「ナワリヌイよ、静かに眠れ!」 親友イリヤ・ヤーシンが獄中からメッセージ
[2024/02/22 17:00]
獄中で死んだナワリヌイの他にも、プーチン政権のロシアでは、多くの反プーチンの政治家やジャーナリストが、いまも獄中にいる。
ここに紹介するのは獄中の若き政治家イリヤ・ヤーシンが、アレクセイ・ナワリヌイの死に際して宛てた追悼の言葉だ。ヤーシンは1983年モスクワ生まれの40歳。さまざまな反プーチンの運動に加わり、2015年2月に殺害された反対派指導者ボリス・ネムツォフと行動をともにした。2017年にはモスクワ市行政区議員を勤めたが、その後の選挙では当局に立候補を取り消された。
2022年2月のウクライナ侵攻後はプーチンの侵略行為を激しく非難。支持者や友人に説得されても国外への亡命を拒否し、2022年6月、反戦集会の場で、公務執行妨害で逮捕され、7月には「政治的憎悪を動機としてロシア軍に関する虚偽の情報を意図的に流布した罪」によって再逮捕、年末に「軍の名誉を棄損した罪」で懲役8年6カ月を宣告され、現在、獄中にいる。
このメッセージは2024年2月20日にYouTubeに投稿された4分42秒のアピール(https://www.youtube.com/watch?v=S3klCi5ZcZQ)で、投稿から2時間で20万回の再生を数えている。YouTubeからの翻訳は筆者による。
※敬称略
(元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈喜一)
■「痛みと恐怖は耐えがたいほどだ。でも黙っていることはできない」イリヤ・ヤーシン
「わたしはスモレンスクの監獄に収監されている。厳重な収容監獄にニュースが届くのは遅い。(16日に亡くなった)アレクセイ・ナワリヌイの死について知ったのは、ようやく昨日(19日)になってからだった。その時の衝撃を伝えることはたいへん難しい。考えをまとめるのも難しかった。言葉を選ぶのも難しい。痛みと恐怖は耐えがたいほどだ。でも黙っていることはできない、重要で正しいと思うことを話そう。
ナワリヌイの身に何が起きたのかは明らかだ。彼が殺されたことに疑いはない。この3年、ナワリヌイはプーチンの治安機関、諜報機関の完全な管理下に置かれてきた。諜報機関は2020年にナワリヌイへの攻撃を仕掛け、失敗した。そして今回、それを最後まで遂行した。
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■「殺人によって権力は過酷さと復讐心を見せつけた」■「殺人によって権力は過酷さと復讐心を見せつけた」
わたしにとっては、誰がナワリヌイを殺したのかという疑問は存在しない。プーチンがやったことに疑いはない。プーチンは戦争犯罪人であり、その手は肘まで血塗られている。ナワリヌイはロシア国内でプーチンの最も手ごわい敵であり、クレムリンにおいては正真正銘の憎悪を掻き立てていた。プーチンにはナワリヌイを罰する動機も機会もあった。
プーチンが殺害命令を出したとわたしは確信している。国のプロパガンダは世論操作を始めるだろう。曰く「ナワリヌイの死はプーチン大統領にとっては何の利益にもならない」「選挙の1カ月前にナワリヌイを殺すのは非合理的だ」「プーチンは国際問題に集中していて、北極圏にいる囚人のことなど考える暇がない」――それは全部ウソだ。さっさとゴミ箱に捨てて欲しい。
2020年の毒殺未遂の時にも、国のプロパガンダは「もし殺そうと思ったら殺せたはずだ」と言ってプーチンを弁護した。その通りだ。プーチンはずっと殺したかった、だからいま殺したのだ。しかもただ殺しただけではなく、これ見よがしに、選挙が近い時期にわざと殺したのだ。プーチンの関与を疑う者はいないだろう。プリゴジンの時も疑うものはなかった。殺人によって権力は過酷さと復讐心を見せつけた。これは政治家の思考法ではない。これはヤクザの思考法だ。犯罪者集団の首領の思考法だ。
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■「被告席に座るプーチンを見たい」■「被告席に座るプーチンを見たい」
もう正直に認めようではないか。プーチンは人類史上最大のマフィア組織の親玉であり、それはわれわれの国家と実質的に一体化している。プーチンには道徳的、法的制限がない。プーチンは人びとを恐怖の中に握っている。恐れおののくことを拒否した者は牢にぶち込み、亡き者にしている。それがためにプーチンにおおやけに挑んだボリス・ネムツォフは銃殺され、アレクセイ・ナワリヌイは殺されたのだ。ナワリヌイは3年間収容所で拷問され、赦しを乞うよう強要された。しかし、そうはならなかった。すると今度は、ナワリヌイは命を奪われた。
悲劇で終わることとなったナワリヌイとプーチンの対比は、二人の個性の大きさの違いを見せつけた。ナワリヌイは人間の歴史に、まれに見る勇敢さで、恐怖と死を顧みず、つねに微笑みを絶やさず、誇らかに頭を挙げて、信じることに向かって突き進んだ人間として残るだろう。そして英雄として死んだ人物として。
一方、プーチンは巨大な権力を偶然に握った小さな人間であったし、そういう者として残るだろう。地下壕に隠れ、コンプレックスに囚われ、百万人もの人びとを慰み者として殺そうとした人物として残るだろう。
いずれにしても、わたしはプーチンの死を望まない。わたしは、神の前でだけではなく、この地上の法廷で、自分の犯したすべての犯罪の責任を取って被告席に座るプーチンを見たいと思っている。
■「わたしは暴政と戦い続ける」「民衆と共にいることを誓う」
アレクセイ・ナワリヌイはボリス・ネムツォフと同様、わたしの親友だった。わたしたちは共通の目的のために闘い、ロシアが平和で自由で幸福な国になるよう、命を賭けた。いま、二人の親友は死んだ。わたしは自分の内部に真っ黒な空虚さを感じている。自分自身の危険もよく承知している。わたしは鉄格子の中にいて、生命はプーチンの手中に握られていて、危険だ。しかしわたしは黙らない。
2015年2月、ボリス・ネムツォフの遺体の前に立った時、わたしは恐れないこと、屈しないこと、逃げないことを自分に誓った。それから9年、わたしはナワリヌイを悼みながら、この誓いを繰り返す。わたしの胸で心臓の鼓動が続く限り、わたしは暴政と戦い続ける。生きている限り、悪を恐れず、息が続く限り、自分の民衆と共にいることを誓う」
アレクセイ・ナワリヌイよ、静かに眠れ! イリヤ・ヤーシン