
人気雑誌「mc Sister(エムシーシスター)」(婦人画報社)の専属モデルとしてファッション誌やCMに出演して注目を集め、「BOXER JOE」(阪本順治監督)のヒロイン役で映画デビューを飾った黒谷友香さん。連続テレビ小説「カーネーション」(NHK)、歯切れのいい関西弁のセリフとヒーロー役の衣装が映えて印象的だった映画「イン・ザ・ヒーロー」(武正晴監督)、映画「夢二〜愛のとばしり」(宮野ケイジ監督)などに出演。現在公開中の映画「ゴッドマザー〜コシノアヤコの生涯〜」(曽根剛監督)では世界的デザイナー・コシノヒロコさん役を演じている。(この記事は全3回の後編。前編と中編は、記事下のリンクからご覧になれます)
■浜辺での取っ組み合いのシーンでは履物が…

2016年、映画「夢二〜愛のとばしり」に出演。この作品は、大正ロマンを代表する画家として知られる竹久夢二の半生を描いたもの。黒谷さんは、夢二の美人画のモデルとなった妻・たまき役を演じた。
「この映画に出演するにあたって、いろいろ調べてみたら波乱にとんだ人生を送っていたことを知って、すごく意外な感じがしました。でも、才能豊かで…そんなところにたまきは惹かれたのでしょうね」
――長い間夢二のモデルを務め、夢二との子どもを育てながら絵画の店の切り盛りもしていたのに、若い女性ファンの彦乃と出会い、夫婦生活が崩壊してしまいます
「つらいですよね。ずっと共同製作者としてやってきたのに、必要とされなくなったと感じるのは、耐えられなかっただろうなあって思います」
――たまきさんはかなり気性の激しい女性で、浜辺で取っ組み合うシーンが印象的でした
「そうでしたね。浜辺で夢二にしつこく殴り掛かったり、取っ組み合ったり…というシーンもありました。あのシーンはかなり引きで撮っていたので、どういう風に撮られているのかわからなかったんです。ただ、砂浜だったので、足元が不安定で大変だったのを覚えています。夜に波打ち際で撮っていたのですが、履物が脱げちゃって裸足だったんです(笑)。
ああいういうことができるのも役者ならでは…なので貴重な体験でしたね。普段の生活で夜にあんなことはできないから良い経験でした。こうして話しているといろいろ思い出しますね。きれいなお月さまが出ていて、幻想的な雰囲気もありました」
――夢二は類まれな芸術家ですけど、周りの人は振り回されて大変ですよね
「本当にそうですよね。普通の人とは違う。だからやっぱり天才なのかなって思いますけど」
――演じていていかがでした?
「激しい人でしたからね。結構気が立っていたんじゃないですか(笑)」
――妖艶で夢二の絵の雰囲気がとてもよく出ていましたね
「ありがとうございます。良かったです。髪形も結構大変だったんです。カツラではなく、地毛でやっていたので、頭の中にあんこをいっぱい入れて大きくして作ってもらっていました。夢二の絵や当時の写真からイメージしてヘアメイクさんが作っていたので、大変だったと思います。でも、夢二の世界観を大切に表現しようとして下さっていると感じました」
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■コシノヒロコさんのエネルギーに圧倒されて■コシノヒロコさんのエネルギーに圧倒されて

現在公開中の映画「ゴッドマザー〜コシノアヤコの生涯〜」に出演。この作品は、世界的なデザイナーとして知られる「コシノ三姉妹」の母親で、日本のファッション界に革命をおこし、昭和から平成を駆け抜けたゴッドマザー・コシノアヤコさんの生涯を描いたもの。
危篤状態に陥り病院に搬送されたコシノアヤコ(大地真央)の元に、3人の娘たち(黒谷友香・鈴木砂羽・水上京香)が駆けつけるなか、アヤコの前に天使(温水洋一)が現れ、天国行きか地獄行きかの審判が下される場所へ案内しなければならないと話す。そしてアヤコは、自らの人生を振り返ることに…という展開。黒谷さんは、三姉妹の長女・コシノヒロコ役を演じている。
――コシノヒロコさんの役だと聞いたときはいかがでした?
「びっくりしました。実在されている方を演じるということはあまりないことなので。テレビ番組やYouTubeを見たり、著書も読んでいましたけど、ご本人を一方的に存じ上げていただけなので、撮影前にヒロコ先生の事務所でお目にかかる機会をいただいて。
まず何を着ていけばいいのか考えました。やっぱり見られるじゃないですか。だから考えましたし、そういった意味では不思議な感じでした。
自分が演じる役の方にお会いするということは、あまりない体験なので、逆に言うと、お会いしたときのインパクトというか、ヒントというか…そういうものも得られるじゃないですか。だから、滅多にない機会で、これはいい体験になるなって思いました。
いつもは台本の中であれこれ想像してキャラを考えたり作ったりするのですが、実際にご本人にお会いしてお話しすることができて、『頑張ってね』と言っていただいて。実際にお会いしてエネルギーがすごい方だなって圧倒されました」
――皆さんがよく見て知っている方なので、ご本人の要素をどこまで入れるかというのも難しかったですしょうね
「それは、衣装合わせとか、ヘアメイクの打ち合わせの段階で、『前髪をつけてみますか?』って話し合ったりして、だんだんキャラが出来上がっていくという感じでしたけど、やっぱりヒロコ先生ご本人とお会いしたことが一番大きかったですね。ステキなヒロコ先生に失礼なことにならないように私なりのヒロコ像を…という風に思いました」
―冒頭の三姉妹登場のシーンからすごい迫力でした
「そうですよね。お母さんが病院に救急搬送されたと聞いて、派手な衣装のまま、それぞれ別のタクシーで病院に乗り付けて。一緒に来ればいいんじゃないかと思う人も多いかもしれませんが、小さい頃から三人を競わせる形で育てられていますからね」
――ジュンコさんが最初に「装苑賞」を最年少で受賞されて、ヒロコさんは首席で卒業。賞は妹に先を越されたという思いもあったでしょうね
「あったかもしれないですね。同じ道ですから。だけど、ジャンルが違うし、身近にそういうことを意識する存在がいたことが、現役でここまでやって来られた基になっているとご自身の本に書いてらっしゃいました。いいライバルが必要だって。だから本当に刺激しあって、世界に羽ばたく三姉妹が誕生したということですよね」
――このお母さんだったから三姉妹全員が世界的なデザイナーになったというのもわかります。娘たちを生んだのは自分だからと言って、娘たちの手柄を取っちゃったり…豪快ですよね
「そう。生んだのは自分だからって…そりゃそうなんだけど(笑)。でも、ハチャメチャな生き方をされていたけど、なぜか憎めない。ジュンコ先生に『あんたさえいなきゃ』と言って人に預けたり、ヒロコ先生も子どもの頃におばあちゃんのところに預けられたりするから、子どもにとっては結構ひどいこともしているんですけど、魅力的なんですよね。やっぱり歴史に残る方だと思いました」
――コシノヒロコさんを演じていかがでした?
「自分でそれなりに勉強したものもありますけど、ヒロコ先生のお持ちのエネルギーとか、上品さとか…ご本人からのイメージ、それを自分に取り込むようにしていました。着用したのももちろんヒロコ先生の衣装ですし、見た目も先生のその時代に合わせた髪型ですし…こういう体験ってなかなかないなと思うんですよね」
――完成した映画をご覧になっていかがでした?
「やっぱりすごい方なんだなって思います。アヤコさんの人生を描いた映画を見て、みんなが元気をもらったり、何かにチャレンジしてみようとか…もうちょっと頑張ってみたいという風に前向きになれる。そんなエネルギーの方なんだなって改めて思いました」
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■20代前半から送っている二拠点生活がいい影響に■20代前半から送っている二拠点生活がいい影響に

19歳で上京する際に贈られたのがコシノヒロコさんのブランドのキッチンセットで、2011年には、今回の映画と同じコシノアヤコさんをモデルにした連続テレビ小説「カーネーション」に出演。「ご縁を感じた」と話す。
――コシノヒロコさんのファッションショーにも出演されたそうですね
「はい。ファッションショーにも出させていただいて感激しました。夢のようでした。この映画の撮影をした後、去年の秋冬コレクションに出させていただきました。私がモデルを始めたときは、雑誌が主体だったのでショーにはほとんど出演してなかったんです。今のTGC(東京ガールズコレクション)のようなファッションショーはまだ始まっていなかったので。
ヒロコ先生は、いろんなことを体験させてくださって。岸和田に『だんじり祭り』で行ったときに、『友香ちゃん、私の米寿のお祝いがあるんだけど、司会してくださるかしら?』って言ってくださったんです。
ヒロコ先生のファッションショーに出させていただくということもなかなかないことですけど、米寿のお祝いの司会もやらせていただいて。そういうことをやらせてあげようみたいなチャンスをくださって、本当に感謝しています。うれしかったですね。
実在の方の役で、その方のお洋服を着て演じるということはなかなかないじゃないですか。今日のドレスもヒロコ先生が、直々に選んでくださったんです。座っても全然シワになってないところがすごいなと思って。
最初から今日は舞台挨拶もありますし、取材もあるのでこの衣装でということでヒロコ先生直々に選んでくださったんです。映画のポスターも劇中で着用しているのもヒロコ先生のお洋服ですし、公開初日の舞台挨拶の衣装なども全部そうです。三姉妹を演じるみんな、それぞれ先生たちがデザインされた衣装です」
――ステキですね。劇中にも登場しますが「岸和田だんじり祭り」には、行かれたことはあったのですか
「いいえ、行ったことがなくて初めて行ったんです。それがすごい特等席で。夕方提灯をつける瞬間、その時間にちょうど商店街を通っていて、間近に『だんじり』を見ることができて。先生たちは子どもの頃からこういう雰囲気の中で育ったんだなあって思いました」
今年で俳優デビュー30周年を迎えた黒谷さん。20代前半から房総半島と東京の二拠点生活を送るライフスタイルも注目を集めている。
――二拠点生活はどのくらいのペースですか
「特に決まってないんですよね。でも、月に何日かは必ず行っています。パッと行ってすぐに帰ってくるときもあれば、休みがあるときはしばらくいたりもしています。
やっぱりガーデニングをしているときはホッとしますね。この間も植え替えをしたんですけど、楽しいです。植物が成長していくのを見ることとか、その作業も楽しいですけど、いろんなことをしていると、多分それぞれの仕事でも幅が広がると思うんです。
だから、二拠点生活をしていることで幅が広がるというか、都会とカントリーみたいなことで、そういう生活がいろんな仕事にいい影響を及ぼしている気がします」
――YouTubeなどを拝見していると、すごく純粋に楽しんでいる感じがして気持ちがいいです
「ありがとうございます」
道中のドライブもオンオフのスイッチを切り替えるいい時間になっているという。今年でデビュー30周年。今後もいろんなジャンルの作品に挑戦したいと目を輝かせる。170cmの長身にコシノヒロコさんのドレスが良く似合いカッコいい。(津島令子)
ヘアメイク:藤原リカ(Three PEACE)