオフィスから出てすぐに、路上駐車していた車にこすりそうになった。

■インフレ、円安で物価高騰 食費節約のため簡易炊飯器を持参

ミツワマーケットプレイスは米国最大級の日系スーパー。ニュージャージー州、カリフォルニア州、イリノイ州などに12店を展開している。フードコートも併設されている。出発前にラーメン店、「山頭火」でみそラーメンと納豆ご飯のセットを食べた=筆者撮影
ミツワマーケットプレイスは米国最大級の日系スーパー。ニュージャージー州、カリフォルニア州、イリノイ州などに12店を展開している。フードコートも併設されている。出発前にラーメン店、山頭火でみそラーメンと納豆ご飯のセットを食べた=筆者撮影

 マンハッタンの西側を流れるハドソン川を渡れば、そこはもうニュージャージー州だ。今回の旅では2つ目の州となる。渋滞でマンハッタンを出るのに1時間以上かかった。移動距離は約10キロだというのに。ニューヨークはいつも「クレイジー」だ。旅の最大の渋滞は、最初のこの渋滞だった。

 ニュージャージー州でやっておくべきことは、ハドソン川沿いにある日系スーパーのミツワマーケットプレイスに立ち寄ることだった。日本人のみならず、日本食を愛する米国人にも人気のスーパーだ。目的はコメと使い捨てスリッパを調達すること。

 米国のインフレは長く、しつこい。日本人には、これにプラスして円安という重圧がのしかかる。旅の楽しみは食事だが、真剣に食費を節約しなければならない。このため、副菜も蒸して調理できる簡易炊飯器を持参した。購入したコメは、カリフォルニア産の日本米「錦」だ。

弁当箱型の簡易炊飯器は2段構造になっておりコメを炊くのと同時におかずを温めることや、蒸し調理ができる。炊飯時間は約15分=筆者撮影
弁当箱型の簡易炊飯器は2段構造になっており、コメを炊くのと同時におかずを温めることや、蒸し調理ができる。炊飯時間は約15分=筆者撮影

 使い捨てスリッパはスーパーに隣接する100円ショップで購入した。米国のホテルは日本と異なり、スリッパを常備しているところはほとんどない。出張などの時はどこに行くにもビーチサンダルを持ち歩いていたが、今回はスリッパにした。足が楽だからだ。使い捨てとは言っても数日は使える。

 物資がそろったところで西に向けて出発した。ロサンゼルスまでの行程は、1日ごとに到着目標地点を定めていた。それをつなげれば旅の全体像となる。走行時間は1日当たり6時間前後。7時間以上の日もあれば、2、3時間の日もある。目標地点に着かなくてもいいし、通過してさらに先に行ってもいい。保守的な日程見込みと「適度な気ままさ」を兼ね備えるようにした。

■ペンシルベニア州を西へ チョコレートに染まる

チョコレート製造会社ハーシーの本社の看板。創業者のミルトン・ハーシーはペンシルベニア州ランカスターでキャンディーショップを開いたが事業に失敗。その後、シカゴとニューヨークでも挑戦したが、いずれも失敗。この地での4度目の挑戦で大成功した=筆者撮影
チョコレート製造会社ハーシーの本社の看板。創業者のミルトン・ハーシーはペンシルベニア州ランカスターでキャンディーショップを開いたが事業に失敗。その後、シカゴとニューヨークでも挑戦したが、いずれも失敗。この地での4度目の挑戦で大成功した=筆者撮影

 初日はニューヨークから西に約590キロのペンシルベニア州ピッツバーグに着くことを目標にした。初日のうちに3州を旅する算段だ。

 ペンシルベニア州に行くなら麻薬常習者がうろつく町として悪名高いフィラデルフィアのケンジントン地区の様子を取材していこう、と「ジャーナリスト魂」がむくむくと沸いてきた。が、旅の最初にトラブルに巻き込まれるのは得策でない、という甘い考えが勝利し、走る道を変更した。

 インターステート(州間高速道路)78(I-78)に乗った。フィラデルフィアにはかすりもせず、ビリー・ジョエルの歌になったアレンタウンを横目で見て進み、立ち寄ったのは甘いチョコレートの町、ハーシーだった。

ハーシーの代表的な商品はキスチョコ。左端の人形を見れば世界の多くの人々が思い出す水滴のようなユニークな形が特徴だ=筆者撮影
ハーシーの代表的な商品はキスチョコ。左端の人形を見れば世界の多くの人々が思い出す。水滴のようなユニークな形が特徴だ=筆者撮影

 ハーシーはハーシーズ・チョコレートで知られる米国最大のチョコレート製造会社ハーシーの本社と工場がある。チョコレートのテーマパークもあり、博物館やスタジアム、遊園地、動物園、オートキャンプ場などが広大な敷地に設置されている。米国の「キャピタル・オブ・チョコレート」だ。

 I-78を降りてのどかな道を走り続けると、木々の合間から巨大なチョコレートタウンが現れた。

 チョコレートはワクワクする食べ物だ。駐車場に車を止めて施設内に向かったが、気が付けば小走りになっていた。子供のころ、チョコレートを食べ過ぎて鼻血を出し、その後、チョコレートは食べ過ぎないようにしているが、この日はいつもより多めに食べたような気がする。

■「スナック王国」 もっと知りたかったその味

ハーシーのテーマパークは何でもビッグ。チョコレートつめ放題の装置は人間の身長をはるかに超える=筆者撮影
ハーシーのテーマパークは何でもビッグ。チョコレートつめ放題の装置は人間の身長をはるかに超える=筆者撮影

 ペンシルベニア州は、チョコレートだけでなくポテトチップやプレッツェルなどスナック菓子の製造が盛んで「スナック王国」と呼ばれる。ハーシーの南にあるハノーバーやヨークには、米国を代表するスナックメーカーが本社を構える。

 こうなったら、転戦して菓子を極めようかと考えたが、施設から出たら既に午後6時近くになっていた。ハーシーからピッツバーグまでは順調にいって3時間半かかる。ピッツバーグと反対方向のハノーバーなどにはとても行けない。それどころか、ハーシーからピッツバーグも、この時間から走りたい距離ではない。

■食い気抑えて地図を見る ホテルは直前に旅行サイトで予約

チョコレートとアイスクリームとホイップクリーム。この甘さは癖になる。夕食前なのに思い切り食べてしまった=筆者撮影
チョコレートとアイスクリームとホイップクリーム。この甘さは癖になる。夕食前なのに思い切り食べてしまった=筆者撮影

 ということで、初日から目標地点到達を断念することにした。それではどこに宿泊するか。車内でグーグルマップを見ていると、南西に約1時間の地点に、南北戦争の激戦地で米国の歴史を決定付けたとされるゲティスバーグがあることに気付いた。菓子への憧れはひとまず置き、歴史探訪としよう。

 旅行サイトのブッキング・ドットコムとエクスペディアを見比べながら値ごろなホテルを決めて、再びハンドルを握った。

 ゲティスバーグに到着すると日は暮れていた。歴史の町も暗くなると趣はさほど感じられない。ところが、中心地から外れた大衆ホテルチェーン、スーパー8にチェックインし、部屋のドアを開けると、そこには「歴史」が鎮座していた。

  • 出発地のニューヨーク。ワン・ワールドトレードセンター(中央)は同時多発テロの舞台となった世界貿易センタービル跡地に建設された。今では大型ショッピングモールもあり高級店が軒を連ねる=筆者撮影
  • 「愛車」となったクライスラー・ボイジャー。ミニバンのルーツともいわれる。ミニバンとは、ワゴンタイプの3列シート車のことで、セダンより室内が広く大人数が乗れる=筆者撮影
  • 10月に入ってもニューヨークは暑い日が続きハエが多かった。レンタカーオフィスにはハエ取り用の粘着シートがぶら下がっていた。世界をリードする町の古風な一面=筆者撮影
  • ミツワマーケットプレイスは米国最大級の日系スーパー。ニュージャージー州、カリフォルニア州、イリノイ州などに12店を展開している。フードコートも併設されている。出発前にラーメン店、「山頭火」でみそラーメンと納豆ご飯のセットを食べた=筆者撮影
  • 弁当箱型の簡易炊飯器は2段構造になっておりコメを炊くのと同時におかずを温めることや、蒸し調理ができる。炊飯時間は約15分=筆者撮影
  • チョコレート製造会社ハーシーの本社の看板。創業者のミルトン・ハーシーはペンシルベニア州ランカスターでキャンディーショップを開いたが事業に失敗。その後、シカゴとニューヨークでも挑戦したが、いずれも失敗。この地での4度目の挑戦で大成功した=筆者撮影
  • ハーシーの代表的な商品はキスチョコ。左端の人形を見れば世界の多くの人々が思い出す水滴のようなユニークな形が特徴だ=筆者撮影
  • ハーシーのテーマパークは何でもビッグ。チョコレートつめ放題の装置は人間の身長をはるかに超える=筆者撮影
  • チョコレートとアイスクリームとホイップクリーム。この甘さは癖になる。夕食前なのに思い切り食べてしまった=筆者撮影

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