高校生のときに「CanCam」(小学館)の専属モデルとしてデビューし、2003年から俳優として活動を始めた臼田あさ美さん。2010年には、「ランブリングハート」(村松亮太郎監督)で映画初主演を果たし、多くのドラマ、映画に出演。2017年、映画「愚行録」(石川慶監督)で第39回ヨコハマ映画祭助演女優賞受賞。映画「早乙女カナコの場合は」(矢崎仁司監督)が公開中の臼田あさ美さんにインタビュー。(※この記事は全3回の前編)
■17歳で「CanCam」の専属モデルに
千葉県で生まれ育った臼田さんは、小さい頃は恥ずかしがり屋で物静かな子どもだったという。
――将来なりたいものはありました?
「自分から何かになりたいというのはなかったと思うんですけど、子どもの頃はそういうことを聞かれる機会が多いじゃないですか。そういう時には本が好きだから、『図書館で働く司書さんになりたい』って言えばいいんだみたいな感じはありました。本当になりたかったかどうかは別として」
――芸能界に進むことは考えてなかったのですか
「子どもの頃は全く考えてなかったです。それがすごく仲がいい友だちと初めて渋谷に遊びに行ったときに渋谷109の前で『スナップ写真を撮らせてください』って声をかけられたんですけど、芸能プロダクションじゃなくて、雑誌の編集者の方だったんです。それが始まりでした」
――それで、すぐにモデル活動を始めたのですか
「はい。その頃は学校に行きながらバイトもして、たまに呼んでもらって撮影に行って…という感じでした。その当時は千葉に住んでいたので、東京に行くというのは非日常ではありましたけど、撮影がすごく特別だったわけでもなく。だんだんそれにも慣れてバイトと仕事の間ぐらいの感覚でしたね」
――ご自身が(モデルとして)載っている雑誌を見ていかがでした?
「恥ずかしいなって。でも、プロのメイクさんとかスタイリストさん、カメラマンさんにやってもらっているから、いつもの自分とはちょっと違ううれしさもありました」
――「CanCam」は人気雑誌なのでお友だちも読んでいたのでは?
「高校生でしたので、周りの友人はまだ読んでいなかったですね。普通の公立学校でしたけど、私よりももっとちゃんとモデルとして仕事をしている子が同じクラスにいましたし、雑誌に出ている先輩もいたりしたので特別な感じではありませんでした。女子高だったのも大きいかもしれないですね」
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■事務所に所属することになり俳優デビュー■事務所に所属することになり俳優デビュー
雑誌社の編集部にスカウトされ、所属事務所がないまま「CanCam」の専属モデルになった臼田さんだったが、芸能事務所に所属することに。
「だんだん自分のキャパシティを超えてきたので事務所に所属することになりました。その後、流れのまま『ひと夏のパパへ』(TBS系の)オーディションに行き、ありがたいことに通って。
当時は本当に欲がなかったというか、こうなりたいとか、できるなとも思ってなかったかもしれません」
――演技のレッスンなどは?
「受けてなかったです。だから、本当に覚えたことをやるので精一杯でした。何か刺激をもらったとか、学びになったということよりも、まだその頃は、言われた通りに、言われたところに立って精一杯それをやるぐらいの感じで、全然余裕なんかなかったです。みんなすごいなあって。当時は申し訳ないくらいプロとしての意識は低かったと思います」
――ドラマがオンエアになったときはいかがでした?
「最初は雑誌よりももっと自分の想像と違う、聞き慣れない自分の声とか姿だから恥ずかしかったですね。『見てほしい』みたいな気持ちは控えめだったと思います」
――もっとお芝居がしたいとか、いろんな作品に出たいという思いはなかったのですか
「全然できるとは思ってなかったという感じですね。演技の勉強をしてきたり、そこを志している人たちがいっぱいいる世界だから、私みたいに生半可の人がそんなに長く続けられるとは思ってなくて。
長く続けられないからこそ、ありがたい。いただいたお仕事をありがたく、そのときの精一杯でやろうというのが今も変わらず…という感じです。
だから、本当に自分が何をしたいとか、こうなりたい、ああなりたいというのがまだなかったんだと思います。俳優業は全く未知だったので、手探りみたいなところはありました」
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■田口トモロヲ監督の映画に出演したことが転機に■田口トモロヲ監督の映画に出演したことが転機に
2009年、みうらじゅんさんの自伝的小説を映画化した「色即ぜねれいしょん」(田口トモロヲ監督)に出演。主人公は、ボブ・ディランに憧れる平凡な文科系男子・純(渡辺大知)。童貞仲間に誘われるままフリーセックス主義者が集まると噂される島に行くことに…。臼田さんは、その島で純が一目惚れする美少女・オリーブ役を演じた。
「23歳のときに撮影していたのですが、私にとって転機となった作品です。俳優としてきちんと向き合えるきっかけになったのが『色即ぜねれいしょん』でした」
――臼田さんの「フリーセックス!」というセリフに驚かされました
「みうらじゅんさんの原作がすごく好きだったので、そういうセリフがあるものと最初からわかっていましたので、抵抗はなかったです。『本当に大好きな小説の映画化で、しかも田口トモロヲさんが監督でキャストも最高。自分も絶対いい芝居をしなきゃ!』という意識が芽生えた作品でした」
――田口トモロヲ監督の現場はいかがでした?それまで共演されたことは?
「初めてでしたが、とても優しくて丁寧で紳士で優しい監督でした。もちろん俳優でもいらっしゃるのでわかってくださるし、寄り添ってくれました」
――何か特別お話されたことは?
「監督と特別にお話したというよりは、主演の渡辺大知くんが初めての芝居だったというのもあって、監督もキャストも彼に寄り添ったり、アドバイスしたりして、彼が成長していくみたいなところがそのまま映画に反映されていましたね。すごくいい現場でした。そんなに会うわけではないですけど、今でもみんなどこかで繋がっている感じがします」
2010年、映画「ランブリングハート」で映画初主演。臼田さんが演じたのは、対照的な性格をした双子の姉妹、恋に奔放な葵と現実主義な翠。会社の先輩にプロポーズされ、幸せな日々を送っていた翠の部屋に、葵が好きな人を追いかけて転がり込んできて…という展開。
――正反対の二役を演じるのは大変だったのでは?
「本当に20代はがむしゃらだったので、何をやっても大変だったというか。自分には上手に器用にこなせるものがなくて、何でもがむしゃらにやっていましたね。
役作りというよりは、いないものをいるものとして会話したり、双子のキャラクターを演じ分けることだったり…大変でしたが、監督も一緒になってチャレンジできた現場でしたので頑張れました」
――混乱しませんでした?
「一応、相手役というか、もうひとりの自分役でセリフを言ってくれる俳優さんがいたので、混乱はしなかったですけど、完成したものを見ているときの方が混乱していました。ずっと自分が出ているので、そっちの方が結構パニックでしたね」
――ほとんど出ずっぱりという感じでしたが、完成した作品ご覧になっていかがでした?
「忙しい気持ちと言いますか、何だか落ち着いて見られなかったです。自分が出てなくて知らないシーンが多いと客観的に映画を見られるんですけど、『ランブリングハート』は知っている自分しかいないというか、全部見てきた景色みたいになると、あのときはこうだった…みたいな記憶も蘇りますし、へとへとになるという感じでした」
――でも、コメディーセンスを発揮されていて、この映画でコメディエンヌとしての魅力を感じた方も多いと思います
「コメディーは本当に難しくて今でも緊張してしまうこともありますが、好きです。正直『ランブリングハート』の時は、自分のことで必死でした。映画の主演を演じる覚悟みたいなものを持てたのは、もう少しあとだったかもしれません」
臼田さんは、2013年、東日本大震災後の茨城県日立市を舞台に男女の許されざる恋を描いた映画「桜並木満開の下に」(舩橋淳監督)に主演。2017年には、映画「愚行録」で第39回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞するなどコンスタントに出演作品が続いていく。次回は撮影エピソードなども紹介。(津島令子)
※臼田あさ美(うすだ・あさみ)プロフィル
1984年10月17日生まれ。映画「愚行録」の出演にて第39回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。主な出演作に映画「色即ぜねれいしょん」(田口トモロヲ監督)、「南瓜とマヨネーズ」(冨永昌敬監督)、映画「架空OL日記」(住田崇監督)、「私をくいとめて」(大九明子監督)、「雑魚どもよ、大志を抱け!」(足立紳監督)、ドラマ「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ)、「いちばんすきな花」(フジテレビ)、「柚木さんちの四兄弟」(NHK)、「御上先生」(TBS)などがある。映画「早乙女カナコの場合は」が公開中。
メイク:星野加奈子
スタイリスト:森上摂子