検証・李忠成のボレー「誰がヒーローになるんだ」 語り継がれるゴールの真実

[2024/01/10 15:18]

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 2011年に開催されたサッカー・AFCアジアカップで、日本代表が優勝しました。実は2011年以来、日本は優勝から遠ざかっています。日本をアジア王者に導いた、語り継がれるボレーシュートに迫ります。

■今も人々の心を熱くする…李のボレー!

日本代表 森保一監督
「美しいですよね。本当にビューティフルゴールだったと思います」

日本の指揮官が見とれたゴールとは、一体?李忠成さんのゴールが生まれたのは、今から13年前、カタールで開催されたアジアカップ決勝戦でした。

2大会ぶりの優勝を目指す日本は、オーストラリアを相手にゴールを割ることができず、試合はスコアレスのまま延長戦へ。「このままPK戦までもつれ込むのか」と脳裏をよぎった、その時でした。

決めたのは、途中出場の李さん。当時、A代表出場2試合目のストライカーでした。13年たった今もなお、人々の心を熱くするこのゴールはなぜ生まれたのか。

李さん
「僕がヒーローになるんだ」

■長友の証言…李のボレーが決まった理由

番組では今回、2つのテーマをもとに、ひも解いていきます。

まずはオーストラリアとの決勝戦で、日本はサイドを中心に攻めていました。しかし、高さのある相手に決定機をなかなか作れず、クロスからシュートに行けた数はわずか1本(李の得点まで)。実は数字上、李さんのゴールは得点の可能性が低いパターンだったのです。

そんなわずかなチャンスをものにした李さん本人に、ゴールシーンを振り返ってもらった。

李さん
「クロス上げる選手って、中をあんまり見ていない。自分の感覚で上げている。僕の持論ですけど。一番良いと思っているクロスを出すと思った」

では、実際にクロスをあげた長友佑都選手は、どう考えていたのでしょうか?

長友選手
「速く低いクロスで上げるというのは、(選択肢に)一つあった。あれは自分の感覚的な選択というか。僕のクロスからあのエリアで点を取るシーンが日本代表で結構あったと思います」
「(Q.李さんのボレーが決まった理由?)李選手の不屈の精神です。ビビってしまうと自分が持ってる技術だったりとか、能力っていうのは発揮できないので。あれをダイレクトボレーするという選択をした李選手の度胸というか、メンタルの強さが全てなんじゃないかなと。僕だったらビビッて、トラップしていた」

■マークした李をフリーに…豪代表が悔やむミス

続いては、このゴールを語るうえでは欠かせません。どうして、李さんはフリーに?

李さん
「あれもすべて伏線があって。僕は交代してから、ニアにクロスを1、2回上げている。全部、ニアに突っ込んでる。わざと」

これに対し、この場面、李さんをマークしていたオーストラリア代表ディフェンダーのデビッド・カーニーさんは、次のように振り返りました。

カーニーさん
「李は前に出る動きをしてから、後ろに下がった。だからニアに行ったが、それがまずかった。間違った守備でゴールを許してしまったよ。悔やみきれないミスだったが、卓越した技術から生まれたゴールだった。ゴールも良かったが、特にクロスをとらえる技術が高かった。こんな決勝ゴールを決められたら、選手として最高だろうな」

ゴールの理由に「メンタル」をあげた長友選手、「技術」をあげたカーニーさん。しかし、当の本人は…。

李さん
「技術だけでもないし、メンタルだけでもないし。『努力は報われる』ですね。まさか泣くと思わなかったんですけど」

■「誰がヒーローになるんだ」李から後輩たちへ…

一躍、ヒーローとなったアジアカップ。しかし、同時に挫折を味わった大会でもありました。

李さんにとって代表デビュー戦となったヨルダンとの初戦で、1点を追う日本は李さんを後半開始からピッチに送り込みます。しかし、ゴールどころか、シュートすらゼロ。ストライカーとして、最悪のデビュー戦となりました。

李さん
「日本代表のワントップとして出て、45分も戦ったのにシュートも一本も打てず、チームも勝たせられなかった。ここで日本代表のキャリアは、僕は終わってしまった。すごい哀しい思いにもなりましたけど」

以降、あの決勝戦まで1試合も出場することがなかった李さん。それでも、ピッチに立つことを諦めることはありませんでした。

李さん
「ヨルダン戦が終わって1試合も出られなかったのに、気持ちが途切れないで頑張れたのは、ベンチの自分が腐ってたらどうするんだって諦められなかった。日本代表が勝利をつかむためにできることを、自分の全力を一日一日捧げられたからこそ、このゴールが生まれた」

李さんのボレーは、不屈の精神力と卓越した技術、さらにあきらめずに努力し続けたからこそ生まれたゴールだったのです。

最後に、アジア王者を目指す後輩たちへ…。

李さん
「努力は報われると思うので、ベンチにいようが、スタメンにずっと出ていようが、神様は必ず微笑んでくれると思う。『誰がヒーローになるんだ』。僕はここしか見ていないですね」

(「報道ステーション」2024年1月9日放送分より)

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