
10代のときにスカウトされて「CanCam」(小学館)の専属モデルとしてデビューした臼田あさ美さん。2003年に「ひと夏のパパへ」(TBS系)で俳優デビューして22年。多くのドラマ、映画に出演。映画「ランブリングハート」(村松亮太郎監督)、映画「桜並木の満開の下に」(舩橋淳監督)、映画「南瓜とマヨネーズ」(冨永昌敬監督)、「ちょい釣りダンディ」(BSテレビ東京)などに主演。「御上先生」(TBS系)に出演中。映画「早乙女カナコの場合は」(矢崎仁司監督)が公開中。(※この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧いただけます)
■覚悟をもって向き合った主演映画

臼田さんは、2013年、映画「桜並木の満開の下に」に主演。この作品は、東日本大震災後の茨城県日立市を舞台に男女の許されざる恋を描いたもの。臼田さんが演じた主人公は、震災後の日立市のプレス工場で働く栞。同僚でもある夫と幸せな日々を送っていたが、作業中の事故で夫が急逝。事故を起こした新人の工(三浦貴大)に怒りをぶつける栞だったが、やがて惹かれるように…という展開。
「映画の主役をやる覚悟みたいなものを、『桜並木の満開の下に』で感じたかもしれないです。監督とも結構意見を交わして自分の意見を伝えたりしていました。何でも『はい』ではなく、覚悟を持って向き合った作品ではあります。
その頃はもう『映画に出たい』という気持ちもちょっとずつしっかりと私の中で持てていたので、言われたことをそのままやるのではなく、監督とももっとコミュニケーションを取って、自分も納得してやれるくらいにならなきゃいけないという葛藤みたいなのが生まれて、ちょっと話し合いをさせてもらったり、意見を交換する時間をとっていただいたりしていました」
――最愛の夫とこれから子どもも作って…と幸せの真っ只中にいるときに夫を亡くしてしまう。同じ会社(工場)の後輩が原因ということで
「結構複雑でしたし、決して華やかな場所でそれが起こっているわけじゃなくて、すごく狭い世界、自分の生活の範囲の中でおこっている出来事ということで悩みました。一つ一つこなして、精一杯という感じでやっていました」
――撮影期間中は気持ちの切り替えは?
「(茨城県)日立市に撮影で泊まっていたので、普通の日常生活に帰って他の仕事をするという感じではなく、切り替えはしていましたけど、何かずっとその作品の中にいるという感じと疲労感は残っていましたね。
1回ちょっと考えがまとまらなくなってしまったときがあったのですが、ちゃんと1回整理する時間を設けてもらってお互いにちゃんと納得いく答えを出しながら進んでいったという感じです」
――すごく実りのある作品だったのですね。完成した作品をご覧になっていかがでした?
「ラストの桜並木を見るシーンでは、自分の人生を振り返って、亡くなってしまった大好きだった人を思ったり、そばにいてくれた人を思って泣く芝居だったのですが、実際の撮影の全てが蘇ってきて感情が溢れました。
あの日は、私ひとりで結構遅い時間に撮ることになっていたのですが、他のキャストのみんながその日出番はないけど顔を出してくれて。
そのシーンを撮っているときに、撮影中のいろんな出来事が蘇ったんですよね。自分の中で映画に対する思いが確実に変わってきたきっかけの作品です」
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■初めて作品や自分が評価されることがうれしいと感じて■初めて作品や自分が評価されることがうれしいと感じて

2017年、映画「愚行録」に出演。この作品は、世間を震撼させたエリートサラリーマン(小出恵介)と美貌の妻・友希恵(松本若菜)、小学生の娘一家殺害事件から1年後、ひとりの週刊誌の記者(妻夫木聡)が改めて取材を始めたことにより、被害者一家や証言者自身の本性が現れ、事件の真相が浮かび上がってくる。
臼田さんは、友希恵と大学の同期だった宮村淳子役。卒業後、カフェのオーナーとして成功しているが、(中高から上がって来た)内部生と(大学から入学した)外部生とのカーストとヒエラルキーが混在していた大学時代の恨みや妬みを抱えているという複雑な役どころ。
「原作の段階でしっかりとひとりひとり描かれていますが、脚本も向井(康介)さんが書いていて素晴らしくて。
それをもちろんそのまままっすぐやるというだけで十分大丈夫だという安心感はありましたが、その中でもやっぱり自分にさらに何かできることがあるんじゃないかと思って。そういう欲も出てきていましたので、とても難しかったです」
――大学内のカーストがすごかったですね。一見とても良い人そうなのに、実はすごくしたたかで、ひどい目にあった人は何年経っても恨みの感情が残っている
「そうなんですよね。一見カラッとしているようで、中身はすごくグツグツと煮えくり返るようなものを抱えていたりして。
女性のいろんな角度、こういう考えとこういう見え方みたいな計算とかが、あらゆる人物に埋め込まれていて、本当に面白かったです。
石川監督が日本で長編映画を撮るのは初めてだったので、そんな贅沢な機会に立ち会えたことだけでもすごいいい経験だったなって思っています」
――臼田さんは恋人を盗られた怒りにまかせてパーティーに乗り込んで行っていきなり松本若菜さんをひっぱたいたと思ったらひっぱたかれて…すごかったですね
「あのシーンは松本さんと初めて会った日で、『初めまして』という挨拶をしたすぐあとにあのシーンの撮影だったんです。『思いっきりやってね』って言っていたのですが、実際はぶたなかったんです。
もちろんそのつもりでお互い覚悟していたんですけど、撮影の技術があったので、本当に殴り合っているように見えますよね。でも、お互いに燃える心はそこにあったし、『やられたらやってやる!』みたいな気持ちでいました。
その騒動の後、私はその場から出て行きますが、松本さんは普通にそのままパーティーに参加しているわけですから、やっぱり向こうが一枚上手(うわて)だったというか、すごいですよね」

――臼田さんが演じたのは、カフェのオーナーとして社会的にも成功している女性ですが、大学時代の恨みは消えていない。人間の表の姿だけでなく裏側も描かれているのが興味深いですね
「そうですね。私が演じた宮村淳子というのは、世間的に見ると成功者だけど、大学時代のそういう思いはある。コンプレックスというか。誰とも勝負してこなかったタイプだったと思うんです。
外国で育って英語もペラペラで、日本に帰ってきてもみんなとはちょっと違うというか、独特な子で、誰かと比べられたりすることがあまりなく生きてきたんじゃないかなって。
それが大学で、そういうカーストに参加することになってしまって、初めて自分が勝つのか負けるのかとか、誰かに対しての恨みみたいな感情を持った出来事だったんじゃないかと思うんです。
それまではもっとのびのびすくすく育っていて。だから人生において、大学時代のことはいくらでも話せるんでしょうね」
――そしていきなり殺されてしまいますが、撮影はスムーズに行きました?
「事前に監督といろいろお話をしていましたし、ちゃんと監督のビジョンをみんなで…という空気感でやっていました」
――臼田さんは、この作品でヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞されましたね
「はい。私は映画も大好きでやっていましたけど、受賞とかは、自分には無縁だと思っていました。褒められてうれしいとか、例えば視聴率が良くてうれしいとか、そういうことはあまり感じてなかったんです。本当にその時々で自分自身ができることと一生懸命向き合うだけでしたから。
だから、評価をあまり意識してなかったんですけど、初めて授賞式に行ったときに、そこにいたほかの自分が尊敬する俳優さんとかに、『おめでとうございます』と言ってもらえたり、『作品良かったね』と言ってもらえて、作品や自分が評価されることが、こんなにうれしいことなんだというのを初めてすごく実感したんですよね。
この作品で賞をいただいて、この作品に携わった人はもちろん、全ての人に感謝なんですけど、ここまで一緒にやってくれたあの人だったりこの人だったり、あの人のお芝居だったり、この監督の言葉だったり…何か全てが俳優として今の自分を作ってくれていたんだなって、そういうことを思いました」
「愚行録」は、「第73回ベネチア国際映画祭」オリゾンティ・コンペティション部門で正式上映されるなど海外でも話題に。2017年度新藤兼人賞銀賞をはじめ、多くの賞を受賞して注目を集めた。
臼田さんは「愚行録」と同年、主演映画「南瓜とマヨネーズ」(冨永昌敬監督)、映画「架空OL日記」(住田崇監督)が公開。2022年には、「ちょい釣りダンディ」(BSテレビ東京)で連続テレビドラマ初主演を果たした。次回はその撮影エピソード、公開中の映画「早乙女カナコの場合は」も紹介。(津島令子)
メイク:星野加奈子
スタイリスト:森上摂子