国立公園を飲み込むミサイル実験場は世界初の核実験の地 米国6600キロ 第15回

[2024/01/27 10:00]

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 白い砂漠は雪景色のようだった。降り注ぐ強烈な太陽光線は砂に反射し、目も開けていられないほどのまぶしさだった。
(テレビ朝日 デジタル解説委員 名村晃一)

 ニューヨークからロサンゼルスまで、途中いくつもの町に立ち寄りながら6600キロを走破して見えた米国のいま。毎週土曜日と日曜日に配信しています。

紅茶だけで山ほどのスナック 気前いいサービスに恐縮する

ニューメキシコ州はトウガラシの一大産地で、米国のトウガラシ生産の約77%を占める。レストランで注文の際、「赤トウガラシか青トウガラシか、どちらにする?」と店側から質問されることが多い=AP/アフロ

 旅9日目の10月12日の宿は、ニューメキシコ州ロズウェルのダウンタウンにあるデイズ・イン・バイ・ウィンダム・ロズウェルにした。U.S.ハイウェイ285に面しており、各部屋の玄関を開けると、すぐに外に出てしまう典型的なモーテルだ。

 「ロズウェル事件」に夢中になり、ホテル探しが遅くなってしまった。「国際UFO博物館・研究センター」の向かいにあるメキシコ料理店、エル・トロ・ブラボーでアイスティーを飲みながら旅行サイトでホテルを検索していたら、サービスでトルティーヤチップスとサルサソースが出てきた。

 飲み物だけしか注文していないのに、申し訳ないと思っていたら、さらにワカモレ(アボカドをペーストにしたディップ)まで出てきた。メキシコ料理店はどこも気前がいいが、これには恐縮した。この店で夕食を済ませようかと思ったが、どのようなレストランがダウンタウンにあるのか、もう少し見たいと思った。焦る必要もない。

 日が暮れて、ぐんと気温が下がった。ロズウェルの海抜は1000メートルを超えている。前日に泊まったテキサス州サンアンジェロより約500メートル高い。砂漠地帯でもあり、昼と夜の寒暖差は大きい。

トウガラシ効かせた「ニューメキシコ・イタリアン」は家庭の味

アルフレッドソースたっぷりのラザニア。「ニューメキシコ・イタリアン」は高級路線でなく家庭料理だ=筆者撮影
グリルド・チキン。パスタ添えがうれしい=筆者撮影

 夕食は、モーテルから徒歩で行くことができるイタリア料理店のパスタ・カフェ・イタリアン・ビストロにした。チェックインした際に、女性スタッフが自信満々で薦めてくれたからだ。エル・トロ・ブラボーを裏切ってしまったことに多少の罪悪感はあったが、迷いはなかった。

 メニューを開くと「Italian Classico(伝統的イタリア料理)」とは別に「New Mexico Italian(ニューメキシコ風イタリア料理)」というくくりがあった。ニューメキシコ州名産のトウガラシをたっぷりと使ったイタリア料理だという。イタリア系移民が作り出した地元の味だ。

 名物メニューならもりもり食べてやろうと、ラザニアとグリルド・チキンを注文した。両方ともアルフレッドソース(クリームソース)がベースになっている。

 ラザニアはソースがたっぷりかかり、オーブンに入れる前のグラタンのようにも見えた。「このスタイルのラザニアはニューメキシコ州にしかない」と店のスタッフは胸を張る。

 クリームのまろやかな風味の後に、程よい青トウガラシの辛さが口の中に広がる。アルフレッドソースは食べ飽きてしまうことがあるが、青トウガラシの刺激が味に変化を与え、飽きるということはない。それどころか「すぐまた食べたくなる味だ」と思いながら食べ終えた。テキサス州にはテキサス風にアレンジしたメキシコ料理「Tex-Mex」(テックス・メックス)」がある。今や全米の人気料理だ。「ニューメキシコ・イタリアン」が米国のグルメ界に新風を吹かせる日が来るかもしれない。

北に向かえば寒い 目まぐるしく変わる地勢見ながら南西に進む

平原の先に見えるキャピタン・マウンテンズ=筆者撮影
U.S.ハイウェイ70沿いの町。廃屋が目立つ=筆者撮影
針葉樹林帯の中に現れたカジノホテルの看板。カジノはここでも地方振興の有力な手段だ=筆者撮影

 夜が明けて、旅10日目の10月13日。ロズウェルにはU.S.ハイウェイ380で東から入ったが、この日は同じ道を西に向けて走りロズウェルを出る。北西に位置するアルバカーキやサンタフェに行くことも一案だったが、アルバカーキは海抜1600メートル以上、サンタフェだと2100メートル以上で、ロズウェルよりもさらに寒くなっているはずだ。10月中旬なら雪になることもありえるため、このルートは避け、南西に向かうことにした。

 当面の目的地はテキサス州エルパソだ。オハイオ州のレストランで見たカウボーイブーツに出会うために、ニューメキシコ州を経由して再びテキサス州に向かう。

 ロズウェルは生態系の分岐点のようだ。西に進むと荒涼とした大地が広がり、樹木がほとんどなくなった。しばらくするとサボテンが見えてきた。これまでのルートではランチ(放牧場)に囲まれ、サボテンは視界に入ってこなかった。土地の様相が明らかに違っている。

 小さな集落をいくつか通過し、ホンドという小さな町でU.S.ハイウェイ70に入ると、やがて針葉樹林が生い茂る地域に入った。標高3652メートルのシエラ・ブランカ山から広がる針葉樹林帯は険しく、道は勾配とカーブが続いた。

「純白の大地」は世界最大の石こうの砂漠 氷河期からの地球の営み

ははるか遠くに見えるホワイトサンズ砂漠=筆者撮影
道路脇にできた砂の壁=筆者撮影
先に進むと砂が雪のように積もっていた=筆者撮影

 その後、先住民メスカレロ・アパッチの居留地を通過すると、再び荒涼とした大地となった。そこで目に入ってきたのは「白い大地」だった。

 純白の砂が広がるホワイトサンズ砂漠。ニューメキシコ州によると、砂漠の広さは約712平方キロメートルで、東京都の3分の1の大きさだ。世界最大の石こう砂丘で、その一部は国立公園になっている。

 氷河期のころ、ホワイトサンズ周辺は広大な湖だった。周囲の山々から石こうを含む水が流れ込んでいた。その後の環境の変化で湖水が蒸発した。石こうが空気にさらされ、さらに強風にあおられて現在のような白い砂となった。砂漠の一部は現在も、1年間で550メートルほど北東に移動しているという。

 砂漠を通る道路の両脇は、雪の壁ならぬ砂の壁だ。スリップしないよう運転には注意が必要だ。

容赦ない太陽の光 サングラスがないと目を開けるのがつらい

真っ青な空と真っ白な砂=筆者撮影
砂漠で雪山のようにそり遊びをする子供たち=筆者撮影
砂を触っても熱くない=筆者撮影
砂漠についた素足の足跡=筆者撮影

 駐車スペースに到着し白い砂漠の上に立つと、砂はさらさらで、まさに雪のようだった。砂の上を歩くと自分の足跡だけが刻まれ、何となくうれしくなる。しかし、強風に飛ばされた砂がすぐに飛んできて、短い時間で足跡の形がぼやけてゆく。

 空には雲ひとつなかった。太陽光線は容赦なく、白い砂からの反射も強烈で、サングラスをかけないと目を開けることができないほどだ。

 砂を触ってみた。気温は40度近いので、焼けついているだろうと思ったが、熱くなかった。石こうは一般的な砂と異なり、太陽光を反射するため熱を吸収しにくい。このため強烈な太陽光に照らされても熱くならない。目で見ても、肌で感じても、想像を超えることばかりだった。

 ホワイトサンズ砂漠で驚かされたのは、こればかりではない。この「自然の芸術」は軍事施設の中にあるのだ。

きっかけは真珠湾攻撃 巨大な軍事施設が武器開発を担う

U.S.ハイウェイ70にあるホワイトサンズ・ミサイル実験場の本部を示す道路標識=筆者撮影

 ホワイトサンズ・ミサイル実験場は約8300平方キロメートルある。東京都の約3.7倍の広さだ。1945年7月16日、米国はこの地で世界初の核実験を実施した。広島に原爆が投下されるわずか21日前のことだ。

 1941年12月7日(日本時間12月8日)の旧日本軍による真珠湾攻撃で大きな痛手を負った米軍は、軍事力増強にまい進した。ホワイトサンズ・ミサイル実験場の前身であるアラモゴード爆撃・射撃場は、真珠湾攻撃を受けたその月内の12月中に建設された。現在はホワイトサンズ・ミサイル実験場の東側にあるホローマン空軍基地になっており、「トリニティー・サイト」と呼ばれる世界初の核実験の爆心地は、基地から約120キロ離れたホワイトサンズ・ミサイル実験場の敷地内にある。

 ホワイトサンズ・ミサイル実験場では第2次世界大戦後も、核兵器やミサイル防衛システムの開発が行われ、東西冷戦下での軍拡競争の舞台となった。

 これまでに4万2000回以上のミサイルやロケットの実験などが行われ、現在も米国の武器・宇宙開発の重要な役割を担っている。

 ミサイル実験が行われる際は、実験場の北を走るU.S.ハイウェイ380と南を走るU.S.ハイウェイ70は通行止めとなり、ホワイトサンズ砂漠に一般人は入れなくなる。

 ホワイトサンズの美しさに触れた後、U.S.ハイウェイ70を走ってエルパソに向かった。何もない原野を走ると右手に実験場本部を示す道路標識が見えてきた。はるか向こうに頑丈そうな建物がある。

 国立公園を飲み込む巨大なミサイル実験場に、言葉にできないほどの不気味さを覚えた。

  • 旅10日目はロズウェルからホワイトサンズへ。昼過ぎまでの走行距離は214キロ
  • ニューメキシコ州はトウガラシの一大産地で、米国のトウガラシ生産の約77%を占める。レストランで注文の際、「赤トウガラシと青トウガラシか、どちらにするか」と店側から質問されることが多い=AP/アフロ
  • アルフレッドソースたっぷりのラザニア。「ニューメキシコ・イタリアン」は高級路線でなく家庭料理だ=筆者撮影
  • グリルド・チキン。「ニューメキシコ・イタリアン」は高級路線でなく家庭料理だ=筆者撮影
  • 平原の先に見えるキャピタン・マウンテンズ=筆者撮影
  • U.S.ハイウェイ70沿いの町。廃屋が目立つ=筆者撮影
  • 針葉樹林帯の中に現れたカジノホテルの看板。カジノはここでも地方振興の有力手段だ=筆者撮影
  • ははるか遠くに見えるホワイトサンズ砂漠=筆者撮影
  • 道路脇にできた砂の壁=筆者撮影
  • その先に進むと砂が雪のように積もっていた=筆者撮影
  • 真っ青な空と真っ白な砂=筆者撮影
  • 砂漠で雪山のようにそり遊びをする子供たち=筆者撮影
  • 砂を触って熱くないので、素足でも歩ける=筆者撮影
  • 素足の足跡=筆者撮影
  • U.S.ハイウェイ70にあるホワイトサンズ・ミサイル実験場の本部を示す道路標識=筆者撮影

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