
連続テレビ小説「青春家族」(NHK)で、いしだあゆみさんとW主演をつとめ、映画「おこげ」(中島丈博監督)、映画「うなぎ」(今村昌平監督)などに出演して注目を集めた清水美砂さん。1998年、アメリカ人の男性と結婚し、翌年アメリカに移住。仕事の際は帰国して撮影というスタンスだったが、2022年に帰国。映画「カムイのうた」(菅原浩志監督)、映画「海の沈黙」(若松節朗監督)、ドラマ「3000万」(NHK)など話題作に出演。映画「囁きの河」(大木一史監督)が6月27日(金)に熊本で先行公開、7月11日(金)から全国順次公開される。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■特殊詐欺犯罪組織のボス役に「何で私を選んだんですか?」

2024年、映画「カムイの歌」に出演。この作品は、アイヌ民族が口頭伝承してきた叙事詩ユーカラを日本語訳し、19歳という若さで亡くなった実在の人物・知里幸恵さんの人生を描いたもの。
アイヌというだけで理不尽ないじめや差別を受けていた主人公に「ユーカラ」の日本語訳を依頼するアイヌ語研究の第一人者である教授(加藤雅也)の妻・静役を演じた。
「私は昔から『何でアイヌの映画ができないんだろう?』って思っていたんですね。どこか私の中でアイヌのことが気になっていて。ある意味先住民族なわけじゃないですか。こういう題材があるのにどうして映画にしないんだろうと思って色々と調べてみたら、結局迫害をされていたということがわかって。
でも、その前のアイヌの時代のストーリーでもいいじゃないですか。何かそういうことが頭の中にあったので、お話をいただいたときに、『是非やらせてください!』って言いました。
それで、アイヌの人の役でアイヌ語を話すのかなと思っていたら、教授の奥さん役で、東京で暮らしているという役どころでしたけど、関われることができてうれしかったです」
同年、ドラマ「3000万」(NHK)に出演。この作品は、闇バイト強盗の犯人であるひとりの女性が特殊詐欺組織から3000万円奪ってバイクで逃亡中に接触事故を起こしてしまい、小学生の息子がそのお金の入った鞄を持って帰ってしまったことから巻き起こる予想外の出来事を描いたもの。
警察に届けるかどうか…思わぬ大金を手にしてしまった主人公(安達祐実)と夫(青木崇高)の心の迷い、誤った選択によって、家族に3000万円を奪われた犯罪組織と警察の包囲網が迫り泥沼にハマっていく…。清水さんは犯罪組織のボス・悦子役を演じた。
――ここ数年問題になっている闇バイトが題材のリアルな作品でした
「スタッフもキャストもみんな頑張っていい作品が出来上がってうれしかったです。それで、最後にこんなおばさんが黒幕だったって(笑)。驚きますよね」
――一見ちゃんとした人なのに素性がバレた後も何とか逃れようとしたたかで
「そうそう。最後の本当に1話だけ凝縮されてボスの行動が書かれているので、ちょっと難しかったですけど」
――キャスティングも面白いと思いました。朝ドラのヒロインだった清水さんが闇バイト組織のボスというのは驚きでした
「そうですよね。私も最初に『何で私を選んだんですか?』ってプロデュ―サーに聞きました。不思議だなと思って。そうしたら、『普通の人でもこういう風になる可能性がある』って言われて。
主人公夫婦もそうですよね。たまたま特殊詐欺で組織が得たお金3000万円を拾ってしまって取り込まれてしまう…というのは納得できるというか。すごくよくできているドラマだなと思いました。面白かったです」
■全身入れ墨シーンがないと主演の本木雅弘さんに失礼だと思って…

2024年、映画「海の沈黙」に出演。この作品は、「前略おふくろ様」(日本テレビ系)、「北の国から」(フジテレビ系)など数々の名作ドラマの脚本を手がけてきた倉本聰さんが60年前から構想してきた物語を映画化したもの。
世界的な画家(石坂浩二)の展覧会で作品の一つが贋作だと判明する事件が起こり、小樽で全身に入れ墨がある女性(清水美砂)の死体が発見される。この二つの事件の間に浮かび上がったのは、ある事件を機に人々の前から姿を消した天才画家・津山竜次(本木雅弘)。彼の秘めてきた想い、美と芸術への執念、そして過去が明らかに…という展開。
――全身入れ墨姿も話題になりましたが、どのくらい時間がかかったのですか?
「あれは描いているんじゃなくてシールなんですが、6、7時間かかりました。シールを貼っているんですけど、ベタついているものだから足とかも地面につけられない。座っても取れちゃうから、いつもパウダーをつけてくっ付かないように気をつけていました」
――全裸でうつ伏せになっているシーンなどは絵のようにきれいで本当に芸術品みたいでした
「ありがとうございます。本当にきれいに撮っていただいて感謝しています。作品自体に芸術に対しての思いがあふれていて。そういう意味では、私が演じた牡丹も竜次の一つの芸術作品ですよね。入れ墨が全身に描かれていて」
――本木さんとは、映画「シコふんじゃった。」が最初で、「涙をたたえて微笑せよ」(NHK)、大河ドラマ「徳川慶喜」(NHK)、映画「Shall we ダンス」(周防正行監督)などで共演されていますね
「はい。いろいろやらせていただいていますね。何作かご一緒させていただいているので、私のことをわかってくださっていると自分では思っているんですけど。そう思って身を委ねるじゃないけれども本木さんのためだなと思って脱ぎました。
最初プロデューサーは、入れ墨のシーンは背中の上部だけでお尻も出さないし、どこも出さないって言っていたんです。でも、本木さんの主演映画で、それはないだろうって。本木さんは、絶対にからだを張ってやられる方だから、愛人としての女が背中の上までしか出しませんというのは、私の中では絶対にあり得ないと思ったんですよね。
だから監督に、『このシーンはプロデューサーにここまでしか出さないからって言われたんですけど、これは全身出すでしょう?』って聞いたんです。倉本さんの最後の作品と言われていて本木さんが主演だったら、対する女もこうじゃないかって。そういうことがありました」
――確かに全身の入れ墨が映っているシーンがあるかないかで違いますよね
「そうでしょう?そう思いますよね。『全身に入れ墨が入っている女』という風に言われているのに、そのシーンがないなんてあり得ない。それを出さないなんていうのはおかしいと思ったんですよね」
――普通は、「やってもらえませんか?」と言われてもやらないというケースが多いみたいですが、役柄に対しての愛を感じますね
「それがいつも私のテーマなんです。ましてや倉本聰さんの長年の思いが詰まった作品で、全身全霊で作品に取り組む本木さんが主演ですからね」
――竜次のミューズ、芸術作品だったのに、新たなキャンバスとなる新しい若い女性が現れて…切なさを感じました
「それが本当に私も表現したかったんです。捨てられちゃったけれども、それでも愛があったから『良し』としようというか…。
でも、一目その新しいミューズを見たいと思って彼女が働いているバーに行って、見た瞬間にそれでもう自分は身を引いて死を選ぶ。お酒の勢いもあったのかもしれないけど切ないですよね」
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■2020年の豪雨で壊滅的な被害を受けた熊本県で撮影■2020年の豪雨で壊滅的な被害を受けた熊本県で撮影

6月27日(金)に熊本で先行公開、7月11日(金)から全国順次公開される映画「囁きの河」に出演。この作品の舞台は、2020年7月の壊滅的な被害を受けた熊本豪雨から半年後の人吉球磨地域。
母親の訃報を聞いて22年ぶりに帰郷した主人公・孝之(中原丈雄)は、変わり果てた故郷の姿に衝撃を受ける。仮設住宅で暮らす息子の文則(渡辺裕太)は、かつて幼い自分を見捨て、母の葬儀にも戻らなかった父に心を開こうとはしない。豪雨被害の爪痕が残る地で暮らす人々の姿を描く。清水さんは、孝之の元恋人で、地元老舗旅館の主で孝之の親友・山科(三浦浩一)の妻・雪子役。
「2022年に初めてお話をいただいて、そのときは水害の話だったんです。大木監督は前にもご一緒しているので、声をかけていただいたときに台本を読ませていただいてやらせていただくことになりました。
そのあといろんなことがあって、ちょっと撮影が延びてしまったんですね。それで内容がだいぶ変わってこの作品になったんです。水害の話でありますけれども、水害の後、人間の覚悟した気持ちをそれぞれ見つけ出すというか、そういう人間模様が心に染みる映画になっていて、やらせていただいて良かったなあって思いました。
主演の中原(丈雄)さんとは、映画『おこげ』(中島丈博監督)で初めてご一緒させていただいてから何度か共演させていただいて。この映画は中原さんの故郷が舞台なのでいろいろな思いがあったと思います」
――被害に遭った旅館を何とか再生しようとする女将と洪水はまた来るかもしれないと乗り気ではない夫、温度差がありますね
「そうですね。夫は目の前で自分の父親を亡くしているわけですからね。それも本来なら夫がPTSD(Post Traumatic StressDisorder=心的外傷後ストレス障害)のようになってしまった場合、妻が夫を支えるために何かしらするべきなんでしょうけれども、この映画ではそれよりも流されてしまった旅館を何とかまた立ち上げたいという思いが強い。
面白かったのは、PTSDにはなっていますけど、夫は妻がどんなに話しかけても無視するわけですよね。二人の関係性の変化が、『これぞ夫婦だ!』と思って(笑)。その夫婦感がすごく好きになりましたね。夫婦って似てくるとよく言いますよね。それが三浦(浩一)さんとやっていて面白かったです」
――実生活でもご主人と似てきたということはありますか?
「あります。怒り方とかも似てきますし、怒るツボみたいなものが似て来た感じがしています。何かに対しての怒るときはツボが同じだったりするので面白いですよね。私は、アメリカ人じゃないですけど、雰囲気が似ていると言われたりします。ただ、やっぱり役者ですから、役の私を見てほしいと思っています。
――今後はどのように?
「一昨年から新たな事務所になりましたし、今後は新人のような気持ちでやっていきたいと思っています」
――今、一番ホッとされるときは?
「アクリル画を始めました。元々絵が好きだったんですけど、本格的に描き出したのは最近です。脳を刺激するじゃないですけど、安定させるには絵を描くのがいいかなと思って。世の中とちょっと遮断して自分の世界に入るというか、いろいろな意味で整理できて良い感じなので続けたいと思っています」
明るく話す笑顔が美しい。2023年に新たに芸能事務所「フロム・ファースト プロダクション」に所属。「心機一転、様々なジャンルに挑戦していきたい」と意欲満々。特殊詐欺のボス役など幅広い役柄に挑戦。今後も楽しみ!(津島令子)
ヘアメイク:佐々木博美
スタイリスト:村上利香
衣装:LEONARD
アクセサリー:UNOAERRE