
オーディションで3000人の中から映画「初恋」(三池崇史監督)のヒロインに選ばれ話題を集めた小西桜子さん。第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。映画「佐々木、イン、マイマイン」(内山拓也監督)、映画「はざまに生きる、春」(葛里華監督)、「猫」(テレビ東京系)、「まどか26歳、研修医やってます」(TBS系)などに出演。ヒロインを務めた映画「ありきたりな言葉じゃなくて」(渡邉崇監督)が公開中。フリーで数多くの作品に出演してきた小西さんは、2024年9月から小栗旬さんが社長を務めるトライストーン・エンタテイメントに所属。さらなる活躍が期待されている。(※この記事は全3回の後編。前編・中編は記事下のリンクからご覧いただけます)
■難しい役どころは毎回成長がある

2023年、映画「はざまに生きる、春」に出演。この作品は、発達障がいを持つ画家の青年と女性編集者の恋の行方を描いたもの。小西さんが演じたのは、出版社に勤めるヒロイン・小向春。恋人がいながらも取材で出会った発達障がいを持つ有名な画家・屋内透(宮沢氷魚)に惹かれていくが、相手の気持ちを汲み取ることが苦手な彼に振り回されることに…という展開。
――多くの作品に出演されていますが、難しい役どころが多いですね
「そうですね。でも、難しい役のほうがありがたいです。役者だったらやりたがる難しい役をやらせていただけるのは、毎回成長もあるし、勉強になるのでありがたいなと思います」
――達成感が大きいでしょうね。撮影はいかがでした?
「監督にとって初めての長編作品だったのですが、本業があって有休をとって監督をやられているということもあって、熱量もすごく高かったです。自分がそういう作品に参加させていただけることはなかなかないので、自分も本当に頑張らないといけないなと覚悟を持って臨ませていただきました。
題材も監督のいろいろな思いや経験が反映されているものだったので、自分の中でより覚悟を持ってお芝居させていただきましたが、本当に悩みながら…という感じでした。
映画の題材にも通じるのですが、正解がわからない中で考えることを諦めずに、想像力を働かせる…みたいな体験だったので、それはすごくいい作品に参加できたと思います」
――心の動きが繊細に描かれていますね。完成した作品をご覧になっていかがでした?
「脚本を読んだときからすごい好きだなと思ったのですが、完成した作品を見たときに、
私が演じる“春”という役の、等身大の繊細な部分をちゃんと映画でも切り取っていただけていて、些細な部分にも共感できると思いました。
当時20代前半で演じていたので、まだ未熟な部分だったり、自分中心になってしまっている部分が当時の自分自身と通じるところが多いなって。
そこは役とあまり離れてなかったので、その当時の自分にしかできない自然なお芝居が宮沢(氷魚)くんやほかの皆さんに引き出されて、すごくいい化学反応みたいなことが起きた作品に仕上がったのではないかなと思っています」
――温かくて繊細な空気が流れている作品ですね
「そうですね。だから、いろんな方の目に触れてほしいなと思います。自分の今までやってきた仕事に関しては、『初恋』について聞かれることが多いのですが、もう少し経験を積んでからの作品としてたくさんの方に見てもらえたらいいなと思います。
何もわからないなりにやっていた当時よりは、たくさん考えて向き合った作品なので、毎回毎回代表作ぐらいの作品を一つ一つ重ねていけたらいいなと思っています」
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■新進脚本家を奈落の底に突き落とすヒロインに■新進脚本家を奈落の底に突き落とすヒロインに

(C)2024テレビ朝日映像
小西さんは、現在公開中の映画「ありきたりな言葉じゃなくて」に出演。この作品は、原案・脚本の栗田智也さんの実体験を基に新人脚本家が夢を掴んだ矢先、偶然出会った“彼女”に翻弄され、奈落の底に突き落とされる様を描いたもの。
32歳の藤田拓也(前原滉)は中華料理店を営む両親(酒向芳&山下容莉枝)と暮らしながら、テレビの構成作家として働いている。売れっ子脚本家・伊東京子(内田慈)の後押しを受け、デビューが決定。浮かれた気持ちでキャバクラを訪れた拓也は、そこで出会った“りえ”(小西桜子)と意気投合。泥酔した拓也が翌朝目を覚ますと、そこはホテルのベッドの上で、りえの姿は見当たらず、連絡も取れなくなってしまう…。
――業界の人には「あるある」ですね。お話があったときにはどう思われました?
「題材が題材だったので、難しいなというのと、ちゃんと向き合って、一つ一つ曖昧にせずに、たくさん話し合いをして描かれるべきだなと思いました。
映画を作るという意味では初めてのプロジェクトチームでしたが、初めて映画制作をする一本目の大切な作品なので、そこは大切にしたいという思いが伝わってきて、それはすごくうれしかったですし、できる限り私もそれに応えられるように頑張りたいと思って参加しました。
良い意味で初めての映画だからこそ、あまり枠にはまらず柔軟にやっていました。前原(滉)さんをはじめみんなの意見も聞いてくれて、こちらが意見を言えるような映画作りの環境だったので、すごく面白かったですし、なかなかできない経験をさせていただいたと思います」
――ご自身では、「りえ」という女性はどう思います?
「自分とはもちろん違いますけど、ものすごく難しいというわけでもなくて、意外と彼女のバックグラウンドや、根っこにあるいろんな原因を辿っていけば理解できるし共感できるキャラクターでした。
だから、演じるのが難しいというよりは、過去の部分を監督たちと一緒に掘り下げて、なるべく寄り添って演じていたので、(彼女の行動を)もちろん肯定するわけではないけれど、決して否定することも絶対にしたくなかった。なるべく偏見を持たずに等身大で演じさせていただきました。
りえに関しては振り返ってみると、完全に否定はできないけど、良くないなって思う行動もしているし…それがすごく面白いなと思いました」
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■フリーから心機一転、事務所に所属することに
■フリーから心機一転、事務所に所属することに

2020年、大学時代に映画「ファンシー」で本格的に俳優デビュー以来、フリーで数々の話題作に出演してきた小西さんは、2024年9月、「ありきたりな言葉じゃなくて」で共演した前原滉さんのトライストーン・エンタテインメントに所属することに。社長の小栗旬さんをはじめ、田中圭さん、綾野剛さん、坂口健太郎さん、赤楚衛二さん、若村麻由美さんほか錚々たる俳優陣がそろっている。
――俳優のお仕事を始めてすぐに次々と映画出演が決まってロケットスタートでしたね
「出だしはまだまだという感じでしたが、一時はずっとそれが当たり前だったというか。スケジュール帳を見て、一日でも真っ白な日があると許せないという感じでした。
自分もその状態がすごい好きでしたし、スケジュール帳が埋まっていると埋まっているほど幸せだったので、本当にありがたいことだったなと思います」
――事務所に所属されて5カ月あまりですが、いかがですか?
「完全なフリー期間が相当長くあったので、ご縁でトライストーンさんに入れていただいたことは、これまでの人生で一番大きな出来事といっていいと思います。ありがたいというか、『本当にいいんですか?』という感じでした。頑張ってご恩返しをさせていただかないといけないなと思っています。
まだ半年ぐらいですけど、私に合っている感じがします。皆さんすごく熱量があって、それはエンターテインメントに携わる上で一番純粋なものだと思います。それをすごく感じる事務所ですし、出会った(事務所の)先輩の皆さんからも感じています」
――すごい俳優さんたちがいらっしゃいますね
「はい。本当に尊敬していますし、大好きです。何か自分らしさを取り戻させてもらったような感覚というか、(自分の中に)流れている血がトライストーンさんにすごく合っているので、抑えて蓋をしていた部分をだいぶ開いてもらったような感覚があります。
それは本当に自分でも予想してなかったご縁によって今の自分がいるので、一番いい感じで繋がっているなあと思っています」
――山本又一郎会長も昔ながらのプロデューサーという感じでバイタリティー溢れる方ですね。「革命を起こしてくれ」と言われたのですか?
「私はそのように受け止めたんですけど。『革命起こしに来ましたぐらいのことを言って来いよ』というぐらいの意味で触発させていただいたので」
――前原(滉)さんが「トライストーンの飛び道具」と言っていましたが、「革命を起こす」というのもすごいですね
「そんなことを簡単には言えないですけど、それぐらい実力で見せていくしかないと思っています。それを焚きつけられたので、結果としてそれぐらいのことを成し遂げられるように頑張らないといけないなと。ジャンヌ・ダルクのような存在になりたいです」
――今後はどのように?
「たくさんやりたいことがあります。ドラマは貪欲にいろいろやりたいし、映画も貪欲にいろいろやりたいです。今までやってきたこと以上のことを一つ一つ、数を多くというよりは、確実に今までより成長した自分を作品でお見せできればいいなと。いい役者になって、人間的にも成長して、それがお芝居に活かせたらいいなと思っています」
仕事を離れて一番ホッとするのはサウナ。岩盤浴が好きで10時間ぐらいいたりすることもあるとか。心とからだをリフレッシュし、新たな環境でさらなる活躍に期待が高まる。(津島令子)