宝くじ大当たりしたら人生変わる 各州でこつこつと夢を買う 米国6600キロ第18回
[2024/02/04 10:00]
宝くじを買い忘れないようにガソリンスタンドへ。昼食をはしごするために、鉄道と並走して西に向かう。
(テレビ朝日 デジタル解説委員 名村晃一)
万引きの容疑者に容赦なし 顔隠さずに写真を掲げて告発
旅11日目の10月14日。テキサス州エルパソを出て、旅の13番目の州となるアリゾナ州に向かう。その前にもう一度、カウボーイファッションの店、スター・ウエスタン・ウエアに立ち寄った。店のこだわりに魅了され、大ファンになった。しばらく訪れることができそうにないので、目に焼き付けておこうと思った。
前日はジーンズやブーツばかりに目が行ったが、シャツの品ぞろえも豊富だ。えんじ色のチェックのシャツを1枚購入した。
会計を終えると、店内に万引きの容疑者の「指名手配」写真が何枚も掲示されていることに気づいた。万引きしたとされる人物の防犯カメラの写真を印刷したチラシだ。
「Have you seen this man ? (この男を見ましたか) He is wanted for shoplifting(彼は万引きで指名手配されています)」とある。500ドルの懸賞金がかけられた容疑者もいる。
写真にぼかしをいれることなどせず、万引きの容疑者とされる人物の顔を前面に出して告発している。犯罪に対して厳しい姿勢を示すことで、新たな万引きを防ぐ狙いもあるようだ。
「自分たちで捕まえてやる」 テキサス流で犯行食い止め
米国ではここ数年、万引きなど小売店の窃盗被害が増大し、社会問題になっている。特に窃盗団による組織的な万引きが拡大しており、サンフランシスコなどでは万引き防止のため、すべての商品をショーケースに入れて顧客が触れないようにするなど、極端な対策をとる店もある。万引きが原因で営業が立ち行かなくなり、店舗を閉鎖するケースも相次いだ。
2023年12月、万引きの厳罰化を議会に訴えてきた小売業のロビー団体が、業界の被害額を誇張して報告していたことがわかり、万引き問題への国民の関心はやや下火になったが、ニューヨーク市で万引きが2019年以降、約65%増加するなど深刻な状況に変わりはない。エルパソでも万引きを含んだ窃盗事件が、犯罪の中で最も多い。
一部の大手小売りチェーンでは、窃盗団を刺激すると客や店員に危害が及ぶ可能性があるとして、現場で万引きの容疑者に立ち向かわないように店員に指導している。
スター・ウエスタン・ウエアの「指名手配」写真の掲示は、こうした考え方とは正反対のやり方だ。万引きの容疑者を「自分たちで捕まえてやる」という姿勢がひしひしと伝わってくる。何事にも単刀直入に切り込むのがテキサス流だ。店の「指名手配」写真に「お国柄」が見えた気がした。
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州境またぐ前にガソリンスタンドへ 唯一の楽しみは運任せ州境またぐ前にガソリンスタンドへ 唯一の楽しみは運任せ
スター・ウエスタン・ウエアを出た後、インターステート10(I-10)に乗った。テキサス州でやり残したことはないと思ったが、宝くじを購入するのを忘れていた。州境をまたぐ前にI-10沿いのガソリンスタンドに立ち寄った。
趣味らしい趣味はないが、宝くじの購入は唯一の楽しみだ。運を信じてこつこつと買い続けている。
米国では、宝くじは州ごとに販売される。「メガミリオンズ」や「パワーボール」という全米規模で販売されている宝くじは、当選番号が全国共通だが、券の発行は各州の宝くじ協会が担う。また、州ごとのご当地宝くじも多い。即席くじのスクラッチも種類が豊富だ。
50州のうち宝くじを販売していないのはアラバマ、アラスカ、ハワイ、ネバダ、ユタの5州だけ。この5州は今回の旅では通らないので、訪れたすべての州で宝くじを買った。
オースティンやサンアンジェロを訪れた際にテキサス州の宝くじを購入していたが、再びテキサス州入りしたため買い足しを考えた。
ほとんどのガソリンスタンドには売店があり、宝くじを販売している。ドライブしていても気軽に購入することができる。大きなガソリンスタンドや大規模な駅、スーパーなどには自動販売機も設置されている。
歴代最高賞金は3000億円近く 現実離れの「特大スケール」
「メガミリオンズ」も「パワーボール」も計6個の数字を選んで購入する。「メガミリオンズ」は1口2ドル、「パワーボール」も一部の州を除き1口2ドルだ。抽選はいずれも週2回ある。当選者がいなければ賞金が繰り越されるため、数カ月間、当選者が出なければ、当選額が跳ね上がり10億ドル(1ドル=147円ならば1470億円)を超えることもある。
米国でのこれまでの最高賞金は2022年11月8日に抽選があった「パワーボール」で、金額は20億4000万ドル。当時は1ドル=146円台だったので、日本円で約2978億4000万円に上った。
この日は「メガミリオンズ」「パワーボール」のほかに、1口1ドルのローカル宝くじ「ロトテキサス・エキストラ」と「テキサスツーステップ」を5口ずつ購入した。仮に当選したら換金するには発行した州に戻らなければならない。高額当選となれば人生が変わる。その後の旅の予定はすべて白紙にし、購入した州に戻るつもりだ。
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噴き出る汗 飾り気ないレストランでラテンのもつ煮を食べる噴き出る汗 飾り気ないレストランでラテンのもつ煮を食べる
そんな夢を抱いて意気揚々とハンドルを握った。ロズウェルから来た道を逆に走り、ニューメキシコ州に戻るとI-10はラスクルーセスで左に大きく曲がった。その先はひたすら西に走る。
しばらくすると鉄道の線路と交差した。旅客鉄道アムトラックの「テキサス・イーグル」(ロサンゼルス〜シカゴ)と「サンセット・リミテッド(ロサンゼルス〜ニューオーリンズ)」、貨物鉄道ユニオン・パシフィックが利用する線路だ。
今回の旅はテネシー州メンフィスあたりから、ルートによっては線路とともに走ってきた。この先はかなりの距離を、線路と並行するように走る。
昼食は、メキシコ国境まで約55キロのデミングという人口約1万4000人の町で食べることにした。I-10を降りてすぐに商店街があり、I-10に戻るのが早いからだ。
駅近くのサウンズ・グッド・カフェというメキシコ料理店に入った。飾り気のないレストランだ。迷わずにタコスを注文したが、他のテーブルにいたメキシコ系らしき物静かな男女のもとに運ばれてきたスープに心を奪われた。
男女はパンをスープに浸しながら食べている。その所作が美しかった。我慢できずにスープを追加注文した。スープはメヌードと呼ばれ、牛の内臓と豆をトマトベースの出汁で煮込んでいる。期待通りの味だった。トウガラシがたっぷり入っており、食べるとすぐに汗が噴き出た。「もつ煮スープ」はラテン系の庶民の味だ。身も心も温まる。
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右手に貨物列車 昼食のはしごのために270キロ以上走る右手に貨物列車 昼食のはしごのために270キロ以上走る
この日の昼食は、デミングのメキシコ料理で終わらせたくなかった。すぐに車に戻りI-10を飛ばした。右手に姿を現したユニオン・パシフィックの貨物列車はのんびりと走っていた。I-10の制限速度より遅かったので、容易に追い抜き、その流れでアリゾナ州に入った。
州をまたいでの昼食の続きだ。目的のレストランは人口約5000人のベンソンという小さな町にあった。エルパソのカウボーイブーツ製造所の女性が絶賛していた店だ。旅は出会った人との会話の中で行き先が決まる。メキシコ料理を食べたデミングから270キロ以上離れているが、それでも、どうしても訪れたかった。
特定のメニューを薦められていたわけではなかったが、品書きに目を落とした瞬間に注文する料理が決まった。