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2025年3月25日 14:19

臼田あさ美 映画「早乙女カナコの場合は」でキャリアウーマンの複雑に揺れる心情を繊細に体現!

2025年3月25日 14:19

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10代でスカウトされてモデル活動をはじめ、2003年から俳優としてドラマや映画に出演するようになった臼田あさ美さん。映画「ランブリングハート」(村松亮太郎監督)、映画「桜並木の満開の下に」(舩橋淳監督)、映画「南瓜とマヨネーズ」(冨永昌敬監督)、「ちょい釣りダンディ」(BSテレビ東京)など主演作品も多数。映画「愚行録」(石川慶監督)で第39回ヨコハマ映画祭助演女優賞受賞。映画「早乙女カナコの場合は」(矢崎仁司監督)が公開中。(※この記事は全3回の後編。前編、中編は記事下のリンクからご覧いただけます)

■4年越しに実現した主演映画で“ダメンズ”に惹かれる主人公に

映画「愚行録」の公開と同じ2017年、漫画家・魚喃キリコ(なななん・きりこ)さんの代表作を実写映画化した「南瓜とマヨネーズ」(冨永昌敬監督)に主演。

臼田さん演じる主人公・ツチダは、恋人のせいいち(太賀=現・仲野太賀)のミュージシャンになるという夢を叶えるため、キャバクラの客と愛人関係に。彼女がキャバクラ勤めをしていることを知ったせいいちは、心を入れ替えてまじめに働き始める。そんな折、ツチダが今でも忘れることができないかつての恋人・ハギオ(オダギリジョー)と偶然に再会し、彼にのめり込んでいく…。

――数年ぶりに再会してもハギオは相変わらず「1万円貸して」という感じで変わっていませんでした

「どうしてもダメンズに惹かれてしまうというか(笑)。私にとって本当に特別な作品です。いきなり何かでということではないのですが、徐々に意識も変わっていって、やっぱり映画が好きだとか、演じることが好き、いい作品に出たいと思うようになった頃でした。

できれば評価されたい、たくさんの人に作品を見てもらいたいというような気持ちがちゃんと自分に備わって迎えた主演作だったので、ものすごいプレッシャーはありました。

絶対に成功させたいという気持ちで向き合っていたし、みんなが全力でサポートしてくれていました。キャストの皆さんもすばらしかったし、私にとって本当に特別な作品です」

――原作は早くから読まれていたとか

「はい。最初に『南瓜とマヨネーズ』を映画化するかもしれない、私に主演の可能性があるかもしれないというお話をいただいたのが、実際に撮影するよりも4年くらい前だったんです。

『魚喃キリコさんの漫画だよね?』って思って読み返してみたら、『すごい、やっぱりこの作品大好き。絶対やりたい』って思いましたけど、いろんな都合でなかなかすぐにというわけにはいかなくて4年経ってから実現したので、本当に良かったなあって思いました」

――魚喃キリコさんは、ご自身も別名義(岩瀬塔子)で映画「ストロベリーショートケイクス」(矢崎仁司監督)に出演されていて。多彩な方ですね。

「すごいと思います。私はお会いしたことがないんです。監督を介してお話はさせていただき、いつか会いましょうとは言ってくれたんですけど、もしお会いできたらとても緊張すると思います」

――撮影は順調でした?

「そうですね。何テイクもすることもあったし、監督が思いつきでこうやってみて…ということもあったんですけど、志がみんな近かったので、それも面白がってやっていてすごくいい現場でした」

――雰囲気的にもとても合っていましたね

「そうですね。今まで演じてきた中で自分に近いというか、自分が一番イメージしやすいキャラクターではあったと思います」

同年、お笑い芸人のバカリズムさんが主演・脚本を務め、連続ドラマと劇場版が作られた「架空OL日記」に出演。原作は、バカリズムさんが2006年から3年間、銀行勤めのOLのフリをしてネット上に綴ったブログを書籍化したもの。

臼田さんは、言いたいことをズバッとはっきり言う物言いが気持ち良く痛快な姉御肌の先輩・小峰さま(小峰智子)役を演じた。

――更衣室でのおしゃべりがとても楽しい作品でしたね

「普通にバカリズムさんがOLの中に溶け込んでいて楽しかったです。『私、そうなのよ』とか言っているのですが、男性だとか女性だとかそういう意識もなく、みんなでお昼ご飯を食べたり、他愛もない話をしたりするのが当たり前でした。本当に居心地が良くて、今でもみんなで会ったりしています」

――それぞれキャラがちゃんと立っていて印象的でした

「そうですね。キャラがしっかりしていてすごく楽しかったです。ご褒美みたいな仕事というのは、こういうことかと思いました」

――とてもリアルで面白かったです。バカリズムさんはすごいなあって思いました

「そうですね。すごいと思います。いろんなことを繊細に汲み取って書いていらっしゃって。

いろいろなことを楽しみながら撮影できました」

■連続ドラマ初主演作品では釣りの特訓を受けて

2022年、「ちょい釣りダンディ」で連ドラ初主演。臼田さんが演じた主人公・檀凪子は東京都内の建築設計事務所に勤務し、釣りをこよなく愛する“ちょい釣り”女子。会社帰りや仕事の合間など空いた時間で釣りを楽しみ、釣った魚を新鮮なうちに美味しく食べる通称ダンディ。原作では男性の主人公をドラマ化にあたり女性に設定。釣りを通して人生を楽しむ女性の姿を描く。

――釣りの練習はかなりされたのですか?

「結構練習したんですけど、魚によっていろいろ手法を変えたりするので、現場で学びながら撮っていたという感じでした。

お昼休憩の時間とかには、みんなで釣り指導の方々に教わって釣りをしたりしていて楽しかったです」

――ドラマの撮影が終わった後に釣りに行かれたりすることは?

「『絶対釣りに行きたい』とか言っていたんですけど、全然行ってないですね(笑)。すごく楽しかったので行きたいとは思っていますけど、やっぱり知識がある人と行かないとダメなんですよね。まだまだ勉強不足なので」

――主演作もいろいろありますが、ご自身では意識していますか?

「ずっと意識してなかったのですが、『南瓜とマヨネーズ』をやってから、主役はいろんなことを背負っているし、空気も作っている。作品の軸ですからその覚悟は違うなというのをやってみて感じました。

ただ、自分が作品に参加するとき、主演だからとか、助演だからというのは全然ないです。作品を通して面白そうだったら主演でも助演でもやらせていただきますし、自分じゃないなとか、ちょっと自分には理解できないなと思ったらやらない選択をするかもしれない。

その決断の時に主演か助演かというのはあまり関係ないです。ただ、主演のときのプレッシャーは結構ありますね」

――お仕事にご自身の希望が反映されているのですか

「オファーをいただいてから始まる仕事でもあるので、あまり言わないですけど、やっぱり言霊(ことだま)ってあると思っているから、たまに言ったりすることはあります。

あとタイミングもありますよね。でも、基本的にはいただいたお仕事は前向きに考えるように意識しています」

■どの子もみんな抱きしめてあげたい

(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会

現在、映画「早乙女カナコの場合は」が公開中。この作品は、早乙女カナコ(橋本愛)の10年にも及ぶラブストーリーを中心としながら、女性の生き方や女性同士の関係を描いたもの。

大学進学と同時に友だちと二人暮らしを始めた早乙女カナコ(橋本愛)は、演劇サークルで脚本家を目指す長津田(中川大志)と出会い付き合うことに。3年後、カナコは念願の大手出版社に就職が決まるが、長津田は口ばかりで卒業もする気はないという。

おまけにサークルに入って来た1年生・麻衣子(山田杏奈)と浮気疑惑も。そんなとき、カナコは内定先の先輩・吉沢(中村蒼)から告白される。カナコと長津田はだんだんとすれ違っていく…という展開。臼田さんは、吉沢の元カノでカナコの上司・慶野亜依子役を演じている。

――今回のオファーがあったときは?

「矢崎(仁司)さんの『三月のライオン』という映画がすごい好きだったので、ご一緒したいと思ったのと、柚木麻子さんの原作は女性をすごく面白く描くので勇気づけられたりとか、滑稽な様も含めて人間味を感じるので、是非やりたいと思って即答しました」

――臼田さんはカナコが内定をもらって研修するパートから登場。同じ出版社にいる元カレが好きな女の子を指導するという結構残酷なことに

「そうですね。だから、本当は余裕があって、女性から見てもできる女性、男性から見ても『君は仕事ができるね。頼れるね』と言われるような女性でありたいけど、そうはいかないじゃないですか。

この作品に出てくる女性は、みんな自分が理想とする姿はあるけど、そんなに思うようにいかなくて、そこでもがき苦しみ、成長していくみたいなところがある中で、一番湿度が高い役どころであるなって感じました。

私はどちらかと言えば、からっとさばさばみたいな上司を演じさせていただくことが多かったんです。それが今回はモヤモヤした感情を秘めた女性で。そういう大人の女性というのをあまり演じてきてなかったので、自分がその役割をしっかりやれるのかなという不安は少しありました。

ただ、脚本を読むと、すごく亜依子というキャラクターが愛おしく思えるというか。すごく真面目で誠実に生きてきて、何事も準備して計画してやってきた人。そうかと言ってそんなに多くを望んだわけじゃないと思うんですよ。

自分の身の丈にあった中での楽しみを見つけて、その中でこういう未来があったらいいなと思っていて。誰かにとってはそんな大きな望みじゃないから、そんなに願わなくても…と思われるようなことでも、亜依子にとっては大事にしてきたことだと思うんです。

それが思うようにいかなくて崩れていくというか、そこの苦しみを持っている。そういうところがすごい理解できて。そういう女性の強くて脆いところを抱きしめたい気持ちになって。そういう部分で、私自身と亜依子が繋がれた気がしました」

――亜依子さんが元カレの家に行って、全てを悟ったときの表情が絶妙でした

「ありがとうございます。私も完成した映画を見て、『こんな表情をとらえるんだ』とか、『寄りでここを撮るんだ。カットを変えずにこのまま行くんだ』って、矢崎さんの映画っぽさというのをとても感じました」

――繊細な心の揺れがすごく良く伝わりました。結構切ないですよね

「切ないです。自分の記憶の中では、自分のことを好きでいてくれたあの人がまだいるから、何かちょっとのことで戻れるんじゃないかなって。でも、もうすでに自分はすごいイタい女になっている。『どうしよう?どうしよう?』っていう葛藤がずっとある。

それが酔っ払ったフリをして彼の家に行ったシーンにはずっと漂っていて、でも泣いたりもしない。そういう泣いたりする女はダメだ…ということも全部わかっちゃっている大人の女性ということでヒリヒリしました。これでもダメか…というのはきついですよね」

――でも、無様になってなくてカッコいいんですよね。

「良かったです。女性の方にそう言っていただけてうれしいです」

――完成した作品をご覧になっていかがでした?

「自分がいないシーンがいっぱいあるので客観的に見ることができたんですけど、どの子もみんな抱きしめたい気持ちになりました。みんなすごい頑張っているのに思うようにいかなくて。

『みんな大丈夫だよ。よくやっているよ』って褒めてあげたいって思いました。それくらいみんなカッコ良かったです」

――この子のこういうところ嫌だなと思いながらも、みんな何か愛しいんですよね

「そうなんです。麻衣子(山田杏奈)とかもカナコに近づいて、はっきり自分のことを言って、自分は好きな人に好かれたい、カッコいい人に好かれたいと思って生きてきたけど、そうじゃなかったなと。

サークルの入会の儀式みたいなこととか、悔しい思いもしながら自分を確かめながら生きているようでカッコいいと思ったし、カナコもグズグズしているようで、決めるところは決めるとはっきりしているし。みんなカッコいい女性たちだという感じがしました」

――10年に及ぶラブストーリーですね

「必要な10年だったんだと思います。新年度が始まりますし入学とか、会社にお勤めになられる方もいらっしゃると思いますけど、前に1歩進む勇気になる映画という気がするので、この時期にちょうどいいんじゃないかなと思います」

俳優デビューして22年。途切れることなくテレビ、映画のオファーが続いている臼田さん。自分が予期せぬこと、想像してなかったような作品にも挑戦してみたいと話す。新たなチャレンジにも期待している。(津島令子)

メイク:星野加奈子 

スタイリスト:森上摂子