「へそ出しルック」でテキパキ働く おもねらない女性パワー 米国6600キロ第13回
[2024/01/20 10:00]
気になるレストランに入ると「へそ出しルック」の女性店員が出迎えてくれた。マルガリータはキンキンに冷えていた。1杯わずか2〜3ドルだ。
(テレビ朝日 デジタル解説委員 名村晃一)
のどかなサンアンジェロで軽快な酒場の会話を楽しむ
ポークチョップとピザで満腹になったが、サンアンジェロの夜は、それでは終わらなかった。ホテルの目の前にあるツイン・ピークスという店が気になっていた。
店は山小屋風の建物で、外見は日本のファミリーレストランのようにも見えるが、窓から中をのぞくと大画面のテレビモニターがいくつも並んでおり、スポーツバーのようだった。
店に入ると、いきなり刺激的な光景が目に飛び込んできた。フロアスタッフはほとんどが女性で、全員が「へそ出しルック」だった。ジーンズのホットパンツに丈が短いチェックのシャツといういで立ちだ。のどかなサンアンジェロで出くわすと不意を突かれた感じがする。
カウンターに座り店を見渡すと、おじさん客だけでなく女性客や家族連れの姿もあった。セクシーではあるものの、健全な雰囲気だ。
注文をさばく女性店員の動きに無駄はなく、惚れ惚れするほど機敏に働いていた。他の客が注文した酒を作りながらも、カウンターの客を飽きさせないように話しかけてくるので、軽快な酒場の会話が弾む。
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マルガリータが1杯2〜3ドル 飲まないわけにはいかないマルガリータが1杯2〜3ドル 飲まないわけにはいかない
ウイスキーのオンザロックを注文したが、この店では客のほとんどがカクテルを飲むらしく、女性店員はオンザロック用の氷を探すのに苦労していた。
ウイスキーベースのカクテルについて説明しながら、ようやく見つけたロックアイスをアイスピックで削り、程よい大きさにしてくれた。その丁寧な仕事ぶりに目を見張った。
濃いウイスキーがあっという間に空になってしまい、2杯目はカクテルにした。お薦めを尋ねると間髪なく「マルガリータ」と返ってきた。
「ウチの自慢よ。1杯2ドルだからね」
耳を疑って聞き直すと、レギュラーマルガリータが1杯2ドル、ストロベリーなどの味付きは1杯3ドルだという。この日のドル円レートは1ドル=148円台だったので、レギュラーは約296円、味付きは約444円となる。円安なのに安い。
「それならば」と奮発してストロベリーマルガリータを注文すると、カクテルグラスでなくジョッキで出てきた。ジョッキはキンキンに冷えていた。酒好きのツボを、しっかりと押さえている。
肌の露出度高い「ブレストラン」 テキサス州が成長の原動力に
米国の外食産業では、女性スタッフが露出度の高い服装で接客するレストランを「ブレストラン(Breastaurant)」と呼ぶ。胸の「Breast」とレストランの「Restaurant」を組み合わせた造語だ。日本にも店舗があるフーターズに代表されるジャンルだ。
「ブレストラン」は米国で1980年代に誕生した。2008年のリーマンショックによる不況で外食産業が大打撃を受け、次々にレストランが倒産したが、その一方で「ブレストラン」が台頭した。
テキサス州やフロリダ州、アリゾナ州など南部や西部での成長が原動力となり、既存のカジュアルダイニングに取って代わる存在になった。
ツイン・ピークスも「ブレストラン」に分類されている。2005年にテキサス州ルイスビルで創業し、ブームに乗った。その「ブレストラン」も2018年ごろには不振に陥り、淘汰の時代を迎えたが、ツイン・ピークスは業績を伸ばし、2023年に米国内店舗数が100を超えた。外食業界では「ブレストランの次世代の担い手」と呼ばれる。
業界の事情やツイン・ピークスの会社の成り立ちは、楽しく酔った翌日以降に知った話だが、この店の酒やサービスへのこだわりを見て、厳しい時代に成長していた理由が理解できたような気がした。
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平日の朝、人影まばらなダウンタウン 太陽がまぶしい平日の朝、人影まばらなダウンタウン 太陽がまぶしい
一夜明け10月12日、横断9日目は「宇宙人の町」として知られるニューメキシコ州ロズウェルに向かうことにしていた。その前にサンアンジェロのダウンタウンに立ち寄った。
サンアンジェロは人口約10万人。周辺地域の交易の拠点だ。1900年以降の石油開発で発展した。教育都市でもあり、アンジェロ州立大学は1925年創立の伝統校だ。基地に頼る部分も大きい。グッドフェロー空軍基地は1940年設立で、飛行や諜報活動などの訓練施設として知られる。
平日の朝のダウンタウンには人の姿はまばらで、晴れた空から降り注ぐ太陽の光がまぶしかった。古い建物が立ち並び、時間が止まったかのような静けさだ。紅茶を飲みたかったのだが、まだ店が開いていなかった。1時間近くダウンタウンを歩き回った。書店はオープンしていたので、書店に寄ってから車に戻り、ロズウェルに向けてアクセルを踏んだ。
制限スピードに注意 120キロで走っていても学校近くは大幅減速
今回の旅ではこれまで、1日で必ず1回はインターステート(州間高速道路)を利用していた。しかし、この日は1回もインターステートを走ることはなかった。それだけ都市から遠く離れている地域を走ったということになる。
U.S.ハイウェイ87を北西に進んだ。相変わらず、右も左も広大なランチ(放牧場)だ。林立するランチ内の風力発電タービンの姿も、見慣れた光景になってきた。
インターステートは純粋な高速道路、U.S.ハイウェイは高速道路でもあり国道でもありというイメージだが、制限速度はインターステート並みだ。速い区間は時速75マイル(約120キロ)だ。
インターステートは日本の高速道路のように歩行者が入ってくることは基本的にないが、U.S.ハイウェイは町の中を通るため、集落に近づくと制限スピードが遅くなる。通過する際は時速25マイル(約40キロ)ぐらいまで減速することが義務づけられる。学校のすぐ脇を通る場合は時速20マイル(約32キロ)だ。周囲に建物がないからといってスピードを出していると、急に町に入り、慌てて速度を落とすこともあった。
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石油採掘井戸の煙突に立ち上る炎 白い綿毛が心和ます石油採掘井戸の煙突に立ち上る炎 白い綿毛が心和ます
ビッグスプリングという町に近づいたころから、ランチの中に石油採掘井戸が現れ始めた。中には煙突から炎をあげている井戸もある。遠くに巨大な風力タービン、近くに石油採掘井戸。持続可能エネルギーと化石燃料が共存している。
ラミーサという町でテキサス州ハイウェイ137に入ると、ランチの合間に綿花畑が広がった。白い綿毛が顔をのぞかせ、心を和ませてくれる。
ブラウンフィールドという町で左折し、U.S.ハイウェイ380を西に進む。州境を渡り、この旅の12番目の州となるニューメキシコ州に入った。同じ道路で同様の環境なのに、テキサス州内では時速75マイル(約120キロ)だった制限速度が、ニューメキシコ州では時速65マイル(約104キロ)に変わった。州当局の考え方ひとつで制限速度も変わる。交通ルールは州によって違うことの一例だ。
ランチ、風力発電タービン、石油採掘井戸、綿花畑の景色が変わらず続いたが、わずかに丘になっている地区を過ぎると、遠くにロズウェルの町が見えてきた。