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2025年6月3日 14:48

清水美砂 アメリカ移住時に今村昌平監督から直々に電話でオファー!カンヌ国際映画祭に夫とともに…

2025年6月3日 14:48

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1989年に連続テレビ小説「青春家族」(NHK)で、いしだあゆみさんとW主演をつとめて注目を集めた清水美砂さん。映画「稲村ジェーン」(桑田佳祐監督)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画「シコふんじゃった。」(周防正行監督)で高崎映画祭最優秀新人賞、映画「おこげ」(中島丈博監督)で報知映画賞主演女優賞をはじめ多くの賞を受賞し、端正な美貌と演技力を兼ね備えた若手実力派俳優として広く知られることに。(この記事は全3回の中編。前編は記事下のリンクからご覧になれます)

■巨匠・今村昌平監督のカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作「うなぎ」に出演!

1997年、映画「うなぎ」に出演。この作品は、真面目なサラリーマンだった男(役所広

司)が浮気していた妻を刺殺して8年間服役し、仮出所後に小さな理髪店を開業。唯一飼っているうなぎだけに心を開く静かな生活を送る彼をとりまく人たちの交流を描いたもの。

清水さんは、金融会社の共同経営者で愛人でもある男(田口トモロヲ)や精神を病んでいる母親(市原悦子)との関係に疲れ果て、多量の睡眠薬を飲んで倒れているところを山下に助けられ、理髪店を手伝うことになる服部桂子役を演じた。

――オファーされたときはいかがでした?

「監督から『会いたい』と言われたときに震えが止まらなくて。台本を読んだときも、『絶対これは私がやりたい!』って思ったんですけど、マネジャーはやっぱり『えっ?やるの?』ってなるわけですよ。でも、『これは絶対に私やります!』って言いました。

それで監督にお会いしたとき、『是非、やらせていただきたいです』って、その場で言いました。本当にうれしかったんです。

監督は、NHKのある作品をご覧になっていたみたいで、設定がすごく似ていたんですね。

それで私に声をかけてくれたみたいなので、本当にその点も運が良かったという感じで最高でした。

でも、監督は糖尿病を患われていて、現場でインシュリン注射をしなきゃいけない時間が

あったり…。かなり厳しい現場だったんですけれども、それでも『清水さん、そのままでやってくれ』とおっしゃってくださって」

――役を演じるにあたって、迷いや葛藤はありましたか?

「最初私自身はそんなにはなかったんですけど、スタッフの方たちから『声が30過ぎ、36の女に聞こえない』と言われて、その葛藤はありました。

撮影当時26歳だったんですけど、『36歳の女の声じゃない』と言われても、この声は私自身が持っている声なので変えるというのも難しくて…。私はどちらかというと(キーが)高いほうだったので、もちろんなるべく低くしようとはしていましたけど苦労しました。

監督は何もおっしゃらないんですけど、スタッフが『違う、違う、声が違う!』って。特に女性スタッフの方たちに言われていました。彼らも真剣ですからね。私もちゃんと受け止めて、『どうしたらいいんだろう?』って悩みました。だから、その当時はかなりきつかったですね、精神的に。

監督は何も言わないんですよ。でも、周りなんですよね。『監督が言わないことを私たちが代理で…』みたいな感じもあったのかもしれないですけど」

――「うなぎ」も男運が悪い女性役でしたね。母親のお金が目当ての胡散臭い男と愛人関係で

「結構苦労する女性でした。最終的には役所さん演じる主人公と…ということになるんですけど、また事件がありますからね。でも、彼が戻ってきたらきっと幸せになるだろうなって」

――今村昌平監督の作品を撮り終えたという達成感は大きかったのでは?評価もすごく高かったですし、賞も受賞されました

「自分に対しては、全くなかったですね。『本当にこのまま芝居をしていていいのかな?』って思うぐらい最悪でした。監督は何もおっしゃらなかったですけど、次の作品にも呼んでいただいたので、うれしかったです」

清水さんにとって転機となったこの作品は、第50回カンヌ国際映画祭のグランプリ(パルム・ドール)を受賞。97年度キネマ旬報ベスト・テン第1位に。清水さんは、日本アカデミー賞優秀主演女優賞、山路ふみ子映画賞女優賞を受賞した。

■結婚してアメリカに移住、妊娠中に今村監督からオファーが…

1998年に公開された今村昌平監督の映画「カンゾー先生」に出演。同年、アメリカ人の男性と結婚。1999年にアメリカに移住するが、2000年に今村昌平監督の映画「赤い橋の下のぬるい水」(2001年公開)に出演することに。

この作品は、リストラされて能登半島のある漁港の町に流れ着いた男・陽介(役所広司)の

第二の人生を描いたもの。

陽介は、祖母(倍賞美津子)と二人で暮らす妙齢の美女サエコ(清水美砂)と出会い、彼女のために漁師になることに。しかし、サエコはからだの中に水がたまり、その水を放出すると快楽を感じるという不思議な体質の持ち主で…という展開。

「あの作品の連絡をいただいたとき、私は結婚してアメリカで暮らしていて妊娠していたんですけど、監督から直々に電話があって、『帰ってこい』って言われたんですね。

それで、『監督、妊娠しているので、撮影が終わったときには8カ月になってしまいます。そうなるとお腹(なか)が目立ちすぎて役に申し訳ないから私は無理です』って言ったんですけど『そんなのはアングルで何とかなる。だから帰ってこい』って。

監督がそう言ってくださるならしょうがないというか、『わかりました。信用します』と言って、帰って来て撮影したんですけど、そのときもうれしかったですね。そんなふうに言ってくれる人なんて、今まで出会ったことがなかったし、今村昌平監督が私に直に電話してくれるなんてありえないと思って。

それに対して私が反論して『できません』っていうことは、失礼です。でも、私も真剣で、やっぱり『役に対して失礼です』ということは言いたかったんですよね」

――ご主人は、妊娠期間中の撮影に反対はされなかったのですか?

「反対しませんでした。主人は、『そこまで言ってくれるなら行ってこい』と言ってくれました」

――清水さんは、今村監督の作品のミューズという感じでしたね

「いろいろな作品に出させていただいて幸せでした。おまけに普通の状態じゃなくて妊娠している状態でも『やっぱり清水さんしかいなかった』って言ってくださったので本当にうれしかったです。何か不思議でした、私としては。どうしてそこまで言ってくださるのかなって。

ただ、監督も『うなぎ』のときから私を見ていてくださっていて、周りから私に対してのあまり良くない評判を聞くわけですよ。

それで、『どうしてだ?何でそこまで清水は嫌われているんだ?』って。それに対して気が向くわけです。だから『僕が死ぬまでは、目が黒いうちはね、清水を使う』と言ってくださって。何かいろんなことがあっての私を見てくださった思いがあったというのは聞きました。本当に感謝しています」

――今村昌平監督が使い続けている俳優さんだということでも注目を集めていらっしゃいました。途中で降ろされる俳優さんもいましたからね

「だから本当に不思議ですよね。なぜそこまでやってくださったのかなって」

――「赤い橋〜」も大変な作品でしたよね。ちょっと切なくてユニークで

「役所さんが一番大変でしたよね。私は、そんなお腹になっても監督からそのままでいいからって言われていましたけど。今村監督のブラックユーモアですよね。今村監督にしかできない作品だと思いました」

――出来上がった作品をご覧になっていかがでした?

「私はちょっと恥ずかしくて(笑)。いやいやいやいや…と思いましたけど。カンヌ(国際映画祭)に呼んでいただいたときに主人も一緒に劇場で見たんですね。自分の妻のセックスシーンなんて、男としてどんな風に見るのかなと思って興味津々ではあったんですけど、主人が大笑いしてくれて良かったです(笑)。『よく頑張ったね、面白かった』って言ってくれました。

それを見たときに、『良かった』と思いました。自分はもう笑うどころか、『ちゃんとできなかった』って、マイナスのことしか見えなかったですけど。今だったら、もしかしたら普通に見られるのかもしれないですけど、やっぱり最初の頃は普通には見られませんでしたね。監督は『良かったよ』っておっしゃってくださいましたけど」

――撮影が終わってご出産されたのは?

「最後の撮影のときが8カ月で、それから1カ月後に長男が生まれました」

――海外生活をされながら、お仕事の度に帰ってこられて…という感じだったのですか

「はい。子どもも生まれたので、子どもが小さいうちはそんなにはできませんでしたけど、仕事があるときは帰って来て…という感じでした」

――今村監督は2006年に亡くなられましたが、体調が悪いということは?

「聞いていました。監督は、よく病院を抜け出してうちの母のお店に行っていたりしていたんですよ。体調はあまり良くなかったみたいですけど」

――でも、監督はうれしかったでしょうね。清水美砂さんという俳優さんを作り上げて

「そうですね。今村監督の作品があって、出来上がった部分というのはすごくあるので。

最後に監督とお話したときに、『まだまだこれからだね』っておっしゃっていました。

私が監督の作品で表現できなかったことも多分わかっていたと思うし、そういう意味で、まだまだこれからだから、これで出産して、いろんな経験をして、そしてもっと大きくなるようにと言葉をかけてくださって。

それで最後はお茶をしたんですよね。それが亡くなられる2年ぐらい前だったと思います。だからもっともっと頑張らなきゃいけないなと思っています」

ご主人の仕事の関係でアメリカ、オランダなど海外生活が続いた清水さんだが、2022年に帰国。2023年、新たに「フロム・ファーストプロダクション」に所属。映画「カムイのうた」(菅原浩志監督)、映画「海の沈黙」(若松節朗監督)、ドラマ「3000万」(NHK)など話題作に出演することに。次回はその撮影エピソード、6月27日(金)に熊本で先行公開、7月11日(金)から全国順次公開される映画「囁きの河」も紹介。(津島令子)

ヘアメイク:佐々木博美

スタイリスト:村上利香

衣装:LEONARD

アクセサリー:UNOAERRE