
京都造形芸術大学1年生のときに教授でもある高橋伴明監督の映画「MADE IN JAPAN〜こらっ!」のヒロイン役に抜擢されて俳優デビューを飾った大西礼芳さん。連続テレビ小説「花子とアン」(NHK)で広く知られ、アメリカ映画「トレジャーハンター・クミコ」(デビッド・ゼルナー監督)、映画「菊とギロチン」(瀬々敬久監督)、映画「嵐電」(鈴木卓爾監督)などに出演。主演映画「STRANGERS」(池田健太監督)と映画「初級演技レッスン」(串田壮史監督)が公開中。(※この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧いただけます)
■アメリカ映画の撮影現場では「イエーイ!」

「花子とアン」の放送と同じ2014年、アメリカ映画「トレジャーハンター・クミコ」に出演。これはアメリカ・ミネソタ州で遺体となって発見された日本人の会社員の都市伝説「タカコ・コニシ事件」を基にした映画。
仕事も母親との関係もうまくいかない29歳のOL・クミコ(菊地凛子)が、会社のクレジットカードを盗み、映画「ファーゴ」(ジョエル・コーエン監督)の登場人物が大金を隠した場所を特定するために映画の舞台となったノース・ダコタ州へ…という内容。
「にぎやかな現場でしたね。『カット!』がかかって『OK』が出るたびに『ブラボー!』とか『イエーイ!』みたいな感じで(笑)。『そんなことをやってもらえるんですか?』って驚きました。皆さんが本当に楽しんで映画を撮っているという感じでしたね」
――初めての海外作品ですか?
「はい。初めての海外作品でした。オーディションを受けた覚えがあります」
――大西さんの特技のところに英会話もありますが、前から英会話はやっていたのですか
「高校が国際科だったので、英語と触れ合う機会が多かったんです。でも、全然そんなにペラペラというわけではなくて、簡単な英会話ぐらいなんですけど、この映画のオーディションを受けたときのやり取りは、一応問題なく…という感じでした」
――撮影期間はどのくらいでした?
「本当に数日です。でも、その間本当に楽しかったです。違う国の人たちが集まって映画を撮るだけで、現場の雰囲気って変わるんだなと思って。だったら作る映画の雰囲気だってそりゃあ違うよなって思いました」
――いろいろなジャンルのお仕事をされていて特技も多いですね
「好きなことは全部やりたいと思っていて、いろいろやりたいんです」
――「ごめん、愛してる」(TBS系)ではサックスも披露されていましたね。天才的なサックス奏者・古澤塔子役でした
「はい。サックスは前からやっていました。映画に関わる仕事をするか、サックス奏者を目指すか考えたこともあったくらいなので、ドラマの役どころとはいえ、とても幸せでした。撮影でプロのサックス奏者の方やミュージシャンの方々とお話をすることができたのもとても良い経験でした。
父親に買ってもらったサックスもちょっと使いながら、作品の準備を重ねていて、仕事に活かせるのは夢だったのでうれしかったです。舞台でも何度か吹かせてもらったこともあります」
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■相撲の稽古の特訓で吹っ飛ばされ…■相撲の稽古の特訓で吹っ飛ばされ…

2018年、映画「菊とギロチン」に出演。この作品の舞台は、関東大震災後の大正末期。当時実在した女相撲の力士たちとアナキスト・グループ「ギロチン社」の若者たちが出会っていたら…というフィクションを描いたもの。大西さんは、女力士・勝虎かつ役を演じた。
「女力士役は大変でした。日大の相撲部さんに約3カ月間、週1くらいでお邪魔して、稽古をつけてもらったのですが、からだはもうボロボロでした。いろんなところが痛いし、他のみんなと比べるとからだが小さいので吹っ飛ばされるし(笑)」
――結構大きい方もいましたものね
「そうですね。でも、楽しかったです。本から役を作るということよりも、フィジカル的なことでそれぞれの役の繋がりみたいなものができたというか、言葉とかで理解したのではない役作りができたことは、すごく幸せな経験だったなって思います」
――そういう肉体的にもハードな特訓を一緒に受けていると、連帯感は増したのでは?
「そうです。私たち女相撲組は撮影開始の数カ月前から練習していて、アナーキー役の男の人たちは、撮影のちょっと前からアナーキー講習みたいなのを受けていたみたいなんです。だから、やっぱり『私らは3カ月間やってきたんやよ』という、対抗心みたいなのはアナーキーの人たちに対して持っていたかもしれないですね。
昨日今日じゃなくて、この何カ月間の積み重ねがあるんだという部分で、何かちょっと強気になっちゃっていたような気がします」
――瀬々監督は現場ではどんな感じでした?
「女優とはあまり目を合わせてくれなかったですね。男の俳優さんといるのは楽しそうですけどテレなんですかね。だから、『これって、こういうことですか?』って聞くのは避けた方がいいなと思って、あまりお話はしなかったです。すごくシャイな方でした」
――完成した作品をご覧になっていかがでした?
「『こんな顔をするんだ、自分は』って思いました。あのときは、『これは自分じゃない』という顔をしていたかもしれないです。
そういうのは、他の作品ではあまり感じないです。自分の中にあるものから役に繋げていくという芝居の作り方をすることが多いので、それとはまた違ったのかな。菊ギロチームはって思います。『今までの自分のやり方がすべてじゃない』って実感しました。それまで気が付かなかった新たな自分の顔とか表情に気が付いたという感じでした」
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■大学時代を過ごした京都での映画撮影に母校の後輩も■大学時代を過ごした京都での映画撮影に母校の後輩も

2019年、京都市街を走る路面電車・京福電鉄嵐山線(通称らんでん)を舞台に三つの恋愛模様を描く映画「嵐電」に出演。大西さんは、太秦撮影所近くのカフェで働く小倉嘉子役を演じた。東京から撮影のためにやって来たそれほど有名ではない俳優・吉田譜雨に京都弁の指導をすることになった嘉子は、台詞の読み合わせを行う。初めて演技を経験するうちに次第に惹かれるように…という展開。
――舞台となった京都は大学時代を過ごしたところですね
「はい。すごく楽しかったです。馴染みの深い土地の力から芝居が変わるということは結構信じていて、それがよく出ていたというか、画面に映っていた作品だなって思いました。
『嵐電』のことはすごく好きなんです。あと(京都造形芸術)大学の後輩たち、学生たちが役者で何人も出ていて。学生たちってやっぱりまだ芝居が完成されてない。固まっていなくて、それはすごく面白い。どう出るかわからないんです。
振り切って枠からガーンって出てくるかもしれないし、ここまで必要なのにこれしか出てないとか、そういうコントロールしきれない部分があって、そういう人たちと一緒に芝居をするのがすごく楽しかったですね」
――後輩の学生さんたちからすると、大学の先輩でバリバリお仕事をされている大西さんと一緒の現場というのは貴重な経験だったと思います。いろいろ聞かれたのでは?
「そうですね。『何を考えてやっているんですか?』って聞かれたのですが、『何も考えてないです』って言いました。本当に撮影中は何も考えてないんです」
――大西さんのように俳優として活躍されている先輩がいると目標とか励みになるでしょうね
「なるのかな?そうならいいですけど。この間も京都で『STRANGERS』が公開されたので、卒業制作展をやっている学校に行ってきて、学生の子とちょっと話をして来ました。
学生の子たちは『どうしたら役者を続けられますか?』って。そりゃそうですよね。不安ですよね。あと『事務所を探しています』とか、『学生時代はどんなことをしていましたか』
って聞かれました」
――大西さんは、大学時代に映画で主演デビューされて大手の事務所にスカウトされて入ってお仕事をされていますが、皆さんがそういう風になれるわけではないですからね
「そうなんですよね。いろんなオーディションがあると言っても不安だと思います。学生時代にみんなで作品を作っている中でも、自分には役が回ってこないという友だちの悩みを聞いたこともあります。
『この学校内でそれやったら外に出たって同じちゃうの?』ってやっぱり思う。悩んでいる様子も見たことがあるし。こればかりはわからないですね。どうしたらいいのか」
――大西さんは大学時代からお仕事をされていましたが、アルバイトをされたことは?
「アルバイトは好きでした。四つぐらい掛け持ちをして、(演劇コースの)プロジェクトをやって、授業に出て…本当に目まぐるしい日々でした。思い出すとゾッとします(笑)。でも、アルバイトは好きなんですよね。何か働くのが好きで、そこにも発見があるというか」
――どんなアルバイトをされていたのですか
「学生時代は100円ショップの店員とホテルで配膳したり、あと舞妓さんの姿になって修学旅行生の前で舞ったり。そういう少し変わったバイトもしていました。何か感動したり興味があるものがあると、自分で全部やりたくなるんです」
チャレンジ精神旺盛な大西さんは、映画、テレビ、舞台、CMと活躍の場を広げていく。次回は、映画「痛くない死に方」(高橋伴明監督)、映画「夜明けまでバス停で」(高橋伴明監督)の撮影エピソード、公開中の映画「初級演技レッスン」も紹介。(津島令子)
スタイリスト:Lim Lean Lee
ヘアメイク:KOMAKI