走る江戸前鮨「実家のワサビ食べて!」丸刈り25歳のキッチンカーチャレンジ【後編】

[2024/02/19 15:42]

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丸刈りの若干25歳の青年は“チャレンジャー”だった。高校3年の時に鮨店のアルバイトを始め、大将の姿に憧れ鮨屋になることを決意。

「実家で栽培するわさびの美味しさを自分が握る鮨で、もっと多くの人に知ってもらいたい」

という熱い思いから25歳までに独立するという目標を立て、高校卒業後は銀座や麻布十番の鮨店などで7年間、修行を続けてきた。

開店資金は金融機関から数百万円を借り入れ、キッチンカーをDIYで完成、そして2023年12月には保健所から待望の営業許可もおり計画通り“25歳での独立”に突き進んでいた。
(テレビ朝日報道局デスク 清田浩司)

オープン前シミュレーションで様々な課題が…

あとは出店場所をどこにするかだけなのだが、なかなか年内(2023年)には見つからずオープンは正月休み明けの5日となった。

年末、友人ら3人を招いて、実際にキッチンカーを駐車場に停めて営業のシミュレーションをしてみる。

 「外、出たらめちゃ寒いですね!」
「めちゃくちゃ美味しい!」友人が絶賛も問題点が…

寒さが身に染みる中、小林君がキッチンカーに乗り込みニシン、アナゴ、中トロとどんどん握り鮨を振舞っていく。

友人たちは鮨を頬張りながら

「めちゃくちゃ美味しいです!」
「1回来店してみてお客さんが魁くんのこと好きになってまた来るかって感じになるよ!」
「友人だから贔屓目になるけど絶対売れるでしょ!」

など励ましの言葉をもらう。しかし、ばらちらしを作りながら握りも作ろうとすると提供するまでの時間に問題があることが分かった。

シミュレーションを終え本人は

 「今日やってみて自分でも寒いと思ったので、待っているお客さんはもっと寒いと思うので、ちゃんと寒さ対策をしていかないといけないと反省しました。あとは提供時間ですよね、ばらちらしと海鮮丼は5食ずつの限定にして作りおきしておいて、あとは次のお客さんの分を作ることに集中しようかなと考えています」

実際にシミュレーションして克服すべき課題も見えたのだが…

江戸前鮨キッチンカー「鮨さきがけ」の“ほろ苦デビュー”

キッチンカー『デビュー戦』当日の早朝 東京・豊洲市場

年明け5日、いよいよ待望のキッチンカーオープンの日だ。朝早く、小林君は豊洲市場へとネタを仕込みに行く。買い込んだ袋をあけると

「ミル貝とイワシ、イカ、コハダが良かったすね」

と満足そうな表情だ。

仕入れたネタ 『デビュー戦』はこれで勝負する 

初めての出店場所は、市ヶ谷駅近くのオフィス街。
しかし小林君、なぜか予定の時間に来ない。
開店1時間前の午前10時半、ようやくキッチンカーが姿を現す。車のボディには自分の名前からとった「鮨さきがけ」の看板がまぶしく見えるが

開店1時間前にようやく到着 初戦の舞台は市ヶ谷駅近くのオフィス街
「ちょっと開店までに準備が間に合わないかもしれないです。やばい…」

かなり焦っている様子だ。聞けば仕込みに手間取り、まさかの遅刻。
そこからギアを上げ準備を進めるのだが、車の下に敷かなければならないシート(排水やオイルが万一漏れた時用)が薄く出店場所を紹介してもらった会社に用意してもらうなどしていて、開店時間までにばらちらしと海鮮丼の作り置きができない事態に…

仕込みに手間取り 開店準備はギリギリに

そして、いよいよ午前11時半の開店時間を迎え「商い中」の札を掛ける。しかし、正月明けの5日とあって街はまだ閑散としている。果たして客は来るのか??自分事のように私も不安になる。

開店から約10分 初めてのお客さんが!

すると10分ほどして記念すべき初めての客が!初の注文は、マグロやタイ、イカなどをふんだんに使ったばらちらし(1500円)だった。

記念すべき1人目の注文は『ばらちらし』(1500円) 
マグロ、イカ、タイなどをふんだんに使っている

シャリにネタをのせていく。シャリには、こだわりの赤酢を使うことでコクが深まるのだという。
そして仕上げには実家のワサビを添え初めての客に出す。

2人目の客は“イマドキ”だった。

仕上げは実家のワサビ たっぷりとおろす

2人目の客は“インスタ効果”で来店!

2人目の注文は『おまかせ7貫にぎり』(2500円)
「彼のインスタグラムを見てここで今日、出店するのを知って来ました」

実は小林君、正月明けの客足の悪さを見越してSNSで告知していたのだ。いまどき、キッチンカーの客も、ただ闇雲に来るわけではないのだ。書き込みが奏功した。

注文は、おまかせ握り。宮城県産の本マグロに、東京湾でとれたイカとコハダ、長崎県産のカマスなど7貫(2500円)。

2人目までは順調だったが…

小林君、手際よく握っていく。ここまではよかったのだが、3人目の客が

「握り、ばらちらしと海鮮丼ひとつずつお願いします」

種類の違う3つの注文をしたのだ。

これが思わぬ事態を引き起こしてしまう。同時に3つのメニューを作ろうとするものの店舗とは勝手の違う初めてのキッチンカーにパニックになってしまう。
シミュレーションで明らかになった問題に正に今直面している。

手間取って注文から提供までに20分以上が経過

指を指しながら何度もネタの確認をするなど手間取り結局、提供するまでに20分以上もかかってしまったのだ。

「やばい、やばいですね。いっぱいお待たせしてすみません!」

 事前のシミュレーションを活かし待っている客の足元にヒーターが置かれていたのがせめてもの救いだった…心配そうに見守る客にひたすら平身低頭の小林君。

3種の注文でパニックに 客も心配そうに見守る

しかし、客は待った甲斐があったようだ。食べた感想を聞くと

「すごく脂がのってて美味しいです。ちゃんとすりおろしたワサビもいいですね」

と上々の出来。実家のワサビも評判がいい。

結局この日の客は5人、1万5千円ほどの売り上げだった。

「提供スピードも遅いし準備もしっかりできていなかったし…この状態だと仕込むネタの種類も減らさないといけないですね…色々全然ダメでした」
「全然ダメでした…」初日を終えて意気消沈する小林君

閉店後は、なんとも“ほろ苦デビュー”で意気消沈の小林君だったが放送後、連絡をとると

「放送終わって自分のインスタ見たらフォロワーが一気に400人以上増えたんですよ!」

と嬉そうに話した。

オープンから1か月どうなった小林君!?

オープンから1か月ほどして、小林君に会いその後の様子を聞く。
昼はオフィス街、夜は豊洲や有明などタワーマンションのある所に出店している。

新メニュー 『鯛のゴマしょう油漬け&マグロしょう油漬け丼』(1500円)

1日の売り上げの目標は5万円だが平均は3〜4万円でギリギリのラインだ。会社の会議用の注文や自宅やオフィスに出張に来て欲しいと言う注文も増えて来ているという。

初日の反省から2日目以降はメニューも変えて注文が重なったときでも提供スピードは3〜5分と速くなったそうだ。

おまかせ握りも3貫、5貫、7貫とバリエーションを増やした

メニューは海鮮丼、ばらちらし(1500円)は変わらないが、
鯛のゴマ醤油漬け&マグロ醤油漬け丼(1500円)、
サーモン丼(1000円)が新登場。
おまかせ握りも3貫=1000円、
5貫=1800円、
7貫=2500円とバリエーションを加え、小林君なりに考えた跡も見える。

スタートしたばかりの小林君の挑戦。毎朝5時には起きて豊洲市場に向かう毎日…
将来的には店舗も出したいし、東京だけでなく日本全国も回りたい、そして海外でも鮨を握りたいと夢は大きい。

だが、この先まず暑さが厳しくなる夏をどう乗りこえるか、試練も待っている。

「夏はかき揚げ丼にするか、稲荷鮨もいま色々考えています。実家のワサビを活かしたものや鮨屋ならではトロたくやうに・いくら稲荷で勝負してもいいかなって。あるいは割り切ってかき氷だけにしようかな、なんて色々考えています」

膨らむばかりのアイデア、悩みながらもそこに悲壮感はなく、チャンレンジャーの精神は失っていない。キックボクシングで鍛えた体力と精神力できっと暑い夏も乗り越えられるだろう。

  • 『デビュー戦』前に友人を呼んでシミュレーション
  • 「めちゃくちゃ美味しい!」友人が絶賛も問題点が…
  • 注文から提供まで時間がかかりすぎる 懸念は本番で・・・
  • キッチンカー『デビュー戦』当日の早朝 東京・豊洲市場
  • 仕入れたネタ 『デビュー戦』はこれで勝負する 
  • 開店1時間前にようやく到着 初戦の舞台は市ヶ谷駅近くのオフィス街
  • 仕込みに手間取り 開店準備はギリギリに
  • 開店から約10分 初めてのお客さんが!
  • 記念すべき1人目の注文は『ばらちらし』(1500円) <br>マグロ、イカ、タイなどをふんだんに使っている
  • 仕上げは実家のワサビ たっぷりとおろす
  • 2人目の注文は『おまかせ7貫にぎり』(2500円)
  • 2人目までは順調だったが・・・
  • 手間取って注文から提供までに20分以上が経過
  • 3種の注文でパニックに 客も心配そうに見守る
  • 仕上げは実家のワサビ
  • 「全然ダメでした・・・」初日を終えて意気消沈する小林君
  • 新メニュー 『鯛のゴマしょう油漬け&マグロしょう油漬け丼』(1500円)
  • おまかせ握りも3貫、5貫、7貫とバリエーションを増やした
  • 毎朝5時におきて豊洲市場へ通う日々

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