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2025年3月4日 13:39

ゴリ(ガレッジセール) 地元・沖縄を舞台に映画監督・照屋年之として作品を撮り続けて…

2025年3月4日 13:39

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沖縄出身のお笑いコンビ「ガレッジセール」として注目を集め、ゴリさん。連続テレビ小説「ちゅらさん」(NHK)で第30回ザテレビジョンドラマアカデミー賞新人俳優賞を受賞するなど俳優としても活躍。2017年、映画「沖縄を変えた男」(岸本司監督)に主演。2018年には、本名の照屋年之名義で監督・脚本を手がけた長編映画「洗骨」で日本映画監督協会新人賞(2019年度)を受賞。NYで開催された「JAPAN CUTS」(北米最大の日本新作映画祭)で観客賞を受賞するなど海外でも高く評価されている。最新監督作「かなさんどー」が現在公開中。(※この記事は全3回の後編。前編・中編は記事下のリンクからご覧いただけます)

■監督を始めてから自分が出ているものは見なくなった

2016年、短編映画「born、born、墓音。」を監督。この作品は、沖縄の離島・粟国島で受け継がれる風習「洗骨」をめぐり、バラバラだった家族が本当の自分と出逢い、絆を取り戻していく様を描いたもの。

ショートショートフィルムフェスティバル&アジア(SSFF&ASIA)2017のジャパン部門賞グランプリ、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017でも観客賞を受賞するなど高い評価を受けた。

――「洗骨」の元になった作品ですね。すでに長編を撮ろうと思っていたのですか

「思ってなかったです。それで、ショートショートフィルムフェスティバルでグランプリを獲らせていただいて、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で観客賞を受賞したので、会社の方から長編にしてみないかという声をかけていただいて。そこからですね、チャンスをいただいたのは。そこから考えて『洗骨』を作りました」

2017年には映画「沖縄を変えた男」に主演。この作品は、1990年、1991年と二年連続で沖縄水産高校を甲子園準優勝に導いた名将・栽(さい)監督の甲子園にかける思い、厳しい練習に耐え抜く部員たち、それぞれの葛藤を描いたもの。

「今だったら体罰ということで問題になってしまいそうですけど、確固とした信念があってすごい人ですよね。実際沖縄で『神』と言われている存在ですからね。

野球が弱かった沖縄県の高校野球を決勝まで連れて行くというのは、もう本当に軍隊のような厳しさじゃない限り無理だったと思うんですよ。

今の時代だったら批判されますし、他にやり方があっただろうと思うんですけど、多分あの時代ではあの方法しかなかったんだと思います。だからそこきちんとそういうシーンについて親族の方々にも了承していただいて。

ちょっと暴力的なシーンが多いですけれども、元野球部の方に言わせるとあれでも甘かったみたいですね。でも、手を上げるシーンが結構あったので、本番は常に緊張感が流れていました。NGを出すわけにはいかない。NGを出してしまったらまた叩かなきゃいけなくなるので」

――生徒役の方たちとは、終わった後、お話はされました?

「『痛かっただろう?』って聞いたら『大丈夫です』って。そうなるだろうなっていう会話はしましたけど、基本、生徒役の子たちとはあまり話さないようにしていましたね。

やっぱり役がお互いに緊張感のある役なので、あまり仲良くなっちゃいけないなって。一定の距離をとっていたので、僕は孤独にご飯を食べていましたよ、ひとりで。生徒役の子たちはみんな固まってご飯を食べていましたけど」

――完成した作品をご覧になっていかがでした?

「やっぱり照れますね。自分はあまり自分を見るのが好きじゃないのかもしれないって思ってきました。昔は好きだったんですよ。自分の番組とかも常にチェックしていたんです。

『面白いことを言うな、こいつ』とか思っていたんですけどね(笑)。

自分を見るのが好きじゃなくなったのは、自分が監督するようになってからかもしれないです。裏方として人を見るようになってからでしょうね。自分が出ているものは見ないです。

裏方になると良くないですね。

演技がちょっとはマシになったなと思いますけど、やりすぎるんですよ、僕は。トゥーマッチなんです」

――それはサービス精神ですか

「何なんですかね?不安なんですよ。説明しすぎなんです。そういうのは演技でいらないんですよ。悔しいからって、悔しい顔をしちゃダメなんですよ。それなのに僕は『クソ!』みたいな顔をしちゃうんです。それじゃダメなんですよね」

■監督業をメインにすると貧乏に?

2019年、短編映画「born、born、墓音。」を原案に、本名の照屋年之名義で監督・脚本を手がけた長編映画「洗骨」が公開され、日本映画監督協会新人賞(2019年度)を受賞。モスクワ国際映画祭をはじめ、海外の映画祭などでも話題に。

母親(筒井真理子)の“洗骨”のため4年ぶりに沖縄の離島、粟国島・粟国村に帰って来た長男(筒井道隆)。実家にひとりで住んでいる父(奥田瑛二)、名古屋で美容師をしている長女(水崎綾女)。バラバラになっていた新城家の3人が“洗骨”の儀式を通じて家族の絆を取り戻していく様を描いた作品。

――「洗骨」を拝見したときには、監督業をメインにされるのかなと思いました

「監督メインだと貧乏になっていくだけです。本当に毎回撮るたびに思います」

――「洗骨」の撮影はスムーズに進んだのですか

「短編を長編に広げるというので、やっぱり登場人物も多くなってくるし、ひとりひとりの人生を深掘りして表現しなきゃいけないので簡単ではなかったです。苦しんで、苦しんで、『もう無理だ。もう面白くない、これ以上無理だ』って言いながらも、諦めたら終わりなので書き続けるんですよ。

でも、ひとりひとりの配役に赤い血が流れ出したなという瞬間が毎回書いていて必ずあるんです。『ああ、つらい。面白くない。今回こそ駄作だ。駄作だ』って言っていたのに、『あれっ?』って。勝手に台本上で役同士が会話し出すときがあるんですよ。

自分の中でいつもわかるんですけど、自分で言わせているんじゃなくて書記になったなという瞬間がある。勝手に相手(役)が言っていることをこっちがメモるだけという時が来る。

ピアニストみたいに勝手に手が動くんですよ。そうなると面白いですよ。いつも『来た、来た!』って(笑)。それからはもう勝手に僕が言わせているはずなんだけど、言わされている感じなんですよ。もう泣いているんですよ、僕。

『お前、何でそんなこと言うんだよ』って。泣けるんですよ。僕が言わせているはずなのに。そうなると面白いんですけど、いつもそこまでがつらい。毎回『いやだ、いやだ』ってなっているんですけど、ピアニストになったときは気持ちいいですよ」

――これまでの全作品でピアニスト状態に?

「全部です。全部つらいけど、その時が来るわけです。そう、絶対来るんですよ、あの感覚。『早く来てほしい』って毎回書いていて思うんですけどね、なかなか来てくれないんですよ」

――「洗骨」は、海外でも高い評価を受けて、いきなりハードルが上がっちゃったような感じはありませんでした?次回作をせっつかれるような感じというか

「いや、僕が僕自身をせっついています。僕は、『絶対最新作が最高傑作だ!』というつもりで撮っているので。そうじゃないと意味がないと思うんですよね。

ただ、その分もっと勉強しなきゃいけないし、『洗骨』を見て振り返っても、説明が多いなとか、役者に言わせすぎだとかやっぱりいっぱい反省があるので。

そこまで説明しなくてもお客さんは馬鹿じゃないからわかってくれるのにって。だから心配性なんですよ。ここまで言わさないとわかってくれないんじゃないかという感じで。それは、腕がないということなんですよ、僕に。

だからそういう部分で、毎回いろんな映画監督の作品を見て、『うまいなあ』とか、『表情では笑っているけれども、足のちょっとした貧乏ゆすりでイライラを表現するのか』って。

そこで『ちっ!』って言わせるから僕は下手なんだなとか、そういう風にいろいろ勉強すると、毎回表現の仕方がうまくなってきますよね。

それは自分でわかっています。前より成長したなというのも毎回あるので。だから『洗骨』よりも今回の『かなさんどー』の方がやっぱり表現としては上手になっているのもわかるし。で、多分次回作を撮るときは『かなさんどー』のここはダメだったなということに絶対気付くので」

■非日常の映画の中ではつらい思いをしてほしくない

2021年、「かなさんどー」の前身となる短編映画「演じる女」を製作。この作品は、認知症を患う父が自分の娘(満島ひかり)に妻の面影を重ね、娘を妻だと思って見つめる父親を優しく看取る様を描いたもの。

「ミスリードしたかったんですよ。お客さんが思っている内容とは全く違うふうなオチにしたかった。じゃあどういう風な設定がいいかなとかということで、まず『演じる女』という短編で1回試して作ってみたら、それが上手にハマって周りからの評判も良かったので、それを長編にしてみようってなって。

『演じる女』は、映画のクライマックスをエンドロールに持ってこようって決めていたんです。『どういうことだ?どういうことだ?』って疑問に思いながら見ていると、最後に『なるほど、こういうオチか』って終わる。

気を抜いた瞬間にエンドロールが流れて、写真がポンポンって出てきたときに、『これだったんだ』って、全部の伏線が回収されて、エンドロールで涙が出るという風なのを作ってみたかったんですよね。

それがうまいこと成功したので、『かなさんどー』もそういう風な長編にしようと思ったんですけど、長編にしてみると、やっぱりエンドロールに持ってくると、イマイチクライマックスが盛り上がらなかった。

それで、プロデューサーがその最後の写真というのをクライマックスの歌っているシーンに持ってきた方がいいんじゃないかと言って編集したら、やっぱりそのほうが良かったので。こういう形になったんです」

現在公開中の映画「かなさんどー」の主人公は、母(堀内敬子)が亡くなる間際に助けを求めてかけた電話を取らなかった父・悟(浅野忠信)を許せずにいる娘・美花(松田るか)。認知症を患う父の命が危ないという知らせを受けて7年ぶりに故郷・沖縄県伊江島に帰省し、生前に母が記していた日記によって、母の真の想い、そして父と母だけが知る“愛おしい秘密”を知ることに…という展開。

監督の母親が亡くなって残された父親が心身共に弱くなってしまい、2年前に亡くなった母親のことを急に「そういえば母さん、どこにいるんだ?」と言い出したことがあり、そういう体験が心に残っていてこの物語が生まれたのかもしれないという。

――浅野忠信さんがちょっと情けないけど憎めないお父さん役というのが新鮮でした

「もともと違うキャスティングは考えていたんですけど、金森プロデューサーが浅野さんと何本もやられていて、『浅野くんがやったら面白いんじゃないかな』って言われたので、『いやいや、まずカッコ良すぎるでしょう。こんな情けないオヤジ役には。しかも若すぎるでしょう』ってなったんですけど、朝ドラ(おかえりモネ)のときに東日本大震災で奥さんを失って立ち直れない漁師の役をやっていたのを思い出して。

浅野さんって、ああいうダメになってしまったオヤジ役というのもハマっていたなと思って。イケるかもしれないと思ったんですけど、『ハリウッド映画まで経験しているあの方が、無名の、しかも芸人が作る映画でも出てくれるんですかね?』って聞いたら、『いや、彼はそういうことは関係ない。脚本で決めるよ』って言うから渡してもらったら、『面白いから出るって言っているよ』って聞いて、そこからです」

――浅野さんは実際に会ってみていかがでした?

「あまりにも腰の低い方で驚きました。もうちょっと上からいろいろ言われるのかなと思っていましたけど、拍子抜けしました。腰が低すぎて」

――とてもカッコいい方なのに、くたびれ加減もダメさ加減も絶妙で、それでいて憎めなさもいい感じでしたね

「そうですね。ああいう役はあまりないので、浅野さん的にも楽しかったみたいです。そういう部分で喜んでいただけて良かったですし、僕自身も浅野さんで本当に良かったって思いました。

僕は受験直前で盲腸になって二浪したことによって東京の下宿生と出会って、その下宿生に日芸を受けてみたらと言われて日芸に入って、そのおかげで芸能界に入っている。

浅野さんもプロデューサーが薦めなかったら絶対に浮かばなかったキャスティングですし、何か運命に導かれているように、『かなさんどー』という作品が出来上がっていくんですよ。不思議だなあと思って。『お前が進むべき道はここだよ』って、常にいろんな人によってレールに乗せていただいているような感じがします」

――沖縄は本当に綺麗なところがいっぱいで、鉄砲百合のシーンもきれいでしたね

「あれでもほんの一部なんです。『伊江島ゆり祭り』というのがあって、撮っているカメラの後ろはあれの何倍もの畑が広がっています。いい香りがするんですよ。夜に匂い出すんですって。それで撮影が夜だったので、本当に百合のいい香りがするんですよ。

あのシーンは自然が相手だったので、賭けだったんです。『ここら辺では一応咲いている予定ですけど、約束はできない』って言われて。

でも、あれだけの役者のスケジュールを別日で用意できないので、この日に撮影ということを決めて、それで満開じゃなかったら美術さんがティッシュで花っぽく作っておきますっていうぐらい用意していたんですよ。でもティッシュなんてバレますしね(笑)。

もうその日しかなかったんですけど、運も味方して満開に咲いていただいて、素晴らしいシーンが撮れました」

――ゴリさんが監督のときは、小道具などが予定されていたものと違っても考えこまず、「これでやりましょう」という感じで決断が早いと聞きました

「そうですね。結構判断は早いかもしれない。それは演者をやっていたからなんですよ。

待たされると演者ってストレスになるんです。監督がずっと悩まれたりとか、進行が遅かったりすると、現場の空気が悪くなっていって、そうなると作品に絶対映るんですよ。

だからとにかく全ての部署、撮影部、録音部とか、照明、美術、メイクもそうですけど、張り詰めた気持ちが途切れない感じで現場を動かしていく。基本的に毎日巻きますね。

僕は現場にカットを全部作ってから行くので指示も早いですし、自分の思ったイメージじゃなかったときの切り替えもパパッとやって、とにかくダラダラ待つことはやらないので、何となくみんなが楽しく終わっていくんだと思います。そういう意味では、僕が演者でいろいろ経験してきたことが役に立っています。演者の気持ちもわかって演出するので」

――ゴリさんの作品の中に登場する人は、一見ダメダメでも、どこか憎めなくて愛しい、優しさを感じますね

「僕自身があまり誰かを傷つけるというのは好きじゃないんですよね。日常ってみんな絶対つらいことが多いはずなんですよ。だから映画の中でつらい思いをさせたくないです、僕は。非日常の映画の中だけは、最後は幸せな気持ちになってもらいたいし、僕自身もなりたいんですよ。だから僕はこういう作風の作品を作っていくんだと思います」

――「洗骨」もそうでしたね。父子の確執があっても最後はちょっとあたたかい気持ちになる

「僕もエンタメにいろいろつらいときに救われてきたので、そういう作品を作りたいんですよね」

――「洗骨」という死者の送り方があるということを初めて知りました。沖縄の方たちからすると、国内外で広く知られることになったという意味でも大きかったでしょうね

「そうですね。まだまだ沖縄って変わった風習とかお祭りがあるので、それを題材にして撮りたい映画の案は、僕もいくつかあるんですよね。だからこれからも沖縄を舞台に撮っていきたいと思っています」

キレキレのダンスを披露するため、ストレッチと筋トレ、ジョギングも毎日欠かさないという。芸人、俳優、映画監督…幅広いジャンルでの活躍が続く。(津島令子)