あれから3年…再び“甲子園”目指して 「あの夏を取り戻せ」元球児・敦賀気比OBの思い
報道ステーション
[2023/12/02 16:03]
甲子園球場には、およそ700人の元高校球児たちが集まりました。3年前の2020年の夏、コロナ禍で夢を奪われた世代です。先月29日、聖地・甲子園に立ち、今月1日まで熱い戦いが繰り広げられていました。「あの夏を取り戻せ」。そのプロジェクトを取材してきました。
■元球児「何のために生きてきたんだろう…」
これまで数々の名場面と、スターたちを生み出してきた夏の甲子園。しかし、2020年5月20日、その歴史が途切れました。
第102回全国高等学校野球選手権大会の中止を決定しました。
戦後初となる夏の甲子園中止。当時は新型コロナウイルスの感染が広がり、練習すらままならず。高校球児、特に3年生にとっては最後の夏を前に、残酷な決定でした。
あれから3年、1つのプロジェクトが発表されました。
大武優斗さん:「あの時の悔しさが忘れられなくて。もう一度あの時の球児を集めて、“あの夏を取り戻そう”とプロジェクトが始まりました」
その名も「あの夏を取り戻せ」。当時の高校3年生たちが甲子園で試合を行う取り組みです。
立ち上げたのは、武蔵野大学3年生の大武優斗さん。3年前のあの日、甲子園の道が絶たれた高校球児の一人でした。
大武さん:「今でも夢に監督さんから(甲子園中止を)言われた時が出てくるくらい、一生忘れることのできない日になった。何のために自分は野球をやってきたんだろうということと、何のために自分は生きてきたんだろうと、本当に考えましたね」
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■プロジェクトに同世代メンバー約50人が参加■プロジェクトに同世代メンバー約50人が参加
不完全燃焼のまま、高校野球を引退した大武さん。喪失感を拭えないまま、大学生活を送っていました。
ヒロド歩美キャスター:「このプロジェクトを立ち上げたきっかけは?」
大武さん:「僕自身も2年間、野球を見ることすらできなくなって、毎日着けていたグローブも、わざと目の届かない所に置くような生活だった。前に進めない選手は自分を含めているのではと思って。終止符を打って、次のステップに進めるようなプロジェクトを始めた」
大武さんは、各都道府県の独自大会を勝ち残った高校へ呼び掛けると、42チームの出場が決定。さらに、このプロジェクトには同世代のメンバーおよそ50人が全国各地から加わりました。
大原さん:「自分も高校生の時に、新型コロナで色んなイベントがなくなって。こういう大きなイベントに携わることが価値あること」
舩原さん:「自分も高校野球やってきて。一つ上が甲子園なくなって、本当に悔しい思いをしたのを知っていた。先輩に恩返しがしたくて、このプロジェクトに参加した」
これまで各グループに分かれ、出場チームとの連絡や大会のPR。そして、クラウドファンディングや支援企業を募り、大会資金を集めるなど、準備を進めてきました。
大武さん:「家族より一緒にいます。顔を見れば、何を考えているか分かるぐらい」
ヒロドキャスター:「まさに部員のような」
大武さん:「最高な世代。甲子園がなかった代だからこそ、強いつながりがあって。第二の青春みたいな、一生の宝物になった」
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■敦賀気比OB「人生の一番の仲間と」夢舞台へ■敦賀気比OB「人生の一番の仲間と」夢舞台へ
一方で、あの夏を取り戻すのは、出場する選手たちも一緒です。
9月、大会に向けて練習を行っていたのは、福井代表の敦賀気比チーム。かつては同じ寮で過ごしていた仲間たちですが、今は通う大学も、住んでいる場所もバラバラ。引退してから一緒に野球をするのは、この日が初めてです。
チームをまとめる宮階宣全さん。甲子園に出場するため、常連校の敦賀気比へ入学しました。しかし、3年生最後の夏。独自大会によって福井の頂点に立つも、甲子園に行くことはできませんでした。
宮階さん:「自分の中で甲子園というのは、人生の中で一番の目標にしていた。3年間、厳しい練習に耐えたので、頭が真っ白になった」
引退から7カ月後、後輩たちが出場したセンバツ大会の応援に訪れた宮階さんでしたが…。
宮階さん:「甲子園に入った瞬間に涙が出てきて、応援どころではなくなった。本当だったら、自分たちが立てた場所。うらやましい、悔しい。なんで僕たちの世代だけ、甲子園がなくなってしまったんだろうと、涙が出てきた」
あの夏、立つはずだった夢舞台へ。今度こそ、選手として足を踏み入れます。
ヒロドキャスター:「甲子園にこのメンバーで立てる思いは?」
宮階さん:「人生の一番の友達、仲間と甲子園という素晴らしい舞台に立てるのは、本当にうれしい。自分たちだけではなく、当時の独自大会で負けてしまった選手たちの思いも含め、少しでも気持ちを晴らせたらいい」
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■“あの夏世代”だからこそ…苦しくても前へ■“あの夏世代”だからこそ…苦しくても前へ
先月29日、ついに迎えたプロジェクト当日。およそ700人の元高校球児たちが甲子園に集結しました。
大武さん:「幸せですね、めっちゃ天気も良くて、甲子園日和。めっちゃ笑顔でしたもん、選手が全員。幸せだなと思います、携われたことに。ここまでが仕事だったので」
あの夏から3年の時を経て、聖地で5分間のノックを行った敦賀気比チーム。待ち望んでいた景色や土の感触をとことん味わいました。
ヒロドキャスター:「思う存分、甲子園を堪能しているような表情とプレーが見えますね」
そして今月1日、敦賀気比のユニホームを着て臨む最後の試合。あの夏、かなわなかった思いをプレーに込める宮階さん。一番の仲間たちと共に過ごした、特別な時間でした。
ヒロドキャスター:「試合を終えてどうですか?」
宮階さん:「本当に楽しかったです。今までいろんなものを犠牲にしてきて、みんなで最後は笑顔で終われた。(これからは)心の底から全力で、敦賀気比を応援できると思います」
ヒロドキャスター:「『あの夏を取り戻せ』というテーマは?」
大武さん:「取り戻せました。超えることもできたかなと思います。こういう経験をした“あの夏世代”だからこそ、苦しいことがあっても前に進める、そんな世代になった」
(「報道ステーション」2023年12月1日放送分より)