テレビが見られないホテルにがく然 旅で知る視聴者離れ 米国6600キロ第20回

[2024/02/11 10:00]

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 ホテルでテレビを見ようとしたら電源が抜けていた。コンセントは家具で隠れ、手が届かない。振り返れば、この旅はテレビが見られないホテルばかりだった。

(テレビ朝日 デジタル解説委員 名村晃一)

 ニューヨークからロサンゼルスまで、途中いくつもの町に立ち寄りながら6600キロを走破して見えた米国のいま。毎週土曜日と日曜日に配信しています。

運転の疲れいやす「薬」はダウンタウンをふらつくこと

ツーソンの週末の夜。ここでも治安は警察官によって守られていた=筆者撮影

 旅の11日目、10月14日の宿はアリゾナ州ツーソンのハンプトン・イン・バイ・ヒルトン・ツーソン・ダウンタウンにした。ツーソンのダウンタウンは程よくまとまっており、徒歩で散策するにはちょうどいい。ここでは、どうしてもダウンタウンに泊まりたかった。フロントガラスの汚れのせいで疲れがかさんだ。ダウンタウンをふらつくことが一番の「薬」だと思った。

 ホテルの駐車場は部屋のカードキーで開閉するシステムだった。ホテル関係者か宿泊者以外は中に入れない。駐車する場所に不安があると、寝ていても気になってよく休めないが、この駐車場なら気をもむことはない。

 土曜日の夜、ダウンタウンは人であふれていた。レストランやバーは満席で、通りでは若いミュージシャンが歌や演奏を披露していた。広場には屋台が出て、家族連れやカップルでにぎわっていた。

 ダウンタウンは音楽と歓声に包まれていたが、前日のテキサス州エルパソと同じように、ここでも警察官が夜のにぎわいをガードしていた。米国の地方都市の週末の光景である。

恋しくなるアジアの味 てんてこ舞いの店でフォーを食べる

手前はビーフのフォー。好みは分かれるが、よく火を通した方が肉は柔らかい=筆者撮影

 夕食はバスターミナル近くのベトナム料理店、ミス・サイゴンにした。店は混雑しており、アジア系の店員がてんてこ舞いしていた。フォーとエビそば、生春巻きを食べたら、腹がパンパンになってしまった。食事にこだわるタイプではないが、疲れた時はアジア系の味が恋しくなる。

 ホテルに戻り部屋のテレビをつけようとしたが、全く映らなかった。リモコンのボタンを押すとライトが光るので、リモコンに問題はなさそうだった。

 接続を確認しようと、テレビの裏側をのぞくと、受像機やチューナーなど関連機器の電源とケーブルが抜かれていた。コードを隠すため頑丈なテレビ台の裏側にコードが入り込んでいるのでコンセントに手が届かない。テレビ台は重く動かせないので、このままではテレビが見られない。スタッフを呼ぼうかと思ったが、疲れていたのでそれもしなかった。

電源抜かれコンセントにも手届かず ニュースさえ見られない

テレビに接続されているはずのケーブルはことごとく抜かれていた=筆者撮影
ケーブルが抜かれている理由は判明しなかった=筆者撮影

 実はこの旅で、問題なくテレビを見られるホテルに宿泊したことは、ほとんどなかった。すぐに画面がフリーズしてしまったり、機器が接続されていなかったり、リモコンがなかったりと要因は様々だが、既存のテレビ局の画面が映らず、地元のニュース番組や全国ニュースが見られないでいた。

 どのホテルでもスタッフに苦情を言ったが、ホテル側は謝罪するものの、テレビが映らないことへのクレームはこれまでなかったと、ほとんどのホテルが話していた。

 ホテル側の機材の管理に問題があるが、宿泊客の方もテレビを必要としていないという実態もあるようだ。部屋のテレビが不具合を起こしてもそれがフロントに伝わらないから、テレビが見られない部屋が増える。

 ニューヨーク市などの都心部では、ケーブルテレビとの契約を止めて、インターネットチャンネルだけが映るようにしているホテルが増えている。そういうホテルでは既存のチャンネルの番組は見られない。米国のホテルのテレビ環境は激変している。

 米国では新聞記者よりもニュース番組のキャスターの方が国民に信頼されている、と一般的に言われてきた。国土が広い米国で、より多くの国民に同時に情報を伝えるにはテレビが最も効率的だった。世界のテレビ界をリードしてきたのが米国だ。その米国を横断しながら、視聴者のテレビ離れをこれほどまでに実感するとは思ってもみなかった。

「相棒」の労をねぎらうために、快晴のもと洗車場に向かう

ホテルの向かいにあるセント・オーガスティン大聖堂はツーソンを代表する教会だ=筆者撮影

 旅12日目の10月15日は快晴だった。日曜日の朝、ホテルの窓から外を見ると、向かい側に立派な教会があった。ツーソンを代表するカトリック教会のセント・オーガスティン大聖堂だ。ツーソンがまだ、スペインの支配下だった1776年に建設された歴史ある教会だ。到着したのが夜だったので前日は全く気が付かなかった。

 インターステート10(I-10)に乗って北西に走る。前日のフロントガラスの汚れもあったので、「相棒」の労をねぎらうため洗車をしたかった。

 ツーソン市内コータロ地区の小さなショッピングモールにオート洗車場があった。業界大手でニューヨーク証券取引所にも上場しているミスター・カー・ウォッシュの洗車場だ。

 洗車レーンに入り、ギアをニュートラルにするだけ。約2分で洗車が完了する。1回10ドルだが、洗車場の男性スタッフは気風がよく、汚れが落ちなかったらもう1回、無料で洗車してもいいと言われた。

羽虫の大群を通り抜けた車体 1度では汚れを流せず

最新型のオート洗車機は1回の所要時間が約2分。絶え間なく車が吸い込まれる=筆者撮影

 ニューオーリンズの手前で羽虫の大群に囲まれた時から、車体に汚れがこびりついていた。1回の洗車で落とすことができず、もう1度洗った。それでも完全には汚れが取り除けなかったものの、「相棒」は生き返った。

 ミスター・カー・ウォッシュはツーソンに本社がある。米国では洗車産業は成長株だ。技術革新が進んだ上に、コロナ禍以降、車を資産として大切にする消費者意識が高まったからだ。さらに新しい料金体系が導入され、消費者を刺激した。年間や月間契約すれば何度でも洗車できるというプランだ。洗車業界は安定収入を得られるようになり、投資ファンドや一般投資家から熱い視線が注がれる。洗車場の気風のよさは、業界の勢いを示している。

10月だというのにまだ真夏 冷房の風浴びて暑さから逃げる

車の温度計は華氏での表示。10月での100度(摂氏37.7度)は衝撃的だ=筆者撮影
「夏最後の在庫一掃」とある。ツーソン・プレミアム・アウトレットはまだサマーセールだった=筆者撮影
チャンドラーにあるフェニックス・プレミアム・アウトレットには大柄サイズの婦人服専門店が出店していた。需要は多く繁盛店だ=筆者撮影

 10月だというのに猛烈に暑かった。日差しを遮る雲は空に一つもなかった。途中、ツーソンとチャンドラーにある2つのアウトレットモールで休憩し、冷房の風を真正面から浴びた。ツーソン・プレミアム・アウトレットの店内には「Final Summer Clearance(夏最後の在庫一掃)」の文字があった。ここはまだ夏だった。

 再び走り出すと車の温度計は華氏100度(摂氏37.7度)となっていた。アリゾナ州最大都市で全米でも5番目のフェニックスを通過し、東側に隣接するスコッツデールに入った。ここは高級住宅地で、リゾート地でもある。砂漠の中のぜいたくな空間を味わってみたくなった。

  • ツーソンからスコッツデールまで。走行距離は218キロ
  • ツーソンの週末の夜。ここでも治安は警察官によって守られていた=筆者撮影
  • 手前はビーフのフォー。好みは分かれるが、よく火を通した方が肉は柔らかい=筆者撮影
  • テレビに接続されているはずのケーブルはことごとく抜かれていた=筆者撮影
  • ケーブルが抜かれている理由は判明しなかった=筆者撮影
  • ホテルの向かいにあるセント・オーガスティン大聖堂はツーソンを代表する教会だ=筆者撮影
  • 最新型の自動洗車機は洗車1回約2分。絶え間なく車が吸い込まれる=筆者撮影
  • 車の温度計は華氏での表示。10月の華氏100度(摂氏37.7度)は衝撃的だ=筆者撮影
  • 「夏最後の在庫一掃」とある。ツーソン・プレミアム・アウトレットはまだサマーセールだった=筆者撮影
  • チャンドラーにあるフェニックス・プレミアム・アウトレットには大柄サイズの婦人服専門店が出店していた。需要は多く繁盛店だ=筆者撮影

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